大河原克行の「白物家電 業界展望」

「あなたに見せたい『ヘルシオ』がいます」

~新ヘルシオの店頭POPの込められたメッセージとは
by 大河原 克行
シャープがヘルシオのエントリーモデルとして新たに追加した「ヘルシオ AX-M1」

 シャープが、ウォーターオーブン「ヘルシオ」の新製品として3機種を発売した。

 そのなかで、戦略的製品と位置づけられるのがエントリーモデルとして新たに追加された「AX-M1」だ。

 容量は26Lのコンパクト設計。市場想定価格は65,000円前後と、これまでのヘルシオシリーズのなかでも戦略的な価格を設定。

 「2004年に発売した初代ヘルシオのAX-HC1が、同じ26Lの容量で、電子レンジ加熱機能を搭載していない形で約13万円。AX-M1は電子レンジ加熱機能を加えて、半額になっている」(シャープ健康・環境システム事業本部調理システム副事業部長兼国内商品企画部長・波頭 真吾氏)とする。

 ヘルシオ購入に向けて、敷居を大きく引き下げることを狙ったのが、AX-M1というわけだ。

 

シャープ健康・環境システム事業本部副本部長兼国内営業統括の新 晶氏
 シャープ健康・環境システム事業本部副本部長兼国内営業統括の新 晶氏は、「ヘルシオのブランドは、35歳から49歳の女性においては、81%の認知率がある。健康調理ができること、ヘルシオによる調理がおいしいことは、多くの人に知られている。だが、その一方で欲しいけど価格が高いのではないかという敷居の高さや、あるいは使い方が難しくて使いこなせないのではないか、といつた不安の声も多い。AX-M1の開発に当たっては、20代から40代の女性にアンケートを取り、その結果、厳選した42種類のメニューを搭載し、使いやすさを狙った。ヘルシオが持つ健康性能と本物感はそのままに、もっと手軽で、身近なヘルシオを投入することで、一人でも多くの人にご購入をいただき、健康志向の方々に最適な本格調理を手軽に楽しんでもらいたい」と狙いを語る。
製品発表に合わせて作られたPR用の幟(のぼり)

 シャープは、今回の製品発表にあわせて、店頭展示用のPOPを用意した。

 「あなたに見せたい『ヘルシオ』がいます」――

 幟(のぼり)型のPOPに書かれたこの言葉には、実は大きな意味がある。

 ここでいう「あなた」とは、これまで「ヘルシオを知ってはいるが、敷居が高くて購入できなかった人」を指す。いわば、ヘルシオの潜在ユーザーである。

 メニューを絞り込む際にアンケート対象とした20代から40代の女性のほか、男性の一人暮らし、単身赴任者などもこの「あなた」のなかに含まれる。

 「経済環境の影響もあり、外食よりも内食の傾向が強くなっている。一方で、健康に対する意識も高まっている。これまでは冷凍食品やお弁当などを購入してきて、レンジでチンという使い方でしかなかった一人暮らしの電子レンジ利用において、野菜などを簡単に調理できるという使い方を、ヘルシオならではの特徴として、広げていきたい」(新 副本部長)

カラー展開はこれまでの2色からグリーンとホワイトを加えた3色に変更。野菜をイメージした「ベジタブルカラー」としているヘルシオの「敷居が高い」というイメージを払拭するために、搭載されているメニューは簡単にできるものが中心となっている

 今年度末までに、ヘルシオは累計80万台の出荷が計画されている。だが、これまでの実績では、一人暮らしの家庭でのヘルシオ購入は、わずか1桁台前半に過ぎない。

 新 副本部長は、「AX-M1の投入によって、一人暮らしの方のヘルシオ購入比率を2桁台にまで高めたい」と、新市場開拓に意欲を見せる。

 つまり、「あなた」というのは、これまでのヘルシオのターゲットユーザー以外の新たなユーザー層でもあり、ビジネス的観点から捉えれば、上位モデルとして同時に発表したAX-X2、AX-G1により既存市場をカバーするのに対して、AX-M1では販売数量の上乗せを目論むという戦略的製品ということになる。

 幟型POPに書かれた「見せたい」という部分は、簡単に操作ができるという使いやすさを訴求する意味がある。

 操作性を絞り込むことで、手軽に使えるようになったことを「見せたい」という言葉で表現した。

 実は、「あなたに見せたい『ヘルシオ』がいます」の言葉の「見せたい」の部分だけが最後まで決まらなかった。別の候補には、「使ってもらいたい」というものなどもあった。

 だが、シャープは、まずは「見せたい」という、一番敷居が低い言葉を持ってきた。ここにも新市場開拓に向けた姿勢が伺える。

 

シャープ健康・環境システム事業本部調理システム副事業部長兼国内商品企画部長・波頭真吾氏
 また、「見せたい」という言葉には、ヘルシオ特有の誤解を払拭する狙いもあるようだ。

 「ヘルシオは、加熱水蒸気方式のウォーターオーブンであり、本格的な調理には最適であるという認識が高い一方で、温めるだけには使えないのではないか、温めでも水蒸気を使うのではないかという誤解がある。こうした点を払拭していくことが必要であり、ヘルシオでは、従来の温め方法と同じ使い方ができる点も訴求していきたい」(波頭 副事業部長)とする。

 そして、最後の「います」という言葉は、さり気ない言葉ではあるが、実は極めて重要な意味を持つ。

 というのも、「います」とする場所は、高性能電子レンジ売り場でなく、これまでのヘルシオと価格帯が異なるオーブンレンジコーナーのことを指すからだ。

 AX-M1は、全国2,000店舗の量販店において、普及ゾーンともいえるオーブンレンジの棚に、横並びに商品展示する計画だ。

幟(のぼり)に書かれている言葉には、同社の想いがつまっているという今後、ヘルシオの売り場には製品と共に、この幟が展示される

 「もちろん、オーブンレンジに比べると価格は高い。しかし、あと少し出せば、ヘルシオが購入できる。お手軽なヘルシオがいよいよ登場したという『登場感』を演出したい」(新 副本部長)

 さらに見逃せないのは、上位機種の発売日が8月20日としているのに対して、AX-M1は7月15日の発売と、1カ月先行する点だ。

 オーブンレンジのコーナーで場所取りという新たな仕掛けが必要であることも影響しているが、より多くの人に、手軽で、身近なヘルシオが登場したことを訴える期間を長くしたい、というマーケティング的な観点からの施策ともいえる。

 AX-M1の販売目標は、月12,000台と意欲的だ。

 新たな需要層を獲得できるかが、AX-M1の命題。それを現実にするための量販店店頭での戦略的な仕掛けからも目が離せない。





2009年7月6日 00:00