藤本健のソーラーリポート
メーカーに聞く、太陽光発電システムの特徴とは[京セラ編]

~27年前に設置された太陽電池は、今でも発電し続けている

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


京都市伏見区の京セラ本社

 100万円、200万円といった大きな買い物であるにも関わらず、購入するに当たっての事前情報が少ないのが太陽光発電システムだ。価格帯はクルマと近いけれど、クルマのようにディーラーが近所にあるわけではないし、試乗のように自宅で試してみるというわけにもいかないのが難しいところ。

 そこで当連載では、少しでも各製品の特徴や違いを理解しやすくするために、各社の話をインタビューの形で掲載する。前回のシャープに続く第2回目は、太陽光発電で35年以上の歴史を持つ京セラに話しを伺った。


京都の南、太陽電池で覆われた巨大ビル……それが京セラ本社

 今回の取材の場は、京都駅八条口からバスで南に15分ほど揺られたところにある、京都市伏見区の京セラ本社。この本社ビルは、地上20階、高さ94.82mと非常に高く、まさにランドマークといった感じでそびえ立っている。ビルの南面には太陽電池パネルが並んでいるほか、屋上にもパネルが敷き詰められている。このパネルは1998年に建設された当時から取り付けられており、トータルで214kWの出力を持つそうだ。

地上20階建ての高層ビルの南側には、一面に太陽電池パネルが備わっているアップで見ると、青色にやや濃淡があり、多結晶の太陽電池であることがわかる
特別に屋上を見学させていただいた。一面に太陽電池パネルが広がっている。写真緑色の部分はヘリポート。写真は北側を向いて撮影したもので、かすかに京都タワーが見える
こちらは南側の写真。太陽電池パネルは南向きに傾いている東側を向いたところ。小さく見える城は伏見桃山城
 今回、取材に応じて頂いたのは、京セラソーラーコーポレーションの事業推進本部事業推進事業部長の戸成秀道氏(以下敬称略)。京セラソーラーコーポレーションという会社は、京セラの太陽光発電の国内営業部が分離独立した会社で、住宅用と公共産業用にかかわらず、国内のマーケティング、販売、施工指導、アフターサービス指導を行なっている。さっそく、いろいろな質問をぶつけてみた。


京セラの太陽電池の歴史は、創業者・稲盛氏の思いからスタート

――京セラはかなり古くから太陽光発電を手がけてきたと思いますが、いつごろからどんな経緯ではじめたのですか?

京セラソーラーコーポレーション 事業推進本部事業推進事業部長 戸成秀道氏
 きっかけは1973年の第1次オイルショックです。創業者の稲盛和夫は、「やがて、日本にとって必要不可欠なエネルギーになる」と、化石燃料に代わるエネルギーとして、クリーンなエネルギー源である太陽光の可能性を信じ、1975年、研究・開発を開始しました。最初は京セラが中心となり、1975年に「ジャパン・ソーラー・エナジー」という会社を設立しています。

 この会社は京セラが51%を出資する形で、シャープ、松下電器産業、米モービルオイル社、米タイコ・ラボラトリーズ社の日米5社の共同で作った会社です。タイコ・ラボラトリーズ社が持つ「EFG法」と呼ばれる技術を応用し、リボンシリコンの太陽電池(シリコン溶液からシート状の多結晶シリコンを直接製造する太陽電池)が作れれば、太陽電池が安価かつ大量に生産できるという思いからスタートしたのです。

京セラは1975年、日米5社の共同で、太陽電池の研究・開発を進める「ジャパン・ソーラー・エナジー」社を設立した。中央が京セラ創業者の稲盛和夫氏リボンシリコンの太陽電池を製造している当時の写真。製造には職人技が必要なほど困難だったという

――リボンシリコンの太陽電池って、懐かしいですね。私が学生時代などに見た太陽電池も多くがリボンシリコンでした。ただ、結構高価でしたよね。

 当時はかなり苦労があったようです。事業を始めたころの太陽電池のコストは、1Wあたり2~3万円と高く、一般に利用されるには、コストを100分の1以下にしなければならないという状況でした。

 そんな中、当社は、NECからマイクロ波通信の中継機器用電源として、8kWの太陽電池を受注し、1979年に南米ペルーの海抜約4,000mの山中にリボンシリコン太陽電池を納入しています。

 この頃は生産効率は非常に低く、事業などというレベルではありませんでした。しかし、このシステムは設置後順調に稼動し、記念すべき最初の案件となるとともに、これを機に通信基地局の電源として太陽電池は評価され、今でもこのような注文が続いています。

多結晶シリコン太陽電池の量産を、世界で初めて開始したのは京セラ

京セラの太陽電池といえば多結晶シリコン。実は世界で初めて量産を開始したのは京セラだ(写真は屋上に設置されている太陽電池パネル)
――最近ではリボンシリコン太陽電池を見ることはほとんどありませんし、京セラといえば多結晶シリコン太陽電池というイメージが強いですよね。

 リボンシリコンは変換効率の面ではある程度いい結果を出すことができましたが、生産性という面では、1つ上のステップへ上ることができませんでした。当時から太陽電池には、単結晶シリコンやアモルファスシリコン、それに化合物系の太陽電池などが考案され、各社いろいろと取り組んでいました。

 しかし、事業で行なうとなれば、実際に市場に出していく必要があり、コストが大きな問題になります。その中で必然的に多結晶シリコン太陽電池で行こうということになっていったのです。

――多結晶って、簡単にいえばシリコンの端材をまとめて1枚にしていくものですよね?

 そうですね。端材をまとめて作るというのは誰もが思いつくものですが、単純にまとめただけでは隙間ができてしまいます。

 そこで、反射防止膜を使って隙間を埋めて、効率を上げる、という手法を開発したのです。流れとしては、まずシリコン粒をまとめて鋳造し、それを切断、さらにウェハースライスにして太陽電池に仕上げていく……というシリコンキャスト(鋳造)法です。

 この技術によって、京セラは1982年に世界で初めて、多結晶シリコン太陽電池の量産を本格的に開始しました。ご存知のとおり、この多結晶シリコン太陽電池が現在においても世界の主流になっているわけです。

多結晶シリコンの太陽電池ができるまで。まずは原材料となるシリコンを用意するシリコンをブロック状にする。この塊が「インゴット」と呼ばれるものだそして、インゴットを薄くカットする。スライスされたものは「ウエハ」と呼ばれ、これに電極形成などの処理を加えることで、太陽電池になる

27年前に設置した太陽電池は今も発電している

――しかし、当時はまだ太陽光発電をしている家などまったくない時代だったと思います。どこに向けて販売していたのでしょうか

 当時の太陽電池の目的には電気の来ないところで電気を作るということでした。そのため、太陽電池式の街路灯や標識、また道路のカーブのところで光るサインといったものが中心でした。もちろん夜に照らすわけですから、バッテリーとの組み合わせということになりますね。そのほかにも、家に帰るとライトが付く「お帰りライト」、またソニーのウォークマン用の太陽電池などを商品化していきました。

 一方、世界中には電気の来ていない“無電化地域”がたくさんあります。「太陽光発電を通じて人々の幸せに貢献する」、というのが稲盛の思いであったため、日本の住宅用のビジネスをはじめるかなり以前から、ODAなどを通じて世界中へ届けていました。

初期の太陽電池は、街路灯や標識のサインとして採用されることが多かったビデオカメラや携帯電話の充電に使われたことも稲盛氏の思いから、世界の“無電化地域”にODAとして届けられることもあったという。写真は砂漠を移動する医師。太陽電池でワクチンを冷やしている
――その後、1991年に、国内でも系統連系(電力会社の送電線に接続して、電力を供給する制度)がスタートしています

 これが当社にとって最大の転機となりました。1993年に業界初の住宅用太陽光発電システムを発売。さらに1994年度からは国による補助金制度がはじまって弾みがつきました。

 当初は抽選で補助金がもらえるという制度で、興味本位で屋根に載せるという方が中心でした。そのころは、まだまだ価格も高く元を取るなどということはなかなか言えない時代で、「がんばって生きていれば、20年から30年すれば……」といった状況でしたね。

――その当時、太陽光を設置した家は、今でもしっかり発電しているのでしょうか?

 実は私の家がつけて15年目になります。正確には設置したのは私の実家なのですが、最近になって父親が非常に喜んでいますよ。売電の買取価格が大きく上がったため、少しの収入となって戻ってくるんですよ。これまで壊れたこともなく、ずっと発電し続けていますよ。母親が毎日パワコンの数字を見ながら発電量をカレンダーに書き込んでいるので、盆と正月に帰った際には私がチェックしていますが、これまで問題はありません。

1984年には、千葉県佐倉市にソーラーエネルギーセンターを設立。ここでは27年間発電し続ける太陽電池が設置されている

 また1984年に千葉県佐倉市にソーラーエネルギーセンターという施設を作り、そこで継続的に発電をしています。今年で27年目ですが発電量の減衰率は1桁台ですから、当社製品が長寿命であることが実証されています。実際、お客様のところでも、壊れたという話はほとんど聞きませんね。



実はパワコンも長持ち。オプション販売のモニターは80%が購入

――確かに太陽電池パネルは長寿命なのでしょうが、パワコンは10~15年が寿命であると言われています。

パワーコンディショナー(パワコン)
 確かにそう言われていますが、私の実家のものは、15年目の今でも動いています。私自身、いつまで持つものなのか楽しみなんですよ。

 今後、古くに導入されたお客様のところでは故障というケースは出てくるでしょうが、その場合は現行機種への交換を促していきます。もちろん、昔の太陽電池と今のパワコンを接続する場合の相性も問題はありません。そのようなケースでは、安く販売できるようにしていきたいと考えています。

 また、現行機種のほうが昔のものと比べてコンパクトになり、性能も上がっているので、満足いただけると思います。

――現在はパワコンとセットで、モニターも販売されていますが、オプション扱いだったと思います。最近のユーザーは、やはりモニターもセットで購入されるのでしょうか?

最新機種のモニター「エコノナビット」。発電量や売電・買電状況をグラフで示してくれる
 現在、各社とも液晶モニターをオプションで出しており、さまざまな機能を搭載しています。当社も2003年に初めて出したのですが、当時は10万円以上もするこのようなモニターが本当に売れるのだろうか……と疑問に思っていました。しかし、価格が下がったこともあり(最新機種のエコノナビットは標準価格79,800円)、最近のお客様の80%程度がモニターを導入されています。

 もちろん、モニターがなくても、パワコンに昔から搭載されている7セグメントのLEDで日々の発電量をチェックすることは可能ですが、やはりモニターがあると目に見えて実感でき、実際省エネにもつながるということで好評です。

――このモニターにはどのような機能があるのですか?

 現在の発電量や消費電力をリアルタイムに確認できるのはもちろんのこと、今日1日、また今月の状況をグラフで確認することもできます。日間、月間、年間の発電・売電・買電・消費の電力をリストにして表示できるし、このデータはUSBでパソコンと接続することで、パソコンで管理することも可能になっています。家族みんなで消費電力の目標値などを設定すれば、節電意識も高まるでしょう。

 また、便利に使えるのが、現在の消費電力です。このモニターを玄関に置いているという家庭も多いのですが、出かける際に消費電力をチェックし、普段の消費電力との違いをチェックすれば、電気の切り忘れなどに気づくこともできるのです。この液晶はタッチパネル方式になっているので、どなたでも簡単に操作できるのも大きなポイントです。

積算発電量を表示する画面累計発電量を元に、ソーラーカーならどれだけ走行できるかを示す画面も用意されている

――正しく発電しているかをチェックする機能もあると伺いましたが

 「お手軽発電診断」のことですね。これは当社のウェブサイトからダウンロードして使うもので、これを利用することで、お客様がお使いの太陽光発電システムが正しく動いているかを簡易的に確認することができるというものです。具体的には過去の気象データなどを下に、予測される発電量と実際の発電量を比較することで、正常に稼動しているかを推測するのです。そして実際の発電量が予測発電量を大きく下回る場合には、購入元への連絡を誘導するようになっています。

――簡易的とはいえ、そうしたシステムがあることは安心につながります。


既設住宅の半分以上で選ばれている太陽電池「SAMURAI」って?

――そのほかに、京セラ製品の特徴を挙げるとどんな点がありますか?

半分以上の既設住宅で選ばれて居るという「SAMURAI」。京都駅の新幹線ホームの広告にも大々的に載っている
 京セラの象徴的な製品は「SAMURAI」(サムライ)です。既築住宅への設置の場合は、SAMURAIが半分以上となっています。

 SAMURAIとは、さまざまな屋根の形状に調和するデザイン性のある太陽電池パネルです。サイズの異なる3タイプの太陽電池パネルを組み合わせることにより、わずかなスペースの屋根にも効率よく多くのパネルを設置できるようになっています。

 逆に、広い設置面があり、できるだけ安く設置したいということであれば、SAMURAIよりも面積が広い「ECONOROOTS」(エコノルーツ)をお勧めしています。

こちらがSAMURAIのパネルサイズの異なるパネルを組み合わせて、屋根のわずかなスペースに効率よくパネルを設置するメリットがある

――SAMURAIにせよ、ECONOROOTSにせよ、京セラ製品はすべて多結晶シリコン太陽電池が使われていますが、最近は薄膜シリコンやCISなどほかのタイプの太陽電池もかなり進化してきています。京セラとしては今後ほかのタイプを扱う予定はないのでしょうか?

 当然いろいろなタイプの研究はしていますが、現段階では、効率とコストの両方から考えると、多結晶シリコンが最も効率的であると考えています。


京セラの太陽電池は、20年後、30年後も、今と変わらず何気なく発電している

――ところで、最近は導入したいという人が増えている一方で、いつが買い時なのだろうかとタイミングを待っている人も少なくないようです。パソコンのCPU処理速度が上がったり、ハードディスク容量が増えていくような感覚で、発電効率が向上するのを期待しているような声も聞きますが、実際のところいいタイミングというものはありますか?

 当社は、研究開発を進めることで、毎年少しずつではありますが、変換効率を向上しています。太陽電池は、効率とコストの兼ね合いが重要になってくると思います。今後も効率向上とコストダウンに取り組んでいきますので、企業努力を見ていただければと思います。

――ユーザーの方々はみなさん満足されていますか?

 お陰さまで、載せて満足していない方は、ほとんどおられません。

 もちろん、お客様からのご意見はさまざまですが、販売する際にどのくらいの期待感を持たせて売ったか、というのも満足度に関わってきます。もしもオーバートークをしてしまったら、期待感との差が失望につながりますので、当社では“営業品質”についても大事にしています。

 製品については、長きにわたる製品の信頼性を、自らの事業の歴史の中で実証していますので、20年後、30年後も、今と変わらず長く安心して使っていただけると思います。家は古くなり、子供は大きくなって結婚して出て行っても、普通に発電していますよ、ということです。私の実家を含めしっかりとした実績があります。


被災地から「ごはんが炊けた」と感謝。今後は阪神・淡路以来のテーマ“蓄電”に挑む

――最後に自立運転に関してお伺いします。震災の影響もあって、停電時の自立運転には注目が集まっています。他社製品ではありますが、私の家で自立運転を試した結果、液晶テレビが使えなかったり、IHクッキングヒーターが使えないなど、利用法という面において、なかなか難しい面がありました。京セラのパワコンの場合、そうした点はいかがでしょうか?

 幸いにして、当社においてはユーザーからそうしたトラブルの問い合わせ、クレームはなかったと思います。一方で、使い方が分からないという問い合わせは非常に多くいただいたので、自立運転のやり方については、もっとしっかり告知していきたいと思っております。


 実は東日本大震災の後、東北の被災地の方から「ご飯が炊けて助かった」というお便りをいただきました。冷蔵庫が使えて、当然だけど携帯の充電もできて……、と。役に立ったんだと実感して嬉しかったですよ。

 その後、ゴールデンウィークには休み返上で、北関東・神奈川など住宅展示場や当社製品を扱っているイオンなどに行って自立運転の使い方のキャラバンを行ないましたが、実演で「今日は一切、電力会社の電気を使っていないですよ」というと、多くの関心が集まりました。

 また、実際に設置している方にとっては当たり前の話ではありますが、意外と反響があったのが曇りや雨の日の発電についてです。さすがに真っ暗になると厳しいですが、多少雨が降っているような日でも扇風機やラジオがしっかり動いていることに驚かれていました。「太陽光発電は天候に左右されるから不安定だ」という一面もありますが、それでもいざというときにはかなり役に立つということを、ぜひ多くの方に知っていただきたいですね。

――非常時という意味では、夜間どうするかは大きな問題ですよね

 夜間にも活用できるようにするというのが、我々にとってこれからの大きな課題です。つまり電気を貯めておくことの重要性は高まっているわけですね。今後、太陽光発電システムを売っていく上で、蓄電システムは必要になるだろうと考えています。

 実は当社は、阪神淡路大震災の後に「エナジーステーション」という充電システムを出したことがありました。鉛蓄電池を使ったシステムで、保険的な意味合いで購入される方々もある程度いらっしゃいました。ただ、結局まったく使う機会がないまま電池の寿命を迎えてしまったケースがほとんどで、お客様の満足度という面ではあまり高くなかったようです。

 それもあって、日ごろも何かしら利用価値のある蓄電システムというものができないかと、企画を進めているところです。

――製品化が待ち遠しいです。本日はありがとうございました。





2011年9月1日 00:00