そこが知りたい家電の新技術
“モノのデザインの時代は終わった”amadanaが提案する次のプロジェクトとは
by 阿部 夏子(2014/3/19 07:00)
モノはオープンであり、連携、連合していくことが必要
“家電らしくない”独自のデザインを展開してきた家電ブランド「amadana」が、昨年12月に新しいプロジェクト「amidus」をスタートさせた。家電=モノという枠に縛られることなく、企業や個人と共創して新たな製品を作り出すというこれまでにない取り組みだ。
なぜ家電ブランドのamadanaがこのようなプロジェクトをスタートさせたのか、amidus立ち上げに関わり、全体戦略、プロジェクトプロデュースを担当しているリアル・フリートの田淵淳也氏に話を伺った。
そもそも、amidusとはどういうプロジェクトなのか。
「一言でいうと新しいワクワク、ライフスタイルを創造するためのプロジェクトです。ここ1~2年くらい前から異業種のメーカーの方にamadanaと一緒に何かできないかというお話を頂くことが多かったんです。最初はamadanaのブランドイメージとか、デザイン性を見て、何かおしゃれなものが作れないかといったようなリクエストだったのですが、我々のデザインの考え方についてお話して、納得していただいてから、デザインだけではなくて、事業開発段階から関わらせてもらっています」
amidusの“デザインの考え方”には、スマートフォンの普及に端を発する「スマート化」が大きく関わっている。
「一言でいうと、産業のあり方が変わってきているということだと思います。今やスマートフォンはもちろん、車、住宅、スニーカーにまでスマート化が進んできている。スマート化というのは、これまでのモノ作りとは全く違ったアプローチが必要で、モノ単体ではなく、サービスや体験が求められます。例えば、iPhoneというのはプラットフォームであり、iPhoneで使うアプリは第三者機関で作っています。iPhoneそのものが欲しいというよりも、iPhoneで使えるサービスを求めて、iPhoneを手にする人が多い。今後あらゆるモノがそうなっていくと思います。モノはオープンであり、連携、連合していくことが必要になっていくと思います。それはデザインに関しても同じで、モノありきのデザインではなく、体験をデザインしていくことが重要だと考えています」
家具と家電を融合させた“インテリアエレクトロニクス”
2013年の12月に発足したばかりだが、既に様々なプロジェクトが動き出している。その第一弾が、ダイワラクダ工業とタッグを組んだ「電気の通ったシステムユニット」だ。室内の壁面に設置する家具の中にコードを通すことで、テレビやパソコン、照明、ディスプレイなどを一体化してよりスマートに見せるという提案で、東京・原宿にあるamidusのオープンスペース「amidus HARAJUKU」では、製品を実際に見ることができる。
このシステムユニットも、“スマート化”が深く関わっている。
「今後様々な製品が繋がっていく上で、テレビはテレビ、壁は壁という風に分かれて考えるよりは、壁の中にテレビがあって、スピーカーがあってというカタチの方がスマートで自然だと考えました。ダイワラクダ工業さんは、ダイワハウスの関連会社として、これからのスマートハウスのあり方について色々考えていらっしゃったのですが、イマイチ浸透しないという悩みもありました。そこで、家具と家電を融合させた“インテリアエレクトロニクス”として、このシステムユニットを提案しました」
この製品はアイディア次第で、色々な家電製品と組み合わせて使うことができる。その意味でプラットフォームであり、伸びしろが残されている。
「システムユニットに何を埋め込むか、それについては我々はもちろん、外部のクリエイターからのアイディアも募っています。今後は、机、テーブル、全てがスマート化していくでしょう。それに関してもあくまでプラットフォームを作るのであって、サードパーティーが乗っかれるような余白、伸びしろを残しておくことが重要だと考えます」
“電気で動くんじゃなくて、電気を動かせ”
amidusが取り組んでいるもう1つの大きなプロジェクトにEV(電気自動車)の取り組みがあり、現在YouTubeでは、電気自動車を使った新しい提案の動画が公開されている。
「このプロジェクトに関しては、EVの提案の仕方を全く変えたところがポイントです。これまでのEVの提案って、ガソリン車に比べて、エコであり、1回の走行距離はこれくらい、充電時間は、充電スポットはというような比較ばかりでした。我々はそうではなくて、EVとガソリン車は全くの別物だと考えました。分かりやすいところでいうと、従来のガラケーとスマートフォンも全くの別物ですよね。iPhoneが初めて出た時、日本の携帯電話メーカーは『あんなの携帯電話ではない』と言ったそうですが、Appleは『その通り、これは電話ではない』といった有名な話があります。
EVに関しても同じで、全く別の商品だと捉えています。それならば新しい製品として、マーケティング手法も変えていくべきなのです。こういった新しいジャンル、新しい製品を売ろうとする場合、まずコアなアーリーアダプター層にアプローチすることが重要だと思っています。例えば米国のテスラモーターズは、スポーツカーが好きな人に対して熱烈なアプローチをして、高級でデザイン性の高いEVとして成功しています。そこで提案したのが、あの動画です。車内にUSBとコンセントを取り付けることで、体験できるシチュエーションを次々と提案し、EVの可能性を広げています」
ただし、今回の動画はあくまで提案であって、実際にこのような仕様のEVが発売されるかは未定だという。
「今は遊び相手を探している段階ですね(笑)。次の段階としてはもっとコアに仕上げていきたいな、と。例えばサーファー用のEVならばシャワーも欲しいし、着替えるスペースも確保したい。ミュージシャンならば、移動できるミュージックスタジオを再現するなど、想像力をかき立てるような提案ができたらなと思っています」
「スマート(スマート化)であること」「モノありきではなく体験からデザインを捉える」、浸透しているようで、浸透していないこの2つのコンセプトを徹底しているのがよくわかる。
今回話を伺って印象的だったのが、「伸びしろを残す」ということ。1つの会社で完結させるのではなく、外部が入り込める隙をあえて残す。サードパーティーが乗っかれるような余白を残すというというのは、従来の国内メーカーが避けていたことだ。独自の技術をブラックボックス化することで、自社の利権を確保していたが、それが徹底してしすぎて、今や日本の家電製品はガラパゴス化してしまった。amidusのようなベンチャー企業とタッグを組むことは、携帯電話と同じ結末を迎えないための活路の1つなのかもしれない。