老師オグチの家電カンフー

PCはパーソナルじゃなくシェアされる時代に?

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 先日、「PCは他の人から借りられる」という判決が話題になりました。生活保護の受給者が購入した6万円のパソコンが、「自立更生の出費」となるか否かが争点で、この東京地裁の判決に対し、ネットでは「裁判官はPCの貸し借りするのか」「パーソナルコンピュータの意味を知ってるのか」といった批判が多く見られました。

 法律的な議論はさておき、被告の主張通り就職活動に使われたのであれば、自立に必要な出費だとするのが、一般の人の感覚でしょうね。でも、このニュースを読んだとき、ふと「この裁判官って若い人なのかな?」と思ったんですよ。

 というのも、今の若い人には、PCが個人に属するという意識が薄くなっているからです。もっともパーソナルで、人に貸したくないアイテムはスマホであり、PCは家電(固定電話)ぐらいの感覚になってきています。マイクロソフトは一時期、個別にサインインすれば家族で共用できるよとアピールしていましたし。

 多くの家庭に1台はあるでしょうが、家族の人数分必要とは限らない。これは自家用車の存在に似ています。1人1台ある地方の家庭がある一方、都市部では公共交通機関があるので自家用車がマストではない。PCも会社で支給されるのが普通になっているので、個人のPCを所有しないビジネスマンもいるのが現実です。

 また、約2万円のモバイルPCがドン・キホーテで売られるように、低価格化も行き着くところまで来ました。ボールペンやビニール傘は言い過ぎにしても、自転車ぐらいの存在にはなってきています。自転車やビニール傘がちょいちょいパクられるように、またカーシェアリングが広がっているように、PCも他人同士でシェアされる時代が来るのかもしれません。

 実際、技術的には可能ですよね。個人データやアプリケーションはクラウドに移行されてきていますし、強固なセキュリティを前提に、顔認証で自動サインインできるような仕組みがあれば、PCシェアリングでも不自由ないと思われます。返却しない利用者に対しては、リモートで使用不能にすればいいだけですし、自動車や自転車でできているのですから、PCでできないはずはないですよね。

 まぁ、PCは高いものではなくなっているので、ビジネスとしては微妙かもしれませんが、自治体が貧困層向けに貸し出す仕組みぐらいは容易に作れるかと。コスト的には、ドン・キホーテのパソコンを現物支給した方が安いでしょうけどね。

 ちなみに、冒頭の判決を下した裁判長は52歳でした。

小口 覺

雑誌、Webメディア、単行本の企画・執筆、マンガ原作、企業サイトのコンテンツ制作を手がけるライター。日経MJの発表した「2016年上期ヒット商品番付」では、命名した「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」が前頭に選定された。

Webページ「有限会社ヌル/小口覺事務所」
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