そこが知りたい家電の新技術

シャープ「プラズマクラスター洗濯機 ES-V520」

~時間、シワ、音…ドラム式洗乾の課題解決に挑む
by 大河原 克行
シャープ「ドラム式洗濯乾燥機 ES-V520」

 シャープは、ドラム式洗濯乾燥機「ES-V520」を3月10日から発売した。

 ES-V520は、ドラム後方中央部から吹き出す大量の温風で衣類のシワを抑える「風プレス」乾燥と、約60℃の微細な蒸気を吹きつけるシャープ独自の「Wホットスチーム」により、風合いの良い上質な仕上がりを実現する新乾燥システム「スチーム・風プレス」を搭載。洗濯後のアイロンがけの手間を低減するという。

 さらに、このシステムを利用して、2kg程度の家族3人の1日分の洗濯物を、約1時間で乾燥まで仕上げる「毎日洗乾コース」を実現しているのも大きな特徴だ。

 一方、高濃度プラズマクラスターイオンの放出機能も搭載することで、ドラム内で衣類を消臭。さらに、洗濯終了後にはドラム内に吹き出し、付着カビ菌を抑制する。加えて洗濯機の外側にも同時にイオンを放出し、洗濯機の設置空間の浮遊カビ菌や雑菌を、分解、除去することができる。

 「昨年のモデルでも、ホットスチーム機能やプラズマクラスター機能を搭載していたが、今年のモデルはそれをより進化させたものになる」と同社では位置づける。

 新しいドラム式洗濯乾燥機「ES-V520」への取り組みを、シャープ 健康・環境システム事業本部ランドリーシステム事業部の阪本実雄事業部長に聞いた。

日本は洗濯乾燥機の需要が高いのに、市場構成比は横倍。その課題とは

シャープ 健康・環境システム事業本部ランドリーシステム事業部 阪本実雄事業部長

 阪本氏によると、日本は、洗濯乾燥機の潜在需要が高い市場という。ASEAN地域では、強い日差しと年間を通じた温暖な気候のため、乾燥機能がいらないという国もあるが、日本には四季があり、しかも年間の3分の1が雨という状況にある。

 「梅雨や台風シーズン、秋の長雨といった雨の日が続くと、洗濯物が乾かないという問題が起こる。さらに、春は洗濯物に花粉がついてしまうといった問題や、冬は一日干しても乾かないという課題もある。洗濯乾燥機は日本の家庭にとっては必需品になる」と、阪本事業部長は語る。

 だが、ここ数年、洗濯乾燥機の市場構成比は横ばいのままだ。

 縦型洗濯乾燥機、ドラム式洗濯乾燥機を合わせた洗濯乾燥機の市場構成比は、2010年度見込みで29.0%。2006年度以降、28%前後で推移していることと比較しても、大きな変化はない。

 「日本の市場では乾燥機能が必要とされているのに、なぜ構成比が伸びないのか。それを打破するには、洗濯乾燥機が持つ課題を解決することが必要であると考えた」

乾燥機能を週4回以上使うと答えたのは3割にとどまった

 ドラム式洗濯乾燥機の購入者を対象に調査したところ、乾燥機能を週4日以上利用している人は30%に留まり、約7割が毎日は使用していないことがわかった。その理由としてあがっているのが「乾燥時間が長い」ということ。さらに、乾燥シワが多いという不満や、音が大きいために使いにくいという声もあがっていた。

 ドラム式洗濯乾燥機の利用者の約85%が早朝、夕方、夜に洗濯を行なっており、音が大きいという不満点は、乾燥利用の妨げにもなっていたのだ。

 「今回発売したES-V520は、ドラム式洗濯乾燥機が持つ『時間』、『シワ』、『音』という問題を解決することを開発コンセプトにおいた商品。乾燥機能をより使っていただけるように改良を加えた」

製品本体扉を開けたところ

シワ・時間・音の問題点を解決する「スチーム・風プレス」機能

 ES-V520の最大の特徴は、「スチーム・風プレス」といっていい。そして、この機能が、時間、シワ、音という3つの課題解決に大きく寄与している。

 スチーム・風プレスは、「風プレス」と「Wホットスチーム」という2つの機能によって実現されるものだ。

 同社の従来製品では、風の吹き出し口が前方にあったため、衣類が後方に偏りやすく、乾燥に時間がかかるという課題があった。

 ES-V520では、ドラム後方中央部に吹き出し口を設置。大量の温風によって、後方に偏りやすい衣類を前方に乾かしながら押し出すため、衣類がドラム内を広く動くことになる。これにより、ムラを抑えて、効率よく乾燥することができるというわけだ。

 この機能が「風プレス」。後方中央部から大量の風を吹き出すことができるのはシャープ独自のものだ。

ドラム後方中央部から風を吹き出す「風プレス乾燥」風が前方に向かって勢いよく吹き出すので、後方に偏りやすい衣類を前方に押し出すというドラム中央部には風の吹き出しが設置されている

 これを実現できたのは、シャープが縦型洗濯機で約10年前から採用してきた、同社特許技術である「穴なし槽」の仕組みが生かされている点が見逃せない。洗濯槽と水槽の間に水が入らないようにする「穴なし槽」で採用しているシール技術を活用。大きな経の吹き出し口を実現しながら、そこから水を漏らさない仕組みとしているのだ。

 さらに、ドラム後方に吹き出し口を配置しているため、音が聞こえにくく、水槽と風路を一体構造としたことで音漏れを低減。従来製品に比べて、乾燥風量を1.7倍にしながら、乾燥時の騒音を41dbへと低減することに成功した。

 実際に乾燥運転中の音を聞いてみたが、夜中に利用していても気にならないほど、静かな運転音であることを実感できた。

乾燥工程の最終段階で2カ所からスチームを噴射する「Wホットスチーム」機能。繊維の表面を起毛させ風合いを良く仕上げるという

 一方、「Wホットスチーム」は、蒸気を吹きつけることで、衣類を風合いよく仕上げることができる機能だ。

 「アイロンがけの際に、衣類にスチームし、仕上げをよくしていることに着目。乾燥運転の最終段階でスチームを噴射し、潤いを与えながら乾燥することで、繊維表面を起毛させ、風合いをよく仕上げることができるようになることがわかった。新製品では、スチームの吹き出し口を2か所にしたほか、スチーム量のバランスや、スチームが全体に広がる構造に改良し、より効果的なスチームを可能にしたのが今年の大きな進化」(阪本氏)

 例えばタオルの場合、乾燥工程でパイルが倒れたまま乾燥されてしまい、これがゴワゴワ感を持った仕上がりにつながっていた。だが、最終段階でスチームを加えると、再度パイルが水分を吸収。パイルが柔らかくなり、温風により起毛するという。

 乾燥させたタオルを畳んで重ねたときに、Wホットスチームによるタオルの方が嵩(かさ)が増えていることからも、繊維が起毛して、ふんわり仕上がっていることがわかるだろう。

 風プレスとWホットスチームの組み合わせによって、ドラム内を広く使って乾燥させること、スチームによる仕上げを実現することで、乾燥後のYシャツのアイロンがけの手間を軽減しているのも大きな特徴となっている。休日に気軽に着る部屋着用のYシャツなら、素材によってはそのままアイロンをかけずに着ることができる範囲にまで進化している。

“毎日使ってほしいから” 1時間で洗濯から乾燥まで仕上げるコースを用意

「毎日洗乾コース」は、2kg程度の洗濯物を1時間で乾燥まで仕上げる。2kgという量は、共働きの夫婦と、1人の保育園児がいる家庭を想定したものだという

 風プレスとWホットスチームの組み合わせは、2kg程度の家族3人の1日分の洗濯物を、約1時間で乾燥まで仕上げる「毎日洗乾コース」の実現につながっている。

 シャープでは、共働きの夫婦と、1人の保育園児がいる家庭を想定。一日の洗濯料を、Yシャツ2枚、Tシャツ2枚、下着2枚、キャミソール1枚、スポーツウェア2枚、靴下2枚、タオル2枚、小児用スモッグ1枚、小児用半ズボン1枚で合計2kgと換算し、これを1時間で洗濯・乾燥できるようにした。

シャープ 健康・環境システム事業本部ランドリーシステム事業部商品企画部 平原大悟主事

 「家庭のなかでは、テレビドラマが1時間、お風呂にゆっくり入って、髪の毛を乾かして、肌の手入れをするのに1時間というように、1時間単位で動くサイクルがある。そこで毎日洗乾コースでは、1時間というなかで乾燥までを実現することにこだわった。ドラマをみている間、お風呂に入っている間という時間で乾燥まで仕上がることで、乾燥機能をより使ってもらえるようにした」(シャープ 健康・環境システム事業本部ランドリーシステム事業部商品企画部・平原大悟主事)という。

 洗浄時には、Wホットスチームによる約60℃の微細な蒸気を吹きつけることで酵素を分解しやすい環境を作り、繊維の奥の皮脂汚れをスチームで浮かし、短時間で汚れを落としやすくしている点も見逃せない。

 ES-V520は、洗濯容量で10kg、乾燥容量で6kg。そこまでの容量は必要はないとされる3人家族をターゲットに、毎日洗乾コースを想定した点では、ややターゲットが異なると見ることもできる。また、消費電力の観点からも大型であることが気になるところだ。

 その点について、阪本事業部長は次のように説明する。

 「3人家族では洗濯容量で6kgで十分という声もあるだろう。だが、3人家族で利用しているシーツや毛布がダブルという場合も少なくないはず。集合住宅では、大きなシーツを干す場所がなく、乾燥にまで使いたいという声も聞く。その際にはやはり大型サイズが必要となる。頻繁には利用しないにしても、3人家族でも10kgクラスの洗濯乾燥機を利用するメリットはそうしたところにある。また、毎日洗乾コースを利用すると、1時間という短い時間で済むため、結果として洗濯乾燥にかかる電気料は、6kgサイズなどと同じ水準で済むことになる」

 同社の発表によると、電気代は1回20円という水準だ。

 ただし2kg以上の容量になった場合には、毎日洗乾コースが完了するまでの時間は長くなる。つまり毎日洗乾コースは、2kgの洗濯物を洗濯、乾燥する際に、時間、電気料金などにおいて、最適のバランスが取られているコースだともいえる。

 取材の際には、毎日洗乾コースを利用しながら、2kgの洗濯物で動作させた結果が示された。同社従来製品と比較すると、その差が歴然である(写真は下)。綿を繊維としているシャツでも、シワが少ないことが、写真からもわかるだろう。

 少量で洗濯、乾燥すれば、それだけドラム槽内を洗濯物が広く動きまわり、よりシワが少なくて済む。大量の温風が吹き出すことで、シワを伸ばしながら、衣類を撹拌。仕上げに蒸気を吹き付けることで、風合いよく乾燥しているのだ。

綿100%のシャツを乾かした場合。左がES-V520、右が従来機種で乾かしたもの化繊混のシャツ。綿100%に比べてシワがつきにくい。左がES-V520、右が従来機種
こちらはタオルを選択/乾燥した例。タオルの厚みや表面の仕上がりに差が出ている。毎日洗乾コースで乾燥したタオル従来機種で乾燥したタオル天日干しで乾燥したタオル。天日干しで乾燥したタオルが最もボリュームがなく、表面の繊維も寝てしまっている

プラズマクラスターイオンとAg+イオン発生ユニットでダブルの除菌機構

 ES-V520のもう1つの特徴は、同社の除菌・脱臭技術「高濃度プラズマクラスターイオン7000」を搭載したことだ。

 これにより、水で洗えないような帽子、洗いにくいようなスカーフ、ペット用品などをドラム内で消臭。10分間で衣類のスピード消臭およびスピード除菌を実現する。

 10分間での分解、消臭能力は90%以上。30分では約99%の消臭が可能だ。また、洗濯終了後には、洗濯物を取り出して蓋を閉めると、室内クリーン運転がスタートし、2時間30分に渡って自動運転を行ない、ドラム内の付着カビ菌を抑制する。

 「昨年までの製品では、除菌の機能までを明確に表現することができなかったが、公的機関の試験によって除菌の効果が実証され、明確に効果を示すことができるようになった」という。これらの検査は、京都微生物研究所、大阪府立産業技術総合研究所で実施されたものだ。

 加えて洗濯機の外側にも同時にイオンを放出し、洗濯機の設置空間の浮遊カビ菌や雑菌を分解、除去することができる。

 さらに、水で洗えるものについては、Ag+イオン発生ユニットの搭載により、Ag+イオンコートで除菌、防臭を行なうことが可能だ。

 「Ag+イオン発生ユニットは、電気分解によりAg+イオンを発生するが、濃度をコントロールできるのはシャープだけ。高濃度の強モードにすることで、静電気を抑え、花粉の付着も抑える。Ag+イオンコートがないものに比べると、花粉の付着数は10分の1以下になる」(シャープ・平原主事)という。

高濃度プラズマクラスターイオンを使うことで、スカーフや帽子など洗濯機では洗えない衣類のニオイを取ったり、洗面所などの室内の浮遊カビ菌を抑制する効果もあるというプラズマクラスターイオンの本体外への吹き出し口は、天面部にあるAg+イオン発生ユニット搭載で、洗濯時に汗や部屋干しのニオイの元を取り除くという。また、強モードにすることで、静電気を抑え、花粉の付着を抑える効果もあるという

 このようにES-V520では、「時間」、「シワ」、「音」というドラム式洗濯乾燥機が持つ問題を解決一方、シャープの独自技術であるプラズマクラスターイオンを活用した消臭、除菌を可能にしたのも大きな特徴だ。

 ES-V520によって実現されるこれらの課題解決と、プラズマクラスターイオンというシャープならではの付加機能によって、構成比の伸びが横ばいとなっている洗濯乾燥機の市場構成比の拡大に影響を与えられるだろうか。





2011年3月30日 00:00