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LED電球に未来はない〜ジェイク ダイソンインタビュー

 “吸引力の変わらない、ただ1つの掃除機”というキャッチフレーズのCMでもお馴染みのダイソン。日本国内の掃除機市場トップシェアを誇るなど、ますます成長を続けている。そのダイソンに最近、ある会社が参入した。LEDライトの開発を行なう「ジェイク ダイソン ライト」という会社だ。

 この会社を率いるのは、ダイソンの創始者であるジェームズ ダイソン氏の長男である、ジェイク ダイソン氏。彼が扱っているのは、独自の冷却構造を搭載したLEDライトで、デスクやリビングルームに適した「CSYS(シーシス)」シリーズなどをラインアップする。価格は6万円台からとLEDライトとしてはかなり高額だ。

【お詫びと訂正】
記事初出時、価格を9万円台としていましたが、5月に価格改定があり6万円台からとなりました。お詫びして、訂正いたします。

卓上ライトの「CSYS desk」と、ジェイク ダイソン氏

 今回、新製品「Ariel」シリーズのプロモーションのために、来日したジェイク ダイソン氏にインタビューする機会を得た。製品についてはもちろん、現在のLED市場について、父親との関係についても話を聞いた。

父の会社に参入した理由

 ジェイク ダイソンは、ロンドンの名門カレッジであるセントラル・セント・マーティンズへ進学。デザインを学んだ後、2004年にデザイン・エンジニアとして自身のジェイク ダイソン・プロダクトを立ち上げた。その後、照明のデザインに長く関わり、2009年からはLED照明の開発をスタートした。「CSYS LED Light(シーシス・LEDライト)」も、当初は、ジェイク ダイソン・プロダクトの製品として発売されている。今、このタイミングで、ダイソン傘下に入ったのはなぜか。

「CSYS LED Light(シーシス・LEDライト)」のラインナップ。左からフロアライトの「CSYS floor」、卓上ライトの「CSYS desk」

 「ダイソンはファミリービジネスであり、それに対して、熱意、誇りを感じている。私は家族の一員であり、なるべく早くファミリービジネスに取り組む必要があった。また、自分にとってダイソンで、製造、マーケティング、デザインについて学ぶことは非常に重要なことだった。ダイソンからかれこれ3年も、ジェイクダイソンライトへラブコールがあったのも事実。照明は非常に重要なカテゴリーであり、BtoBビジネスへの可能性も広がっている」

 父親の会社であるダイソンに参入して、今何を感じているのか。

 「今、最も興味があるのはダイソンにいる2,000名のエンジニア達だ。これから2年かけて倍の4,000名まで増やす計画があるが、彼らは非常に優秀であり、彼らと一緒に仕事をすることが楽しみ。

 私には確固たるロードマップがあり、力強いアイディアもある。ダイソンを通じて、自分のビジョンを実現することで、より強いカテゴリーを作ることができるだろう。現在は、家族の一因として、ほかの商品についても勉強したり、ほかの商品のデザインについても携わっている。ダイソンのデザインというのは、パフォーマンス、つまり技術によって決まる。見た目のデザインというのはその後についてくるもの。40年後でも同じように美しいと感じるには、技術が伴っていることが重要だ」

ジェームズ ダイソンは愛がある父親

 父親であり、ダイソンの創始者であるジェームズ ダイソンはどんな父親だったのか。

 「愛情に溢れた父親であり、私達子供がやりたいことをサポートしてくれた。私達がやりたいことをやっていい、というスタンスであり、プレッシャーのようなものは全くなかった。彼が教えてくれたのは、自分の人生の旅を通じて、自分を信じろということ。私たちは決して裕福な家庭ではなかった。子供の時はお金もなかったし、ごく普通の家庭だった。今は、成功してお金も手に入れているわけだが、それは一晩でなしえたものではなく、ここまでくるのに20年かかっている。それは彼(ジェームズ ダイソン)の努力や人間性があったからこそ得たものだ」

オフィスライティングは、1960年代から進化していない

 LED照明に関してはすでにたくさんの会社が参入している。ライバルとして気になる会社はあるのだろうか。

 「技術的には、2014年ノーベル物理学賞受賞者の中村修二が創設したLED技術の世界的リーダー企業『ソラー(Soraa)』が気になる。デザイン的には、coelux skylightも賢いデザイン。LEDの光を素材の力で出し切っている。coelux skylightは5万ドルもする高額な製品だが、光を太陽の光のように感じさせてくれる。そもそも、私は青い光が好きではない」

CSYS LED Light、フロアライトの「CSYS floor」

 確かに、「CSYS LED Light(シーシス・LEDライト)」でも昼白色には対応していない。それはなぜか。

 「CSYSに関しては、今後昼白色にも対応していく予定がある。しかし、そもそもなぜオフィスの照明が青白くなければいけないのか。オフィスライティングというのは、1960年代からなんの進化もしていない。これだけ産業が進化して、長寿命のLEDというものが開発されたのに、オフィスの照明は、昔の蛍光灯と同じデザインで、同じ形をしている。

 あくまで商業的な照明器具であって、人間のことを考えていない。商業的なスキームばかりを優先している。それは悪い照明だ。このような事態になってしまったのは、照明器具を作ってきた私達の責任であり、LEDチップの開発者の責任だと考える。人間の1日のリズムや健康に配慮した照明がもっと出てきていいはず。植物だって、光を浴びて花を咲かせ、日が落ちれば花が落ちる。そのリズムは人間も一緒だ」

優秀なエンジニアリング、優秀な技術は決して安くない

 日本は世界的に見ても、LED化が進んでおり、家電量販店に行けばたくさんの製品が並ぶ。寿命はジェイクダイソンの製品より確かに短いが、同じサイズ、明るさのデスクスタンドは1万円台からある。なぜ、ジェイクダイソンの製品はこれほど、高額なのか。

 「私は日本の家電量販店に出かけていき、たくさんの製品を見てきた。確かに安くて高寿命を謳う製品がたくさん並んでいるが、それらが本当に10年持つのかは疑問だ。我々が調査したところでは、そんな製品は1つもない。十分に強い光は出ていないし、4万時間も持たないだろう。

 我々の製品を高いというが、最近価格を下げたばかり。優秀なエンジニアリング、優秀な技術は決して安くないということだけは理解して欲しい」

宇宙に浮かぶ人工衛星のようなLEDライト「Ariel」

 今回発表したAriel(アリエル)は、高出力のLEDチップを1つだけ採用し、レンズを多用して9,000lmの明るさを実現するライト。天井を間接的に照射するアップライトと、ダウンライトの2種類をラインナップする。LEDから熱を取り去る独自のヒートパイプテクノロジーを搭載しており、LEDを約50℃前後に保ち、約37年の長寿命を実現した。日本での販売時期、販売価格については未定。

Ariel(アリエル)
ダウンライト(左)と、アップライト(右)の2種類をラインナップ
光源部分。高出力のLEDチップ1つだけを採用している

 独自のヒートパイプテクノロジーとは、一滴の水を入れた直径6mmの銅製のヒートパイプを用いることで、LEDの熱を取り去るというもの。LEDの素子から発生する熱は、ヒートパイプを通り、アルミニウム製のヒートシンクへと移動する。

 一般的なLED照明は接合部温度が約130℃まで上昇し、製品寿命は5万時間程度だが、ヒートパイプテクノロジーにより、LEDの接合部温度を53.4℃と低く抑制し、連続使用時間16万時間を超えても、ライトの色や明るさを長期的に均一に保つことができるという。

 製品名のArielは、イギリス初の人工衛星から取ったという。

 「宇宙に浮かぶ人工衛星のようなイメージの照明を作りたかった」という。

銅製のヒートパイプを使う独自の技術を採用
熱を放熱するヒートシンク
宇宙に浮かぶ人工衛星のようなイメージで製品をデザインしたという

LED電球に未来はない

 ダイソンに参入した今、照明以外のほかの製品の開発にも関わっていくのか。

 「何かをはじめたら、終わりまで見届けないといけない。今後も照明器具の開発を進めていく。というのも、現在の市場にはたくさんの問題があるからだ。

 蛍光灯の例からいえば、寿命は長い(一般的に6,000〜20,000時間と言われている)というが、実際には500〜1,000時間程度の寿命しかない。LED電球もそれと同じように実際の寿命より長く、謳っている製品が多い。たくさんのLED電球を壊して、中を見たがどれも同じ問題を抱えていた。つまり、熱を放出できていないということだ。“LED電球は長寿命”という誤った情報を消費者に与えてしまう。私は、LED電球というのは、将来なくなると考えている。

 例えば今インタビューしているこのスペース(ダイソン表参道店)を十分に明るくしようとしたら、20個ほどの電球が必要で、その配置まで考えなくてはならない。しかし、アリエルなら1つで、充分で明るくできる。

 オフィスライティングの話でも触れたが、現在の照明器具で決められている基準というのは、1960年代の技術、蛍光灯を基に作られたもので、今のLEDには全く合っていない。おそらく、近い将来これらの基準は変わるだろう。

 私は、たくさんの光源を好まないし、欲しているものは1つしかない。それはコンバーチブル(屋根のない車体)に乗っているような感覚だ。太陽の光、あるいは星の光が気持ち良く照らしてくれる。そういう照明をみんな欲しているはずだ」

(阿部 夏子)