やじうまミニレビュー

21日の金環日食に向けて、日食観測グラス付ムックを試す

by 伊達 浩二


やじうまミニレビューは、生活雑貨やちょっとした便利なグッズなど幅広いジャンルの製品を紹介するコーナーです


来週月曜日は金環日食の日

 5月21日月曜日の朝、日本の太平洋側の地域で金環日食が起こる。見ることができるのは、関東、中部南部、近畿南部、四国南部、九州南部などで、それ以外の地域でも大きく欠けた部分日食が見られる。

 金環日食は、月の影の周囲を太陽が取り囲むようにリング状に光る現象だ。太陽のみかけの大きさが月より大きく、太陽の手前に月が来た時に、太陽の中心部分を隠してしまうために起こる。

 金環日食は、日食よりもかなり珍しい。日本で見られた一番近い金環日食は1987年9月23日の沖縄なので、25年前だ。今回を逃すと、次は2030年6月1日の北海道まで見られない。

日食が見られる地域。国立天文台 天文情報センターのサイトから

 というわけで、1カ月ほど前から、太陽を見るための日食グラスや、それを付録にしたムック本などが店頭に並んでいる。今回は、実際に販売されている、日食観察グラスが付いたムック3冊を比較しよう。

直に見ちゃダメ、日食観察の注意点

 ムック本を紹介する前に、「2012金環日食日本委員会」という団体が、日食を10日後に控えた5月11日になって、観測に関して強い警告を発表したことに触れたい。本来の目的であるムック本の紹介から道を外れるかもしれないが、安全に観察するためには重要なことなので、できればご一読いただきたい。

 2012金環日食日本委員会は、今回の日食をきっかけにして、天文学の普及を図ろうという組織だ。母体となっている日本天文学会をはじめ、国立天文台、宇宙航空研究開発機構などが名を連ねている。また、天文教育普及研究会、日本プラネタリウム協議会、日本公開天文台協会などの普及組織や、日本天文愛好者連絡会、星空を守る会などのアマチュア組織まで幅広く顔を揃えている。一言で言うと、有識者による真っ当な組織だ。

 今回警告を発したのは、金環日食に対する誤った認識が広がっており、このままでは危険な形で観測が行われてしまうのではないか、という危機感によるものだという。

 その警告の内容と理由を、箇条書きに整理してみよう。

太陽を直視しないように呼びかけるポスター(日本眼科学会など)

(1)太陽を直視してはいけない

 人間は1秒以上太陽を正視すると、網膜中心部の黄斑に異常が出るという報告がある。たとえ、金環日食の状態でも、太陽の明るさは思っているよりもずっと明るい。また、雲間に隠れた太陽をずっと見ていると、雲から現れた太陽を直視してしまいやすいので注意が必要だ。

(2)安全な器具を使って観測する

 太陽はとても明るいので、専用の日食観察グラスを使用しないと危険。色つき下敷き、すすをつけたガラス、色ガラス、サングラス、ファッショングラス、ゴーグル、ネガフィルム、カメラ用NDフィルタ、重ねた偏光板などでは代用にならない。カメラ用のNDフィルターは、肉眼用のフィルターとは異なって赤外線の透過率が高いので危険。

(3)正しい日食観察グラスを選ぶ

 次の条件に当てはまるような明らかに危険な製品は使用しない。具体的には「室内蛍光灯を見て、形がはっきりとわかる製品」(つまり光を遮れず蛍光灯が見えてしまう)、「LEDライトなどの強い光にかざしたときに、ひび割れや穴が確認できるもの」だ。

(4)安全な場所で観測する

 日食は午前6時台に始まり、午前9時前後に終わる。太陽がリング状に見えるのは午前7時台で、リング状なのは5分前後だ。この日は平日なので、通学時間と重なる。太陽を見ていて車道に出てしまったり、逆に運転手が脇見運転をするなどの可能性が考えられる。観測前に安全な場所を確保して、そこで観察する(学校によっては早朝から校庭を開放し、観察会を行なうところもあるそうだ)。なお、金環日食では、皆既日食とちがって、周りはほとんど暗くならない。

手持ち撮影は危険。できれば木漏れ日やピンホール投影など利用する(2012金環日食日本委員会 資料)

(5)手持ちの安易な方法で撮影をしない

 コンパクトデジカメや携帯電話のレンズの前に、NDフィルターや日食観察グラスをつけて撮影すると、手が震えたときに太陽を直視してしまいやすい。2009年の日食の際に報告された眼の障害でも、撮影中に太陽を直視した例があった。初心者が手持ちで太陽にカメラを向けるような撮影方法はしてはならない。欠けた太陽の姿を撮影する場合は、木漏れ日やピンホールを通して、地面に写った太陽を撮影するのが安全だ。


太陽は危険な存在

 ここでは5つの項目にまとめたが、一番強調されているのは、「太陽は思っている以上に明るく、不用意な観察は目にとって危険」ということだ。よって、裸眼による直視はもちろん、半端な道具や品質の低い日食観察グラスなどでは目に障害が出る可能性がある。カメラによる撮影について、やけに厳しいのも、裸眼で太陽を直視してしまう可能性が高いからだ。やるならきちんと道具を用意して、安全に撮影してほしいということだ。

 日食による眼の障害は「日食網膜症」と総称される。累積で1秒以上太陽を直視していると、網膜に悪影響があるという。

 しかも、網膜には痛みを感じる神経がないので、やけどしてもすぐにわからないので、その場ではわかりにくい。もし目に違和感があったり疲れを感じたりした場合は、すぐに観察を中止すること。そして、目に異常を感じたら眼科医に行くことが推奨されている。


日食観察グラスが付録のムック本3冊

 前置きが長くなったが、ここからムック本の紹介に移る。都内の複数の書店に行くと、日食観察グラスが付録になったムックがかなり潤沢に、店頭に並んでいた。まだ、間に合うようだ。

左からニュートン、成美堂出版、誠文堂新光社のムック

 今回は、店頭で潤沢にあった、次の3冊を購入した。なお、付属している日食観察グラスは、すべて異なる。

「5月21日金環日食を見よう!」(誠文堂新光社、1,575円)

「ニュートン臨時増刊 金環日食2012」(ニュートンプレス、1,575円)

「金環日食パーフェクトガイド」(成美堂出版、1,050円)。

 ムック自体の情報量で言うと、誠文堂新光社が圧倒的に多い。ページ数は144ページあり、初心者向けに対話形式の記事で始まり、各地の見え方、撮影ガイド、観測機材ショップガイド、最後は海外観測ツアーまで紹介されている。月間天文ガイド編集部の編集なので、ノリは天文ガイド本誌に近い。敷居は低いがちょっと専門的だ。付属する日食観察グラスは「Eclipse Viewer」といい、1枚の大きなフィルムが貼られている。ヨーロッパのCE規格(EU89/686)準拠ということだ。

 ニュートンプレスは、ページ数は64ページと薄い。そのかわり、ビジュアルに力が入っていて、見ていて楽しい。同じ各地の見え方ガイドでも、見て楽しい地図になっている。これは、増刊号なので、ノリはニュートン本誌に近い。つまり、ビジュアルに力を入れた学習雑誌というスタンスだ。一部の漢字にフリガナがついているし、読んで楽しんでいるというより、お勉強しているという気分になる文体などが特徴的だ。付属する日食観察グラスは、ビクセン製で、単体でも販売されている定評のあるものだ。

 成美堂出版の、ページ数は100ページ。ビジュアルに力が入っており、ニュートンよりカッコイイページもある。情報量や学習に役立つというよりも、日食を楽しもうという姿勢が強い。筆者がプラネタリウムに携わっていた方なので、お客さんを楽しませようという意識が高いのだろう。付属の日食観察グラスは天文関係グッズを扱っているアイソテック製だ。このムックだけが、日食観察グラスとコンパクトデジカメやスマートフォンを組み合わせた手持ち撮影の方法を紹介している。


付属のグラスはビクセン製が良い

 さて、3誌の付録である3つの日食観察グラスを持って、LEDライトや蛍光灯などを観察してみたが、いずれもほとんど光が透過しない。まともな出版社の付録なので問題なしというわけだ。さっそく外に出て、太陽を観察してみた。

 結論から言うと、肉眼による観察では、ビクセン(ニュートン付録)、Eclipse Viewer(誠文堂新光社)、アイソテック(成美堂出版)の順で使いやすかった。

ビクセンの日食観測グラス。目のところは反射している脇に輪ゴムを通して頭に固定できる

 ビクセンは台紙が大きく周りから入っている光が少ないので没頭感が高い。また、鼻の位置が決まっているので、うっかり太陽を見るようなことがない。太陽の色は白っぽく見える。

Eclipse Viewerは左右がわかれていないアイソテックは台紙が小さい。子供用に良いかもしれない

 Eclipse Viewerは、左右のフィルムが独立していないので、位置が決めにくい。ただし、台紙が上下に大きいので、位置が少しずれても安心感はある。太陽の色はオレンジに寄って見える。

 アイソテックは、左右のフィルムが独立している。位置決めは難しくないのだが、台紙が小さすぎて上下左右から光が入ってくる。とくにメガネをかけていると周囲の光が気になる。太陽の色はオレンジ色に寄っている。

 ただし、3機種とも日食観察グラスとしての性能は十分だ。順位は、台紙の大きさなど使い勝手の部分で決めているので、ご了承いただきたい。

 一応、2012金環日食日本委員会が警告している、手持ちでの撮影も行なってみた。しかし、片手にカメラ、片手に日食観測グラスを持っていると、つい太陽を見てしまう瞬間がある。3枚の日食観察グラスで合計10カットほど撮影していると、目が疲れてしまった。やはり撮影はきちんと機材を揃えて行なったほうがよさそうだ。なお、ビクセンは、フィルムの上下が狭く撮影時に邪魔になるので特に向いていない。これは、わざとそうして撮影に使わないように規制しているのだろう。

アイソテックによる太陽の撮影例ビクセンによる撮影例。広角気味で撮影しているため枠が写り込んでいるEclipse Viewerによる撮影例
ビクセンのグラスをLEDライトの上に置いてみたところ。光がほとんど透過せず、黒いままだ

安全を優先して楽しい思い出を

 金環日食は何十年に一度の、もしかすると一生に一度の経験だ。始まってから終わるまで数時間、金環が見えるのは数分だとしても、できれば体験してみたい。

 たかが数分のために、1,000円以上のお金を使うのはもったいないと感じる人もいるだろうが、目の安全のための保険だと思えば我慢できる金額だと思う。

 今回は入手性を優先して、書店で販売されているムック形式のものを選んだが、日食観察グラス単品の製品であれば500円以下の製品もある。ただ、購入の際は蛍光灯を見るなどして品質を確認してほしい。蛍光灯の明るさでは光が見えないぐらいのフィルムを使っていないと日食観察グラスとは言えない。今回試した3つの製品は、強いLEDライトを見てもほとんど見えないぐらいの性能を持っている。

 金環日食は、木漏れ日の光や、ピンホールを通った光も輪になるそうだ。安全な観察の方法を学ぶことも含めて、楽しい思い出を残していただきたい。





2012年 5月 16日   00:00