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【聴こうクラシック12】収穫祭をイメージ、ヴィヴァルディ「秋(四季)」

今年のボジョレーヌーボー解禁は11月16日です。今回ご紹介するのは、そんな欧州の収穫祭のお祭り気分にぴったりな、アントニオ・ルーチョ・ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」より、「秋」です。ヴィヴァルディは、バッハと並びバロック音楽を代表する作曲家の1人ですが、実は死後長い間忘れ去られた存在でした。

 

司祭になる道を選んだヴィヴァルディ

ヴィヴァルディは1678年、イタリアのヴェネツィアでヴァイオリニスト兼外科医兼理髪師の息子として生まれ、1741年63歳のときに旅行中のウィーンで亡くなりました。父親ゆずりの才能で、ヴァイオリニストとして頭角を現しましたが、安定した地位を求めて15歳で司祭になることを決意します。しかし、病弱でぜんそくもちだった彼は、司祭になってもミサを挙げたことはほとんどなく、教会付属のピエタ養育院の音楽教師の職を得ます。実は、彼の楽曲の多くは、この学校の生徒たちによる演奏会のために書かれたものなのです。親しみを込めて「赤毛の司祭」と呼ばれ、存命中に作曲家として名声を得ます。

 

忘れ去られていたバロック音楽の大作曲家

ヨーロッパ中を演奏旅行し、オペラも含め800曲以上の作曲をしたヴィヴァルディですが、死後長い間忘れ去られてしまいます。ヴィヴァルディが生きた時代は、バロック音楽から古典派音楽への変革期で、彼の音楽は死後、古いと考えられてしまったのです。実は同時代にドイツで活躍していたバッハも同じ境遇でしたが、バッハが19世紀に再評価されたことで、ヴィヴァルディも見直されるようになり、今では誰もが知る音楽家の名声を取り戻しました。そんな経緯があるため、いまだに発見されていない楽譜が多数あるとも言われています。

 

詩と音楽を融合させ、標題音楽の先駆者となった

「四季」は、ヴィヴァルディ47歳、円熟期の作品です。春、夏、秋、冬という題名の4曲のヴァイオリン協奏曲で、それぞれが3楽章で成り立っています。各楽章に詩があり、その詩の情景や雰囲気を描写した曲となっています。このようなジャンルを標題音楽と呼びます。およそ100年後に盛んに作られるようになりますが、「四季」はその先駆けでした。今回ご紹介する「秋」は、ヘ長調の11分ほどの曲。ヘ長調は、この曲の牧歌的な情景を表すのにぴったりです。第1楽章では、農民の踊りが楽しげなメロディーで表され、耳にすると、田舎のお祭りに参加している気分になります。第2楽章では、酔って眠った農民たちの寝息が表現され、第3楽章では狩で鳴らされる角笛の音が快活に響き渡ります。

 

謎に包まれた「四季」の作詩者

楽譜に書かれた詩は、作詩者不詳とされていますが、実はヴィヴァルディ自身によるもの、という説もあります。詩に書かれた物語は、次の通りです。第1楽章では、収穫が終り、小作農たちがブドウ酒を飲みながら大騒ぎをします。第2楽章では、大騒ぎも次第に静まり、すべての者が無意識のうちに眠りにつきます。第3楽章では、狩りの準備のため、夜明けにホルンが鳴り響き、犬を従えて獲物を追います。最後、傷ついた獲物は犬と奮闘して息絶えるのです。

 

狩猟に使われた角笛も、ヴァイオリンの音で表現

「秋」の第3楽章では、狩りのときに使われる角笛、今でいうホルンの音がソロヴァイオリンで表現されています。へ長調はホルンの得意とするキーで、野山に角笛が美しく響く様子が浮かびます。角笛は霧の中で仲間に居場所を知らせたり、時刻を知らせたりする合図として利用されていました。現代の狩猟では、角笛でなく口笛を使って、仲間同士、お互いの位置を確認し合います。

 

おすすめの演奏

 

 

それではヴィヴァルディの「四季」より「秋」を聴いてみましょう。こちらの演奏は、2009年のユリア・フィッシャー独奏によるものです。ヨーロッパの秋の風景とともにお楽しみください。 

 

参考文献:

クラシック作曲家事典 渡辺和彦 株式会社アルク出版企画
バロック音楽はなぜ癒すのか 竹下節子 音楽之友社
クラシック作曲家 あ・ら・か・る・と 中堂高志 三省堂選書
調性で読み解くクラシック 吉松隆 ヤマハミュージックメディアコーポレーション

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。