そこが知りたい家電の新技術

この冬、ロボット掃除機を買うならルンバVSダイソンどっち?

〜ロボット工学の第一人者、古田貴之さんに聞く

 この年末、ロボット掃除機が再び盛り上がっている。ロボット掃除機の老舗、米国iRobotは“史上最高”と銘打った「ルンバ980」を、日本国内で掃除機のトップシェアを誇る英国ダイソンは同社初のロボット掃除機「ダイソン 360 Eye ロボット掃除機」をそれぞれ発売したからだ。

ダイソン 360 Eye ロボット掃除機
ルンバ980

 メーカーの哲学や、見た目はまるで違うこの2機種だが、実はいくつか共通点がある。1つめは本体上部にカメラを搭載し、「SLAM」(Simultaneous Localization and Mapping:同時に位置確認と地図化)という技術を利用した人工知能を搭載している点。2つ目は、スマートフォンやタブレットからの操作に対応する「スマート家電」であり、クラウドとも連携しているということ。そして3つ目は、ルンバは125,000円(税抜)、ダイソンは138,000円(税抜)という高価格であることだ。いずれにしても、両社キモ入りの製品であることは間違いない。

 しかし、掃除機とはいえど、ロボットはロボット、家電量販店の店頭ではその性能差はわからないし、内部の機構についても、さっぱりわからないという人も多いだろう。家電Watchでは、ロボット工学の第一人者として活躍する、“ロボットのプロ”古田貴之氏にこの2つの製品について、話を聞いた。

古田貴之
ふるた たかゆき 1968年生まれ

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長。「ロボットにはもっと多様な可能性がある・不自由なものを不自由でなくする」を持論に8本足の電気自動車プロトタイプモデル「ハルキゲニア01」や、福島第一原発原子炉建屋内の調査用ロボット、未来の乗り物「ILY-A」など、奇想天外で画期的なロボットを開発。また、ドラマ「安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜」や映画「キカイダー REBOOT」など多くのSF作品において、ロボット出演シーンの監修/ロボット技術設定等も手がける。www.furo.org

大の家電好きで、ルンバとダイソンのロボット掃除機も既に入手済み

 古田さんは、ロボット界では言わずと知れた有名人だが、実は大の家電製品好きでもある。自宅ではルンバを愛用しているほか、大学の講義では、ロボット掃除機を題材とし、分解して、その仕組みを解説することもあるという。10月に発売されたばかりの新製品である、ルンバとダイソンのロボット掃除機も既に入手しているというから驚きだ。

 まずは、両製品を実際に使った第一印象を伺った。

 「ルンバの第一印象は、動きがすごく早くなったなということです。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping:同時に位置確認と地図化:以下SLAM)がうまくきいているようですね。カメラがきちんと作動しており、ソファと椅子の間にあるちょっとしたスペースにも、しっかり入り込んで行くのには驚きました。

 一方、ダイソンに関しては、利点と欠点があって、エンジニアとして客観点な意見を述べると、現時点では欠点の方が目立つかなという印象です。天下のダイソンですから、ロボット掃除機に関してはもう少し頑張って欲しかったというのが本音です。ダイソンのロボット掃除機は、確かにルンバよりも吸引力が高いです。でも、全体の掃除能力で比べると、ルンバの方が優れているという印象です」

ダイソンの製品発表会では、ルンバとダイソンの吸引力の違いがデモンストレーションされた

 古田さんの考える、ダイソンの欠点とはどのようなところだろう。

 「まず一番は、動きが遅いという点が気になりました。スイッチを入れても、すぐには動き出さない、考え込んでしまうという時間があります。あとは、やはり本体の高さが気になります。人が入れないところを掃除するという見地からすると、幅よりも高さを抑えることの方が重要だと思います」

 しかし、ダイソンでは、本体の高さよりも、本体幅の狭さの方をアピールしている。

 「確かに日本の家屋で使う場合は、本体の幅が結構重要で、たとえば本体が今川焼きくらいの幅だったら、優勢さが出てくるでしょう。だけど、ルンバとダイソンの本体幅の差で、自宅で使った時に入れる場所が大きく変わってくるとは、正直思えない。それよりは、背の高さの方が重要かなと僕は思います」

 ダイソンの動作が遅いのは、SLAMに問題があるということなのか。

 「ダイソンが遅いというよりも、ルンバがうまくシステム構成をしているということです。カメラを用いたSLAMというのは、すごく複雑。最新のCPUを使っても、まともにやると処理に凄く時間がかかる。我々の研究室では、リアルタイムで動くステレオカメラSLAMを実現しています。でも、このカメラを使って地図作成まで行なう、リアルタイムSLAM機能を実現できるのは、一線の研究者でもそう多くはいないんです。

 実際、ダイソン、ルンバともに、ここの部分はすっぱりあきらめ、地図作成にはカメラを使っていないようです。つまり、壁や家具の認識は、本体のバンパーや近接センサで検知し、目を使わず手さぐりで地図を作る。目であるカメラは、地図上での自分の位置を確認するのに特化しているようなんです。それでも、カメラ画像の処理にはそれなりに時間がかかる。

 気になったので、ダイソン本体の中身、ちょこっと覗いてみました(笑)。案の定、ダイソンのメインCPUは、一昔前のカメラ携帯レベルの非力なものが使われていて、メモリも多くは搭載していませんでした。ロボット用としてはかなり貧弱。このシステム構成も動作の遅さに大きく影響していると思われます。」

ダイソン 360 Eye ロボット掃除機の本体上部
「360ビジョン」という独自のカメラを搭載している

 その点ルンバは、うまくバランスされたCPUシステムに、SLAMを利用した完成度の高い知能化プログラムを装備することで、スピードと掃除性能を両立しているという。

 「観察してみると、たとえばルンバは、地図を作成した後は、その地図を利用して壁添いの掃除を重点的に行なうという動作が見受けられる。これにはちょっとびっくりしました。うーーん、さすがの完成度! こういった知能化によって、速度だけでなく、掃除性能も格段に向上している。

 さらにこれらの処理を重くしないで、うまく実装している。ルンバはそこも含めて全体の処理速度と動作速度、掃除性能が一歩先を行っています。ソフトウェアのできといい、CPUシステムの完成度といい、これは今までのノウハウがあるからこそでしょうね。」

 一方のダイソンは、掃除機ユニットに力を入れるより、CPUシステムとソフトウェアにもっと力を入れてほしかった。だって、これはロボットなんですから」

欲しいのはロボット掃除機? それとも掃除機?

ダイソンの360 Eyeでは、一般的なロボット掃除機よりも吸引力が約4倍強いとしている

 ダイソンのロボット掃除機は、吸引力が他社製品の約4倍だとしている。その点についてはどうか。

 「確かに吸引力はダイソンの方がルンバよりも強いです。ただし、結果的にどちらが室内をキレイにするかをみると、やはりルンバに軍配があがる。だって、みんなが求めているのは、掃除機ではなくて、掃除機ロボットですよね。掃除機としての性能はダイソンが上ですが、ロボットとしては、ルンバが上ですね。

 ダイソンの決定的な欠点は、稼働時間が短いことです。SLAMを使って、部屋の中央から、一筆書きのように四角を描いて掃除するのは、それが理由だと思いますね。つまり、動き続けられる時間が短いから、なるべく効率的に動く必要がある。ルンバのように状況に応じて適宜動くような仕組みを組み合わせたら、稼働時間がもっと必要になってしまう。ダイソンはそこの部分の無駄、余裕がないんです。それはなぜかというと、ロボット掃除機にそのままサイクロン掃除機を入れてしまったからです。サイクロン掃除機というのは、ものすごく電力を使うので、自ずと稼働時間が短くなってしまいます。」

 実際、ダイソンの駆動時間は約45分と、ルンバの120分に比べて短い。しかし、ダイソンでは、駆動時間いっぱい掃除すると、一度充電ステーションに戻り、充電してから、また掃除を始める。そのため、一度の駆動時間の長さは問題ではないという姿勢を取る。(ルンバもまた自動で帰還/充電してから掃除を再開する機能を搭載している)

 「そこから察するに、短時間で広い範囲を掃除するという機能に関しては、諦めているように見えます」

重要なのは、吸引力や吸じんユニットではなく、全体のシステムやバランス

 古田さんにはこれまでもたびたびインタビューしてきているが、「ロボット」としてのルンバの性能をいつも賞賛していた。それは、中のシステムはもちろん、ユーザーにとって使いやすいという工夫がたくさん見られるからだという。

 「ロボット掃除機で重要なのは、吸引力や吸じんユニットではなく、全体のシステムやバランスです。どこの機能がどれだけの性能かということではなくて、全体として何ができるかというということが大事。その点では、ルンバに優位性があるでしょう」

 では、古田さんの考えるルンバの優位性とはどのようなところだろう。

 「端的にいえば、ルンバには一日の長があります。例えば、SLAMを搭載しているのは、ダイソン、ルンバともに一緒ですが、ルンバでは、SLAMを使って地図を作りつつも、従来の行き当たりばったりのシステムもきちんと残しているんです。練られてきたこれまでの戦略というものに、ちゃんと知能がついて、計画的にも、適宜にも動くところは高く評価できます。

ルンバ980本体
本体裏側

 また、従来機種からの進化も感じられるという。

 「自宅のリビングでいえば、以前使っていた700シリーズは掃除するのに30分以上かかっていましたが、最新の980では約10分くらいと大幅に短縮されました。もう1つ大きな進化が、ルンバの進入を制限したい場所に赤外線の見えない壁を作る『デュアルバーチャルウォール』です。これまでは、バーチャルウォールを使っていても、ルンバが進入してしまったりということがありましたが、今回は全くそういう問題がない、これはすごい進化です」

ルンバの進入を制限したい場所に赤外線の見えない壁を作る「デュアルバーチャルウォール」
円形の進入禁止エリアをつくる「ヘイローモード」を追加。ペットの水飲み場などへの進入を制限できる

ロボット掃除機の進化とは

 今回、紹介した「ルンバ980」も、ダイソンの「360 Eye」も本体価格は12万円を超える高級品だ。例えば、ルンバが製品ラインナップとして展開する800シリーズ(約8万円)はSLAMを搭載していないモデルで、無駄が多いかもしれないが、しっかり動く。筆者個人の意見としては、SLAMを搭載していなくても、ロボット掃除機は充分有用であり、SLAMを搭載するのは、製品を高価格に設定したいメーカーのエゴなのではないかとも感じてしまう。SLAMを搭載するというのは、ロボット掃除機にとって、正しい進化なのだろうか。

 「端的に答えると、正しい進化だと言い切れます。SLAMを搭載することで、ロボット掃除機には3つの利点が与えられます。まず1つは、SLAMを搭載し、効率的に掃除することで、掃除時間が短くなるということ。その2は、確実性が増すということです。行き当たりばったりのシステムでは、どうしても掃除残しが出てきてしまう。しかし、SLAMを搭載することで、確実にそれをなくすことができます。そして3つ目は、将来に向けた機能として、非常に有望であるということです。カメラを搭載して、ネットワークにもつながることで、ロボット掃除機の新しい使い方が今後、必ず生まれてくると思います」

 ロボット掃除機の高価格化に関してはどうだろう。

 「ロボット掃除機をロボットとして考えると、12万円という価格は相当安いです。例えば、SoftBankが展開しているPepperだってそれ以上はする。現状、世界で一番役立っていて、一番普及しているロボットというのは、ロボット掃除機です。その意味でも、今後の進化にはとても期待しています」

(阿部 夏子)