【ミラノサローネ 2011】
有機EL照明による「光の花見」など、日本発の照明デザインを提案

~“ロボット照明”など欧州のLED電球も

 4月12日から17日までの間、世界最大級のデザインの祭典、ミラノサローネが開催されたが、今年は2年に1回の「Euroluce(エウロルーチェ・サローネ国際照明見本市)」が開催され、照明関係の展示が盛り上がった。

 その中で特に目立っていたのが、LED照明や有機EL照明(OLED)で世界をリードする技術を持ち、繊細な表現でヨーロッパ人から高く評価されている日本企業による、“日本的”な表現による展示だった。本稿では、エウロルーチェで注目を浴びた日本の照明メーカーの展示、および海外のおもしろいデザインの照明を紹介していこう。

有機EL照明で“光の花見”を実現したカネカ

カネカのブース「BAR×JAPAN×OLED 美しき日本の酒場」

 カネカは、「BAR×JAPAN×OLED 美しき日本の酒場」と題して、有機ELで夜桜を見ながら日本酒が楽しめるBAR空間をつくり、注目を集めた。空間デザインを務めたのは、キヤノンのブース展示でも注目を集めたトラフ建築設計事務所で、照明デザインは岡安泉照明設計事務所の岡安泉氏。

 鏡張りの真っ暗な空間に、白と橙色の有機EL照明パネル約2,500枚を上下に波打つような形で立体的な面を描くように宙吊りした作品で、部屋にはほのかに光を反射する黒い円卓が2つ置かれており、そこに水たまりに映った夜桜のように光が反射する。円卓の中央には日本酒が置かれ、来場者に振る舞われていた。日本人だけでなく、イタリア人の来場者も、頭上を彩るきれいな光の桜を背景に集合写真を撮ったり、酒を持って乾杯したりと光の花見を楽しんでいた。

夜桜の雰囲気を出すために、有機ELの明るさは最大輝度の数十%の出力に抑えている。なお、本来はもう少し広い展示になるはずが、地震などの影響で設営が間に合わず、急遽、鏡を足し、部屋サイズを4分の3ほどに抑えたという。

 空間設計を手掛けたトラフの鈴野浩一氏に展示の意図や背景を聞くと、カネカのビジネスは企業向けのBtoB展開が主で、薄さや大きさといった有機ELパネルの特徴をできるだけそのまま出したかったことから、何も加えないパネルそのものを宙づりする案にたどり着いたという。パソコンを使って2,500枚のパネルの1個1個の明るさを変えることで、桜が舞う様子などをアニメーション表現していた。

 最上階には2枚の有機ELを裏表で貼り合わせ、その上に和紙の笠をかぶせてつるした光の通路も用意。こちらでは時折、白と橙以外の有機ELも使用していた。

 また、1階の入り口のすぐ横には、有機EL照明のデザインコンペの優勝者、森田文子さんの「Pieces of Light」も飾られていた。


軽さを表現するために有機ELパネルを吊っているフラットパネルはわざとたわませ、その上の細い導線はわざとよれた形にしている。接触不良が起きてもすぐに修復できるように導線はマグネットで吸着している最上階には光の通路を用意光の通路ではほかの色の有機ELパネルも展示されていた
入り口横にはカネカのデザインコンペの優勝作品「Pieces of Light」も飾られていた

調色可能な有機ELで「快適」を目指した三菱化成、光の進化を表現したルミオテック

iPhone/iPod touchの音楽にあわせてめまぐるしく光が変わる有機EL照明「BON」。光源には調色・調光に対応する同社の有機EL「VELVE」を使用する

 三菱化成グループのVerbatim(バーベイタム)のブースでは、同社の調色・調光可能な有機EL製品「VELVE(ヴェルヴ)」を紹介する展示を行なっていた。テーマは「KAITEKI(=快適)」。

 「お盆」にちなんで名付けられた「BON」という作品は、分厚いのアクリルの下にVELVEが埋め込まれており、立てかけたiPod touchから流れる音楽にあわせて光の色と明るさが変わる、という作品になっている。

 重りとのバランスで頭を振るデスクスタンドの「Yajirobe」も光源にVELVEを採用。無限階調で色を変化させられることをアピールしていた。

 さらに奥の部屋には、円弧を描くようなタッチパネル式のVELVEが並べられたいた。タッチをすると、それに反応してパネルの色が変わり、それが部屋全体に広がっていく。

やじろべえのような重りとのバランスが面白いデスクスタンド「Yajirobe」もVELVEを仕様。色が自由自在に選べる真っ暗な部屋に弧を描くような並べられたVELVE。その1つを触れると、周囲のVELVEもそれにあわせて色が変わる

 最後の鏡張りの部屋には、VELVEの有機ELパネルと和紙でつくられたペンダントライトが2つ吊され、さまざまな色にきらめく星が散りばめられた無限の宇宙のような印象を与えた。

 なお、入り口付近には西島美子氏がデザインしたインテリア照明「GRID CUBE」も飾られていた。職人によるアクリル加工でつくられた立方体で、正面から見ると均整の取れた“光の線”の照明となり、斜めから見ると立体的な光を映し出す。日本ならではの四季や自然美をモチーフに桜色、若葉色、藤色、茜色などの繊細でやさしい色調を表現していた。こちらも、光源にはVELVEを使用している。

鏡張りの部屋に浮かび上がるVELVEと、和紙でつくられたペンダントライトが、音楽にあわせて光の色を変える。なんとも不思議な様子だった「GRID CUBE」はアクリルでつくられた立方体の照明器具。VELVEの調色機能を使って、桜色、若葉色、藤色、茜色など、日本の四季を表現した

 世界初の照明用有機ELパネル専業会社・ルミオテックは、建築家の三井直彦氏と組んで「FOREST OF EVOLUTION(進化の森)」という展示を行なっていた。「光」の持つ原始性と最新鋭の有機ELパネルによる照明技術の「Forest(=森)というキーワードで対比させ、人類の照明文明の進化を浮き彫りにすることを狙った展示だ。

 観葉植物から合間から光を放つ有機ELに誘われて展示室に入ると、そこは鏡張りの空間になっており、テーブルランプの「VANITY」、3mを超えるフロアランプの「TREE」、小型汎用照明の「HANGER」などの放つ光が無限に広がっていた。

有機ELパネルが吊る下がった樹木の森を抜けていくと、そこにはルミオテックの展示が鏡ばりの部屋に、テーブルランプ「VANITY」などルミオテックの照明が映し出され、広大な“森”をつくっていた

光と人との新たなインタラクションを模索するパナソニック電工

 有機EL照明やLED照明で、新しい照明とのつきあい方を模索していたのはパナソニック電工。今年も、2008年から連続してフオリサローネでの展示を行なってきた展示「(standard)3」を継続するが、今年はデザイナーを変え、イタリア人デザイナーのフルッチョ・ラビアーニ氏が、空間構成やインスタレーション(空間芸術)をつくった。

 最初の展示室には、背面に何も置かれていない透過型の有機ELが展示されていた。電気を通すと明るく発光するが、電気を通していない間は、光を透過し反対側が透けて見える。

 その隣の部屋では、LEDの投光器を使って、来場者が部屋に入ると集光された強い光がパッと足下を照らすというインスタレーションがあった。ON/OFFが一瞬で切り替わるのが、従来の放電灯を使った投光器との違いだ。

 メインの部屋には、フルッチョ・ラビアーニ氏による「光のシリンダー」と呼ばれる作品。最初は外が透けて見えているが、シリンダーの中に人が入ると、LEDが明るい光を放つことで、外が見えなくなる。天板に用意されたLEDは、いずれもパナソニック電工が既に発売済みの製品で、日常にある光を通して、空間を変えることができることを表現している。

透過型有機EL。通電していない間は、向こう側が透けて見えるフルッチョ・ラビアーニ氏が、既存のパナソニック電工のLED照明だけでつくった光のシリンダー。シリンダーの内側を明るく照らすことで、外が見えなくなるなど、明るさによる空間の変化が楽しめた

 別の階に用意された展示では、通路を歩くと、それにあわせて縦に伸びる光の線が、来場者の後を追って動く。来場者が床に置かれた「+」印のところで立ち止まって、腕を伸ばし、腕を左右に振ると、今度は腕が指す方向に光の線が現れる。たった1個の「+」マークを用意することで、光との2種類のインタラクションを実現した展示だ。

 鏡張りの空間に、透過型有機ELを灯した無限に広がる通路をくぐると、パナソニック電工が現在発売している製品が陳列された部屋が現れる。この部屋では、実はブースで一番面白かった、同社が考えるこれからの照明スイッチのコンセプトモデルが展示されていた。それぞれLEDを使って発光するスイッチとなっているのが特徴だが、それぞれに異なる操作方法が面白かった。

壁一面に並べれらたLEDの光源。歩くと、光の列がその後を追うように動く。「+」印にあわせて立ち止まり、手を振ると、今度は手を使った操作が可能になった3種類のスイッチのコンセプト。一番上のスイッチは、指を縦になぞることで明るさを調整、横になぞることで色を調整する。真ん中のスイッチは、押すと0と1の表示が切り替わる3番目のスイッチを押すと、真っ暗な状態から現在の明るさまで光のリングが時計回りに回りながら現れる。指をリングに沿ってなぞらせることで、光量が調整できる

水の壁に悠久の光を映し出した東芝

 今回、ミラノサローネの照明関係の展示の中でもひときわ高い人気を誇っていたのが東芝による「Luce Tempo Largo(ルーチェ テンポ ラルゴ)」という展示だ。

 真っ暗な古い建物の屋内に、天井からしたたる水の壁で通路がつくられ、そのしたたる水に明滅を繰り返す無数の光の点が現れるという作品だ。カメラで撮ろうにも、うまく写すことができなかった。まさにその場にいて体験しないとわからない作品に仕上がっている。

建物に入るとしたたり落ちる水の壁に光の点が現れては消える水×光の壁の向こう側には100年の歴史を持つ建物の壁
Luce Tempo Largoを手掛けたスタッフ。左から篠田匡史氏、岡安泉氏、田根剛氏、東芝デザインセンター社会インフラ担当参事の伏屋信宏氏

 同社でも、これまでの展示の中で“ヨーロッパの人々に受け入れてもらおう”という同社の展示のもくろみにもっとも近い展示ができたとしている。会場クリエイションのパートナーにも、ヨーロッパを拠点とする建築事務所のドレル・ゴットメ・タネと組み、技術面をカネカの展示も手掛けた照明デザイナーの岡安泉氏とTAMON technologyの篠田匡史氏がサポートした。

 ドレル・ゴットメ・タネの田根剛氏は、東芝側から「あえて製品は見せなくていいから光のコンセプトを見せたい」ということと、「電球から始まった120年の東芝のあかり文化を伝えて欲しい」という題をもらったという。

 田根氏はその後、光の本質に迫るべく、調査や研究をし考えを巡らせるうちに、「光」と一番、性質が近いのは「時間」だと気づき、光によってこの時間を表現することに決めた。

 会場として選んだのは、100年以上の歴史を持つ建物「Cortile di Via Savonna(コルティーレ・ディ・ヴィア サヴォナ)」。そこに天井からしたたる水に光を当てて明滅する光の点を描き出した。水は元々、透明でただ光を当てただけではうまく光らせることができない。しかし、岡安氏や篠田氏が周波数などを工夫することで、うまく光の点を煌かせることに成功したという。

 この展示ではさらに、目の前に現れた光の点が、パっと消えることでも時間の経過を表現している。田根氏と岡安氏、篠田氏のチームは周波数と点灯時間の2つの軸で試行錯誤を繰り返すことで、人がもっとも気持ちよく感じられる形に展示を調整していった、という。

Luce Tempo Largo、Savonna通りに突如現れる光のパサージュパサージュを通り抜けると、そこには100年の歴史を持つ建物「コルティーレ・ディ・ヴィア サヴォナ」がある。ここが東芝の会場だ

 会場は目抜き通りから細い路地を通り抜けた向こう側にあるが、田根氏はここにもモダンな印象の光のパサージュを用意。まるで、狭い門をくぐって小宇宙へと抜ける茶室のような印象だった。

 水に映し出された光の点の壁の向こう側に、100年の歴史を刻んだ建物の壁。この荘厳な雰囲気の空間に足を踏み入れると、陽気でよくしゃべるミラネーゼ(ミラノの人たち)も雰囲気に飲まれ、皆、口をつぐんで静かにその雰囲気に浸っているようだった。


 これ以外にも、ヤマギワがミラノ在住のデザイナー・蓮池槙朗氏と組んで作った「Aurelia」と呼ばれる、ペンダントとスタンドの新作シリーズを展示していた。

ヤマギワが展示していた蓮池槙朗作の新作ランプ「Aurelia」

ヨーロッパ勢からは“ロボット照明”など、注目すべきLED電球の提案

 最後に、ヨーロッパ勢からの面白い光の提案もいくつか紹介しよう。今回のミラノサローネでは、洗練されたデザインの商品で人気が高いイタリアのデザインブランド「ALESSI」が、foreverlamp社とのコラボで発表したLED電球が大きな話題を呼んでいた。

 ALESSIは3人の気鋭若手デザイナーを起用して、8種類のLED電球をプロデュース。「見た目にも楽しく美しいLED電球によって、電球と照明機器との境目が消失する」と、デザイナーのAlberto Alessi(アルベルト・アレッシィ)氏は語っている。

ALESSI LUXとforeverlampのコラボによるデザインLED電球シリーズこちらもALESSI社のデザインLED電球。カラフルなモデルが人気を集めていたようだ

 “光の魔術師”とも呼ばれるドイツのIngo Maurer(インゴ・マウラー)氏は、ファッションブランド「KRIZIA」のスペース「Spazio KIRIZIA」にて、「Spirits Flying High」をテーマに、新作の展示を行なっていた。日本から大きな影響を受けているというマウラー氏は、プレスリリースの中で日本を襲った地震に遺憾の意を表す一方で、新作のテーマと同様に、日本が再び高く飛び上がってくれることを願うと訴えていた。

 そのマウラー氏の新作に混じって展示されていたのが、同じくドイツのBENEDIKT ACHATZが、マウラー氏のために作ったという“ロボット照明”の「ROBOTZKI」。レンズ付きLEDの裏側には大きなヒートシンクがつき、コンピューター基板の制御で首を振るという、SF映画に出てきそうなメカニカル性とデジタル性を共存させた面白いライトだ。

 ここであえてこの作品を取り上げたのは、同照明でも使われているパソコンのCPUなどの放熱に使われるヒートシンクを装飾的な要素として取り入れた照明を、ほかにもいくつか見かけたからだ。

インゴ・マウラー氏の新作ランプ「Spirits Flying High」は、蝶やトンボがランプにとまっているデザインが特徴。マウラー氏は日本が再び高く飛び上がることを願っているというインゴ・マウラー氏が紹介していたロボットランプの「ROBOTZKI」。コンピューター基板の制御で首を振る

 そのほかの面白いLED照明としては、水を使ったものをいくつか見かけた。ALCHEMY社の「H2LED」というLED照明は、電球のような形のガラスを水で満たし、その中に反射板で囲まれた密閉したLEDの光源を置いている。LED光源の向きは、電球の外側にあるマグネットが埋め込まれたレバーを動かすことで変えられる、という工夫も面白かった。

 もう1つ、見た目は似ているが、ひと味違った面白いコンセプトでつくられていたのがGionata Gatto(ジョナータ・ガット)氏とMike Thompson(マイク・トンプソン)氏の合作、「TRAP LIGHT」。エネルギーを吸収して発光をつづける蛍光素材を、「ムラーノ工法」という工法で、ガラス瓶内部に閉じ込めた照明だ。ガラス瓶に別途入れた白熱灯で30分あかりを灯すと、その後、8時間は笠に緑色のあかりが灯し続ける、という。ガラス瓶が照明のシェードにも光源にもなっている点が面白い。

水のゆらぎを壁に描き出すALCHEMY社の「H2LED」蛍光塗料をまぶしたガラスシェードが特徴の「TRAP LIGHT」

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(林 信行)

2011年4月20日 00:00