そこが知りたい家電の新技術
2015年に白物家電部門をグローバルNo.1ブランドに~LG Electronicsの戦略とは
by 阿部 夏子(2013/12/11 07:00)
韓国のLG Electronicsの白物家電部門が好調だ。日本ではあまりイメージがないかもしれないが、洗濯機では世界No.1、冷蔵庫では世界No.2のシェアを獲得。世界11カ国で、15製品を展開するグローバル企業に成長している。
そのLG Electronicsが、いよいよ日本の白物家電マーケットも視野に入れだした。今回、同社が日本のメディア向けとしては初めて、白物家電製品のプレスツアーを開催した。ホームグラウンドの韓国・ソウルにて自社の今後の展開を説明、さらに日本でも展開しているお掃除ロボット「HOM-BOT(ホームボット)」の開発者インタビューも行なわれた。
家電Watchでは、前編・後編に分けて、その模様をお届けする。前編となる今回は、LG Electronicsの現在の製品ラインナップ、今後の展開についてご紹介しよう。
韓国で初めて冷蔵庫と洗濯機を作った老舗メーカー
現在のLG Electronicsについて紹介する前に、そもそもLG Electronicsとはどういう会社なのか、簡単に触れておこう。
LG Electronicsの歴史は古い。前身となるラッキー工業という会社は1947年創業で、当初は化粧品や洗剤などの化学製品を扱っていた。1958年に金星社をスタートしてからは、化粧品の中身だけでなく、ケースも作り始める。当時はその高い技術が買われて、日本メーカーのラジオの外側のカバーの発注も請け負っていたという。
ラジオカバーを作るようになってからは、中の仕組みについても、開発をスタートし、韓国製のラジオを初めて作った。洗濯機、冷蔵庫、テレビに関しても韓国製の製品を初めて出したのは同社で、韓国国内では、まさに老舗の家電メーカーなのだ。
現在のLG Electronicsという社名に変更したのは、1995年のこと。LGという社名は、何かを略しているかのように思うかもしれないが、現在は、特定の言葉を略しているわけではない。LGという言葉には、例えば、Luckey Gold star(ラッキーゴールドスター)、Localization,Globalization(ローカリゼーション、グローバリゼーション)、LIfe's goodなど様々な意味が含まれているという。
現在は、53~54の関連会社があり、LGグループだけで8万人の社員を有する巨大組織へと成長。グループ全体の売上は年間10兆円にものぼるという。
ドアインドア冷蔵庫など、独自の製品を展開
LG Electronicsが、現在日本で白物家電として展開しているのは、一部の全自動洗濯機と、お掃除ロボット「HOM-BOT」のみ。これらの製品だけでは、LG Electronicsがどういうメーカーなのか、想像しづらいだろう。実際の製品を見せてもらったところ、日本の家電製品とは全く違う発想が溢れていて、筆者も正直驚いた。
向かったのは、ソウル市内のカンナムという繁華街(カンナムスタイルという韓国の有名な歌でもお馴染み)。日本でいうと、銀座のような高級街にLG electronics専門ショップを構える。ここは、LG Electronicsのショールームのような造りだが、実際にここで製品を買うこともでき、フロアには専門知識を持ったスタッフが並ぶ。
店頭に並ぶのはハイエンドモデルばかりで、デザインはもちろん、その機能もきらびやかだ。例えば、表面が鏡面加工されたまるで冷蔵庫のような大きな製品は、その名も「スタイラー」。スーツやシャツなどを掛けておくだけで、スチームでニオイを取ったり、ちょっとしたシワ取りもできるという。
冷蔵庫は、ドアが2枚付いた「ドアインドア機構」を採用。これは、取り出す頻度の高い、飲み物専用の小さなドアだ。飲み物を出す時は、この小さなドアだけを開ければいいので、中の冷気が逃げずに省エネになる。
掃除機には、独自のモーションセンサーを搭載。人間が動く方向を検知して、本体ホイールがその方向に進むという。その際ユーザーと、掃除機本体との距離は約1mが保たれる。
特筆すべきは、これらの製品がプロトタイプではなくて、全て実際に販売されている製品だということ。実は、この手のユニークな製品は、毎年ベルリンで開催されている世界最大級のコンシューマー・エレクトロニックス・ショー、IFAでいくらでも見ることができる。しかし、それらの多くは開発段階のプロトタイプの製品で、実際の製品に反映されることは少ない。LG Electronicsでも、今年のIFAでダブルドア冷蔵庫を出展、それと同じ製品が店頭に並んでいるというところに、同社のスピード感と独自性を感じた。
目標は2015年までにホームアプライアンス部門を世界NO.1ブランドにすること
「2015年までにホームアプライアンス部門を世界NO.1ブランドにすること」
LG Electronicsでは明確な目標を掲げている。本社のマーケティング部門でシニアマネージャーを務めるYong Sang Shin氏は、次の様に語る。
「我々は、独自の製品展開によるグローバルナンバーワンを目指している。そのためには、Innovative(革新的)、Modern(最新)、Quality(品質)を維持することが必須。私達が現在展開している製品は、これらのコンセプトに基づいたもの」
また、今後の白物家電製品はスマートフォンとの連携、すなわちスマート化が必須になるという。
「全てのプロダクトをどうスマートフォンにつなげていくか、というのは今最も重要視していることです。スマートであるというイメージをあげることが、グローバルNo.1になるための近道だとも言えます。しかし、ただスマートフォンとつなげればいいというわけではない。我々が考えるスマート家電とは、利便性、性能、健康、省エネという4つのキーワードから成り立ちます」
スマートコレクションと呼ばれる同社のスマート家電は、6製品を展開する。スマートフォンで操作できるというのが、前提になるが、スマートコレクションはそれだけではなく、独自の機構を搭載している点が特徴だ。
先に紹介したドアインドアの冷蔵庫やお掃除ロボットのほか、6通りの動きで汚れを効率的に落とすドラム式洗濯乾燥機や、光ヒーターを採用したオーブンレンジ、スチームで汚れを落とす食器洗い乾燥機、ゴミ圧縮機構を搭載したサイクロン式掃除機などだ。
「スマートフォンとの連携機能としては、外部からの操作はもちろん、スマートフォンを使った自己診断機能も搭載しています」
これは、家電製品が発するいわゆるビープ音(家電製品の状況を通知するために発する音)をスマートフォンで聞いて、製品の状態を判断するという。
「スマート家電を開発するにあたって、様々なリサーチを行ないましたが、多くのユーザーは、多機能になりすぎることや、操作が複雑になることを求めていませんでした。最近の家電製品は、中の構造が複雑で、一般ユーザーから見たら、ブラックボックス化しつつある。ユーザーがもっと、中の状態を簡単に確認できるようになれば良いと思ったのが、この機能を開発したきっかけです。将来的には、電源を入れるだけで全ての家電製品がつながって、ホームプログラムが構成できることを目指しています」
今後の白物家電市場において、スマートフォンとの連携はやはり避けては通れないようだ。
LGは親しみのある会社
最後に1つ、インタビューの中で印象的だった話をしよう。それはLG electronicsのロゴの話だ。英字のLとGを組み合わわせて、笑顔を表現しているこのロゴは、「社員の顔を表している」のだという。
「LG electronics哲学は、人和(人の和)なんです。いつでもオープンマインドでいること、親近感を感じられるような存在であることを大事にしています」(Yong Sang Shin氏)
同社のこのモットーは、訪韓中何度も実感できたことだ。例え些細な質問でも、担当者が真摯に細かく対応してくれるので、どのインタビューも時間がオーバーしてしまう。結局プレスツアーのスケジュールは最初から最後まで時間通りに終わることはなかった。
次回は、LG Electronicsが日本でも展開しているお掃除ロボット「HOM-BOT」についてご紹介する。韓国・釜山にある同社の工場に行き、技術担当者にその仕組みを聞いてきた。