ダイキン、地球温暖化防止に貢献する冷媒「HFC32」をエアコンに採用

~世界初。新興国向けに特許を無償開放
今秋から発売する国内家庭向けエアコン全機種に、新冷媒「HFC32」を採用する(写真は2011年秋に発売された現行モデル)

 ダイキン工業は、地球温暖化への影響を抑えた冷媒「HFC32」を、今秋から発売する国内家庭向けエアコン全機種に採用すると発表した。今後は海外や業務用エアコンへの展開を目指すという。


冷媒はエアコンの“血液”。オゾン層保護や地球温暖化防止のために規制が進んでいる

 冷媒とは、エアコンの室内機と室外機を循環することで、熱を移動させる物質のこと。冷媒を圧縮して室温を上げたり、膨張することで室温を下げている。発表会に登壇したダイキン工業 CSR・地球環境センターの藤本悟室長は、冷媒について「地味な存在だが、空調業界にとっては、人間で言えば血液に当たる重要なもの」と評した。

エアコンの空調の仕組み。冷媒とは、エアコンの室内機と室外機を循環する物質のことダイキン工業 CSR・地球環境センター 藤本悟室長

 エアコンの冷媒には、もともと1928年にアメリカで発明されたフロンが、“安全な冷媒”ということで一般的に使用されていた。しかし、フロンによるオゾン層の破壊問題が顕在化すると、1987年、モントリオール議定書によりフロンに規制がかかり、CFC(クロロフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)といった特定フロンの使用ができなくなった。

 その後、HFC(ハイドロフルオロカーボン)といった代替フロンが冷媒として利用されたが、今度は代替フロンによる地球温暖化に関する悪影響が顕在化。1997年の京都議定書によって、HFCも排出削減の対象物質に指定された。

冷媒の規制の歴史。1987年にフロンが規制がかかり、1997年には代替フロンに対しても規制対象となったエアコン冷媒の変遷。業界では温暖化係数が低い次世代冷媒の探索が急務となっている

新冷媒「HFC32」は、温暖化への悪影響も少なく、エネルギー効率も高い

従来冷媒(グラフ左)と次世代冷媒候補(右)の特性。HFC32は温室効果が少なく、エネルギー効率が優れているというメリットがあるという

 ダイキンでは現在、冷媒に「HFC410A」という代替フロンを採用しているが、今秋発売する国内家庭用向けエアコンでは、地球温暖化効果の少ない冷媒「HFC32」を採用。地球温暖化に対する効果を示す数値「温暖化係数」は、HFC410Aの「2090」に対し、HFC32ではそれよりも1/3少ない「675」となっている。

 同社によると、HFC32はエネルギー効率が優れているというメリットもあり、機器使用時のエネルギーを節約することによる温室効果ガスも抑制できるという。また、空調機1台当たりの冷媒量を削減したり、冷媒を削減することで熱交換器の要素部品をコンパクト化するといった利点もあるという。同社では、冷媒をHFC32に変更することによって、温暖化係数と本体内に充填する冷媒の比率を勘案した結果、HFC410A比で温暖化影響を75%低減できるとしている。

 さらに、HFC125とHFC32によって作られたHFC410Aのような“混合冷媒”とは異なり、HFC32は単一の冷媒となるため、回収や再生といったリサイクルも容易にできるという。

 藤本室長はHFC32のデメリットとして、HFC410Aが不燃性である一方、HFC32は微燃性である点を触れたが、「通常の使用条件で燃えることは考えられない。安全性に自信が持てたことで、(新冷媒として製品に)採用できた」と評価した。コストについては、現状とほぼ同じという。

 「次世代冷媒としてはほかにもあるが、例えばアンモニアは毒性が高く、炭酸ガスは高圧。プロパンは(強撚性のため)爆発する危険がある。冷媒を選ぶ際には、いろいろな要素を考えてなければいけない。温暖化が下がっても、電気の効率が下がるのでは意味がない」(藤本室長)

 なおダイキンでは、HFCをエアコン用冷媒として採用したことを“世界初”としている。

HFC32は、ライフサイクル全体での音質効果ガス排出量が少ないという冷媒の総合評価。HFC32は最もバランスがとれているとのこと冷媒の選定には、さまざまな評価要素があるという

HFC32搭載機種を普及するために、新興国に対しては特許を無償開放

 ダイキンではまた、世界各国にHFC32を搭載した空調機を普及させる環境を整えるために、ダイキンが取得している特許「HFC32を使用した空調機の製造・販売に不可欠な基本特許」を、モントリオール議定書第5条に登録されている新興国に対して、無償で開放する。

 これにより新興国の企業では、無償でHFC空調機の生産、および国内外での販売が可能になる。また、先進国の企業については、ダイキンと同数の特許について、互いに権利を不行使する「相互権利不行使契約」を締結すれば、金銭の支払いなく基本特許が使用できる。なお、基本特許を応用し、改良を加える場合にはライセンス契約を結ぶ必要があるが、「通常のライセンスよりも安くしている」(藤本室長)という

 なおモントリオール議定書では、新興国についても規制の対象としており、HCFCの消費量を2013年から段階的に削減し、2030年までに一部を除いて全廃することが定められている。日本を含む先進国については、2020年までのHCFC全廃が予定されている。

ダイキンはHFC32冷媒に関する特許を数多く取得しているが、新興国に対しては、特許を無償で開放するというモントリオール議定書における、HCFC消費量の削減スケジュール。先進国は2020年まで、新興国は2030年までの全廃が予定されている(一部を除く)世界各地で、冷媒をHCFCから新冷媒に転換する流れが計画されている

 ダイキンでは今後の取り組みについて、適材適所で温暖化係数が少ない冷媒を用いた機器へ代替すること、冷媒の漏洩を防止する制度やサービスインフラを整えることなどを挙げている。

今後は最適な冷媒を「適材適所」で、選択していくという冷媒の漏洩防止についても取り組んでいくという





(正藤 慶一)

2012年9月28日 00:00