藤本健のソーラーリポート・特別編

7月からの東京電力値上げ案を検証する

~夜間のピークシフトは6月までの現行プランの方が有利!?

 5月11日、東京電力から電気料金値上げに関するリリースが発表された。正しくは電気料金値上げの申請を経済産業大臣に行なったというものだが、普通にいけば、このまま認可され、7月1日から電気料金が改定されることになる。

 しかし、発表内容をよく検証してみると、あまり表に出ていない情報が見えてくる。今回は一般消費者として値上げにどう立ち向かうと良いのか、紹介していこう。


毎月の値上げ額は「480円」。でも使えば使うほどもっと払うことになる

【表1】標準モデルにおける、電気料金の値上げ額

 まず今回の値上げで、東京電力が示す標準モデルでみると、月額の値上げ額は480円、値上げ率は6.9%となっている【表1】。このデータだけを見ると、「480円上がるのは痛いけれど、原発が使えない現在の状況を考えれば仕方ないか…」、というのが大半の方の印象ではないだろうか? 実際、今回の値上げの申請理由としても、燃料費が主な理由として挙げられている。

 この「480円」、「6.9%」の根拠となっているのが、リリースで公開された「現行料金と改定料金の比較」の表である【表2】。

【表2】現行料金と新しい電気料金の比較

 ここでまずに注目すべき点は、「電力量料金」の改定だ。

 家庭で一般的に契約されている「従量電灯B」の料金設定では、電気を使えば使うほど電気代が高くなる仕組みになっている。普通の商売であればたくさん買えば割引されるのが一般的だが、電気においてはその逆。最初は安い第1段階料金だが、ある一定量を超えるとやや高めの第2段落料金に、そしてさらに一定量を超えると、さらに高い第3段落料金に上がっていく。

【表3】改定料金の値上げ率

 この3段階を、それぞれの値上率で比較してみる。第1段階では、18.42円→19.16円で、4.02%増と、値上げ幅は小さい。しかし、300kWhを超える第3段階では、24.68円→29.57円で、19.81%増。かなりの値上げとなっている【表3】。自分の家の電気料金の伝票を一度チェックしてみるといいと思うが、エアコンを多用している家庭では、300kWhを軽く超えるケースも多いはず。こうなると、「480円、6.9%」などというレベルではすまなくなる。

燃料調整費などで震災以前から32.9%の値上げ

 さらに、この数字でかなりトリッキーなのが、「現行料金」の位置づけだ。

 東京電力のホームページにある従量電灯B契約の料金表を見ると、先ほどの表とは異なる数字になっている【表4】。この料金は2008年9月1日の見直しで設定されたものだ。

【表4】東京電力がホームページで公開している、従量電灯B契約の料金表

 その後、料金表自体は改定されていないが、燃料費の調整により、実際には電気料金が加算されている。電力会社は、経済産業大臣に申請しなくても、発電でかかった燃料費の変動を元に料金値上げが可能なのだ。

 そのため、震災以降ジワジワと値上げが進んできている。来月6月の燃料費調整は0.55円/kWhとされている。燃料費調整についても毎月の数字が東京電力のホームページ上で発表されているので、気になる方はチェックしてみるといいだろう。

 この単価は第1~第3段階まで共通であるため、表4の各単価に0.55を足すと、表2の比較表と同じになるわけだ。

【表5】燃料調整費がマイナスだった2011年3月と、改定料金との値上げ率の比較

 ここで、震災の影響が出ていない2011年3月の燃料費調整がどうなっていたかをチェックしてみると、「-1.88円/kWh」と、マイナスの数字になっていた。試しにこの2011年3月と今回の値上げ後の単価を比較してみると、なんと第1段階でも19.82%、第3段階にいたっては32.9%もの値上げになっている【表5】。これが震災を境にした電気料金値上げの実態だ。


新メニュー「ピークシフトプラン」は、夜は安いがピーク時はかなりの負担に

 ここまでは標準的な契約形態である従量電灯Bの料金についてみてきたが、今回の値上げにともない、新たな電気料金プランとして「ピークシフトプラン」というものが発表された。東京電力では「お客様のご負担軽減につながる料金メニューの設定・拡充」ということでこのピークシフトプランが登場したとしている。確かにこの料金プランを選択して負担軽減につながるのであれば嬉しいが、実際はどうなのだろうか?

【表6】新たな料金メニュー「ピークシフトプラン」の概要。7~9月の13~16時において、電気料金が非常に高く設定されている

 まず、このピークシフトプランでは、季節および時間帯によって単価が変わるようになっている【表6】。夏場の日中の電気料金を高く、夜間を安く設定することで、ピークシフトを促そうというのが狙いだ。

 では、その単価はそれぞれどうなっているのだろうか。東京電力が発表した料金表が【表7】だ。なぜここにも改定料金と現行料金があるのかは不思議だが、ピークシフトプランは6月から加入できるとのことで、6月の期間だけは安くなっているのだ。また、この表からも分かるとおり、従量電灯Bのように第1段階、第2段階、第3段階といった区分けはなく、使う量にかかわらず単価は一定となっている。

【表7】ピークシフトプランと現行料金の比較

 このプランで一番の魅力は、夜間の単価が12.13円と割安であることだ(数値はすべて東京電力のニュースリリースより引用。以下同じ)。ただし、7~9月の夏季の場合、午後1時から4時までの時間帯は53.29円と、非常に高い設定になっている点は要注意。昼は会社や学校に出かけていているから電気は使わないというのであればいいかもしれないが、家にいてエアコンなどを使ったとしたら、かなりトンでもない電気代を請求されることになりそうだ。

 なお、ピークシフトプランでは、7~9月以外はピーク時間帯は設けられず、夜間以外すべて29.66円となる。

「ピークシフトプラン」より、現行の「おトクなナイト10」の方が使い勝手が良い。でも……

 しかし、この料金設定を見て、おや? と思ったことがある。それは、こうした時間帯で料金が変わる契約は、ピークシフトプランが初めてではなく、これまでもあったということ。

 具体的なプラン名を挙げると、「おトクなナイト10」、「おトクなナイト8」そして「電化上手」の3種類がある。このうち「電化上手」はオール電化の家にしないと契約できない(注:正確にはエコキュートなど夜間蓄熱式機器を導入している場合、利用可能)ため除外するとして、一般的な家庭で契約できるのは「おトクなナイト10」と「おトクなナイト8」となる。

 実際、筆者も「おトクなナイト10」を利用しているが、時間を考えながら電気を使うことで、ピークシフトと電気料金の抑制を実現することができる。名称の数字からも分かるとおり、ナイト10では夜10時から朝8時までの10時間が夜間電力という設定となっている(ナイト8は夜11時から朝7時までの8時間が夜間電力)。

 この2つの「おトクなナイト」プランの料金表を見た上で、ピークシフトプランと比較していこう【表8、表9】。これら2つのプランも、7月の値段改定でかなり料金が上がるので、これまでのような魅力はなくなるものの、特にナイト10の場合、ピークシフトプランよりも使い勝手が良いように思われる。

【表8】おトクなナイト10における、現行料金と改定料金の比較【表9】おトクなナイト8における、現行料金と改定料金の比較

 というのも、最大のポイントは時間帯だ。ピークシフトプランでは朝7時で夜間時間帯が終了し、昼間時間帯にはいってしまうが、ナイト10なら朝8時まで夜間料金だ。通勤や通学を考えると、この1時間の意義は大きいだろう。同様に、夜間料金が夜10時からなのか、11時からなのかも、人によって大きな違いだ。

 しかも、夏季の午後1時から4時までの料金がバカ高くなったりもしない。ピークシフトプランでは、本来ピークではない土日の昼間まで高い電気代になるが、ナイト10ならそんなことに悩まされなくていいのもポイントだろう。

 しかし、この「おトクなナイト10」は、「ピークシフトプラン」の登場によって消滅してしまう。「おトクな」ことは許さないということなのだろうか……。

 とはいえ、良いニュースもある。まず、すでに「おとくなナイト」プランを契約している人は、経過措置として当面は続けられるとのこと。また、「おトクなナイト10」の加入ができなくなるのは7月からで、6月いっぱいは加入可能となっているのだ。普通に考えれば、「ピークシフトプラン」より「おトクなナイト10」や「おトクなナイト8」のほうが有利なので、申し込むのであれば、早めにしておくのがよさそうだ。ちなみに、「ピークシフトプラン」の申し込みは6月から可能になっている。

※初出時、「おトクなナイト8」がなくなると記載しておりましたが、これは誤りでした。訂正してお詫びさせていただきます。


夜間電力料金は極端な値上げに

 ところで、「おトクなナイト10」のユーザーとして不満を感じるのは、夜間料金の値上げ幅の大きさだ。表8では、10.03円が12.38円になったというもので、23.43%の値上げとなっており、それほど目立つものではない。

 だが、先ほどのように燃料費調整を考えて震災前と比較すると、7.60円から12.38円の値上げとなり、値上げ率でいうと62.89%増と、非常識ともいえるほどの値上げになっている。従来は原発によって余っていた電力だから安く提供していたが、状況が変わったから大幅な値上げをしたいというのが実際のところなのだろう。ただピークシフトを前面に打ち出すのであれば、ここまで極端な夜間電力の値上げはいかがなものかとも思う。

 特に影響が大きいのは、エコキュートの設置などで夜間電力利用が必須のオール電化住宅。オール電化住宅用の契約である「電化上手」や「おトクなナイト8」の夜間電力の値上げ率を震災前と比較すると、いずれも66.39%と、ナイト10のそれをさらに上回る。電気料金の負担はズッシリと重くのしかかってきそうだ。







藤本健
本職はオーディオ関連ライターだが、実は30年来の“ソーラーマニア”。自宅に太陽光発電システムを導入し、毎日太陽で作られた電力で生活している。太陽光発電ネットワークの「PV-NET」の会員で、神奈川地域交流会の世話人も務める。僚誌AV Watchでは「藤本健のDigital Audio Laboratory」を連載。メールマガジン「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」も配信中。ブログは「DTMステーション」、Twitterは「@kenfujimoto」。

2012年5月25日 00:00