視覚障害者向けの総合イベント「サイトワールド2011」

~声で操作できるエアコンや読み上げ機能のついたテレビなど

 2011年11月1日~3日、すみだ産業会館サンライズホールで視覚障害者向けの総合イベント「サイトワールド2011」が開催された。この「サイトワールド」では、最先端の技術・機器、日常用品、ユニバーサルデザイン製品などの展示会、講演会、学会発表、体験会などが行なわれ、今年で6回目となる。

視覚障害者向け総合イベント「サイトワールド」は今年で6回目を迎えた会場には障害者ヘルパーのほか、高校生のボランティア、盲導犬の姿も見られた

 今回は、3月の東日本大震災を受け、被災体験や支援の経過などから視覚障害者が置かれた状況や今後の備えについて考える「東日本大震災・原発と視覚障害者」と題したリレー・シンポジウムが3日連続で行なわれたほか、50の企業・団体が出展し、入場者数は5,000人を超えた。

 拡大読書器やパソコン関連、点字プリンタ、立体コピー機、携帯電話、日常生活用品などさまざまな出展カテゴリーの中でも、年々、注目度が高まっているのが家電製品だ。誰もが使え、利用できることを目指すユニバーサルデザイン(UD)の家電とはいったいどんなものなのか。また、視覚障害者が望む家電とはどんなものなのか。今回出展した三菱電機、パナソニック、東芝の3社の取り組みについてレポートする。

“しゃべるテレビ”や“蒸気レスIH”など「らく楽アシスト」機能が好評の三菱電機

 今年で5回目の出展となる三菱電機は、音声ガイド機能がついているREALシリーズ(録画テレビ、液晶テレビ、外付けHDD録画テレビ)、IHクッキングヒーター、IH炊飯ジャー「蒸気レスIH」を展示。UDの視点に基づいた“子どもから大人まで誰にでも使いやすい家電”のための機能を昨年から「らく楽アシスト」と名付けて力を入れている同社の家電は、視覚障害者の人々からも注目を集めていた。

音声ガイドで操作のアシストをする“しゃべるテレビ”の「REAL」シリーズ音声設定の項目で「読み上げ設定」→「自動読み上げ」→「入」でチャンネル切り替え時に放送局名と番組名の読み上げをするほか、番組表・操作メニュー・検索キーワードと結果の読み上げなどに対応する人の声を際立たせて、はっきりと聞き取れるようにする「声ハッキリ」機能もある

 音声読み上げ機能のある“しゃべるテレビ”は、これまで家族にテレビ欄を読んでもらい、楽しみたい番組を探していた人が、自分で探したり、録画予約ができるようになったと高齢者や視覚障害者に評価が高い。この機能を搭載しているテレビは、同社の「REAL」とパナソニック「ビエラ」のみとなる。

 REALは、初期設定、番組表、操作メニュー、検索機能と幅広い機能に対しての読み上げを行ない、使い始めから音声で案内してくれるのが特徴。読み上げの速度も高速、標準、低速の3段階から選択可能になっている。視覚障害者は必要な情報を耳から取り入れるため、ゆっくり読み上げるよりも、高速での読み上げを必要と考える人が多いのだという。2010年、2011年モデルでは、BHR300・BHR400シリーズ以外のすべての液晶テレビで対応している。

「REAL」シリーズのリモコン。機能に応じて凹凸の形を変えているほか、多用される決定ボタンの周囲は丸く切り抜いて、すぐに押せるようになっている指で触れるだけで数字が読み取れるように、数字のとおりに凸面が作られている家の中にあるたくさんのリモコンとの区別できるように、リモコンの背面中央部には点字で「テレビ」という表記も

 直火を使わないため安全性が視覚障害者に評価されているIHクッキングヒーターでは、2010年に登場して使いやすいとの声が多い「らく楽IH」と、フラグシップモデルの「びっくリングIH」が展示されていた。

 同社では操作方法やレシピ、お手入れ方法などを音声でガイドする「使い方音声CD」をシリーズ別に作成して必要な人へ無償配布している。だが、こうした取り組みについて知らない人も多く、サイトワールドに参加して、初めてそうした情報を得たという人が多いようだ。

シンプルなデザインと操作感に加え、音声ナビや見まもりセンサーなど、安全性や使いやすさにこだわった「らく楽IH」。操作パネルの文字も大きいため、弱視の人にも使いやすいという本体前面にある「見まもりセンサー」。高感度な人感センサーで人の有無をチェックし、料理中の不在や高温注意時には声をかけて注意をうながす2011年10月に発売された「びっくリングIH」PT-31HN。5分割で大きな新形状のコイルを採用し、大鍋の加熱や対流煮込みのほか、鍋のサイズに合わせてムダのない加熱をするなど多彩な機能を備える
鍋の位置を手で触れて把握できるように、IHのパネルの縁には鍋位置の中央部に対応するように凹凸が設けられているIHクッキングヒーターの点字シートは購入時に申し出ると無償配布される仕組みになっている操作方法やレシピ、お手入れ方法などを音声でガイドする「使い方音声CD」

 蒸気が出ない安全性を備えたIHジャー炊飯器「蒸気レスIH」も、3年前から毎回展示している人気の製品。サイトワールドで聞き取った声なども参考にしながら、少しずつリニューアルを重ね、UDの観点でも進化をしているという。三菱電機ホーム機器 家電製品技術部長の長田正史氏は、「残すは、内釜の水位」と話す。

 「高齢者や目の見えにくい方にも、水位の視認性を高めようと“Vピタ目盛”を採用しているが、目の見えない方にはそれでは役立たない。そうした方でもお米の量に合わせた適切な水位もしくは水の量がわかるようにできればいいのだが、コスト面など抱える問題点も多く、難しい。でも、何とかそれを解決したい」と話す。点字シールの無償配布についても告知が行き届いていないため、2011年8月作成のパンフレットからは、点字シール希望者のための問い合わせ先を記載するようにしている。

蒸気が出ない安全性、特大二重液晶での大きな文字表記、音声ナビ機能などの「らく楽アシスト」機能を備えたIHジャー炊飯器「蒸気レスIH」操作部に貼れる点字シールを無償配布しているメニューの選択状況のほか、蒸気の冷却水の確認など“大切なお知らせ”を音声でナビゲートする「音声ナビ」

 今後は、要望の多いオーブンレンジ(レンジグリル「ZITANG」)にも、音声ガイド機能をつけることを検討中だという。

“人にやさしいモノづくり”がテーマのパナソニックは視覚障害者専用商品も

パナソニックのブースでは、ユニバーサルデザインの商品のほか、視覚障害者専用商品も展示

 三菱電機同様、サイトワールドの常連となっているパナソニックでは、“人にやさしいモノづくり”をテーマとしていた。目の見えない人、見えにくい人にも配慮したユニバーサルデザインの家電として、音声読み上げ機能を搭載した液晶テレビ「ビエラ」(ブルーレイディスクドライブ&ハードディスク内蔵オールインワンタイプテレビ、液晶テレビ)、ブルーレイディスクレコーダー「ディーガ」、コードレス電話機、パーソナルファクス、IHクッキングヒーターを展示したほか、視覚障害者専用商品として携帯型拡大読書器のコーナーも設けた。

 拡大読書器は、机に置いてパソコンなどの外部モニターに映し出して使うものがほとんどだが、同社の「アクティブビュー」は、300g弱という軽さでどこへでも持ち運びして使え、手元の書類や新聞にも、遠くの掲示物にも対応するのが特徴。画面を保存し拡大する際には、見やすいカラーやその反転なども選択できる。

視覚障害者専用商品「アクティブビュー」EJ-VM01NP。手元の書類を拡大して確認・保存ができる“携帯型拡大読書器”。保存した画像を外部モニターで確認したり、パソコンに保存したりするためのUSBケーブルも付属している遠くの時刻表をオートフォーカスで撮影し、手元で拡大して確認するという使い方もできる
背面のカメラ部分画面を見やすくするためのカラーモードや白黒反転などが自在に選べる機能も搭載されている手元の書類用、遠くの掲示物用の撮影モード切替のためのボタンも。操作ボタンは本体の側面にぐるりと配置され、操作時に迷わず選べるようになっている

 パナソニックヘルスケア 医療機器・システムビジネスユニット 福祉・介護ビジネスグループ商品企画チーム主任技師の髙橋伸彰氏は「機能や形状は、デジタルカメラのようにも見えるが、詳しい説明なしに、直感的に使ってもらえるように設計している。迷わず操作できるように操作ボタンを1つの面に集めず、本体側面にぐるりと配置しているのもそうした理由からだ。健常者なら画像の保存枚数が多いほうが喜ばれるが、視覚障害者にとっては保存枚数が多いのは使いにくさにつながる。必要な画像を探し出しやすくするため、30枚または100枚と絞り込んでいる」と話す。

 多少の波はあるものの、月に50台程度コンスタントに注文があるという「アクティブビュー」。価格は198,000円と高価だが、日常生活用具対象製品となっているため、購入の際の自己負担額は1割となる。

 また、同社のコードレス電話機は、かかってきた相手の名前や電話番号の読み上げ、電話帳検索時の読み上げのほか、電話帳登録時に音声で操作案内もするなど、読み上げ機能が充実している。2011年11月より発売した新モデルでは、新たに名前を登録する際に五十音を読み上げる機能を搭載。この機能が来場した視覚障害者の人々から「この機能を待っていた!」と大好評で、手ごたえを感じているようだ。受話器がコードレスなのも、取り次ぎが簡単なため、健常者にも視覚障害者にも便利な機能となっている。

 IHクッキングヒーターは、エコナビ機能を搭載したシングルオールメタル対応型の3口タイプだけでなく、すべて天面操作で使いやすさに配慮した2口タイプも展示。にぎやかな会場内でも音声ガイドの声がしっかり聞きとれるように、スピーカーとつないで、ナビゲーションの内容などを確かめられるようにしていた。

エコナビ機能を搭載したシングルオールメタル対応型の3口IHクッキングヒーターKZ-LT75MS操作ボタンの記号シールを無償配布しているKZ-LT75MSは、こげついたり、ふきこぼれたりした場合には加熱をストップして、音声と文字で知らせる機能を備える
すべて天面での操作が可能なため、腰をかがめず楽な姿勢で料理ができる2口タイプのIHクッキングヒーターKZ-HL22D3。凹凸のあるスイッチボタンを使用しているため、ボタンの位置が分かりやすいと好評だという目の見えにくい人にも便利だという声が多い「光るリング」。加熱中には赤く光るので鍋を置く位置もわかりやすい2種類のモードから選べる音声ガイド。通常設定ではメニューの読み上げのみを行な★うが、「くわしくモード」では火力、設定温度、タイマー設定なども行なう
液晶テレビ「ビエラ」と、ブルーレイディスクレコーダー「ディーガ」は、全機種に音声読み上げ機能を搭載している2011年11月10日に発売予定のコードレス電話機VE-GD51DL。電話帳の登録時に名前を登録する際に、50音も読み上げる機能が視覚障害者に大好評だったという

声で操作&確認できるエアコン「大清快VOiCE」が人気の東芝

 これまで東京電力のブース内に製品を展示していた東芝が、今回は単独で出展。音声認識機能を搭載したエアコン「大清快VOiCE」と、IHクッキングヒーターの展示を行なった。

ビルトインタイプの最上位機種のIHクッキングヒーター、BHP-V732S。ノンフレームでお手入れがしやすい

現在使用中のコンロ台にそのまま置ける据置タイプのUHP-M21Bの操作パネル。点字シートも用意されている鍋を置く位置を確認するためにトッププレートの枠に設けられた突起

 声での操作に注目が集まりがちな「大清快VOiCE」だが、付属するリモコンにも視覚障害者のための使いやすさの工夫が隠れている。たとえば、「冷房」ボタンには、操作ボタンの下部に丸い突起が、「暖房」ボタンには上部に丸い突起が、「停止」ボタンには下部にバー状の突起が付けられている、といった具合だ。また、リモコンの前面の下のほうには、点字で「エアコン」と記されている。

声で操作ができるエアコン「大清快VOiCE」音声認識のためのボイスコントローラボイスコントローラに話しかける「音声認識ワード」の一覧
主要なボタンには異なる突起がつけられ、操作がしやすいように配慮されているリモコンの下部には「エアコン」の点字が。カタカナ表記も併用されているのは、健常者への配慮だという

 こうしたリモコンへの細かな配慮は、2009年の製品リニューアル時に取り入れたとのこと。UDの視点を積極的に取り入れていこうという機運が高まり、高田馬場にある「点字図書館」へ出向いて、視覚障害者へのヒアリングを実施。「大清快」のリモコンは、使いやすいリモコンとはどんなものなのか、改良点はどこにあるのかを丁寧に調査して完成したものだという。

 ボイスコントローラでの音声認識については、会場がかなりにぎやかだったため、うまく反応しないこともあったようだが、「音声認識技術によって、エアコンの操作ができることよりも、『確認』と話しかけると現在の設定内容、運転状況を声で知らせる機能に皆さんが反応してくださったことが印象に残った。視覚障害者の方は、今の運転状況を確認するすべがなくて困っていたのだと把握できた」と、東芝ホームアプライアンス エアコン事業部エアコン商品企画部エアコン商品企画担当・グループ長の枦山智氏。

 「サイトワールドがこんなに大盛況で、ブースに訪れる方が熱心に話を聞かれる様子に驚き、感動した。今年がスタッフの人数も少なく、至らなかった点も多かったと思うが、来年はさらに充実した内容にし、参加者の声を製品づくりに生かしたい」と、枦山氏は次回への抱負を語った。

 そのほか、フラグシップモデルのIHクッキングヒーターや、設置がしやすい据置タイプのIHクッキングヒーターも展示。操作方法などを熱心に聞く参加者の姿が見られた。

製品の展示から“ユーザビリティを知る機会”へ。製品改良が参加者の励みに

 実行委員会の一員としてサイトワールドに深く関わる社会福祉法人視覚障害者支援総合センター事務局長の近藤義親氏は、「今年で6年目になるが、回を重ねるにつれてこのサイトワールドの意味合いも変わってきた。当初は大手家電メーカーのUDの取り組みや、音声読み上げテレビなどの展示のあることが、イベント全体の励みにもなっていたし、展示によってそうした家電が作られていることを知ってもらう機会でもあった。

 それが、次第に『こうした点が改良されるともっと便利』『こんなものは作れないだろうか』という意見を言える場所になり、家電メーカーもそうした意見に耳を傾けるようになっていった。つまり単なる展示から、製品のユーザビリティを知るという双方向のコミュニケーションの場になったということ。それは家電だけでなく、他の製品についても同様」と、語る。

 つまり、当初は視覚障害者向けの製品の展示・体験に過ぎなかったのが、消費者の生の声を聞いて製品改良につなげる場となっていったということだ。近藤氏によれば「昨年、『こんなふうだったらいいのに』と話したことが、翌年にはちゃんと改良されて展示されている。これほど、参加者にとってうれしいことはない。だから、どの参加者もこのサイトワールドを心から楽しみにしている」のだという。

 始まった当初は11月第1週の土日をはさんだ3日間で開催されていたが、開催日を特定してほしいという声が多く、現在は曜日に関係なく11月1~3日で開催。今後も変える予定はないという。これは参加者が1人では来場できないため、事前にヘルパーを頼む必要があるからだ。ヘルパーの申請はかなり前もって行なわなければならない地域が多いので、スケジュールを立てやすくするために、日にちの固定が重要なのだ。

 サイトワールドでは1つのブースに30分以上滞在してじっくり話を聞く人が多いので、出展者側のエネルギーの消耗度もかなりのもののようだ。「どんなイベントよりもパワーがいる」との声も聞かれる。ただし、単に視覚障害者のためだけでなく、“誰にでも使いやすく”というUDのモノ作りにこれほど役立つ場はないのではないだろうか。今後、さらに出展企業が増えて、より活況あるイベントになるようにと願わずにいられない。





(神原サリー)

2011年11月11日 00:00