パナソニック、乾電池の累計生産1,500億個を達成
パナソニックは11日、2010年10月に乾電池の累計生産が1,500億個に達したことを発表。同社の乾電池事業戦略について説明するとともに、大阪・守口市の乾電池工場を報道関係者に公開した。
生産累計で1,500億個を達成した。写真は最新のアルカリ電池「EVOLTA(エボルタ)」 | 通常から電池1本を追加した記念モデルも発売する |
■1931年の生産開始から、79年で1,500億個を達成
パナソニックが電池生産を始めたのは1931年。「ナショナル」のブランドを初めて採用した「角形電池式ランプ」の本格普及を図ることを目的に、それに使用する乾電池の生産を開始。1976年には累計生産100億個、1992年には500億個、70年目となる2001年に1,000億個を経て、79年目となる今年10月に1,500億個に到達した。1,000億個からの500億個は、わずか9年間で生産したことになる。
1,500億個を単3形乾電池に換算して直列に並べると、750万kmの距離に達する。これは、地球180周分、地球と月では9往復に当たるという。1,500億個の内訳は、国内が500億個、海外が1,000億個。
また1939年には、乾電池初の海外生産拠点を中国・上海に設置。現在は、日本、中国のほか、ペルー/コスタリカ/ブラジル/ベルギー/ポーランド/タンザニア/タイ/インド/インドネシアの合計11カ国で生産。89カ国で販売されているという。そのうち、アルカリ乾電池の最新モデル「EVOLTA(エボルタ)」は、63か国で販売されており、今後は89カ国に販売網を広げていくという。
パナソニックの乾電池事業の歩み | 当初はランプの普及のために乾電池の生産が開始された | 左は、1954年に出荷した乾電池「ハイパー」。国内初の完全金属外装の乾電池となる。主に懐中電灯やランプに使用された |
パナソニックの電池部門を担うパナソニック株式会社 エナジー社の野口直人社長は、「創業100周年を迎える2018年には、累計生産2,000億個を目指す」と、今後の展望を語った。また、同社乾電池BU長の青田広幸氏は「2010年度の年間約40億個の体制を、2015年度には60億個の生産体制として、数量シェアでグローバルナンバーワンを目指す」と目標を掲げた。
2015年度には市場全体で308億個の生産規模が見込まれており、パナソニックは約2割のシェア獲得を目指すことになる。現在の世界市場シェアは約15%で、第3位となっている。
なお、2009年度実績では、OEMを含めて45億個を出荷。アルカリ乾電池で16億個、マンガン乾電池で29億個となっている。
乾電池の世界需要。今後、新興国を中心に2倍の成長が見込まれる | 世界の各市場におけるアルカリとマンガンの比率 | パナソニックは2015年度に60億個を生産、世界一を目指す |
パナソニック株式会社 エナジー社の野口直人社長 | エナジー社乾電池BU長の青田広幸氏 |
■エボルタをタイで生産、海外ボリュームゾーン展開へ
タイでのエボルタ生産を開始することで、ボリュームゾーンの価格帯に展開する |
さらに同社では、タイの乾電池生産拠点を強化し、新たにエボルタの生産を開始する。
現在エボルタは、日本だけで生産されているが、2011年3月までにタイでの生産を開始。欧米市場などに出荷することになる。
「現在エボルタは、輸送コストや国ごとの税金制度の影響などもあり、価格帯としてはプレミアゾーンの製品と位置づけられているが、タイでの生産開始によって、例えばドイツ市場では約3割の価格引き下げが可能となるため、ボリュームゾーンの価格帯に設定できるようになる」(青田BU長)
タイでのエボルタの生産規模は、日本の生産拠点と同等規模を予定しており、年間約2億個の生産が可能になるという。
そのほか、新興国を中心としたマンガン電池市場では、高性能と耐漏液性、無水銀、鉛フリーといった特徴を生かし、引き続き事業拡大に挑む姿勢を示した。
「インドでは、同市場で初めて無水銀のマンガン電池を当社が発売しており、高い評価を受けている。また、東アフリカ共同体ではタンザニアの当社工場を活用して、マンガン電池で94%のシェアを持っている。全世界人口の4人に1人に当たる17億人が、電気が通じていない場所で生活をしており、こうした市場に対しても支持していただける価格を実現して、より広く製品を届けていきたい」(青田BU長)などとした。
同社では世界の乾電池市場を、“アルカリ主要市場”、“アルカリ進展市場”、“マンガン市場”に分類しており、それぞれに重点地域や重点販路を設定して、2ケタ増の高い成長を計画している。
パナソニックはアルカリ主要市場、アルカリ進展市場、マンガン市場に分類。それぞれ重点地域や重点販路を設定する | 海外市場のセグメント別成長戦略 |
■“子供が最初に触れるパナソニック製品は電池。だから安全性を重視”
同社では、品質の維持に向けて、生産工程での安全検査だけでなく、販売後にも検査を行なう体制をとっているのが特徴だ。半年ごとに一回、年間で4万本の乾電池を市場から買い上げ、品質評価解析を行ない、品質維持と次期製品の開発に生かしている。さらに、他社製品に関しても、全世界の市場から150種を対象に買い上げて、品質評価解析と将来の開発の方向性を把握しているという。
こうした地道な活動が、品質向上と最先端技術を採用した製品の投入につながっている。
野口社長は、「多くの子供が、初めて触れるパナソニックの製品が乾電池。この原体験が、パナソニックの第一印象を決めることになる大切な製品」と位置づけ、「世界一安全で安心な乾電池の品質を目指す」とした。
創業者の故・松下幸之助氏。乾電池自社生産50周年の集いで、同氏は「世界一を目指すことよりも、良い品物を供給することを優先してほしい」を訴えた |
1981年に開かれた乾電池自社生産50周年の集いで、創業者の松下幸之助氏は 「今日、乾電池では日本一だが、やがて世界一になるだろう。だが、世界一が第一の目的ではなく、良き品物を適当な価格で供給して、需要者に満足を与えることが第一の目的。これにより世界一になればいうことはない」などとしており、これが現在のエナジー社における乾電池事業の基本的な考え方となっている。
青田BU長は、「来年春には、エボルタの進化を見てもらえるだろう。世界一、安心、安全な乾電池を投入し続ける」と意欲をみせた。
■守口の生産拠点も公開
一方、同社の乾電池の製造拠点である、大阪府守口市の工場の様子も公開した。同工場では、エボルタをはじめとするアルカリ乾電池を生産している。
大阪府守口市のパナソニック株式会社 エナジー社 | エナジー社の所在地は「大阪府守口市松下町1丁目1番地」 |
乾電池の生産工程は、二酸化マンガンと黒鉛、電解液を混ぜて固めて円筒状にした材料を鉄のケースに入れる正極材挿入から始まる。次に、内筒に円筒状にしたセパレータ(プラス極とマイナス極を隔てるための紙)を挿入し、鉄ケースの入り口付近に液漏れなどを防ぐ特殊な薬剤「シール剤」を塗布、アルカリ性電解液を注入する。そして、粉末の亜鉛をのり状にして、セパレータの内側に詰め込む「負極材充填」、鉄ケースに封口板の軸を差し込む「封口板挿入」、蓋を閉めて乾電池を密閉する「封口」、プラス極とマイナス極の間を完全に隔てるために、電気を通さない樹脂を溝に塗る「絶縁剤塗布」といった工程を経て、最後に表面に製品ラベルを巻き付けて完成させる。
生産工程の様子は、写真を中心に紹介する。
アルカリ乾電池の製造工程 | アルカリ乾電池の生産ラインの様子 |
アルカリ乾電池の溝入れ工程。セパレータ挿入前に行なわれる | 電解液注入工程に投入される乾電池 | ラベルが貼られて完成した乾電池。このあと梱包工程に入る |
アルカリ乾電池の溝入れ工程の動画 |
電解液注入工程の動画 |
ラベルが貼られているところ |
【過去の電池製造工程】
1931年の乾電池の自社生産開始当時の第8工場内の写真 | 1940年当時の乾電池の製造工程の様子。原材料の調合作業 | 糸巻き作業の様子 |
ハンダ付け作業の様子 | 糊化作業。こうした工程を経て、乾電池が完成した |
【パナソニックが海外展開する乾電池】
海外市場向けの乾電池。国ごとにパッケージが異なる。写真は中国 | タイ向けには象の絵が描かれている | ペルー |
タンザニア | ブラジル | ベルギー |
ポーランド | インド向けにも、象の絵が描かれている |
インドネシア | コスタリカ |
【パナソニックの乾電池の歩み】
1954年に出荷した「ハイパー乾電池」。主に懐中電灯やランプに使用された | 1963年の「ナショナル ハイトップ」。ハイパーに比べて2倍の長持ちが特徴。テープレコーダーやラジオの使用が約45%だった | 1969年の「ナショナルネオハイトップ」。ハイパーに比べて、3倍長持ちを実現。主な利用はラジカセという |
1987年に発売した「ウルトラアルカリ」 | 1991年の水銀0使用マンガン電池 | 1992年の水銀0使用アルカリ電池 |
1995年に発売した大電流パワーアルカリ。デジタル機器の利用に合わせて、強負荷放電性能を大幅にアップした | 2008年に発売した「エボルタ」。単3形製品は、“世界一長持ちするアルカリ電池としてギネスに認定された |
(大河原 克行)
2010年11月12日 00:00