老師オグチの家電カンフー

家事はオワコンになる未来が近づいてきています

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 あけましておめでとうございます。オグチでございます。本年も家電 Watch番外地の本連載をよろしくお願いいたします。

 さて、新年なので予測めいたネタで行ってみます。ずばり、家事は近い将来にオワコンになります。オワコンとは「終わったコンテンツ」という意味で、家事はコンテンツとは言えないかもしれませんが、意味は通じますよね。

 というのも、昨今、家事についての話題といえば、夫婦間の分担を巡る議論ばかりじゃないですか。共働き家庭が増えたことで、これまで主に女性が担っていた家事を夫婦間でどう分担するか、女性の怒りをベースに語られています。

 経済問題や、世代による家族観の違いなど、さまざまな要因がありつつも、時代の流れは「男も家事をちゃんとやれよ」です。だけど、男も仕事で疲弊していて、まじめな男性ほど「家事をちゃんとやる」のはムリゲーだったりします。そして男女ともに、「じゃあ結婚しないほうがいい」となっていき、少子化が止まらない。もう、家事こそが諸悪の根源じゃないか。

 人類の進化とは、「やりたくないことを、やらなくて済むようにする」なので、いずれ人類は家事から解放されるはずです。カギを握るのは、もちろんAIとロボットです。AIでは、いわゆる「見えない家事」もカバーされます。見えない家事とは、料理、掃除、洗濯といった目に見える作業以外の、たとえば「日用品の補充」「献立を考える」といった思考をともなうタスクのことですが、すでにAIで実用化されつつあります。

 手を動かす作業は、ロボットがやるようになるでしょう。

 ロボットアームを用いた洗濯物の自動折りたたみ機「ランドロイド」は事業が頓挫しましたが、必ずしも従来の家事の方法を機械に置き換える必要はないはずです。新技術によって家事そのものがなくなる、そして家電そのものが必要とされなくなるかもしれません。これまでも普通にあったことです。

 たとえばミシン。かつては必需品に近い存在だったものの、今や持っている家庭の方が少数派です。服が安く買えるようになったことが、その理由ですが、一方で服を着替える回数が増えたので、洗濯機の稼動時間は、昔に比べて増えています。川で洗濯をしていた時代、作業そのものは辛かったでしょうが、頻度は今ほどではなかったはず。世界的に見れば、今でも洗濯などほとんどしない地域だってあるでしょう。

 日本人は清潔さに慣れてしまったので、汚れた服を着るような生活には戻れないでしょうが、服が汚れなければ洗濯そのものが必要なくなります。汚れが付着しない生地や、電子レンジのような機器に入れると汚れが消える服、汗をかかなくなる薬なんかが発明されれば、洗濯機は不要になりますよね。シワにならない服なら、アイロンも不要ですし、折りたたまなくても実用上問題ありません。少なくとも、洗濯物を折りたたむ機械よりも、そっちが未来じゃないでしょうか。

 とはいえ、残る家事もあるでしょう。しかし、それは義務ではなく楽しみとしての家事であり、もはや趣味です。自動車の登場で、移動手段としては用いられなくなっても、乗馬が一部の人の趣味になったように。また、わざわざ野外に出かけていってキャンプやバーベキューをするように。将来、3Dプリンターのような技術で料理が作られるようになっても、手料理を振る舞うことは休日の趣味として残るはずです。趣味として残る基準は、承認欲求を満たせるかどうか、になるのかな。

 いずれにせよ、義務としての家事はなくなると思いますが、その過程では反発もありそうです。軽々しく「家事はオワコン」なんて言うと、家事が生きがいになっている人からは怒られるはずです。

 これもAIで仕事がなくなる話と同じで、「あなたの職業なくなります。お金はベーシックインカムをあげます」と言われても、まじめに仕事をしてきた人ほど、簡単には受け入れられない。家電が普及したときも、同じような反発はありましたし。これもまた、辛いけど認めてほしいという承認欲求が絡んでいるのでしょう。人間めんどくさい生き物ですね。

 AIが文章をカンペキに書けるようになり、ライターがオワコンになったとしても、自分はこうしたバカな文章を書き続けていくでしょう。今のところ、まだ仕事ですが……。

 それでは本年もよろしくお願いいたします。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>