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ダイソンが掃除機開発のために微生物を20年研究するワケ

Dyson V12 Detect Slim

年々進化しているダイソンのスティック掃除機。2021年に発売された「V12」と「V15」には、吸い取ったゴミの量やサイズを検知して、結果を液晶ディスプレイに表示する新機能を搭載。

これまでにない目新しい機能だが、この開発にはハウスダストに含まれる微生物を20年間研究し続ける、ダイソン微生物研究所が深く関わっている。今回、イギリスに拠点を置く同研究所のリサーチャー デニス・マシュー氏と、製品開発担当のエンジニア ジェームズ・マクリー氏にオンラインで取材する機会を得た。

微生物研究所でどのようなリサーチをしているか、ハウスダストの研究が掃除機開発にどう活かされているかなど、ダイソンの掃除機開発に対するアプローチ方法について伺った。

左から、製品開発担当のエンジニア ジェームズ・マクリー氏、ダイソン微生物研究所のリサーチャー デニス・マシュー氏

微生物学の知見を掃除機開発に活用

微生物研究所はダイソン社内にあり、さまざまな生活環境や習慣を加味して、実際の生活空間から採取されたゴミやホコリを用いた研究を行なっている。

研究チームは5~6人で構成。この人数で掃除機だけでなくヘアケアや空気清浄機、加湿器といった製品をカバーしている。

「掃除機分野では、家庭で採取されるホコリはどれくらいのサイズのものが多いか、これらのゴミを吸うにはどれくらいの吸引力が必要か、といった情報をエンジニアに提供しています」と、リサーチャーのデニス氏は話す。

イギリスに拠点を置くダイソン微生物研究所

エンジニアとは、製品の企画段階で一番多くコミュニケーションを取るという。開発チームから、こういった問題があるから解決したいと相談され、そのソリューションを見つけ出し、製品開発が進められていく。テスト段階に入ると再びコミュニケーションが増え、完成に至るという。

エンジニアのジェームズ氏は、「リサーチャーが研究してくれているおかげで、製品はより良いものに仕上がります。家庭で吸い取れるゴミの大きさはさまざまですが、目に見えないような小さなものもあります。そういったものを吸い取るのに微生物学の知見が活かされていて、微細なゴミを捕集することは排気のキレイさにもつながっているのです」と話す。

こうしたゴミの研究は他社でも行なわれているが、ダイソンが他社と違うのは微生物を含め包括的な研究をしていることだという。

「ダニの死骸などのハウスダストはアレルギーの原因になることが解明されています。ダイソンではただゴミを調べるのではなく、そこに含まれる微生物やアレルゲンも調査対象にし、全体的な研究をしているのが特徴です」(デニス氏)

微細なゴミを捕集することは、排気のキレイさにもつながっている

V15とV12に搭載されている、吸い取ったゴミの量やサイズを判別して表示する機能もリサーチャーとの協業のおかげだ。ゴミの量とサイズは、10μm/60μm/180μm/500μmに分けて、液晶ディスプレイに表示される。サイズの目安は、10μmは花粉などの微粒子サイズ、60μmは微細なホコリ、180μmはダニの死骸など、500μmは砂糖の粒くらいのサイズとなる。

ゴミの量が検知できるようになったことで、オートモードも新たに搭載。吸引するゴミの量が多いと判別されると吸引力が高まり、少なくなると吸引力も下がるため、バッテリーを無駄にすることなく掃除ができる。

「吸ったゴミの量がリアルタイムでわかるため、掃除開始時は数字が大きくなりますが、ダストを除去すると数字は下がります。家庭には目視できないような小さなゴミもありますが、それらをきちんと除去できていることを、ユーザーは数字で確認できるのです。また、数字が大きいときは製品も反応して吸引力を上げて掃除するので、ここが汚いんだなということを感覚的にわかってもらえると思います」(ジェームズ氏)

吸い取ったゴミの量とサイズが、10μm/60μm/180μm/500μmに分けて表示される
ヘッドにはレーザーを搭載し、見えにくいゴミの可視化も実現

寝具を掃除しない家庭が多数。グローバル調査

日本を含む11カ国、12,309人を対象にグローバルでのダスト調査も実施している。家庭での掃除習慣や行動について調べるほか、ハウスダストが日常生活や住環境に与える影響なども調査。

実施期間は2021年11月15日~24日。2年目となる本調査では、引き続き新型コロナウイルス感染拡大、および予防対策の影響もあり、自宅環境を清潔に保つことへの意識が高いことがわかったという。

日本を含む11カ国、12,309人を対象にグローバルでダスト調査

ソファや寝具を定期的に掃除するかという項目では、ソファは36%から41%、寝具は24%から28%と微増という結果になった。しかし日本単体では、ソファは25%から17%、寝具は18%から14%と減少傾向にある。

いつ掃除をするかという項目では、家の中がホコリっぽいと感じるとき、目に見えるホコリやゴミがあるときと回答した人が44%だった。

ダイソンでは、寝具の掃除機掛けをしていない人が多くいることを懸念。ダイソン微生物研究所のリサーチャー モニカ・スティチェン氏は、こうした結果について以下のように言及。

「ホコリに含まれる粒子の多くは、肉眼では捉えにくく、顕微鏡を使うことで確認できるほどの微細なサイズです。目に見えるホコリを床に見つけたときに掃除する傾向にある場合、それは懸念すべきことです。目に見えるホコリが見つかったときは、すでにダニの死骸や皮膚片などのハウスダストが存在している可能性が高いからです」

さらに「この調査結果を通じて、健やかかつ快適な生活空間作りには、目に見えるゴミやホコリだけでなく、目に見えにくい微細なホコリを取り除くことが大切という意識が広がることを願っています」と述べた。

白い部分が掃除中に見逃されがちなスポット