家電製品レビュー
今シーズンの炊飯器のトレンドを追う
次週から数カ月に渡って各メーカーの炊飯器をレビューをお届けする。今回は、その前に最近の炊飯器全体としてのトレンドなどを紹介しておこう。またカタログをより分かりやすく読めるように、炊飯器やIH方式などについての、技術的なポイントもあわせて解説していく。
この記事を通して、今まで疑問だった「?」を「!」にして欲しい。
■移り変わる炊飯器のトレンド
炊飯器の大きなターニングポイントとなったのが、昭和の最後の年となる1988年。それまでの加熱といえば電熱線方式が主流だったが、大火力で炊けるというIH方式の炊飯器が各社から発売される。これは電気炊飯器がマイコン炊飯ジャーに切り替わった以上の炊飯器の革命とも言えるだろう。社団法人の日本電機工業会の調査によれば、2007年度上半期には、出荷された炊飯器全体の64.5%がIH方式になっている。
およそ20年間経過した現在では、炊飯器といえばIH方式というぐらいに広く普及した。しかし20年間には、圧力をかけてお米を炊く圧力方式や、さらにパワーアップさせたIH、内釜の改良といったハードウェア的な進化に加え、炊き方を工夫する各社独自のマイコン制御(プログラム)も進化した。
近年では、内釜の素材にこだわった高級炊飯器というマーケットを切り開いてから、内釜戦争が勃発している。1つは素材に関するもので、熱がよく伝わるという銅製の釜、さらには炭素を使った釜などだ。さらに消費者が単純明快にその良し悪しを品定めできるとして、高級機以前より続く内釜の厚さ(重さ)競争も年々分厚くなってきている。加えて多層になった釜の素材も売り文句の重要なポイントだ。
2007年に発売された三洋の炊飯器は、純度99.9%の銅を挟み込んだ内釜を持つ機種を発売。写真は2008年夏のモデル | 釜の外側からステンレス、アルミ、銅、アルミ、アルミという多層構造になっている |
内釜戦争の様子は、カタログのトップページや店頭のポップを見れば明らかだろう。キャッチコピーの三大要素は、どの製品も「おいしい」「大火力」「内釜の特徴」になっているのだ。
各社が目指すところは「かまどで羽釜を使って炊いたご飯」。かまどで薪を燃やした火力は、電気では到底実現できない。ガスコンロを使っても、かまどほどの大火力を実現するのは難しいだろう。加えて肉厚な羽釜は頑丈で保温効果が高く、木の重たいフタが内部に圧力をかける。どの炊飯器も究極は羽釜をつかったかまど炊き目標にしているのだ。
2009年2月に発売された三菱の蒸気レス炊飯器。 |
ところが今年、内釜戦争の真っただ中に突如登場したのが「蒸気(スチーム)レス」というキーワード。家電量販店の炊飯器コーナーで、「これはMDコンポか?」と、ワインレッドの四角い炊飯器を見たことがないだろうか?
この炊飯器には、蒸気排出口がない。炊飯器では「当たり前」と誰も気にしなかった蒸気を極力まで抑えた(わずかには出る)ため、家具に結露せず置き場所に困らないというのがセールスポイントだ。しかも副次的な効果として、蒸気が出ないため小さな子供がヤケドしないということで、販売台数を伸ばすことになる。
そうはいっても蒸気レスのアイディアもおそらく羽釜からのアイディアだろう。かまどの場合は多少吹きこぼれたとしても問題はない(そこにはうまみ成分が多く含まれるので最小限にする必要はある)が、炊飯器で吹きこぼれてしまうのは問題だ。キッチンやテーブルが大惨事になる。これまでは吹きこぼれを防止するために、せっかくの大火力のIHだが、一時的にOFFして釜の温度を下げていた。しかし発想の逆転で「火力を落とさずとも吹きこぼれないようなしくみを作ればいい」というのが蒸気レスの考え方だ。
内釜の手前に見えるのが水タンク | 内釜から発生した蒸気と吹きこぼれは、上部の水色のパーツ内で蒸気のみが分離され、右側の水タンクに回収される |
先のワインレッドの四角い炊飯器は、本体内部に水タンクを持っていて、吹きこぼれたうまみ成分は釜に戻し、水蒸気は冷やして水タンクに回収するというしくみになっている。
他社もこの発想の逆転のアイディアを応用して、火力を落とさずに吹きこぼれないようにするという機能を搭載し、結果として蒸気レス炊飯器という新しいジャンルが登場することになった。
■来年にかけてのトレンドは「蒸気レス」&「エコ」
製品カタログには、省エネ基準達成率、年間消費電力量が併記されている。日立の炊飯器のカタログより抜粋 |
その一方で、あまり宣伝はされていないが製品全体が「エコ炊飯器」に向かっている。平成18年3月末に経済産業省が告示した「ジャー炊飯器の性能向上に関する製造事業者等の判断の基準等」だ。
1997年の京都議定書以来、国家をあげて二酸化炭素削減に乗り出しているが、自動車だけでなく家電に対しても省エネを求めており、メーカーは製品の消費電力を政府に報告する義務ができた。電力を多く使う炊飯器もその対象で、カタログには「省エネ基準達成率」としてエコ性能が示されている。
環境問題を重く捉える読者は、この数値や「年間消費電力量(kWh/年)」の数値を元に機種選びをしてもいいだろう。この値に22円をかけると概算の電気代が計算できるので、電気代に換算して比較することもできる。消費電力量が少ないほど省エネ家電と言える。
しかし消費電力が少ないということは、火力を抑えるということであり、炊飯器が目指すかまどのような大火力を目指すのとは裏腹だ。そこで各社は、最小限の消費電力でおいしくお米を炊くモードと、極論すれば消費電力を無視して「おいしさ」を追求する炊飯モードを用意している。さらに工場出荷時の設定では、低消費電力の炊飯モードが設定されている場合が多いようだ。
名称は各社異なるが、省エネに重きを置く炊飯モードと、おいしさに重きを置く炊飯モードを持っている |
少しでも二酸化炭素削減に寄与したいという場合は、「普通の炊飯モード」で炊くといいだろう。少しでもおいしいご飯が食べたいという場合は、各社独自の名称をつけている「おいしい炊飯モード」を選ぶといい。
■これが分かればカタログにも納得! IH方式のしくみ
電気を使ったコンロの「IHクッキングヒーター」は、使用するナベを選ぶという話を聞いたことがあるだろう。その昔は鉄のフライパンしか使えないといわれていたが、現在は改良されアルミのフライパンでも加熱できるようになった、とはいえ100%陶器の土鍋は、いまだ利用できないし、未来になっても利用できない。
IH炊飯器がやたらと内釜の素材を宣伝する謎はここにある。内釜の説明の前に、IH方式はどんな原理で加熱するのかを簡単に説明しておこう。そのしくみが分かれば、カタログの意味もおぼろげに分かってくるはずだ。
黄色いのが普通のビニール皮膜電線を使ったコイル。中心部に磁石を近づけたり、遠ざけたりすると電流が流れる |
まず最初は理科の実験だ。ぐるぐる巻きにした電線に磁石を素早く近づけたり遠ざけたりすると、電流が発生するという実験。特にぐるぐる巻きにしなくても電流は発生するが、巻いた方がより多くの電流が流れるのでこうしている。
これは金属に磁石を近づけたりすると、金属内に電流が流れることを示している。これが「電磁誘導」という現象だ。磁石を動かす速度をどんどん上げると、それだけ高い電流が発生するようになるという特徴がある。
板厚2mmのステンレスで実験したところ、わずかに0.05mAの電流が流れた。銅線のコイルを使ったときに比べると微弱だ |
さて今度は電線を金属の板に変えてみよう。
巻いた線より効率が悪いが、磁石を必死に動かすと電流が流れているのがわかるだろう。これも電磁誘導によるものだ。さてここで電流計を外すとどうなるだろうか。これまで電流計に流れていた電流は、流れる先がなくなってしまうと、金属内部を循環して流れるようになる。ちょうど金属の表面と裏面の間を対流するように、ぐるぐる流れ出すのだ。これを「渦(うず)電流」と呼んでいる。
電磁誘導現象により、金属内に渦電流が流れる |
金属には電気の流れを阻害する抵抗があることはご存知だろう。電気ストーブなどに使われるニクロム線は、抵抗が非常に大きく電流を流すと赤く光りながら熱を発する。電気を通しやすいとされ、電線で多く使われている銅にも抵抗がある。
抵抗が小さい← | →抵抗が大きい | |||||
銀 | 銅 | 金 | アルミ | 鉄 | ニクロム線 | 炭素 |
63 | 59.6 | 45.2 | 37.7 | 9.93 | 1 | 0.061 |
※数値は流れやすさを示す係数
ニクロム線の場合100Vをかけてやれば、オレンジに発光し熱を大量に出す |
さて話を発生した渦電流に戻そう。金属の中を大きな渦電流が流れるとどうなるかは明白だろう。金属が持っている抵抗のため、熱が発生する。これがIH方式のヒーターの原理だ。IHはInduction Heatingの頭文字を取ったもので、日本語にすると「電磁誘導加熱」。実験した電磁誘導現象で加熱するという、まんまのネーミングというわけ。
これを応用すれば、内釜の底に磁石を近づけたり離したりを必死に繰り返せば、人の手でも熱が起こせるハズ。とはいえ、温かくなったのは実感できないだろう。残念だが……。モーターなどを使って磁石を動かす方法もあるが、小学生の知識だけでも磁石は動かせる。答えは「電磁石」だ。
IH方式の調理器具には、巨大で平べったい電磁石が内蔵されている。電磁石のスイッチをONにすれば、金属に磁石を近づけたことと同様になる、OFFにすれば磁石を遠ざけたことになる。実際には効率よく渦電流を発生させるためにON・OFFだけでなく、+と-を入れ替えて、電磁石のN極とS極の入れ替えもやってのけているのだ。
こうすれば渦電流が流れ内釜が温かくなるはずだが……実際には1秒間に数万回繰り返さないと熱くならない | 電磁石を使えばスイッチをON/OFFするだけで、磁石を内釜に近づけたり遠ざけたりを実現できる。もう一歩踏み込んで、+と-を切り替えれば、N極とS極も入れ替え可能だ | 写真はIHクッキングヒーターのものだが、同様のものがIH炊飯器には入っている |
写真は冷蔵庫のコンプレッサの回転数を制御するためのインバータ回路。高速や大電流を制御するインバータでは、赤枠の部分のように大型の放熱器(ヒートシンク)を備えている。蛍光灯のインバータ程度なら小さいもの、もしくは自然放熱だ。 |
IHクッキングヒーターやIH炊飯器のスイッチを入れると、ブオーンというファンの音を耳にしたことがあるだろう。人間と同じで機械(インバータと呼ばれる電子回路)も必死になって2万回、6万回とスイッチを切り替えるので発熱する。また電磁石も熱を持つので、これらを冷やすためにファンを回しているのだ。
あまりマニュアルには記載されていない注意だが、IH方式の機器はたいてい床面から冷却用の空気を吸い上げる。じゅうたんなどの上で使うと、内部にホコリを吸い込んでしまうので注意して欲しい。
■カタログで内釜の厚みや素材を強調するワケ
ある炊飯器の内釜の厚さを測ったところ、ジャスト3mmだった |
とはいえ、あまりにも厚くすると内釜はバーベルのように重くなってしまうどころか、炊飯器自体が大きくなってしまう。内釜の厚さ合戦は、各社の落としどころが3~5mm程度に落ち着いてきたようだ(高級機の場合)。
さらに何層にも金属などの素材を重ね合わせた内釜が主流になっている。先に紹介したとおり、通常のIH炊飯器は20kHz(2万回/秒切り替え)を使っているので鉄やステンレスの層が必ずある。つまりこれが発熱する層だ。ただ鉄はさびやすいので、多くの場合さびずに磁石に付くタイプのステンレス(磁石が付かないステンレスもある)が使われている。
その内側は、発熱層から出た熱を効率よくお米に伝えるために、熱を伝えやすい金属や素材が使われている。この層は各社の腕の見せ所であり、コストとの戦いだ。
熱を伝えやすい← | →熱を伝えにくい | ||||||
ダイヤモンド | 銀 | 銅 | 金 | アルミ | 炭素 | 鉄 | チタン |
2000 | 420 | 401 | 317 | 237 | 129 | 80.2 | 21.9 |
熱をよく伝える金属や物質は、高価なものばかりなのでここがメーカーの工夫のしどころだ。計算上は発熱層の内側をオールダイヤモンドにすれば最高の仕上がりになるが、コスト計算は度外視となる。銅は比較的に安いが柔らかいため、お米を研いだときに傷つきやすく敬遠されているようだ。内釜の最後の処理は、焦げ付き防止のフッ素加工となる。
東芝の高級炊飯器では、基礎にアルミを利用し、発熱層はステンレス、内釜の上部に熱を伝えやすくする銀コート層、お米と直接触れる部分は熱を伝えやすいダイヤモンドに強度を保つチタンを利用している。(東芝のカタログより抜粋) |
一方、発熱層の外側も、各社工夫を凝らしている。保温性を高めるために真空の層を作ったりセラミック素材を用いたりというものもあれば、釜全体に熱が行き渡るように銀や銅などの熱を伝えやすい層をサンドイッチしたりという具合だ。
ジップタイでシャープペンの芯を2本つなぎ、磁石で誘導電流を起こしてみると……確かに電流が流れている! |
変わったところでは、炭素99.9%でできた内釜というものもある。炭素でも電磁誘導が起こるのか疑問になったので、シャープペンの芯で確かめたところ……きっちり電流計が触れてビックリ!
しかも抵抗が高いので確かに多く発熱するはずだ。論理的には……このように内釜は「コレが一番!」という答えがないので、メーカー色を強く打ち出せる部分となっている。だからカタログで大きくうたっているというワケだ。
■炊飯器選びのポイント
従来型の炊飯器だと、このわずかな水の量の調整がおいしさを左右していたが、最新機種ではマイコンにお任せできる。 |
またあるメーカーのエンジニアに聞いたところによれば、西日本のメーカーはしゃっきり系、東日本はもっちり系に若干だが振れているという。これも1つの目安になるかも知れない。
一番確実なのは実際に食べてみることだが、食品衛生法の問題などもあり、家電量販店などでは試食できない場合がある。友人などの伝をたどって、試食してみるのが一番近道なのかも知れない。
おいしさ以外のポイントは、次の点だろう。
・圧力方式か非圧力方式か?
日立の最新型炊飯器は、圧力IHで蒸気循環式となっているため、蒸気レス仕様だ |
味や食感にも影響してくるが、一般的に圧力方式の方が炊飯時間が短い。タイマーを使えば炊飯時間を気にすることもないが、できるだけ炊飯時間を短くしたいという場合は、圧力方式を選ぶといいだろう。
・ヒーターの数
パナソニックの炊飯器では、内釜を囲むようにIHが配置されている。写真では見えづらいが、ふたにもIHが内蔵されており全部で6個のヒーターを持っている。これなら熱の伝わりやすい内釜でなくても、お米を均一に熱することが可能だ。 |
内釜の素材で熱の伝わり方が変わってくるので、銅や銀などを使っている機種ではヒーター数は少なくなっている。アルミなどを使っている機種では、底や側面、フタにもヒーターを持たせて内釜を均一に加熱するようにしている。
ヒーターが多いから大火力とは、一概には言えないのが現状だ。
・洗いやすさ
毎回洗わなければならないパーツは、分解のしやすさや凹凸の数、作りの大きさなどが洗いやすさを左右する。写真は日立の炊飯器。蒸気レスながら、かなりシンプルな構造になっている |
蒸気レスの炊飯器は、蒸気と吹きこぼれを内釜などに循環する機構などがあるため洗う部品が多くなっている。また循環にはパイプなどが使われていることが多くあるので、どこまで分解して洗えるのか? パーツが細かすぎて洗いにくくないか? 毎回洗わなければならない部品数は? などをチェックしておきたい。
・保温性能
家族の帰宅時間がまちまちで、家族揃ってテーブルを囲めないという場合は、保温機能も要チェック事項だ。40時間保温という機種もあるが、さすがにオーバースペック気味なので、一晩置いてもおいしく食べられるか? という点がポイントだろう。炊飯中に出た蒸気を一時的に貯めておき、保温中にご飯がパサつかないように、還元するといった機能を備えたものもある。
日立の炊飯器は、炊飯中に出た蒸気を回収し、保温時にご飯がパサ付かないように還元する機構を持つ。カタログより抜粋 |
・操作性
置き場所などによって左右されるので、実際に店頭でボタンや液晶表示の位置などを確認したい。さらに多種多様な炊飯モードや米の種類を選べるようになっているので、直感で戸惑わずに操作できるかどうかもチェックしたいところだ。量販店などで実際にコンセントを挿してもらってチェックするといいだろう。高齢者や視力が弱い場合は、文字の大きさや音声ガイド機能なども選択のポイントになる。
パナソニックの操作パネル。音声ボタンが中央に配置されているのが分かる。写真は通常モードで、バックライトを点灯したとき | コース選択ボタンを押し、お米の種類を光っている三角ボタンで選択する。操作ガイドの音声も流れ、直感的な操作性だ | 次は、炊き方の選択、お米の種類と同じように選択し、最後に炊飯ボタンを押すように音声ガイドが流れる |
今回はIH炊飯器のトレンドやしくみや基本を紹介してきたが、次回から日立のIH炊飯器 「圧力スチーム 極上炊き 蒸気リサイクル」を1カ月に渡ってレビューしていくことにしよう。ここで紹介したさまざまなポイントで、「なるほど」とうなずいてもらえるはずだ。
2009年10月6日 00:00