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【ミラノサローネ2011】
自然エネルギーで充電、1日分の電力が持ち歩ける車輪付き蓄電池「Yill」

ドイツYounicos社の蓄電池「Yill」。自然エネルギーで充電し、車輪付きで持ち運びできる点が特徴だ

 今年のミラノサローネでもっとも注目すべきは、ドイツのYounicos(ユニコス)社による、持ち運びできる車輪付きの蓄電池「Yill(ジル)」だろう。年内にも商品化されることが決まっており、これからの日本のエネルギー問題を考えていく上での大きなヒントも隠されているかもしれない。


「自然エネルギーを蓄電して使う」という新しい社会構造の提案

自然エネルギーの電力を蓄電して使う、というコンセプトの蓄電池「Yill」。電力を必要とする場所に自分で運んでいって使うという新しいワークスタイルを提案する

 車輪に持ち手がついたような外観のYillは、オフィスでの利用を前提とした、どこへでも簡単に持ち運びできる蓄電池となっている。車輪とほぼ一体化した胴部分の下側には、懐中電灯のような足下を照らす灯りがついており、上側には交流のコンセント(展示されていたYillではヨーロッパ仕様のコンセント)と直流の電力を供給するUSBポートが、それぞれ1つずつ用意されている。

 太陽光発電などで4時間ほど充電したYillを、充電ステーションから外して職場の自分のデスクまで転がしていけば、ワークステーションクラスのコンピューターを2〜3日稼働させる電力が供給できるという。

【お詫びと訂正】上記文章で「2〜3時間の電力が供給できる」との表記をしておりましたが、ユニコス社のリリースでは、「2〜3日」と表記されております。訂正させていただきます。

 Yilに搭載されている充電池は、主流のリチウムイオン電池と比べても安全とされ、充電が早く、稼働時間が長いリチウム・タイタニウム(チタニウム)電池となっている。公称出力は300W。

 充電には、Younicos社が提供する自然エネルギーソースのチャージングステーションを使用する。従来のコンセントからでも充電が可能。電力供給のピークにあわせてインテリジェントに充電を行なう仕様になっている。

Yillには、家庭用の電源プラグのコンセントとUSBによる直流電源の供給端子が両方とも備わっている 充電のためケーブルを接続しているところ 充電が終わったら、使いたい場所に持ち運ぶ

 原子力発電への不安が高まる中、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーに注目が集まっているが、こうした自然エネルギーの問題点として、時間や天候などの条件によって発電量が大きく左右され、電力の安定供給ができない点がある。しかし、Yillのように電気を一度蓄えれば、安定して使用することができる。


Yillが家庭やオフィスのデザインを変える

 現在はさまざまな製品がモバイル化、コードレス化されているものの、電力のコードの束縛からは解放されていない。しかしYounicos社では、このYillを使うことで、壁面のコンセントの束縛からも解放されるという。そしてYillを使ってオフィスの電子機器を給電するようになれば、オフィスのレイアウトもコンセントの位置に縛られずもっと自由になる、と提案している。

 さらに、Yillが広まっていけば、今日のようにオフィスの床を電気の配線用に二層化する必要がなくなり、冷暖房のしくみなども、もっと簡単にできるという。

 なお、展示されていたYillからの交流電源の供給は、プラグの形状や230Vの電圧などヨーロッパ交流電源の仕様にあわせたものになっていた。

 本体サイズは283×526×400mm(幅×直径×ハンドル長)。定格出力は300Wで、1分当たりの最大出力は450W。エネルギー容量は700Wh。最大入力電圧は230Vで、最大入力電流は1.3A。


政府の対応を待たずに起業

 Younicos社は、CO2削減の観点から自然エネルギー社会をデザインする研究開発をはじめた会社だ。

 創業者でCEOのAlexander Voigt(アレクサンダー・フォイグト)氏は「政府が自然エネルギーについて本格的な取り組みを始めるのを待っていたのでは遅すぎる」と、自ら風力、太陽光を蓄電して使う新しいエネルギー社会を作るべく、起業したという。同社では、こうした自然エネルギーによる電力を、発電できる間にどんどん蓄電しておき、電気が必要な場所に持ち運んで、取り出す、という社会を提案している。

 Yillは元々、社内で使われていた「E-Shuttle」という蓄電池がベースになっている。機能的にはまったく同じだが、同じベルリン出身のデザイナー、Werner Aisslinger(ヴェルナール・アイスリンガー)氏がデザインをし直した。これにより、より見た目にも魅力的になり、Younicos社が何をしようとしているのか、ということをデザインからも主張できるようになったという。

間もなくの商品化が予定されている「Yill」の前身「E-Shuttle」。機能的にはYillとまったく同じだが、もっと四角く質実剛健な外観だった E-Shuttleを使用したオフィスのシーン Yillのデザインの背景思想を紹介したパネル。映画「スターウォーズ」に登場するロボット「R2-D2」のような親しみやすさを目指したという。

 ミラノサローネでの展示は、蓄電ユニットのYillの展示が中心だったが、このほかにも、家屋などに据え置きする大型の蓄電池「Yoe」や、電気自動車、電気バイクなどを充電するインテリジェント・チャージングステーションの「Yana」、より幅広いエリアに給電できる「Island System」など、自然エネルギーを蓄電して使い回すという新しい社会構造そのものをデザインしている。さまざまな側面に対するソリューションの研究・開発を行なっている。

Younicos社はYillのほかにも、家庭用据え置き型ソリューション「Yoe」、屋外で電気乗り物を充電するためのID識別機能も内蔵された充電ステーション「Yana」、エリア単位での電力供給を可能にする「Island System」など、広範なソリューションを開発している Younicos社の展示場の外には、会社のスローガン「Let the fossil rest in peace(化石燃料をそろそろ永遠の眠りにつかさせてあげよう)」が掲げられていた
会場に貼られていた、YounicosのブログURL

 会場では日本語の字幕はなかったが、概要の紹介などは同社の公式ホームページの動画などで見ることができる。

 展示を行なっていた創業メンバーの社員に、夏場の電力供給が難しくなりそうな日本の近況を伝えると、大きな興味を示していた。







(林 信行)

2011年4月22日 15:32