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[聴こうクラシック29]夏の夜は、宇宙へ思いを馳せるホルストの「惑星」

夏の夜空には、馴染みのある星や星座がたくさん見えますね。今回は、太陽系の惑星が登場するホルストの「惑星」をご紹介します。夏休みの最後、遠く離れた惑星を想像しながら、母なる地球の存在、尊い生命の存在、そして自分の存在を再認識してみませんか。

 

占星術や東洋思想など、好奇心旺盛だったホルスト

グスターヴ・ホルストは1874年にイギリスに生まれ、同国で1934年に59歳で亡くなりました。3世代に渡る音楽一家に生まれ、音楽の才能を開花させます。一時はピアニストを目指しますが、右手の神経炎のために断念。ロンドンの王立音楽院で作曲を勉強し、卒業後はオーケストラのトロンボーン奏者や、音楽教師などで生計を立てていました。また、音楽活動の傍ら、サンスクリット文学などの東洋思想や、占星術に興味をもち、手ほどきを受けます。そして、占星術とローマ神話から着想を得て、40歳のときに作曲を始めた「惑星」が46歳のときに初演され、大変な好評を得ます。「惑星」がヒットしたあとも亡くなるまで、セント・ポール女学校の音楽教師を続けました。

 

自身の曲のプロデュース力に長け、大ヒット

20世紀のオーケストラ曲を代表する1曲とも言える「惑星」ですが、実は作曲当初、「海王星」はオルガンのために作曲され、それ以外の6曲はピアノデュオのための曲でした。しかし、作曲から3年後、ホルストの発案で、オルガンや女声合唱など加えた大編成のオーケストラ曲に編曲され、この編成による演奏が聴衆の心を掴んだのです。全曲通して50分ほどの楽曲です。

 

惑星とローマの神々

ホルストは「惑星」を天文学ではなく、占星術で捉えています。そのため各曲には、ローマの神々を表す副題が付いています。地球を除く太陽系の惑星の順番で演奏されますが、水星と火星が入れ替わっています。その理由は、連続して演奏した場合に、曲の緩急を付けたかったからです。「火星、戦争をもたらす者」「金星、平和をもたらす者」「水星、翼のある使者」「木星、快楽をもたらす者」「土星、老いをもたらす者」「天王、星魔術師」、「海王星、神秘主義者」という順番で演奏されます。

 

工夫をこらした、各惑星の聴きどころ

「火星」は「ダダダ・ダン・ダン・ダダ・ダン」という5拍子のリズムで劇的に幕を開けます。弦楽器の弓の木の部分を弦で叩く奏法がとても印象的です。「金星」はヴァイオリンとチェロのソロが魅力です。「水星」はホルスト自身が「心の象徴」と述べています。「木星」は、平原綾香の「ジュピター」の原曲としてよく知られていますが、このメロディーは原曲ではヴァイオリンが一番低い弦であるG線1本で演奏され、朗々とした響きが聴きどころです。ホルストの母国イギリスでは愛国歌、またイギリス国教会の聖歌として今も歌われています。「土星」はホルスト自身が最も気に入っていたと言われる曲です。「天王星」は冒頭の4音が印象的なのですが、実はこれはホルストの名前「Gustav Holst」の文字からの暗号なのです。Gが英語音名のソの音、Sがesでドイツ語音名のミのフラット、Aが英語音名のラ、Hがドイツ語音名のシの音で、この4音で曲が始まるのです。「海王星」はオーケストラ曲では珍しい、女声合唱が魅力です。

 

おすすめの演奏

 

 

それでは「惑星」を聴いてみましょう。ホルストの母国であるイギリスのナショナルユースオーケストラの演奏です。下の解説部分に各惑星の演奏時間の表示がるので参考にして聴いてみてください。

 

参考文献
「クラシック作曲家事典」渡辺和彦監修 学習研究社

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。