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パナソニックがIoT時代に向けて組織改革。元SAPジャパンの馬場渉氏が参画

 パナソニックは「イノベーション推進に向けたパナソニックグループの研究開発戦略」と題して、プレス向けの発表会を開催した。

 発表会では、代表取締役専務でありイノベーション推進本部の責任者である宮部義幸氏が登壇。今後は、顧客との距離が近いところで、中長期の研究開発を強化していき、顧客価値をより追求し、顧客との共創を目指すとする。また、全てを同社内で完結させようという自前主義から脱却し、他社との提携などによるオープンイノベーションを推進していくという。

イノベーション推進本部 本部長宮部義幸氏

 「Amazonなど我々からすれば異業種の企業が、Amazon Echoなどで顧客満足を上げる、ということが起きています。そうしたことから、私たちが考え方を大きく変えなければいけないのは、同業間での競争というのは終わったということ。

 私たちがコンペティターだと思っていたものだけが、コンペティターではなく、実は異業種の方々だと思っていた企業がコンペティターなんだということです。

 我々は変わらなければいけないんだと思っています」

 同氏は、1970年代からの“電化の時代”が1990年代には“デジタル化の時代”へ、2010年代には“インターネットの時代”へと変遷。そして現在は“IoTの時代”へと変わってきたと語る。

時代を支える技術は変遷し、現在はIoTの時代に変わってきたと捉える
時代の変わり目である今は、チャンスの到来期

 そんな、あらゆるモノとモノが繋がっていくIoTの時代への移行は、新たなチャンスの到来期だとする。そうしたチャンスを逃さないため、イノベーションを推進するための組織改革に着手するという。

 具体的にはイノベーション推進部門の中に、ビジネスイノベーション本部を新設。サービス中心の新規事業の起ち上げや、IoTやAI技術に基づく新規事業の創出を目指す。

 そのビジネスイノベーション本部には、本部長として宮部氏が就くと同時に、副本部長として元SAPジャパンの馬場渉氏が就任した。

エンジニアやビジネスリーダーが結集するような心躍る職場を作りたい

 馬場渉氏は総合基幹業務システムで世界最大手の、SAPのグローバルデザイン部門で、カスタマーエクスペリエンス担当バイスプレジデントを務めていた。同時に日本のチーフイノベーションオフィサーも兼務。

 馬場氏のパナソニックでの役割は、イノベーションによる成長を具体化していくこと。4月1日に移籍してからの数週間で、「パナソニックが本格的にイノベーション戦略に舵を切った」いう印象を持ったと話す。

ビジネスイノベーション本部 副本部長 馬場渉氏

 「日本企業では業務改革や事業再生の事例では、世界レベルで通用する成功事例が今までもありました。しかしながら、今、世界の主戦場となっている、イノベーションによってもう一度成長機運に乗るという成功事例は、なかなかない」

 そう語る馬場氏は前職からシリコンバレーに住んでいる体験から、シリコンバレーから様々なイノベーションが起き続けている、その強さの秘訣を日本では正しく理解されていないとする。

 「日本でのシリコンバレーのイメージは、クレイジーな起業家が破壊的なイノベーションを起こしているというもの。でも実際には、大半が大企業で働いていた人たちが脱サラしてイノベーションを起こしている。普通のビジネスをやってきた人たちが多いんです。

 またシリコンバレーは、ソフトウェア産業だけが活気づいていると思われているかもしれません。でもそんなことはなく、例えばGoogleはGoogle Xという飛行機のようなものを飛ばす部門を持っています。またAmazonは、新しい家電のデバイスを研究しています。そのほか、マテリアル=素材や交通物理の技術者など、ソフトウェア以外でも活気があるんです」

馬場氏のプロフィール

 シリコンバレーでは一部の特異な才能が、特定の産業=ソフトウェア産業だけでイノベーションを起こしているわけではない、ということ。それが可能なのは、なぜか? その秘訣を馬場氏は次のように解説する。

 「シリコンバレーが強い秘訣というのは、大企業でもスタートアップでも役所でも小学生でも、ものの考え方と捉え方、仕事のやり方と進め方が全くもって違うということ。シリコンバレーに暮らす人は、どんな人でも“デザインシンキング”や“ユーザー・エクスペリエンス”という共通言語を持っているんです。

 これが徹底的に日本の感覚とは違います。そのため、日本にいくらシリコンバレーの情報が入ってきても、いまいち本質を吸収できないのです」

イノベーション推進に向けた組織の変更
新設されたビジネスイノベーション本部の役割

 だが、シリコンバレーの全てのやり方が、日本の大企業に馴染むものではないと前置きし、次のように続ける。

 「ただし、デザインシンキングとユーザー・エクスペリエンスに関しては、必ず大企業にも適用できるものだと思っています。

 そうしたことを通じ、まずはシリコンバレーが今でもなぜ強いのかという、そのあたりの考え方を、パナソニックの全社に適用できればと思います」

 同氏は、ここ10年から20年のデジタル産業の移り変わりを、シリコンバレーで暮らして、見てきた。日本メーカーの敗北を肌で感じることになったのだという。

 「そういうある種の危機感とパラダイムの中に身を起きながら、もし世界に新しい価値を届けるような会社が日本にあればと考えることがあります。

 世界中のエンジニアやビジネスリーダーが心躍る職場があって、世界中にまだ誰もやったことのない価値を提供できるような企業。そんな企業が日本に現れるならば、パナソニックの成長戦略のみならず、日本の経済を活気づけるきっかけにもなるのではないかと思っています」