インタビュー
無印良品のものづくり 前編

~「これがいい」ではなく「これでいい」を目指す
by 鬼塚 光一郎/編集部


 1980年にわずか40アイテムの食品と家庭用品から始まった無印良品。独自のコンセプトとシンプルなデザインで評価を高め、現在では7,000アイテムを提供するブランドへと成長した。家電製品には1995年から参入し、一般的な家電メーカーとは一線を画す、製品やデザイン展開に、着実にそのファンを増やしつつある。

 今回は一風変わったその商品開発手法や、商品を市場に送り出すまでのプロセス、さらには市場展開や今後の展望について、無印良品を扱う株式会社 良品計画の生活雑貨部エレクトロニクス・アウトドア担当MD開発の大蔵浩司氏に話を伺った。




「これがいい」ではなくて「これでいい」

良品計画 生活雑貨部エレクトロニクス・アウトドア担当MD開発 大蔵浩司氏

――無印良品の製品は、そのデザインからも一貫したものづくりに対する姿勢が感じられますが、どんなコンセプトに基づいていますか。

 無印良品は1980年に西友のプライベートブランドとして誕生しました。基本的なコンセプトはその時から変わっていません。それは「生活者の視点でものづくりをする」ということです。もっとわかりやすくいうと、お客様がものを選ぶ時に「これがいい」と思うものではなく「これでいい」と思えるような商品を作るということです。

 「これがいい」と思われる商品を作るということは、その人その人のためにカスタマイズされて余計なものがどんどん付いてくるんですよね。それでは多くの人の共感を得るのは難しい。でも無印良品のスタンダードは「これでいい」、この機能さえあればいい、というものを突き詰めていき、余計なものをどんどんそぎ落としていけば、多くの人に共感・納得してもらえる製品や暮らしのあり方を発信できると思うんです。

 機能的にも満足できて、なおかつ生活の中に自然に溶け込む商品を提供していきたいと考えています。無印良品では商品の開発、製造、小売まで全てに関わっていますので、お客様に商品を選んでいただくときには、なぜその商品がその形であったり、その機能になったかという理由をお伝えして、お客様に「なるほど」と思っていただけることを心がけています。

――1995年からは家電製品にも参入されていますが、無印良品の家電づくりで、常に心がけていること、意識していることは?

 家電に関して特別に意識していることはありません。基本的には、ほかの製品と同じようにネガティブな「これでいい」ではなく、必要十分で、お客様がこれくらいでちょうどいいと共感していただけるものを作ろうと考えています。

 家電製品とほかの商品が違うのは、ナショナルブランドと言われる大手国内家電メーカーさんが圧倒的なシェアを占めており、そこの商品と常に比較検討される点でしょうか。価格競争も激しくなってきてますし、いかに家電メーカーさんの製品と差別化ができるかという点は頭に置いていますね。

 たとえば、お客様の頭の中には、このくらいの機能のトースターであればいくらくらいか、という価格のイメージがあると思います。そのプライスポイントをいかに外さずにいい商品をお客様に提供できるかというのは大事にしています。

洗濯機、電子レンジ、冷蔵庫がセットになった「新生活セット」。年明けから春先までの新生活シーズンで毎年7,000セット近くを売り上げる人気商品。写真は2010年モデルで価格は59,800円乾燥機能が付いた電気洗濯乾燥機。2010年発売モデルでは洗浄時に循環シャワーを用いるなど電機メーカーの上位機種にも負けない機能を搭載する

――プライスポイントといっても、ジャンルやメーカーによっても異なると思うのですが、それはどのようにして決定していますか。

 一般的な家電メーカーさんですと、独自のマーケティング部門があって、そこが出した方針や価格設定にともなって商品を作っていくという流れだと思うんですが、弊社の場合は社内にマーケティング部門というものが存在しません。

 全社員がマーケティングする、というスタンスなんです。私も週に1度は家電量販店や、インテリア雑貨店、また、私どもの実際の店舗に出向いて、どういった商品が売れているのかとか、いくらぐらいの価格で売っているかをマーケティングしています。そこで、製品ジャンルの価格帯や搭載されている機能、お客様の反応などを見て参考にしています。

製品づくりの基本は「お客様の声」

――新しく製品をつくる時のヒントみたいなものはありますか?

 弊社の場合、商品の開発の大きなヒントの1つに「お客様の声」というものがあります。

 これは文字通り無印良品の商品を実際に使っていただいているお客様からの声なんですが、お客様から直接本部に届いたもののほか、お店のスタッフに伝えて頂いたご意見やメールなどがあります。無印良品ではこれを非常に大事にしていまして、担当部署に関連のある意見は毎週自動的に届き「お客様の声プロジェクト」として商品の開発、改善に役立てています。

 これにはお客様のご意見や不満はもちろん、店舗スタッフが使ってみて「使いにくい」「このスイッチが押しにくい」などといった声も情報として含まれています。

 何より直接使っていただいたお客様やスタッフの声なので、お客様が今何を求めているか、何を必要として、何を不要としているか、ぎっしりと詰まっているんです。正直その膨大な量を全て見るのは大変な作業ですが(笑)、最初にお話したような「これでいい」をスタンスとした物づくりには大変役立っています。

――まず基礎データがちゃんと集まってくるというのは強みですね。

 無印良品のネット会員も300万人を突破し、そちらからの意見と絶えず入ってきますので、お客様からの意見、情報には困りませんね。

――製品のターゲット像というのは特に設けていないのですか。

 明確な、「こういう人向け」というのはありません。弊社で扱う家電に関して言うと、必要十分な機能だけに絞り込んで、みなさんが簡単に使っていただける商品に仕上げていきたいと思っております。

――ターゲットを特に決めていないとすると、製品のラインナップはどうやって決めているのでしょうか。たとえば、無印良品では扱っていない製品ジャンルなどもいくつかありますが、その線引きはありますか。

 基本的にはいわゆる生活家電と言われる、トースター、冷蔵庫、掃除機などをベーシックな商品として扱っています。それ以外のものはお客様の声や市場で求められている商品を見極めて、随時商品化しています。

 たとえば、アロマディフューザーがいい例です。これは、もともと弊社のビューティー部門で、アロマテラピーやアロマオイルが盛り上がっていることに注目して開発を進めた商品ですが、市場で話題になり始めたタイミングと発売時期が一致したため、販売台数が40万台を超すヒット商品となりました。

昨年末までに40万台を売り上げたという人気商品の一つ「アロマディフューザー」ちょっとしたインテリアライトとしても使える

 家電部門でいえば、この冬ギフト用商材としてデジタルフォトフレームを発売しました。これは私自身が市場調査を行なって、今注目されている製品、人気を集めている製品を商品化したものです。

 ベーシックなラインはもちろん大切にしながら、その時のトレンドをラインナップに取り込むというのも商品展開を考える上では重要なことの1つです。

冬のギフト商材として開発を進めたというデジタルフォトフレーム本体背面も白一色でいかにも無印良品らしい造り操作は背面の小さなボタンで行なう。スライドショーやカレンダー表示などデジタルフォトフレームの基本的な機能はすべて抑えている


企画から、店頭のディスプレイまでを見る

――実際の商品づくりの中で、大蔵さんは具体的にはどのようなお仕事をされているんですか。

 家電部門として担当しているのは、照明と家電全般、そして時計です。

 業務内容は――端的にいうと全てです(笑)

 商品を作るにあたっての企画の立案から、どこのメーカーに製造を依頼するかや、商品の販売価格、製造コスト計算をしたり、発注する量、売り場の展開方法も考えます。実際に商品が出来上がって、商品が店頭に並んでからも、売上状況をみながら発注のフォローを入れたり、プロモーションをその都度考えたりもします。

 商品を生み出す前から、生み終わったあとのメンテナンス、フォローまで、一貫して担当しているという形ですね。

――お話だけ聞くとかなりハードに聞こえるのですが、社内の業務分担はどうなっていますか。

 商品開発を担当する商品部は、家具、ファブリックス、キッチン用品などのハウスウェア、ステーショナリーといったカテゴリーに分かれ、担当カテゴリーについて全て把握してるカテゴリーマネージャーがいます。

 各カテゴリー内には1~3名の担当者がいて、商品開発するMD、数字を見たり発注を担うDB、そして実際に工場で生産の指導をする生産管理に分かれ業務を分担しています。

 私は、MDとDBを兼務しているため、開発担当、デリバリー、発注までを行なっているんです。最終決済はすべてカテゴリーマネージャーが行ないますが、私がこういった品揃えでいきたいという提示をした後はお互いに話し合いながら、方向性を決めたり、アイテムを絞ったり、この商品はこの取引先と組んだ方がいいとか、そういったアドバイスを受けながら実務はほとんど私1人で担当しています。

――商品開発から発注までを1人で行なうというのは、ほかの家電メーカーとはかなり違ったやり方ですが、無印良品では以前から、そのような体制だったのですか。

 はい。創業当時から基本的には変わっていません。

 ただ、最初は商品ごとにMDもDBも生産管理も1人でやっていたため、10年ほど前までは、担当者がいないと何もわからないという状態がよくあったんです。今では情報を共有する体勢などが整えられてきて、このフォーメーションがうまく機能していると思います。

販売価格を決め、機能やデザインを決めていく、メーカーとは「逆」のプロセス

――最初のお話では、製品開発をしていく中で、プライスを重要視されているようですが、実際の企画段階でも、まず販売価格を決めて、その後に製造元やデザインを決めるのでしょうか。

 基本的には同時進行になります。

 製品を作る上で、まず製造原価というものがあるので、その価格が実現できるかどうかはある程度予想はできるんです。ただ、原価から売価を設定するのではなく、お客様がこの商品を購入したいと思う売価を実現するためには、まず売価ありきで動かないと、実現はしていかないですね。

 製造元に関しては、色々なメーカーさんにお願いしていると、スケールメリットも出なくなりますし、非効率になってしまうため、ある程度は決まっています。

 実際の製造メーカーさんとの交渉は、まず販売価格ありきで動き出します。そのため、余分な装飾や機能を外したり、時にはメーカーさんに無理を言ったりなんてこともあります。

――価格ありきの製品づくりというのは、家電メーカーとは大きく違っていますね。

 一般の家電メーカーさんと我々が違うのは、高機能や新機能を開発することに執着していないという点にあると思うんです。無印良品では、家電製品をイチから開発するのではなく、あくまで、お客様の求めている製品を発売するという視点で開発をしています。そのため、たとえば開発側とマーケティング側で視点が変わるということもありません。

 弊社の場合、業態的には小売業なので、モノを売るところが利益を生み出しますから、開発側の人間は売りやすくするためのサポート部隊、といった感じです。お客様の求めている商品を作っていくという工程の中では、これといった大きな制約もなく、自由にやりたいことができる環境ですね。

 実際には社内で製造までを請け負っているわけではありませんが、感覚的には製造直販をやっているのとそう変わらないと思います。

――1つの製品を作り上げるまでにはどれくらいの時間がかかりますか。

 一概には言えないのですが、家電商品の開発スパンとしてはだいたい1年ぐらいです。まず製品のデザインと仕様が決まって、そこから手作りで試作を作り始めます。試作品である程度製品のイメージが見えてきたが、金型を作ります。金型が上がって、そこから何度かサンプルの作成、修正を繰り返し、最終段階の試作、量産と進んでいきます。

 製品企画やイメージが固まってからの流れは、一般の家電メーカーさんとほとんど同じです。

――たとえば、三洋電機のeneloop(エネループ)ブランドのカイロも昨年から扱っていますが、あの製品の場合、eneloopという本来のブランドのイメージが強いと思うのですが、その辺りのこだわりみたいなものは特になかったのでしょうか。

 三洋電機さんとは、これまでにも製造元メーカーとして、お付き合いがありました。

 eneloopのブランドコンセプトである、環境配慮とか、サスティナブルという考え方は、無印良品のコンセプトと非常に近いというのが興味を持ったきっかけです。

三洋電機OEMで無印良品が出している「充電式ポケットカイロ」。基本的な造りは、eneloop kairoと同じ無印良品ではオリジナルのカバーを付けている

 メーカーさんが作ったものであっても、コンセプトや、製品の完成度が高いものに関しては、カラーテイスト等で無印良品のテイストは持ちつつ、既存のメーカーさんの良さと共存していければいいなと考えています。

――最近の家電製品のトレンドで言うと、美容とか空気清浄機などが売れていますが、そういった製品については参入されるのでしょうか。

 理美容商品のアイテムは、私が男性ということもあって、深く追求できていなかった分野なんです。弊社のヘルス&ビューティー部門が、家電的なもので考えていまして、今後は強化していきたい分野ですね。

 イオン系などの高付加価値家電については、確かに市場でよく売れていますし、いい商品だとは思うんですが、それをお客様が無印良品に対して求めているかというと、違うと考えています。

――エコというのも1つの大きなトレンドといえると思いますが、無印良品ではどう捉えているのでしょう。

 やはり環境配慮は避けて通れないところですね。特に家電分野でいうと消費電力を下げることが一番のポイントですよね。無印良品で扱っている家電製品に関しても、常に仕様の見直しをしていきまして、メーカーさんの最新の技術を取り入れることで、おさえていきます。

27日公開の後編では「無印良品のデザインとこれからの戦略」についてお届けします。(編集部)



2010年1月26日 00:00