老師オグチの家電カンフー
第8回:コモディティ化の大先輩・電卓で考える家電進化論
by 小口 覺(2016/4/20 07:00)
小学生の頃、電卓にある種の憧れを持っていました。
理由は単純で、算数の計算で頭を使わずに解きたいという怠惰さの表れです。当時はまだ電卓をハイテクに思える時代でもありました。若い人にはわからないでしょうが、デジタル表示に未来を感じてたんですよ。
あれから40年!(綾小路きみまろ風) 今や電卓ほど軽んじられる電気製品もありません。持っていても引き出しの奥にしまいこみ、100均で売られていても欲しいとは思わず、ちょっとした計算ならスマホで済ませてしまう。パソコンがコモディティ化されたと言われて10年近いですが、電卓はその大先輩と言えるでしょう。
コモディティ化とは、進化が止まって差別化できない状態になることですが、進化といってもいろいろです。めちゃくちゃに単純化すると、大きな進化と小さな進化に分けられます(あくまでも勝手な解釈なので、以下知識のある人のツッコミ禁止で)。
大きな進化とは、機能や能力が劇的に変わる進化。生物で言えば、サル的なものからヒトへ、魚が肺呼吸を得て陸に上がったような進化です。最初はテキストしか扱えなかったパソコンが画像を扱えるようになり、インターネットにつながるようになったことで、用途は大きく変わりました。そのサイズも劇的に小さくなりました。スマホやタブレットはパソコンから枝分かれした子孫といってもいいでしょう。
スマホは携帯電話の進化でもあります。パソコンと携帯電話の融合と考えると、ドラゴンボールのフュージョンを思い起こさせます。2つのものが融合することでかなり強力な進化を遂げることがあるのです。
対して、小さな進化とは、機能自体が大きく変化しない進化のことです。ガラパゴス諸島にいるフィンチという鳥は、ダーウィンの進化論のヒントになったと言われていますが、環境に合わせて様々なバリエーションに分化しました。ですが、その違いはくちばしのサイズなど微妙なものです。また、インコには300以上の種類がいるようですが、素人目には色と大きさぐらいしか違いがわかりません。
電卓はこれに似ています。「計算する」という基本機能は進化が止まっているものの、バリエーションは昆虫並みにある。これまで世の中に出た電卓は数千種類以上あるでしょう(もしかしたら万の単位かも)。色や形のバリエーションだけでなく、ペンや定規などの文房具、腕時計といった別の製品にも搭載されてきましたし、懐かしいところでは「そろばん」と一体化した電卓もありました。スマホと違い、2つのものが融合しても革命的じゃないのが悲しいところです。
電卓と同じようにコモディティ化したアイテムとしては、ほかに腕時計があります。今腕時計が残っているのは、時間を知るという機能よりもファッションとしての価値によるものでしょう。また、スマートウォッチに進化の方向性を見出そうともしています。電卓はなかなかファッションにはなりませんわね。超富裕層でも宝石をちりばめた電卓を欲しがるとは思いませんし。
100均にもある電卓ですが、数千円から1万円以上で売られているモデルもあります。それらは使い勝手や機能を高めたプロフェッショナル用です。簿記や経理を仕事にしている人は電卓にもこだわります。重視されるのは、計算できる桁数、キーが正確に打てるか、そしてメモリーなどの便利機能でしょうか。
ペンは究極にコモディティ&ユビキタス化された文具ですが、書き心地ゆえに数万円の万年筆を選ぶ人はいますし、書道家は数万〜数十万円の筆を使っています。私は計算を生業にはしていませんが、スマホの電卓では入力ミスも起こりやすくストレスを感じていたため、しっかりした電卓を買うことにしました。
購入したのは、カシオの「プリンター電卓」です。印刷モードにすると計算途中で数字が紙に印刷されます。「それ必要か?」と思われるでしょうが、計算の過程が印字されるので、確認のために2度計算する必要が省けますし、紙のメモとして残せるのも意外に便利です。
結果だけでなく過程が見えてこそ理解できることはあります。計算も進化も同じじゃないですかね。もしタイムマシンがあったら、人類の進化の過程をこの目で見てみたいです。