藤本健のソーラーリポート
太陽光発電の今が分かる「太陽光発電シンポジウム」イベントレポート
「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
11月16日と17日の2日間、太陽光発電のメーカーの業界団体である一般社団法人太陽光発電協会(以下JPEA)主催による「第28回 太陽光発電シンポジウム2011年」が東京・両国にて開催された。主に太陽光発電の世界で働いている人向けのセミナーで、かなり技術的に難解な話も多かったが、非常に興味深い話がいっぱいだった。2日目に参加したのだが、その中で面白く感じたものをいくつかピックアップし、トピックスとして紹介してみよう。
なお第1日目については、既にイベントレポートにて公開されているので、参照していただきたい。
※編集部注 イベントでは、スライド画像も含めて写真撮影が禁止されました。当日配布された資料の画像の使用は許可されため、その一部を掲載しております。
■レアアースが足りない……でも亜鉛やスズで化合物系太陽電池が作れる
太陽電池の種類。大きく6つに分けられる |
2日目最初のテーマは東京工業大学・大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 太陽光発電システム研究センター長の小長井誠氏による「太陽電池研究開発の最新動向」というもの。小長井氏の分類では、太陽電池を (1)結晶シリコン太陽電池、(2)シリコン系薄膜太陽電池、(3)CIGS系薄膜太陽電池(銅、インジウム、ガリウム、セレンの化合物を材料とする)、(4)カドミウム・テルル太陽電池、(5)有機半導体・色素太陽電池、(6)超高効率太陽電池の6つに分類した。
その中で気になったのが、(3)のCIGS系薄膜太陽電池の動向だ。
CIGS系の太陽電池は、ソーラーフロンティア、ホンダソルテックという日本の2社が開発を進めている。特にソーラーフロンティアのCIS太陽電池(材料は銅、インジウム、セレン)では今年3月、30cm角サブモジュールの開口部面積で、世界最高の17.20%の変換効率を達成するなど、高い実績を出してきている。また製造にかかるエネルギーがシリコン系などに比較して非常に小さく済むため、発電を始めると0.7年で製造にかかったエネルギーを上回るエネルギーを作り出せるというメリットもある。
ただ、1つ大きな問題があって、それが「資源的な制約」である。現在、地球に埋蔵されているインジウムの量が、CIGS系薄膜太陽電池の50~100GW分しかなく、10年程度で枯渇するのでは、と言われている点だ。
そこで、インジウムの代替とし、亜鉛(Zinc)やスズ(Tin)を用いたレアメタル不要の「CZTS太陽電池」の研究を各社がはじめており、IBMがそれなりに良い変換効率を実現しはじめている、とのこと。ソーラーフロンティアもIBMと共同で開発を進めているようだが、今後どう発展していくかが楽しみなところだ。
■“太陽光は高い”コストの根拠とは? 原発を下回る「5円」も現実的に
“発電コストが高い”とされる太陽光発電だが、近藤氏によれば、試算方法を現実に即せば、もっと安くなるという |
2つめのセミナーは産業技術総合研究所(AIST)の太陽光発電工学研究センター、近藤道雄氏による「太陽光発電システムに求められるもの」というテーマ。ここで、刺激的な数値として出ていたのが、発電コストの計算だ。
一般的に太陽光発電の発電コストは1kWhあたり48円または49円とされ、非常に高コストだといわれている。では、これはどんな根拠で計算されているのか。たとえば3kWのシステムの場合は、導入コストを200万円と仮定。東京の場合1kWのシステムで年間1,000kWh発電し、システム寿命が20年だとすると、3kWのシステムなら60,000kWhの発電をすることになり、1kWhが33円という計算になる。さらに、200万円を20年ローンで購入すると計算し、金利が4%とすると、約48円になるというのだ。
しかし近藤氏は、この根拠は、今考えるとデタラメというのだ。
まず3kWのシステムは、現在は150万円を切るくらいになっているし、そもそも20年ものローンで組む人はいないし、4%という金利もおかしい。さらにいえば、ヨーロッパのメガソーラーでは15円/kWhを実現しているというし、日照時間の長い南ヨーロッパやカリフォルニアでは7円/kWhを達成しているという。また20年で寿命という設定もあまり根拠はなく、実際40年以上の連続使用という実績も出てきているので、パワコンを何回か交換すると考えても、発電コストは安いと考えられる。
さらに、今後太陽光発電システムそのもののコストダウンがどんどん図られていく見込みなので、5円/kWhというのも現実的になっている、というのだ。そうなれば、発電コストが高いどころか、従来、もっとも安いとされていた原発をも下回るコストになる、というのだ。
こういう数値こそ、もっとアピールしていってもいいのではないかと感じられた。
■横浜に“スマートシティ”と連動した太陽光発電マンションが誕生
その次に興味をひいたのが三井不動産レジデンシャル株式会社開発事業本部商品企画室主任の町田俊介氏による「新築分譲マンションへのPV導入事例と需要」。太陽光発電というと、現在のところ一戸建て住宅の屋根に乗せるのが基本となっており、マンションでの導入事例は少ない。ただ同社では、現在、マンションへの導入が積極的に始まっているというのだ。
分譲マンションにおける太陽光発電の方法は「共同部」「戸別」「一括受電」の3パターンがあるという |
マンションに太陽光発電を導入する方法は、大きく分けて3種類あるという。1つは共有部供給方法というもので、マンションの廊下やエレベーターなど共有部分に太陽光発電による電力を供給するという方法。この方法がもっとも作りやすいが、経済的なメリットが見えにくいというデメリットがある。
2つ目の戸別供給方式は、屋上に乗せた太陽電池を分割し、各戸へ直接割り振るというもの。こうすれば、一戸建て住宅のシステムと同じ構成になって分かりやすいが、全戸に割り振ると、容量が非常に小さくなってしまうため、特定住戸のみに設置という形になることが多い。
3つ目の一括受電方式は、電力会社が各戸と直接電力契約するのではなく、マンション全体と一括契約し、マンション内で“変電所”的なものを設置し、各住戸に割り振るというシステムを導入している場合の話。この場合はマンション全体で運営することができるが、そもそも一括受電契約をするケースはごくわずかしかないのが実情のようだ。
横浜の「パークホームズ大倉山」では、横浜市が推進する“スマートシティ”の一環として太陽光発電システムを導入する |
そんな中、三井不動産レジデンシャルでは、共用部給電方式を採用しつつ、ユニークな取り組みを行なっている。「パークホームズ大倉山」という横浜で建設中のマンションでは、横浜市が取り組んでいる社会システム実験「横浜スマートシティプロジェクト」に参加。ここではCEMS(地域エネルギー管理システム)からの省エネ依頼がくると、MEMS(マンションエネルギー管理システム)や、各家庭にあるHEMS(ホームエネルギー管理システム)が自動制御を行なって、照明を間引きしたり、電気自動車の充電をストップしたりすることで、エリア内電力の最適化を図るというもの。
このMEMSに太陽光発電システムを連携させることで、より効率のいい対応が可能になり、いざライフラインが寸断されたという場合でも、マンション内である程度のエネルギー供給が可能になるという安心につながるのがメリットだ。現在は実証事業という感触ではあるようだが、同社では今後こうしたシステムを積極的に展開していくとのことだ。
■「全量買取」は家庭には当てはまらず
午後の部では、まず最初に経済産業省・資源エネルギー庁新エネルギー対策課 再生可能エネルギーー推進室長補佐の安田將人氏による「全量買取制度の実施に向けて~今後の政策の動向~」というテーマがあった。
ここでは、8月に可決され、来年7月より施行される「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再生エネ法)」における「全量買取」とはどういうことなのかが解説された。
全量買取を簡単にいえば、太陽光、中小水力、風力、地熱、バイオマスによる自然エネルギーで発電された電気を、国が定める期間、固定価格で買い取るというもの。では、その固定価格は誰が決めるのかというと、国会同意人事で決まる「調達価格等算定委員会」という第三者委員会(5名)が適切と決めた価格が設定され、その価格は毎年更新していくという。
その買い取るための金額は、電気代を払う側、つまり一般家庭の電気代に賦課金として跳ね返ってくる。従来、この賦課金は電力会社ごとに異なっていたが、今回は費用負担調整機関が一旦、間に入ることで、全国一律に設定されるというのだ。また、これまでは500kW未満の電力契約をしているところからのみの買取ということになっていたが、今後はそれ以上にも対応が広げられたことで、メガソーラーなどが実現できる見通しとなったわけだ。
再生エネ法で導入された「全量買取」は、住宅用の太陽光発電システムには当てはまらない |
では、全量買取となった際、一般家庭に導入されている太陽光発電に関してはどうなるのか? これは現在、余剰電力のみの買取ということになっているが、来年7月1日に法律が施行された後も、これは変わらないという。やはり余剰電力買取から全量買取に切り替えると、現在約80万戸あるといわれる太陽光発電システムの配線をすべて切り替える工事を行なわなくてはならないし、何よりも余剰電力を売るということから節電意識が働いていたのに、それがなくなるのはよくないだろう、という考え方からなのだという。
■自然エネルギー普及にはさまざまな規制をクリアする必要がある
ではこの再生エネ法が施行されたら、自然エネルギーの普及がどんどん進むのかというと、なかなかそうもいかないのが現実だ。実はさまざまな法律による規制が非常に多くあり、一筋縄ではいかないというのが実情だからだ。
自然エネルギーを導入するには、計画から工事、運転に至るまで、さまざまな規制が待ち構える |
この点について経済産業省・資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部政策課 制度審議室 室長補佐 日置純子氏が、「太陽光発電の普及に向けた規制・制度改革について」というテーマでセミナーを行なった。日置氏によれば、各自然エネルギーにおける規制や許認可手続きの例を挙げても、かなりいろいろな規制があるようだ。
たとえば、耕作放棄地などの農地に太陽光発電を設置するには、農地法による規制があるし、ある程度の規模の太陽光発電システムを設置すると、専任の電気主任技術者をつける必要があるなど保安規制もある。さらに、工場の屋根などに太陽光パネルを設置する場合には、それも建築物とみなされて容積率や高さ規制などにひっかかる可能性があり、工場立地法における緑化という考え方には組み入れられない……などなど挙げていくとキリがないほどなのだ。
そこで政府一丸となって、規制緩和、撤廃の方向性を打ち出してはいるものの、総論賛成・各論反対というのが実情。やはり各法律は、それなりの理由があってできているので、そこを崩していくためには、改革の合理性・妥当性がしっかり説明できなくてはならない。それでも、経産省としては進めて行きたいので、ぜひJPEAなどの協力を得たいと訴えていた。
もちろん、経産省管轄の法律面を中心に規制緩和は徐々に進んできており、その点に関する説明もあった。具体的には以下の通り。
1.地上設置の大規模太陽光発電設備に関する建築確認の不要化
2.太陽光パネルをビル屋上等に設置する場合における容積規制・高さ規制等の緩和・明確化
3.電気事業法上の保安規制の緩和
4.自家消費用の太陽光パネル面積を工場立地芳情の環境施設面積に算入可能化
5.農地ののり面(斜面)やあぜ道への太陽光パネルの設置に関する取り扱いの明確化
6.道路ののり面における太陽光パネル設置に関する取り扱いの明確化
7.都市緑化法上の緑化地域における太陽光パネル設置に関する取り扱いの明確化
太陽光発電設備を地上に設置する場合、それが「建築物」か「工作物」となるかで規制が変わってくる | 屋上にパネルを設置する場合も、容積規制や高さ規制の対象となる | 太陽光発電に関する規制・制度改革の進捗状況。既に対策が実施されているものもある |
まだまだ法律的な規制はいろいろあり、難しいところのようだが、ぜひ合理的な観点から進めてもらいたいところだ。
■初期費用なしで太陽光発電ができる、飯田市の「おひさま0円システム」とは?
最後にもう1つ、太陽光発電をファンドにしてしまうという「おひさまファンド」という事例紹介があり、なかなか面白い取り組みだったので、これについても紹介してみよう。
この発表を行なったのは長野県飯田市にある、おひさま進歩エネルギー株式会社代表取締役社長の原亮弘氏。同社が設立されたのは2004年12月。NPOの市民事業理念を核に、パートナーシップ方環境公益事業として、立ち上がったもので、日本発の「おひさまファンド」実現にむけてスタートしたのだ。
「おひさまファンド」のシステム。保育園など公共施設に設置し、発生した売電料金を、利益として出資者に分配する仕組みだ |
これは一般市民からの出資を募って集めた資金を元にして、太陽光パネルを設置するというものだ。第1号は、保育園の屋根に設置し、そこで発電した電気代をファンドに戻すという形で行なった。このファンドを2005年3月に飯田市民に向けて募ってみたところ、募集口数であった2億150万円(1口10万円が1,500口、1口50万円が103口)が2カ月弱で集まってしまったという。
さらに、それを進化させ、「飯田のすべての屋根に太陽光発電を!!」というキャッチフレーズでスタートさせたのが「おひさまゼロ円システム」。これは同じようにファンドを募る一方、太陽光発電システムの設置希望者も募り、条件が整ったところに対して、初期投資ゼロで設置するというものだ太陽光発電システムを設置した家は、一般の太陽光発電システム導入ユーザーと同様に、売買電の契約を電力会社と行なうが、毎月一定額をファンド側に支払っていき、9年間払い終えたら、あとは自分のものになるという仕組みだ。
「おひさま0円システム」は、10年間定額を払うことにはなるが、初期投資ゼロで太陽光発電が導入できる点が特徴だ |
このおひさまゼロ円システムは、売電金額が48円になった2009年11月からスタート。最終的には応募してきた設置希望者の中から条件が揃った26件に、3.3kWのシステムを設置。彼らからは毎月19,800円ずつを支払ってもらっているので、目標年間分配利回り2%を維持できているという。各戸とも年間平均1,200kWhの発電ができているとのことで、19,800円の支払いを含めると、売買電の結果を入れても設置前より支払いは増えていそうだが、やはり初期費用なしで導入できたという点は非常に大きな成果だろう。
同社ではその後も新たな展開をしていくというが、同じ仕組みを導入しようと全国でも動きが出てきている。新たなお金の流れとしても注目を集めそうだ。
2011年11月29日 00:00