パナソニック、乾電池の累計生産1,500億個を達成

~2015年度に世界首位を目指す。工場も公開

 パナソニックは11日、2010年10月に乾電池の累計生産が1,500億個に達したことを発表。同社の乾電池事業戦略について説明するとともに、大阪・守口市の乾電池工場を報道関係者に公開した。

生産累計で1,500億個を達成した。写真は最新のアルカリ電池「EVOLTA(エボルタ)」通常から電池1本を追加した記念モデルも発売する


1931年の生産開始から、79年で1,500億個を達成

 パナソニックが電池生産を始めたのは1931年。「ナショナル」のブランドを初めて採用した「角形電池式ランプ」の本格普及を図ることを目的に、それに使用する乾電池の生産を開始。1976年には累計生産100億個、1992年には500億個、70年目となる2001年に1,000億個を経て、79年目となる今年10月に1,500億個に到達した。1,000億個からの500億個は、わずか9年間で生産したことになる。

 1,500億個を単3形乾電池に換算して直列に並べると、750万kmの距離に達する。これは、地球180周分、地球と月では9往復に当たるという。1,500億個の内訳は、国内が500億個、海外が1,000億個。

 また1939年には、乾電池初の海外生産拠点を中国・上海に設置。現在は、日本、中国のほか、ペルー/コスタリカ/ブラジル/ベルギー/ポーランド/タンザニア/タイ/インド/インドネシアの合計11カ国で生産。89カ国で販売されているという。そのうち、アルカリ乾電池の最新モデル「EVOLTA(エボルタ)」は、63か国で販売されており、今後は89カ国に販売網を広げていくという。

パナソニックの乾電池事業の歩み当初はランプの普及のために乾電池の生産が開始された左は、1954年に出荷した乾電池「ハイパー」。国内初の完全金属外装の乾電池となる。主に懐中電灯やランプに使用された

 パナソニックの電池部門を担うパナソニック株式会社 エナジー社の野口直人社長は、「創業100周年を迎える2018年には、累計生産2,000億個を目指す」と、今後の展望を語った。また、同社乾電池BU長の青田広幸氏は「2010年度の年間約40億個の体制を、2015年度には60億個の生産体制として、数量シェアでグローバルナンバーワンを目指す」と目標を掲げた。

 2015年度には市場全体で308億個の生産規模が見込まれており、パナソニックは約2割のシェア獲得を目指すことになる。現在の世界市場シェアは約15%で、第3位となっている。

 なお、2009年度実績では、OEMを含めて45億個を出荷。アルカリ乾電池で16億個、マンガン乾電池で29億個となっている。

乾電池の世界需要。今後、新興国を中心に2倍の成長が見込まれる世界の各市場におけるアルカリとマンガンの比率パナソニックは2015年度に60億個を生産、世界一を目指す
パナソニック株式会社 エナジー社の野口直人社長エナジー社乾電池BU長の青田広幸氏

エボルタをタイで生産、海外ボリュームゾーン展開へ

タイでのエボルタ生産を開始することで、ボリュームゾーンの価格帯に展開する

 さらに同社では、タイの乾電池生産拠点を強化し、新たにエボルタの生産を開始する。

 現在エボルタは、日本だけで生産されているが、2011年3月までにタイでの生産を開始。欧米市場などに出荷することになる。

 「現在エボルタは、輸送コストや国ごとの税金制度の影響などもあり、価格帯としてはプレミアゾーンの製品と位置づけられているが、タイでの生産開始によって、例えばドイツ市場では約3割の価格引き下げが可能となるため、ボリュームゾーンの価格帯に設定できるようになる」(青田BU長)

 タイでのエボルタの生産規模は、日本の生産拠点と同等規模を予定しており、年間約2億個の生産が可能になるという。

 そのほか、新興国を中心としたマンガン電池市場では、高性能と耐漏液性、無水銀、鉛フリーといった特徴を生かし、引き続き事業拡大に挑む姿勢を示した。

 「インドでは、同市場で初めて無水銀のマンガン電池を当社が発売しており、高い評価を受けている。また、東アフリカ共同体ではタンザニアの当社工場を活用して、マンガン電池で94%のシェアを持っている。全世界人口の4人に1人に当たる17億人が、電気が通じていない場所で生活をしており、こうした市場に対しても支持していただける価格を実現して、より広く製品を届けていきたい」(青田BU長)などとした。

 同社では世界の乾電池市場を、“アルカリ主要市場”、“アルカリ進展市場”、“マンガン市場”に分類しており、それぞれに重点地域や重点販路を設定して、2ケタ増の高い成長を計画している。

パナソニックはアルカリ主要市場、アルカリ進展市場、マンガン市場に分類。それぞれ重点地域や重点販路を設定する海外市場のセグメント別成長戦略


“子供が最初に触れるパナソニック製品は電池。だから安全性を重視”

 同社では、品質の維持に向けて、生産工程での安全検査だけでなく、販売後にも検査を行なう体制をとっているのが特徴だ。半年ごとに一回、年間で4万本の乾電池を市場から買い上げ、品質評価解析を行ない、品質維持と次期製品の開発に生かしている。さらに、他社製品に関しても、全世界の市場から150種を対象に買い上げて、品質評価解析と将来の開発の方向性を把握しているという。

 こうした地道な活動が、品質向上と最先端技術を採用した製品の投入につながっている。

 野口社長は、「多くの子供が、初めて触れるパナソニックの製品が乾電池。この原体験が、パナソニックの第一印象を決めることになる大切な製品」と位置づけ、「世界一安全で安心な乾電池の品質を目指す」とした。

創業者の故・松下幸之助氏。乾電池自社生産50周年の集いで、同氏は「世界一を目指すことよりも、良い品物を供給することを優先してほしい」を訴えた

 1981年に開かれた乾電池自社生産50周年の集いで、創業者の松下幸之助氏は 「今日、乾電池では日本一だが、やがて世界一になるだろう。だが、世界一が第一の目的ではなく、良き品物を適当な価格で供給して、需要者に満足を与えることが第一の目的。これにより世界一になればいうことはない」などとしており、これが現在のエナジー社における乾電池事業の基本的な考え方となっている。

 青田BU長は、「来年春には、エボルタの進化を見てもらえるだろう。世界一、安心、安全な乾電池を投入し続ける」と意欲をみせた。


守口の生産拠点も公開

 一方、同社の乾電池の製造拠点である、大阪府守口市の工場の様子も公開した。同工場では、エボルタをはじめとするアルカリ乾電池を生産している。

大阪府守口市のパナソニック株式会社 エナジー社エナジー社の所在地は「大阪府守口市松下町1丁目1番地」

 乾電池の生産工程は、二酸化マンガンと黒鉛、電解液を混ぜて固めて円筒状にした材料を鉄のケースに入れる正極材挿入から始まる。次に、内筒に円筒状にしたセパレータ(プラス極とマイナス極を隔てるための紙)を挿入し、鉄ケースの入り口付近に液漏れなどを防ぐ特殊な薬剤「シール剤」を塗布、アルカリ性電解液を注入する。そして、粉末の亜鉛をのり状にして、セパレータの内側に詰め込む「負極材充填」、鉄ケースに封口板の軸を差し込む「封口板挿入」、蓋を閉めて乾電池を密閉する「封口」、プラス極とマイナス極の間を完全に隔てるために、電気を通さない樹脂を溝に塗る「絶縁剤塗布」といった工程を経て、最後に表面に製品ラベルを巻き付けて完成させる。

 生産工程の様子は、写真を中心に紹介する。


アルカリ乾電池の製造工程アルカリ乾電池の生産ラインの様子
アルカリ乾電池の溝入れ工程。セパレータ挿入前に行なわれる電解液注入工程に投入される乾電池ラベルが貼られて完成した乾電池。このあと梱包工程に入る

アルカリ乾電池の溝入れ工程の動画

電解液注入工程の動画

ラベルが貼られているところ


【過去の電池製造工程】

1931年の乾電池の自社生産開始当時の第8工場内の写真1940年当時の乾電池の製造工程の様子。原材料の調合作業糸巻き作業の様子
ハンダ付け作業の様子糊化作業。こうした工程を経て、乾電池が完成した

【パナソニックが海外展開する乾電池】

海外市場向けの乾電池。国ごとにパッケージが異なる。写真は中国タイ向けには象の絵が描かれているペルー
タンザニアブラジルベルギー
ポーランドインド向けにも、象の絵が描かれている
インドネシアコスタリカ

【パナソニックの乾電池の歩み】

1954年に出荷した「ハイパー乾電池」。主に懐中電灯やランプに使用された1963年の「ナショナル ハイトップ」。ハイパーに比べて2倍の長持ちが特徴。テープレコーダーやラジオの使用が約45%だった1969年の「ナショナルネオハイトップ」。ハイパーに比べて、3倍長持ちを実現。主な利用はラジカセという
1987年に発売した「ウルトラアルカリ」1991年の水銀0使用マンガン電池1992年の水銀0使用アルカリ電池
1995年に発売した大電流パワーアルカリ。デジタル機器の利用に合わせて、強負荷放電性能を大幅にアップした2008年に発売した「エボルタ」。単3形製品は、“世界一長持ちするアルカリ電池としてギネスに認定された




(大河原 克行)

2010年11月12日 00:00