そこが知りたい家電の新技術

理想の空気清浄機を作るために専業メーカーを立ち上げたブルーエアのこだわり

空気清浄に特化したブルーエアの空気清浄機。適用床面積に応じてラインナップ展開されている

 PM2.5や黄砂、花粉など様々な要因から空気清浄機を使う人が増えている。国内シェアは空気清浄機と加湿機能、機種によっては除湿機能まで搭載した“複合型”の製品が占めているが、その一方、空気清浄だけに特化した製品も注目され始めている。

 というのも、一昔前のように、限られた時期だけ使う季節家電としてではなく、空気清浄機を一年中使い続ける人が増えているからだ。

 花粉の時期だけ、インフルエンザがはやる時期だけというように特定の時期に使うものであれば、そのシーズンだけメンテナンスを集中的にすればいいが、オールシーズン、頻繁にメンテナンスをするのは面倒。特に加湿器や除湿機といった水が関わる機器は頻繁に手入れをしないと、カビの温床になることも考えられる。

 空気清浄に特化した製品を扱うメーカーの中でも、空気清浄機だけを作り続ける“専業”メーカーというのはなかなかない。今回は、スウェーデンの空気清浄機“専業”メーカー、ブルーエア CEOのBengt Rittri(ベント・リトリ)氏に空気清浄機に対してのこだわりを伺った。

空気がきれいなスウェーデンで空気清浄機専業メーカーを立ち上げた理由

ブルーエア CEOのBengt Rittri(ベント・リトリ)氏

 ブルーエアは北欧、スウェーデンの会社だ。日本や中国、アメリカなどに比べると遙かに空気がきれいな場所で、空気清浄機が必要だとは思えない。そのような環境で空気清浄機メーカーを立ち上げようと思い立ったのは、彼の前職が深く関係している。

 「スウェーデンの大手家電メーカーで仕事をしており、そこで空気清浄機を担当したのがきっかけだった。空気清浄機に関してかなり研究を進めたが、グローバルで展開している大きな会社だったので、自分の思うように開発を進められなかった。例えば、予算を確保するのも大変だしね(笑)。そんな時期に、子供達とスウェーデン郊外の森に遊びに行ったときに、都市部との空気の違いに驚いたんだ。世界的に見れば、空気がきれいなはずのスウェーデンでさえ、都市部と森の中の空気はこれほどまでに違う。自宅でこういう空気を味わえたら最高だろうなと改めて、理想の空気清浄機のイメージが固まった。ただし、それは今の会社で作るのは無理だろう、だったら自分で会社を立ち上げようと思ったのがきっかけだ」

 しかし、スウェーデンで空気清浄機を作って売れるのだろうか。

 「そもそも、国内だけでビジネスするつもりはない。小さな国だし、その前の仕事でも、ずっと国外向けの製品を作っていた。前職では家電製品がどうやって作られて、どうやって売るのか、事業の全てを見ていたので、きちんとした製品を作りさえすれば、きっと売れるだろうという自信もあった」

 事業をスタートしたのは1996年、本社はスウェーデンの首都、ストックホルムに構える。

 「本社のスタッフは20~30名と多くないが、20代のスタッフも多く、マネージャーも30代ととてもフレッシュでエネルギーに満ちあふれた職場だよ。彼らは、空気をきれいにしたいという私の理念をきちんと理解してくれて、それを応援してくれている」

 彼が見せてくれたストックホルム本社の写真からは、そんな雰囲気が伝わってくる。ストックホルムの街中にあるピンク色のビルの一室に入居しており、スタッフを自宅に招いてホームパーティーをすることも多いのだという。

ブルーエアの本社があるストックホルム市内
ピンク色のビルがブルーエア本社だ
社内の様子。こちらはミーティングルームだという

 ブルーエアは本社スタッフわずか30名でありながら、ブルーエアの製品は現在世界50カ国で展開している。もちろん各国の販売代理店とタッグを組んでいるとはいえ、日本のメーカーでは考えられないことだ。

 「前職で家電製品を売るためのノウハウを身に付けていたこと、スウェーデンという国が、IKEAやH&Mに代表されるようなグローバル企業が多いということはもちろんあるが、一番は空気清浄機の性能に絶対の自信があったから、現在のようなグローバル展開が実現した」

 彼の信条の1つに「売れるためのモノ作りは目指していない。良いモノを作れば必ず売れる」というのがある。空気清浄機を作るためだけに新たに企業を立ち上げた彼は、フィルターや内部構造も全て自社で開発している。

 「空気清浄機で大切なことは3つあると考えている。1つめはより速くゴミを取り除くこと、2つめはできるだけ小さな物質を除去すること、3つめはその性能を維持することだ。我々の製品には、この3つの条件が揃っている。そのために重要なのは独自のヘパサイレントテクノロジーだ」

 一般的な空気清浄機の多くが0.3μmの微細なゴミを99.97%取るとされているHEPAフィルターを採用している。しかし、ブルーエアではHEPAフィルターを使っていない。

 「HEPAフィルターは、網目が細かいので、細かいゴミまで取り除くことができるが、一度フィルターに付着したゴミはそのままで、すぐに目詰まりしてしまう。目詰まりした状態のフィルターに空気を通すのは負荷が大きく、モーターもたくさん動かす必要がある。運転音も大きくなってしまう。我々のヘパサイレントテクノロジーでは、それを避けるためにHEPAフィルターよりも目の粗い3つのフィルターを重ねている。3つのフィルターは大、中、小で目の粗さが異なっている。

目の粗さが異なる3つのフィルターを重ねている

 吸い込んだゴミをイオナイザーという機構でマイナス帯電させ、フィルターをプラスに帯電させることで、ゴミを静電気の力でフィルターに付着させている。そのとき、フィルターの網目ではなく、繊維のところに引っ掛けるようにして付着させることで、目詰まりを防ぐような工夫も行なっている」

イオナイザーで吸い込んだゴミをマイナス帯電させ、プラスに帯電したフィルターに静電気の力で付着させている

 また、たくさんの空気を吸い込むために、上位機種の650Eでは、換気扇に使うシロッコファンと同じものを採用。筐体をスチール製にすることで、運転音も抑えている。

 「ブルーエアでは、何も気にしなくても常に空気が綺麗である状態を理想としている。運転音やデザインなど極力存在感がない方がいい。それでも我々の技術は、0.1μmの微細なゴミを99.97%取り除くことができる。これは帯電技術がなければ実現しない数字だ」

課題のある人が選ぶ空気清浄機

 高い技術力に自信を持つブルーエアだが、その一方、半年に1回は1万円近い金額を出してフィルターを交換する必要がある。これは日本の空気清浄機のフィルターに比べると倍以上する価格だ。

 「確かにランニングコストが大きなハードルになっている面もある。しかし、我々の製品は花粉やぜんそくなど空気になんらかの課題がある人が選ぶ製品だ。その人たちにとって、フィルターの性能が低下することは体調に関わる問題だし、逆に定期的に交換すれば性能をずっと維持できるというのは大きなメリットになりうる。実際、ブルーエアユーザーの約6割が24時間、365日間ブルーエアを起動させている。フィルターの値段が高額になってしまうのは、我々が一般的に多く出回っているHEPAフィルターではなく、独自開発したフィルターを採用しているからだ。どこででも手にはいるものではないので、どうしても価格が高くなってしまう」

中国で2強の実力

 世界50カ国で製品展開するブルーエアだが、最近伸長が著しいのが中国だという。

 「中国の大気汚染の問題は深刻で、特に富裕層は高額な空気清浄機を次々に買い求めている。9月にドイツ、ベルリンで開催されたIFAで発表した新ライン『Blueair PRO』シリーズも中国からのニーズに対応して開発したもの。より高性能で、広い空間に対応するものをというのが中国チームからの要求だった」

 「Blueair PRO」は、従来より高性能なフィルター、センサーを搭載したモデルで、XL/L/Mの3サイズが展開されている。XLは110平方m、Lは72平方m、Mは36平方mに対応しており、XLの本体の高さは1,120mmと一般的な空気清浄機の約2倍となっている。現在中国市場では、IQエアという高級空気清浄機メーカーと二分するシェアを獲得しているという。

9月のIFAで発表したより高性能な「Blueair PRO」。写真手前から、M、Lサイズ
XLサイズの高さは1,120mm。110平方mまで対応する

 「中国を初めとするアジア地域では順調なセールスを記録している。もちろんビジネスの成功は重要なことだが、それよりも私が理想とするのは“きれいな空気を提供すること”。その理念を追求するために、今後も様々な製品を展開していきたい」

阿部 夏子