家電製品ミニレビュー
“液体冷却方式”のLED電球を試す
by 藤山 哲人(2013/10/10 00:00)
LED電球と言えば、パナソニックや東芝、日立にシャープといった国内の大手家電メーカーの製品が有名だ。しかし2013年9月に、カメラやプリンタでおなじみのキヤノンから変わったLED電球が発売開始された。そのLED電球とは、アメリカのSWITCH社が開発した液体冷却方式のLED電球だ。
SWITCH社は、カリフォルニア州サンノゼを拠点とするLED電球メーカー。国内ではキヤノンマーケティングジャパンが正規代理店となり、60W、80W、100W相当のLED電球の販売を始めた。
液体冷却方式とは、従来の空冷による放熱ではなく、液体シリコンでLEDを冷却する方法だ。ここでは、国内メーカーとSWITCH社のLED電球を比べて、その液体冷却の効果のほどを見てみよう。
メーカー | SWITCH Bulb社(米) |
---|---|
国内代理店 | キヤノンマーケティングジャパン |
製品名 | 80W相当「SWITCH80」と100W相当「SWITCH100」 |
希望小売価格 | オープン |
購入場所 | 楽天市場 |
購入価格 | 順に8,610円、9,800円 |
メーカー各社がしのぎを削る、LED電球の放熱と省エネ
まずは、LED電球の開発の現状を確認しておこう。電気エネルギーを効率よく光に変換できるLED電球だが、今はまだエネルギーの100%近くを光にはできず、熱としてロスしてしまう。しかもLED電球にとって熱は大敵で、LEDの寿命を縮めたり、電球の中に入っている部品の寿命を縮めたりする。そのためメーカー各社は、どうやったら電球を冷やせるか? さらに発熱量を抑えた省エネLEDをどう作るか?という開発競争が続いている。
特に「どうやったら冷やせるか? 」は、各社の工夫が目に見えて分かる部分で、ほとんどのLED電球ではソケットに近い部分の本体素材に金属を使い、ここから空気中に熱を逃がすようにしている。
国内メーカー各社の製品では、発熱するLEDが、LED電球の金属部分に取り付けられているため、その熱が金属に伝わり、空気中に放熱できるというわけだ。また金属が空気に触れている部分が広いほど放熱しやすくなるため、金属に凸凹をつけて表面積を増やし、放熱効率を高めている。
国内メーカー品との違いは、冷却方式だけではない
SWITCHのLED電球は、冷却方法もさることながら、基本設計が国内メーカーとまったく異なる。
まずLEDの配置が国内メーカーのLED電球とは違う。国内メーカー品は、電球の中央付近にまとめて配置しているが、SWITCHのLED電球はガラスカバー(グローブ)の中央に円を描くように配置されている。このようにLEDを配置することで、従来の白熱電球のようにより広い範囲を照らすことを可能にし、仕様では290度を照らせるとしている。
一方で国内メーカーのLED電球は、放熱性を重視して中央にLEDを配置しているため、広範囲を照らせる電球は内部に反射板やプリズムなどを用いて光を屈折させるなど、複雑な構造となっている。
さてSWITCH社のLED電球のように、LEDがソケット側の金属と密着せず、中に浮いている状態では、LEDの熱を放出するのが難しい。そこでSWITCH社では、電球の中に液体のシリコンを注入して、この液体を介してLEDの熱をガラスカバーやソケットの金属から放熱するようにしている。
注入されている液体シリコンは、食品としても利用できる安全なもので、電気的な絶縁性にも優れているという。そして液体シリコンはLEDの熱を奪い、電球の中で対流することにより、ガラスやソケットの金属部分で奪った熱を放熱してLED電球を冷却している。
LED電球のカバー部は、国内メーカー品が樹脂製であるのに対し、SWITCHのLED電球はガラスを採用している。しかし他のLED電球と同様に高さ90cmからの落下でも割れないような強度を備えているということだ。
こうして見ると、SWITCH社のLED電球は、「白熱電球に近いLED電球を作る」という点に主眼を置いた製品のようだ。その結果、液体冷却という方法を採用したLED電球となっている。
SWITCH社独自の液体冷却システムは、どのぐらい熱くならないか?
液体冷却構造を搭載したSWITCH社のLED電球だが、その効果のほどを調べてみた。実験したのは、SWITCH社の100W相当と80W相当、日立の100W相当、東芝の80W相当の各LED電球だ。
実験は、シーリングライトのように天井から吊り下げる照明機器を想定して、ソケットを天井側に、発光部を床側に設置。LED電球の温度は、ソケットの根元と発光部のトップに温度センサーを取り付け、2時間連続点灯した後、電気を消して温度の下がり具合も調べた。
機種 | SWITCH100W相当 | SWITCH80W相当 | 日立100W相当 | 東芝80W相当 |
---|---|---|---|---|
型番 | A1100FJP40A2-S | A175FJP27A4-S | LDA17L-G | LDA12L-G |
連続点灯時間 | 40,000時間 | 40,000時間 | 40,000時間 | 40,000時間 |
明るさ1,520lm | 1,160lm | 1,520lm | 1,160lm | |
消費電力 | 20W | 18.5W | 16.7W | 12.4W |
配光角度 | 290度 | 290度 | 180度以上 | 230度 |
重さ | 300g | 300g | 135g | 186g |
色温度 | 4,000K | 2,700K | 2,700K | 2,700K |
密閉器具 | ○ | ○ | ○ | ○ |
調光器対応 | ○ | ○ | × | × |
まずは100W相当の電球から。100Wの白熱電球が近所の電気店に売っていなかったので、ここでは白熱電球の60Wを使っている。10分も点灯していると、ガラス部分は110℃、ソケットまわりは130℃近くまで熱くなるのには驚いた。データは取ってみないと分からないものだ。電気を切ったときの冷えも早く、10分もすると常温に戻るというグラフとなった。
SWITCHのLED電球は中央、オレンジ色の点線(ソケット側)と実線(発光部側)だ。金属製の放熱部分はおよそ90℃まで上がったが、白熱電球のどの部分より温度は低い。また日立の100W相当のLED電球と比べてみると、15℃ほど低くなっている。
実験に使用した日立の100W相当LED電球は、電球のソケット側のみで放熱しているため、発光部はほとんど熱が出ず50℃止まりとなっているが、SWITCHでは発光部のガラスでも放熱するので70℃まで上がっている。
電気を消してからの冷え方を見てみると、やけどしない40℃になるまでに日立は25分、SWITCHは40分かかっている。おそらくSWITCHの電球はずっしりと重い分、放熱部の金属やガラス、液体シリコンに蓄熱されてしまい、冷えにくいようだ。
80WのLED電球には、東芝の少し変わった製品を使った。このLED電球は、ソケット部分の凸凹をつける代わりに、電球内部に大きな金属製の放熱板を3枚設けて、ここから放熱をするというアプローチを採用している。
SWITCHのLED電球もソケット側と発光面のガラスで放熱しているので、グラフは僅差となっている。SITCHはコネクタ部が90℃、ガラス部が65℃で、東芝はちょうどその間に入るようにソケット部が75℃、カバー部が70℃となった。
電源を切ったときの冷え方も見てみると、100Wのときと同じようにSWITCHは内部に蓄熱してしまっているようで、東芝の電球が25分後に40℃まで下がったが、SWITCHは冷えるのに40分かかっている。 このように冷却効率という点では、金属による熱伝導を使うほうが効率的だが、それができない場合は液体冷却も有効な手段であるということが分かった。
密閉器具や調光器具に対応。ただし1個300gと重く、設置場所を選ぶ
注意点としては、SWITCHのLED電球は、とにかく重い。薄いガラス製の白熱電球はおよそ30g、一般的なLED電球でもおよそ150g程度だが、SWITCH製のものは300gもある。
古い照明機器だと、30gの白熱電球で使うのが前提になっているので、ソケットの強度が弱いものもある。一般的なLED電球でも150gと白熱電球の5倍の重さがあるのに、SWITCH社のものとなると10倍の300gもあるのだ。
その重さの原因は、分厚いガラスでできたカバー。中に注入した液体シリコンを密封するため、よりエレガントに白熱電球らしく見せるため、放熱のためと、色々な側面を持つガラスのカバーだ。
軽い白熱電球を取り付けることが前提に設計された照明機器では、強度不足になったりバランスを崩してしまうことがあるので注意したい。
なお風呂場や階段灯、ガス台の手元灯など密閉された照明機器で使うことも可能だ。また80W、100WのLED電球は、明るさを調整する調光器に対応したものが少ないが、SWITCHのLED電球はすべて対応している。
電球を見せる照明では、デザイン性の高いSWITCH製がオススメ
放熱効率や価格を考えると、電球をカサなどで隠してしまう照明には、従来の国内メーカーのLED電球でも十分だろう。
一方で、SWITCH社の製品は、カバーに白熱電球と同じガラスを採用しているため、電球を見せる照明に向いている。ダイニングテーブル上にあるペンダントライト、リビングにある洒落たシーリングライトやスタンドライトなど、電球が外から見えてしまう照明に取り付けても、デザイン性を損なわない。家庭だけでなく、ホテルやレストラン、美術館や宝石店など高級感を必要とする場所にぜひオススメしたい。