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「蚊取り線香」を焚く器の名前、「蚊取り器」じゃないって知ってますか?
2016年 5月 30日 19:00
「豚形」を始めとする、蚊取り線香を焚く器の名前をご存じですか?今回は、この器の名前と由来をご紹介します。この器を「蚊取り器」だと思ってネットで検索すると、「蚊遣り(かやり)」という言葉も出てきます。この名前と、意味をお伝えしましょう。
蚊取り線香以前は、蚊遣り火(かやりび)で虫除け!
夏の風物詩、渦巻き型の「蚊取り線香」は、明治時代に海外から入ってきた植物「除虫菊」を乾燥させて線香に練り込んだ燻煙式の殺虫剤です。それまでは、殺虫効果のある「蚊取り線香」は存在せず、虫が嫌がる「ヨモギの葉」「カヤの木」「松の青葉」「杉の青葉」などを火にくべていぶした煙で蚊を追い払っていただけでした。この蚊を追い払う火は「蚊遣り火(かやりび)」と呼ばれ、夏の季語としても使われる風物詩でした。蚊取り線香ができるまでは、蚊遣り火が一般的だったのですね。この蚊遣り火を焚く器が「蚊遣り」あるいは「蚊遣器」と呼ばれ、中身が蚊取り線香に変わった現代でも、名前が残っているのです。
「蚊遣り豚(かやりぶた)」は、どうして豚の形なの?
良く知られる「蚊遣り」に、豚の形をした「蚊遣り豚」がありますが、なぜ豚形なのかについては、主に2つの説があります。一つは、江戸時代に虫や嫌がる草を焚いた器を模して、蚊取り線香用の蚊遣りが誕生したという説です。新宿歴史博物館に展示されている江戸時代の「豚形蚊遣り」は、大きな「とっくり」を横向きにして、足と耳がつけられ目の部分に穴を開けたような形をしています。「とっくり」のすぼまった口を豚の鼻に見立ててあり、この器を模して蚊取り線香用の「蚊遣り豚」が作られるようになったという説です。もう一つは、愛知県の養豚場で豚に群がる蚊を駆除するためも土管の中で蚊取り線香を焚いたものの、口が広すぎたので口をすぼめる形に改良したときに豚の鼻に似ていたため。これを模して「豚形蚊遣り」を作り、常滑焼のお土産として販売したところ人気が出たという説です。
蚊取り線香の渦巻きは、一晩続く安心の形
ところで、蚊取り線香は何故渦巻き型なのでしょうか?実は、蚊取り線香は開発当初、真っ直ぐな線香型でしたが、棒状だと20㎝で約40分程度しかもちません。それ以上長くすると、倒れたり灰が器の外に落ちて火災になる危険もあるため、試行錯誤のなかで生み出されたのが渦巻き型だったのです。渦巻き型の蚊取り線香は、直線にすると75㎝に達して約7時間使用できるそう。寝る前に着けて朝までもつように考えられた長さなんですね。こうして形状を渦巻き型にすることで、平らに置いて安全に使えることが、大ヒットに繋がったのですね。
まとめ
現在の蚊取り線香に殺虫成分が含まれるまでは、蚊は「取る」ことができず、「蚊を遣る(やる)」だけだったのですね。その名残りが、蚊取り線香をセットする器の名前に残っているとは知りませんでした。最近では、煙も臭いもでない電気式の虫除けがありますが、たまには、蚊取り線香で過ごす夕暮れも風情があっていいかもしれないですね。
編集部注(2016年8月18日20:50):「蚊遣り」が豚型になった理由のうちの1説について、記事初出時(2016年5月30日19:00)の記載に誤りがありましたので、下記の通り訂正いたしました。
2段落目(「蚊遣り豚(かやりぶた)」は、どうして豚の形なの?」の段落)
(誤)「新宿歴史博物館に展示されている「豚形蚊遣り」が発掘されたことに端を発するという説」
(正)「江戸時代に虫や嫌がる草を焚いた器を模して、蚊取り線香用の蚊遣りが誕生したという説」
なお、新宿歴史博物館に展示されている「豚形蚊遣り」は、江戸時代に豚型の蚊遣りが使われていた1つの証拠ではありますが、これが発掘されたことと蚊取り線香の蚊遣りが豚型になったことに、直接的な関係はありませんでした。