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[聴こうクラシック25]初夏に爽やかなボロディン「弦楽四重奏曲第2番」
2018年 6月 12日 06:30
木々の緑が濃くなる初夏。今回ご紹介するのは、清々しい弦楽器のハーモニーが初夏のイメージにピッタリの曲、ボロディンの「弦楽四重奏曲第2番」です。美しい弦楽器の音色に耳を傾け、身も心もリフレッシュしてはいかがでしょうか。
祖国ロシアの、医学と音楽の発展に貢献した作曲家
アレクサンドル・ポルフィーリエヴィチ・ボロディンは1833年にロシアのサンクトペテルブルクに生まれ、1887年同地で亡くなりました。貴族の非嫡出子として生まれましたが、優れた教育を受けることができました。ピアノのレッスンを受けつつ、化学を専攻し、サンクトペテルブルク大学の医学部を主席で卒業しています。26歳のとき、ドイツのハイデルブルク大学に留学、帰国後はサンクトペテルブルク大学の助教授、教授として医学の発展に貢献しました。患者の治療、化学の研究、大学の授業と多忙の日々でしたが、音楽への情熱を忘れることができず、独学で細々と作曲を続けます。30歳のとき作曲家ミリイ・バラキレフに出会うまで、正式な作曲の勉強をしたことはありませんでした。今回ご紹介する「弦楽四重奏曲第2番」は、48歳のときに作曲され、後にボロディンとともに「ロシア5人組」と呼ばれるようになります。
ニ長調は弦楽器のもっとも美しい響き
「弦楽四重奏曲第2番」は冒頭、ニ長調で始まります。このニ長調という音階は、弦楽器奏者にとって特別な存在です。「レ」と「ラ」の解放弦と呼ばれる、左手で弦を押さえない音が含まれているので、もともとのチューニングに即した音が、楽器の板を通してきわめて自然に無理なく響きます。そのため、4本の弦をもつ弦楽器が4丁集まる四重奏にとって、合計16本の弦が見事に調和する音階なのです。「弦楽四重奏曲第2番」はまさしく、弦楽器のために書かれた曲と言えるでしょう。また、作曲家にとっても、古くから、ニ長調は自然の美しさを賛美する調と言われています。
愛妻との記念日に寄せて作曲
ボロディンはドイツ留学時代、結核の療養のために来ていたロシア人ピアニスト、エカテリーナ・プロトポポーヴァの演奏会に赴きます。終演後、エカテリーナが演奏したロベルト・シューマンの作品について、彼女に質問します。話が弾み、音楽への情熱で意気投合した2人は頻繫に会うようになり、やがてボロディンは愛を告白し結婚します。この曲は愛を告白した20周年記念に、エカテリーナに贈ました。医学と音楽の二足のわらじで終生多忙を極めたボロディンが、愛妻のために書き上げた力作なのです。
ロシアの作曲集団「ロシア5人組」
ボロディンは、「ロシア5人組」と呼ばれるロシアの作曲家集団のうちの1人です。彼らは19世紀後半、西欧の模倣ではなく、ロシアの民族主義的な芸術音楽を追求したグループでした。専門的な音楽教育を受けた者は少なく、ボロディンは医者、ニコライ・リムスキー=コルサコフは海軍兵と、職はさまざまでした。彼らは、定期的に集まり、それぞれ持ち寄った新作を批評し合い、より芸術的で本当のロシア民族主義的な作品作りに熱中し、後世に残る、多くの名作を生み出したのです。
おすすめの演奏
それでは実際に演奏を聴いてみましょう。ボロディン弦楽四重奏団の1978年の演奏です。
参考文献
「ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー・コルサコフ-嵐の時代をのりこえた『力強い仲間』」ひのまどか著 リブリオ出版
「吉松隆の調性で読み解くクラシック」吉松隆著 ヤマハミュージックメディア