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オムロンヘルスケアや東北大学など、尿や血圧からわかる健康データと疾病との関連を解析する共同研究

 国立大学法人東北大学 東北メディカル・メガバンク機構と、オムロンヘルスケア、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構は、オムロンヘルスケアの尿ナトカリ計、活動量計、睡眠計を、合計5,000人に貸与し、個人の健康データを収集。検査値と高血圧など疾病との関連を解析するための共同研究を行なう。

 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構の山本雅之機構長は、「高血圧の要因は様々であり、今回測定するデータに、家庭血圧などの測定値や、遺伝情報、生活習慣情報などを組み合わせることで、高血圧のリスクをひとつでも明らかにできることを期待している。また、自分で測り、自分で創る健康社会の実現を目指す」とした。

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構の山本雅之山本雅之機構長

 オムロンヘルスケアが、600台の尿ナトカリ計および活動量計、200台の睡眠計を提供するほか、合計で約1,200万円の研究費を負担する。

 東北メディカル・メガバンク機構は、東日本大震災の被災地などで健康調査を行ない、被災地の健康状態の改善と、遺伝要因を考慮した次世代型医療および予防を目指した東北メディカル・メガバンク計画を推進。日本医療研究開発機構が研究支援担当機関となっている。

 2017年3月までの5年間の第1段階においては、東北大学と岩手医科大学が協力し、宮城県、岩手県で15万人を対象に、一定期間において、特定の人々を追跡調査する「コホート調査」を実施。数々のデータを収集し、これがバイオバンクとして蓄積されている。バイオバンクに蓄積されたデータは、長期間保存されるとともに、解析研究に活用するために、研究機関などに分譲されるという。

 今回の共同研究は、2017年6月から開始される東北メディカル・メガバンク計画の第2段階の取り組みにも含まれるもので、コホート調査の参加者のその後の健康状態を調査するための詳細二次調査のひとつとして実施される。

 具体的には、コホート調査を行なった宮城県内の約10万人の成人のなかから、同意を得た5,000人を対象に詳細調査をするもので、宮城県沿岸部の3つの地域支援センターを通じて、尿ナトカリ計と活動量計を貸与。1つの地域支援センターを通じて睡眠計を貸与する。

 貸与期間は10日間で、調査の参加者は、睡眠計のボタンを押して起床したら、すぐに活動量計を装着。トイレに行って、尿ナトカリ計でナトリウム(塩分)とカリウム(野菜や果物)の比率を測る。排尿後には座位で血圧を測定する。活動量計を着けて一日過ごした後、寝る前にナトカリ策定と血圧測定とを行ない、ベッドに入ったら活動量計を外し、睡眠計のボタンを押して就寝する。ここで計測されたデータが収集され、約1年間をかけてデータを分析する。

5,000人を対象に詳細調査をする
1日の生活の中で多彩な機器を使い、様々なデータを収集する

 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構地域住民コホート室・寶澤篤室長は、「低塩分高カリウムが血圧を下げることは知られており、癌予防や循環器疾患の予防にもつながるともいわれる。だが、尿からナトリウムとカリウムの比率を測定するには、24時間蓄尿が必要とされ、実用的ではなかった。だが、オムロンヘルスケアの尿ナトカリ計は、通常の排尿で測定ができ、しかも測定者がその場で確認できるというメリットがある。

 実際にCOI(センター・オブ・イノベーション)プログラム東北拠点において、尿ナトカリ計を活用した社会実装の可能性検証では、約85%の対象者が週5日間に渡って毎日測定し、使いやすい、役に立つという回答を得た。そのため、詳細調査でも利用できると考えた」とし、「長期測定した尿ナトカリ計、活動量計のデータと、家庭血圧のデータによる大規模関連解析を、世界で初めて実施するものになる。これらのウェアラブルデバイスを用いた高血圧発症モデルを構築するとともに、ゲノム解析情報などをもとに、個人の体質にあわせた生活習慣変容を提唱。さらに、高血圧発症予測プログラムの開発につなげたい」としている。

尿ナトカリ計は、通常の排尿で測定ができ、測定者がその場で確認できる
約85%の対象者が尿ナトカリ計は、使いやすい、役に立つと回答した
個人の体質にあわせた生活習慣変容を提唱するとともに、高血圧発症予測プログラムの開発につなげていく

 一方で、オムロンヘルスケアでは、「個々人の血圧測定と、個別化医療の確立により、脳・心血管イベントをゼロにする『脳・心血管イベントゼロ』により、社会的課題の解決に取り組んでいる」(オムロンヘルスケア 技術開発統轄部統轄部長の田中孝英執行役員常務)という。

オムロンヘルスケア 技術開発統轄部統轄部長の田中孝英執行役員常務

 「かつて血圧は、病院で測るものだったが、約40年をかけて、家庭での血圧測定が有効であることが高血圧治療ガイドラインで示されるように変化してきた。生活習慣病を予防、改善、治療するために、健康データに加えて、一人ひとりが自分で測るモニタリングが重要。

 ナトカリ計で食事の状況、活動量計で運動、睡眠計で睡眠の状況を知ることができ、これに血圧計の情報を組み合わせること、さらには遺伝子や生化学バイオマーカ、バイタル・医療データなどの専門家が計測する緻密なデータと組み合わせることで、日常生活のモニタリングと健康データの関連の解明につなげることができる」(オムロンヘルスケア技術開発統轄部統轄部長付専門職・志賀利一氏)としている。

年間1,700万人が発症する脳・心血管イベントをゼロにする
尿ナトカリ計や活動量計などから得られるデータなどで、高血圧発症モデルの構築が期待できる

 東北メディカル・メガバンク機構が収集した日本人約15万人のゲノムデータや基礎データ、東北大学のスーパーコンピュータや各種検査機器、専門医やカウンセラー、ゲノム医学研究の人材などの世界トップクラスのリソースと、オムロンヘルスケアが持つ世界の研究者に信頼される家庭血圧計の精度やユーザビテリィ、その他計測器における日常生活モニターの精度や実績の組み合わせによって、高い成果をあげられるとしている。

 なお、高血圧は、脳卒中、心臓病の最大の危険因子といわれている。統計によると、脳卒中粗死亡率は低下傾向にあるが、それも頭打ちとなっているほか、心疾患粗死亡率は増加しているという。また、脳卒中が要介護原因疾患の1位となっている状況がずっと続いているという。

高血圧は、脳卒中、心臓病の最大の危険因子といわれている
共同研究に取り組む東北大学 東北メディカル・メガバンク機構と、オムロンヘルスケア、日本医療研究開発機構の関係者