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【聴こうクラシック7】ベートーヴェンの「田園交響曲」で田舎へ旅しよう
2017年 8月 5日 12:00
お盆休みを前にひと足早く、音楽を聴きながら都会の喧騒を忘れ、のどかなカントリーライフを思い浮かべてみませんか。今回ご紹介するのは、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの「交響曲第6番・田園」です。20代後半で耳が不自由になっても、逆境を乗り越え芸術的な楽曲を生み出したことで有名なベートーヴェン。有名な楽曲には、「エリーゼのために」「交響曲第5番(運命)」がありますが、本日ご紹介する「交響曲第6番・田園」も名曲の1つです。
「音楽は芸術だ!」と言い切ったベートーヴェン
ル―トヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは1770年ドイツ・ボンで生まれ、56歳のときオーストリア・ウィーンで亡くなります。宮廷楽長の祖父と宮廷歌手の父をもち、音楽一家に育ちますが、父が大酒飲みだったため生活が困窮。17歳で母を亡くすと、アル中の父と2人の弟、18カ月の妹を1人で養うことに。教会オルガニスト、劇場のヴィオラ奏者、音楽教師として働いて家計を支える一方、ボン大学に在籍しドイツ哲学や啓蒙思想に傾倒します。フランス革命が起こった当時、ヨーロッパを巻き込んだ市民革命はベートーヴェンの思想にも大きく影響を与えます。それまでの音楽家は宮廷や貴族に仕えていましたが、ベートーヴェンは音楽家として活動を続けるなかで、そうしたパトロンとの主従関係で作られる音楽を否定するようになります。彼は自分の考える芸術性を追求した曲作りに徹し、「音楽は芸術だ」と言った最初の音楽家と言われています。
初めて交響曲に題名を付けたベートーヴェン
「交響曲第6番・田園」はヘ長調の交響曲で全曲通して45分ほど。散歩好きだったベートーヴェンが、ドイツのハイリゲンシュタットにある散歩道を歩いていたときに、思い浮かんだ曲だそうです。実は、ベートーヴェンが登場するまでは、交響曲に題名を付ける習慣ありませんでした。ベートーヴェンは「交響曲第6番」に「田園」と題名を付け、楽譜の中に、「田舎に着いたときの陽気な感情の目覚め(第1楽章)」、「小川のほとりの情景(第2楽章)」、「田舎の人々の楽しい集い(第3楽章)」、「雷雨、嵐(第4楽章)」、「牧歌、嵐のあとの喜ばしい感謝の気持ち(第5楽章)」と書き込んでいます。まるでベートーヴェン自身が田舎への小旅行を楽しんでいるようですね。ちなみに、「交響曲第5番」の「運命」は、ベートーヴェンが付けたものではなく、のちに呼ばれるようになったニックネームです。そのほか彼は、音で感情を表現することも最初に行なっています。
「運命」と「田園」は双子だった?
ベートーヴェンが37~38歳ごろに作られた「交響曲第5番(運命)」と「交響曲第6番・田園」は、同時進行で作られたという説と、続けて作られたという2つの説があります。曲の雰囲気が異なるので思いも寄らないことですが、作られた時期が近いからか、類似点がいくつもあるのです。それでは、その類似点をご紹介していきましょう。1つ目は、どちらの曲も冒頭がいきなり休符で始まる点。2つ目は、曲が始まってワンフレーズだけメロディーが演奏されたあと音が一時停止し、聴く人にメロディーを印象付けている点。3つ目は、フルートより小さいピッコロと金管楽器トロンボーンが初めて交響曲で使用されたこと。4つ目は第3楽章、第4楽章が切れ目なく演奏されることです。
さまざまな小鳥の鳴き声を表現する楽器
ベートーヴェンは教会に通いませんでしたが、当時流行った、「神が創造主であり、被造物には注意を配り、道徳律を設けた」という信仰に傾倒するようになりました。そしてプロテスタント牧師の詞に曲を付けた「うずらの鳴き声」を、33歳のときに作曲します。この曲はうずらの鳴き声のリズムに乗せて「神をたたえよ!神を愛せよ!神を信ぜよ!」と歌われます。実はこのうずらの鳴き声は、オーボエの音で「田園」にも登場しているんですよ。ほかにはサヨナキドリがフルート、カッコウがクラリネットとして登場しています。どこで聞こえてくるか、さあ、耳を傾けてみましょう。
「交響曲第6番 田園」を聴いてみましょう
それでは、ベートーヴェンの「交響曲第6番・田園」を聴いてみましょう。2010年ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。
そして「交響曲第6番・田園」のオーボエが奏でるウズラの鳴き声のもとになった歌曲「うずらの鳴き声」はこちらです。ドイツ語の歌詞が記載されています。1954年ドイツのソプラノ歌手、エリザベート・シュヴァルツコップのレコーディングです。
参考文献
ベートーヴェンと変革の時代 フリ―ダ・ナイト 法政大学出版局
ベートーヴェン アンドレーア・ベルガミ―ニ ヤマハミュージックコーポレーション
クラシック音楽ガイド 後藤真理子監修 成美堂出版
大作曲家たちの履歴書 三枝成彰 中央公論社
Allegro con Gusto 音楽家風クッキング セドリック・デュモン 音楽の友社
クラシック名曲解剖 野本由紀夫 ナツメ社
クラシックおもしろ雑学事典 音楽雑学委員会 ヤマハミュージックコーポレーション
音楽の366日話題事典 朝川博 水島昭男著 東京堂出版