長期レビュー

パナソニック「スチームIHジャー炊飯器 SR-SJ101」 その1

~安いお米が劇的においしく炊き上がる“三大火力”の炊飯器
by 藤山 哲人

 
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



パナソニック「スチームIHジャー炊飯器 SR-SJ101」

 10月は日立の炊飯器をレビューしてきたが、月が変わって11月。今月はパナソニックの「スチームIHジャー炊飯器 SR-SJ101」をお届けしよう。

 この炊飯器は、2009年11月時点でパナソニックのハイエンド炊飯器として位置づけられており、5合炊きのSR-SJ101と1升炊きのSR-SJ181がラインナップされている。またカラーも写真のホワイトに加え、深い茶色のマホガニーの2タイプがある。

 これから3週間に渡って実際にお米を炊いてみて、5人家族の筆者の視線と舌から味や使い勝手、機能を紹介していこう。


メーカーパナソニック
製品名スチームIHジャー炊飯器 SR-SJ101
希望小売価格オープンプライス
購入場所Amazon.co.jp
購入価格71,840円


三大火力の秘密は3つ

かまど炊きは豪快におねばを噴出しながらも大火力で炊き上げる(パナソニックのカタログから抜粋)

 かまど炊きのご飯の映像を見ると、フタから水分(おねば)を吹き出しながらも強火で炊く光景が見られる。「大火力」、それこそがお米をおいしく炊き上げる重要なポイントだ。

 しかし炊飯器でコレをやってしまうと、台所は水浸しになるだけでなく、熱湯が吹き出るため大変危険だ。こうなると炊飯は「家事」じゃなく「火事」になってしまう。

 そこで一般的な炊飯器は、吹きこぼれそうになることをマイコンが検知して、一時的に火力を落とし吹きこぼれないようにしている。つまりかまどのように連続して大火力で炊くことができないのが、炊飯器の最大の弱点というわけだ。

 先月紹介した日立の炊飯器はこの問題に対して、圧力をかけることで水の沸点(沸騰する温度)を高くして、吹きこぼれを防止するというアプローチをしていたが、パナソニックの炊飯器は「なるほど」と思わせるアプローチで解決している。

炊飯器の側面にある吸気口。グレーのプラスチック樹脂の中に見える、黒く丸いものがシロッコファン

 それが炊飯器に内蔵された「シロッコファン」である。シロッコファンとは、コップ型のドラムの周りに羽が付けられたファンだ。昔のキッチンの換気扇は、扇風機のようなタイプだったが現在はほとんどがシロッコファンに変わっているので、家庭でも見ることができるだろう。



本体左横にある吸気口から室温の冷気を取り込む本体背面から見たところ。シロッ四角い格子状の部分からコファンから冷気が送られ、内釜からの水蒸気は半月形の穴から吹き出すこの部分には写真のようなモジュールがつけられ、その内部で水蒸気が冷やされ、水蒸気が水に還元される。還元された水は、フタの内側に戻され高温スチーム用に再利用される。上部からは、水分が取り除かれた空気が排出されるというわけ

 パナソニックの炊飯器は、本体横に設置された吸気口から冷気を吸い込み、内釜から出てくる水分を強制的に冷却して吹きこぼれを解消。この機構のおかげで、釜の温度を下げることなく連続した大火力でお米を炊くようにしている。カタログスペックによれば、これにより甘みと甘みが従来機に比べ10%アップしているというのだ。

 三大火力の2つめの秘密は、高温スチームによる炊飯だ。ご存知の通り地上の気圧では水は100℃以上にならないが、水蒸気には温度の上限がない。興味のある読者は「ボイルシャルルの法則」を調べてほしいが、理論的には水分が水素を酸素に分離したり、プラズマ状態になるまで温度が上げられる。

 この炊飯器は、この法則を利用して、フタの内部に回収した水蒸気をさらに加熱し、130℃のスチームを内釜に循環するという機構を搭載。こうして内釜の温度を100℃以上にすることで大火力を実現しているというわけだ。

 3つめの秘密は、6段になったIH(ヒーター)と断熱性を高めた内釜にある。安いIH炊飯器は、釜の底のみにヒーターを1機配置し、内釜の熱伝導で釜上部まで温めるようにしているが、この炊飯器は次のようにヒーターを配置している。

水に還元された水蒸気はフタの内側にいったん貯められ、これを130℃のスチームとして再利用する。車に例えるならターボチャージャーといった感じだ(パナソニックのカタログから抜粋)IHのコイルは内釜を包み込むように6段に配置され、熱伝導ではなく直接内釜を過熱するようになっている(パナソニックのカタログより抜粋)

 内釜の底に1機、釜の側面を囲むように4機、さらにフタにもIHを設置し、金属による熱伝導ではなく直接内釜を加熱させている。

 さらに「考えたなー!」とうならせるのは、内釜の断熱層だ。第1回のIHが金属を加熱するしくみを読んでいただければ、よりいっそう理解できると思うが、内側のアルミ層の外側に、ステンレス製の発熱層を設け、その外側に中央が空洞になったセラミックス製の断熱層を2層設けている。

内釜の内側はアルミの躯体層があり、その外側にはステンレスでできた発熱層を持っている。さらにそれを包み込むように、中空のセラミックでできた断熱層が2層で囲み蓄熱・保温性能を向上させている

 「一番外側が2層のセラミック断熱層になっているので、温まり方が悪いのでは?」と思ってしまう人も多いだろう。たしかにこの内釜をコンロにかければ、理論的には温まりにくいはずだ。

 しかしIH方式は、磁気を使うため外側のセラミック層を抜け、その内側にあるステンレス製の発熱層が直接加熱されるので、加熱が遅くなることはない。しかも発熱層のスグ外側が2重の断熱層になっているため、本体を発泡スチロール樹脂などで断熱するより、内釜の蓄熱性がより向上されていると思われる。カタログでは、従来機の約10倍もの断熱性を持たせたとしている。

 まさにIHの特性を活かした内釜の構造といえるだろう。

パナソニックらしい痒いところにてが届いた機能

 メーカーには、いろいろなカラーがある。これは筆者の個人的なイメージだが、デザイン重視のソニー、新しい物好きシャープ、質実剛健の東芝・日立という具合だ。そしてパナソニックといえば、繊細な気遣いで営業と開発の両輪で前へ進むといったようなイメージだ。

連続写真を見ると最後にブレーキがかかっていることが明らか。これでバン! とフタが開いて炊飯器が転びそうになることもない

 この炊飯器にもそんなパナソニックらしさの「痒いところに手が届く機能」が随所に見られる。詳細は連載に明らかにしていくが、使ってみてまず気がついたのが、フタの開閉だ。

 炊飯器のフタといえば、ロック解除ボタンを押すとフタがガン! と上がって開くのはご存知の通り。でも大抵の炊飯器は、フタの勢いが強すぎてご飯が少ししか入っていないと、炊飯器はひっくり返りそうになるものだ。

 しかしパナソニックの炊飯器は、オイルダンパーが入っているのか、クラッチを使っているのか不明だが、徐々にフタの速度が遅くなり、炊飯器がコケそうになることがない。

 また炊飯モードには、あえて「おこげ」を作るモードがあるあたりもパナソニックらしいといえるだろう。しかもおこげの濃さが3段階に切り替えられ、そのまま食べてもおいしいおこげから、お茶漬けにして食べるとおいしいおこげが炊き分けられるのだ。

中央に見える「かまどおこげ」メニューは、濃さが3段階に選べるようになっている写真では見づらいが、しっかりと香ばしいおこげができている

 おこげができないように進化してきた炊飯器だが、おこげがなくなると食べたくなるという矛盾した世の中の空気を読んで、あえておこげモードを搭載するという心意気が素晴らしい!

 またマニュアルには、おいしいお米の研ぎ方のワンポイントアドバイスが記載されており、お米マイスターと呼ばれる人が情報番組で紹介している方法そのものだったことに驚かされた。敬遠されがちなマニュアルだが、パナソニックのマニュアルは一通り目を通すと、目からウロコ情報が満載されているかもしれない。

省エネ炊飯モードでご飯を炊いてみた

 SR-SJ101には、消費電力を最低限に抑えつつおいしいご飯がたける「エコ炊飯コース」がある。工場出荷時は、このモードになっているので、まずこれで炊飯してみた。

 大型液晶パネルに大型のボタン、そして音声ガイドが次にすべきことを案内してくれるので使い方は簡単だ。

 添付の軽量カップでお米を計り、マニュアル通りに研いで、水を線の中央キッチリにあわせる。炊飯にかかる時間は、3合でおよそ45分、消費電力は0.19kWhで電気代に換算すると4.18円だ。

 炊き上がったご飯は、次の通り。

バックライトつきで大型の見やすい液晶に加え、7つの大型ボタンに集約されている。中央の音声ガイドボタンを押すと、聞き逃した音声をもう一度聞ける。また左側の矢印ボタンは、LEDが内蔵され点滅するので視覚的にも分かりやすいエコ炊飯コースで炊いたご飯。若干柔らかめだが、ツヤとふっくら感が写真からも伝わるだろうしっかりとしたハリに、ツヤツヤお米。甘みもあっておいしくいただいた

 ふっくらおいしそうなご飯となった、実際に食べてみると若干柔らかめといった感じだが、ベタ付く感じはない。甘くふっくらとしたご飯が楽しめるだろう。エコ炊飯コースには、硬めや柔らかめといったメニューがないため、硬めにしたい場合は線に触れるか触れない程度まで水を少なくするといいだろう。

 また米や室温や水分量、それに筆者の体調などにも左右されるかもしれないが、エコ炊飯モードは、高級米より普段食べている安いお米がよりおいしく炊けるように思えた。高級米の炊飯は、次回紹介する「銀シャリ」モードを使ったほうがいいだろう。

 次回はさまざまな炊飯メニューの紹介に加え、シロッコファンの効果でどれだけ蒸気が少なくなったのか? また銀シャリモードの仕上がりや、蒸し料理をご紹介しよう。




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2009年11月2日 00:00