第8回:スマホ時代の新必需品「モバイルバッテリー」はどれを選べば良い? 後編

~容量4,000mAh以上、2回充電できる“大容量モデル”の場合

 今回の実践! 家電ラボは、「賢いモバイルバッテリー選び」がテーマ。前編では「スマートフォンを1回充電できればOK!」というヒト向けに、容量3,000mAh未満の“ライトモデル”のモバイルバッテリーを紹介した。

前回に引き続き、各種のモバイルバッテリーとスマートフォンを総当たりで充電実験だ!前編で説明した、容量を表す「mAh」という単位の原理模型。わからない人は昨日の記事をチェックだ!

 後編となる今回は、「出先の充電は1回じゃ足らん!」というヘビーユーザー向けに、スマホがほぼ2回充電できる、大容量の5,000mAhクラスの製品を紹介しよう。

 何度も言うけれど、当連載のモットーは

Do it oneself!

 実際にiPhoneとAndroidを充電した結果から、賢いモバイルバッテリーの選び方を紹介していこう。


スマートフォンなら2回以上、iPadなら半分充電できる“大容量モデル”を試す

 今日、実際に使用する機器は、容量4,000mAh以上の“大容量モデル”5機種。容量が3,000mAh未満の“ライトモデル”3機種については、前回をご確認いただきたい。

【今回紹介するモバイルバッテリー5機種】
カテゴリメーカー名製品名・品番電池容量実売価格
(12月6日時点)
大容量

モデル

(4,000mAh

以上)

ソニーUSB出力機能付きポータブル電源セット
CP-A2LS
4,000mAh2,800円
エレコムDE-U01L-47104,700mAh3,410円
パナソニックUSB対応モバイル電源パック
QE-PL201
5,400mAh3,563円
三洋電機エネループ モバイルブースター
KBC-L54D
5,400mAh3,840円
OTASMiLi Power Prince5,000mAh8,925円

 スマホで頻繁に地図を調べたり、動画を見る機会が多いパワーユーザーには、前回紹介した3,000mAhクラスでは物足りない。約2回充電できる大容量クラスのモバイルバッテリーが良いだろう。またiPadをはじめとしたタブレットは、内蔵電池容量も多いので、50%ほど充電できる5,000mAhクラス以上が必然的に必要となる。

 実験に使用するスマートフォンは、ソフトバンク「iPhone 3GS」と、NTTドコモの「XPERIA SO-01B」。電池の充電具合は、本体の残量表示部に表示されている数値で表す。iPhone 4/4SやAndroidの最新機種などについては、これらの測定結果を元に算出した“理論値”という形で表示する。

【実験に当たっての注意】

・充電回数など、測定にあたっては、モバイルバッテリーを一度完全に充放電を行なった後、フル充電したものを利用しています。購入直後のモバイルバッテリーでは、実験どおり回数だけ充電ができない場合があります。
・バッテリーは温度や利用方法などによって性能が大きくことなるので、必ずしもこのデータ通りにはなりません。実験は室温を管理していない環境で行なっています。
・市販の測定器とオリジナルの回路を使っているため、測定器内部の抵抗や実験装置および配線の抵抗により、メーカー発表の値とは必ずしも一致しない場合があります。測定結果は、あくまでも相対的な参考値としてご利用ください。


ソニー「USB出力機能付きポータブル電源セット CP-A2LS」(4,000mAh)

ソニー「USB出力機能付きポータブル電源セット CP-A2LS」

 このソニーのモバイルバッテリーの特徴は、専用充電器とモバイルバッテリーをドッキングさせて充電できるため、コードが不要で、邪魔にならない点だ。充電器は100V~240Vまで対応しているワールドワイド仕様。海外でスマートフォンを使う場合は、コンパクトでトランクの隙間に忍ばせておける点がうれしい。また、バッテリー部のボタンを押すことで、4灯のインジケーターが点灯し、残量がひと目で分かる。

 

【主なスペック】
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価格2,800円前後
内蔵電池容量4,000mAh
出力コネクタUSB×2
最大出力電流1,000mA
充電コネクタ専用ACアダプタにドッキング
付属品充電用ACアダプタ
残量インジケータ4灯グラフ式
繰り返し利用回数約500回
重量145g(バッテリー部分)
190g(ACアダプタドッキング時)
サイズ58×84.5×26.4mm(バッテリー部分)
58×131×26.4mm(ACアダプタドッキング時)

 また、バッテリー容量にしては入手価格が非常に安い点も特徴。出力のUSBコネクタも2つあり、それぞれで500mAが出力できる。機器の2台同時充電もできる。メーカーの正式な対応は謳われていないが、1コネクタから1,000mAを取ることも可能になっている。

 しかし、実験をしたところ、他のモバイルバッテリーよりものロスが10%ほど多めに出てしまったのは気になった。

充電部は専用ACアダプタにドッキングするので、コンセントにコードが絡まったりなど、邪魔にならないのがいいUSBポートは2口。バッテリ残量は4灯のLEDで表示される

【実験結果】
測定状況スマートフォン電池容量充電回数
実測iPhone 3GS1,219mAh1回と80%
実測XPERIA SO-01B1,500mAh1回と13%
実測iPad6,613mAh34%
理論値iPhone 41,418mAh1回と55%程度
理論値GALAXY SII1,600mAh1回と10%程度
理論値Android系1,400mAhクラス1回と27%程度
理論値Android系1,800mAhクラス1回程度
本体充電時間5時間40分(専用ACアダプタ利用時)

使い勝手:専用ACアダプタにドッキングして充電できるので電線が邪魔にならない。またワールドワイド対応のACアダプタなので海外で使う人、容量の割りに価格が安いので始めて購入するモバイルバッテリーとして便利。


エレコム「モバイルバッテリー DE-U01L-4710」(4,700mAh)

 このバッテリーの特徴は、なんと言っても14mmという薄さだ。一般的なモバイルバッテリーは「18650」と呼ばれる、18×65mm(直径×高さ)の円筒形のリチウムイオン電池を使っているため、厚さが2cm以上になってしまうことが多い。しかし本製品は、ポリマー電池を使っているのだろうか、スマートフォンとほぼ同じ厚さと大きさになっている。

エレコム「モバイルバッテリー DE-U01L-4710」。4,700mAhという高容量に加え、薄い点が特徴だこのモバイルバッテリーとは関係ないけど、写真はデジカメなどの電池として使われているリチウムイオン電池の「18500」サイズ。モバイルバッテリーで広く採用されている「18650」よりも小さいけど、直径は18mmとそれでも太い

 カラーは白と黒が用意され、iPhone用とスマートフォン用の2モデルが用意されているが、容量など基本的なスペックは同じだ。iPhone用を購入しても付属のケーブルはmicroUSBなので、別途Dockケーブルを用意する必要がある。残量表示は4灯のグラフで表示されるのでとても見やすい。

【主なスペック】
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価格3,600円前後
内蔵電池容量4,700mAh
出力コネクタUSB×1
最大出力電流1,000mA
充電コネクタmicroUSB
付属品micro USB - USBケーブル(充放電兼用)
残量インジケータ4灯グラフ式
繰り返し利用回数約500回
重量110g
サイズ107×61×14mm

 特筆すべきは、他のモバイルバッテリーに比べ、充電のロスが10%ほど少なく、スマホの充電にまわせる電池容量が多い点だ。結果、5,400mAhのモバイルバッテリーに迫る充電回数をマークした。なお、先日公開した1,800mAのモデルと同様、iPadの充電はできなかった

【実験結果】
測定状況スマートフォン電池容量充電回数
実測iPhone 3GS1,219mAh2回と62%
実測XPERIA SO-01B1,500mAh1回と64%
実測iPad6,613mAh充電できず
理論値iPhone 41,418mAh2回と27%程度
理論値GALAXY SII1,600mAh1回と74%程度
理論値Android系1,400mAhクラス(理論値)1回と95%程度
理論値Android系1,800mAhクラス(理論値)1回と54%程度
本体充電時間5時間48分(5V、1,000mA USB ACアダプタ利用時)
 

使い勝手:その薄さゆえに、スマートフォンとモバイルバッテリーを重ねて、シャツの胸ポケットに入れたまま充電ができる。ただしスイッチの出っ張りがあるため、バッテリーの上にスマホを置いての充電は避けたほうがよさそうだ。

パナソニック「USB対応モバイル電源パック QE-PL201」(5,400mAh)

パナソニック「USB対応モバイル電源パック QE-PL201」

 前編で紹介した、パナソニックの2,700mAhモデルの2倍の容量となる、5,400mAhの大容量モバイルバッテリーだ。

 この後に紹介する三洋製のバッテリーとほぼ同じスペックだが、パナソニック製は無線充電の「Qi(チー)規格」に対応しているので、別売の充電パッドを使うとおよそ7時間(メーカー公表値。今回の実験では5時間半)でフルチャージが可能。また添付のACアダプタはワールドワイド対応となっており海外での利用もできる。これを使うと充電パッドと同じ7時間(メーカー公表値)。帰宅したら充電するように心がければ、毎日外出先でスマートフォンが2回ほど充電できることになる。

【主なスペック】
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価格3,600円前後
内蔵電池容量5,400mAh
出力コネクタUSB×2
最大出力電流1,500mA
充電コネクタmicro USB、無線充電Qi対応
付属品ACアダプタ、micro USB - USBケーブル
(充放電兼用)
残量インジケータ1灯3色
繰り返し利用回数記載なし
重量140g
サイズ63×70×24mm

 容量5,400mAhになると、iPhone系なら3回近く、Android系でも2回近く充電ができるのでヘビーユーザーには自信を持ってオススメだ。USBコネクタも2つあり、最大1500mAまで出力できるので、iPad + スマートフォンの2台同時充電も可能だ。無線充電のQiにも対応しており、付属のACアダプタで充電するのとほぼ同時間でフルチャージが可能という点も好印象(今回の実験では5時間半だった)。残量は緑→オレンジ→赤で表示されるが、ほぼ50%のオレンジでも、かなり電池容量が残っていた。これには驚きだ。

【実験結果】
測定状況スマートフォン電池容量充電回数
実測iPhone 3GS1,219mAh2回と92%
実測XPERIA SO-01B1,500mAh1回と88%
実測iPad6,613mAh56%
予測値iPhone 41,418mAh2回と49%程度
予測値GALAXY SII1,600mAh1回と88%程度
予測値Android系1400mAhクラス2回と12%程度
予測値Android系1800mAhクラス1回と65%程度
本体充電時間5時間34分(添付ACアダプタ利用時)

使い勝手:2,700mAhモデルと同じDC/DCコンバータを利用しているようで、静かな場所では時おり聞こえるキーン音が少し耳障り。携帯ストラップが付けられる穴もあり、細かな配慮がされているという印象。


三洋「エネループ モバイルブースター KBC-L54D」(5,400mAh)

三洋「エネループ モバイルブースター KBC-L54D」

 パナソニックの5400mAhとほぼ同じスペックだが、こちらは無線充電に対応していない。しかし、付属のACアダプタによる充電時間が4時間と、パナソニックに比べ1時間半ほど早い点はうれしい。

 なお後述するが、5Ωの抵抗を接続して約1000mAの電流を流し、電圧と電流の安定性を調べたところ、パナソニックより三洋のエネループモバイルブースターの方が電圧・電流ともに安定していた。

【主なスペック】
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価格3,800円前後
内蔵電池容量5,400mAh
出力コネクタUSB×2
最大出力電流1500mA
充電コネクタmicroUSB
付属品ACアダプタ、microUSB - USBケーブル(充放電兼用)
残量インジケータ1灯3色
繰り返し利用回数記載なし
重量142g
サイズ70×60×22mm

 こちらもパナソニックの5400mAhと同様、iPhone系なら3回近く、Android系でも2回近く充電ができる。USBコネクタは2つあり最大1500mAまで出力できるので、iPad+スマートフォンという、2台同時充電も可能だ。

 実験で差が大きく出たのは充電にかかる時間。パナソニック、三洋ともメーカー公表値では7時間でフルチャージとなっているが、パナソニックが5時間半なのに対して、三洋は4時間で充電できた。割合にするとパナソニックの7割の時間でフルチャージできことになり、充電時間が気になる人には三洋製がオススメだ。

【実験結果】
測定状況スマートフォン電池容量充電回数
実測iPhone 3GS1,219mAh2回と98%
実測XPERIA SO-01B1,500mAh1回と97%
実測iPad6,613mAh51%
予測値iPhone 41,418mAh2回と49%程度
予測値GALAXY SII1,600mAh1回と88%程度
予測値Android系1400mAhクラス2回と12%程度
予測値Android系1800mAhクラス1回と65%程度
本体充電時間4時間(添付ACアダプタ利用時)

使い勝手:パナソニック同様に、静かな場所では時おり聞こえるキーン音が少し耳障り。電圧・電流はパナソニックに比べると安定しているようだ。


OTAS「MiLi Power Prince」(5,000mAh)

OTAS「MiLi Power Prince」

 OTASのモバイルバッテリー「MiLi Power Prince」は、家電量販店などではあまり見かけないが、コアなモバイラーには人気のメーカーだ。このバッテリーの最大の特徴は、スイッチで出力電流を2,100mAに切り替えられること。実際に試せなかったが、理論上iPad2台を同時充電できるというパワフルさを持っている。

 また付属のケーブルは先端のコネクタが差し替えられるようになっており、iPhoneとAndroidに対応するだけでなく、携帯用ゲーム機の充電も可能だ。さらに出力コネクタはUSBの5V以外に、9~12Vの出力コネクタも併せ持ち、幅広い機器の電源としても利用できるようになっている。

【主なスペック】
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価格9,000円前後
内蔵電池容量5,000mAh
出力コネクタUSB×1、9~12V専用コネクタ
最大出力電流2,100mA
充電コネクタ専用コネクタ
付属品専用ACアダプタ、汎用コネクタ - USBケーブル
変換コネクタ8種添付
残量インジケータ4灯グラフ式
繰り返し利用回数約500回
重量160g
サイズ65×120×15mm
 

 このモバイルバッテリー、使い方にかなりクセがある。4灯のグラフ式残量表示はあるのだが、パワーランプを兼ねていないため、電源ON/OFFの状態が本体だけでは確認できない。スマホ側の充電状態を確認してはじめてON/OFFが分かるというのは少し不便だ。

 また、専用ケーブルだと上手く充電できるが、ほかのUSB - microUSBケーブルだと、機種によっては上手く充電できないものもあった。とくに気になったのは、iPhone 3GSを充電したときのこと。通常モードだと電流が不足しているようで3GSが充電状態にならい場合があったのだ(iPhone 4は通常モードで充電できた)。電源ボタンを長押しして2,100mA出力モードに切り替えると、ようやく充電状態になった。慣れるには時間がかかりそうだ。

 マイナス面を多く書いてしまったが、専用のACアダプタで充電すると、5,000mAhという大容量にもかかわらず、2時間半で急速フル充電できる点は特筆すべき(実測値。ホームページでは約3時間とされていた)。「大容量タイプが欲しいけど充電時間が長くて困る」という人にはうってつけだ。

左からUSBコネクタ、出力コネクタ、充電用コネクタとなっている付属品として、さまさまなキャリアの携帯電話、ゲーム機に接続できるコネクタが用意されているのも魅力

【実験結果】
測定状況スマートフォン電池容量充電回数
実測iPhone 3GS1,219mAh2回と56%
実測XPERIA SO-01B1,500mAh1回と90%
実測iPad6,613mAh52%
理論値iPhone 41,418mAh2回と31%程度
理論値GALAXY SII1,600mAh1回と74%程度
理論値Android系1,400mAhクラス1回と96%程度
理論値Android系1,800mAhクラス1回と53%程度
本体充電時間4時間(添付ACアダプタ利用時)
 

使い勝手:厚さ15mmとスリムで電源スイッチが側面にあるため、スマートフォンをバッテリーの上に重ねて置いたまま充電ができる点がうれしい。クセさえ掴めばかなり便利に使えるバッテリーだが、いかんせん値が張る。


電圧・電流の安定性はソニー、三洋

 さてここで、前編と同様に、電気の流れを見てみよう。モバイルバッテリーに5Ωの抵抗をつなぎ、ほぼ1,000mAの電流が流れるようにして、電圧と電流を比較した。

電圧の変化。ソニー、三洋、パナソニックの順で安定している。OTASはかなり電圧が低め

 電圧の変動がなく、安定していたのはソニー、続いて三洋だ。三洋とほぼ同スペックのパナソニックは、ときどき電圧が低くなっている箇所が見られる。エレコムは他社を抜きん出て高い電圧を出すものの、4.7Vを中心に少し不安定さを見せている。最も電圧が低かったのはOTAS。iPhone 3GSが通常モードで充電状態にならなかった一因かもしれない。

 

電流は、エレコム、ソニー、三洋が安定。パナソニックがやや不安定に見えるが、実用レベルではまったく問題ないだろう。OTASは電流もかなり低め。iPhone 3GSが充電モードにならなかったのはこのせい

 

 一方電流を見てみると、電圧同様にソニー、三洋が安定。電圧は若干ブレていたエレコムは、他社を抜く高い電流を安定して出し続けている。いちばんブレが大きいのはパナソニックだが、途中で充電モードが解除されることはなかったので、実用するうえで特に問題はないだろう。電圧が低かったOTASは、電流面でも低い値を示している。


モバイルバッテリーの容量のうちおよそ半分はロスして使えない!?

 ここまで8製品の充電具合を実験してきたが、メーカーや容量を問わず、モバイルバッテリー全機種に共通する仕様があることがわかった。それは、モバイルバッテリーの電池容量が、すべてスマートフォンに給電できるわけではない、ということだ。

 パナソニックの5,400mAhモデルで例を挙げてみよう。この製品、モバイルバッテリーの容量は5,400mAhだが、Androidの充電に使われた容量は2,820mAh(1,500mAh×1.88回)。全電池容量のうち、52.2%と、なんとたったの半分しか使われていない。

 この件については、前編でも軽く触れたが、モバイルバッテリーの○○mAhという値は、丸々スマートフォンの充電に利用できない。上記の場合は、5,400mAhのモバイルバッテリーから、スマホの充電に使えた容量は52%で、残り48%はどこかに消えてしまった計算となる。勘違いしないでほしいのが、これはパナソニックに限ったことではなく、モバイルバッテリーとしてはどのメーカーの製品も、このようなロスが発生してしまっているのだ。

 ではロスした48%の電力はどこに消えてしまったのだろうか? その謎は、モバイルバッテリーに内蔵されているリチウムイオン電池の電圧と、USBコネクタから出力する電圧の違いにある。

 リチウムイオン電池の電圧はおよそ3.7Vだが、USBコネクタから出力する電圧は5Vなければスマホが充電できない。そのため、モバイルバッテリーには電圧を上げてやるポンプのような電子回路が入っているのだ。

3.7Vを5Vに昇圧するDC/DCコンバータ。大きさは20mm四方。中央の丸い部分がポンプに相当する。なんだか知らないけど、たまたま手元にあった(笑)

 その電池回路とは、右の写真のような「DC/DCコンバータ」と呼ばれるもの。その名の通り3.7Vの電圧を5Vに変換する電子回路だ。素子自体は、小さくコンパクトになっているが、中でやっていることは結構複雑。直流を交流に変えたり、電気の流れを整えたりしている。


モバイルバッテリーの内蔵電池が、3.7Vから5Vに昇圧する流れ

 さて、この電圧を昇圧するためのDC/DCコンバータ回路をどうやって動かすかというと、モバイルバッテリーの内蔵電池から電源を取っている。つまりバッテリー容量の半分近くをDC/DCコンバータが消費してしまっているというワケだ。これが、モバイルバッテリー容量のすべてが、スマホの充電にすべて回せない秘密だ。モバイルバッテリーには、さまざまなDC/DCコンバータが内蔵されているため、ロス率はどれも一定ではない。

 効率を上げるには、電池と同じ直流3.7Vを、そのまま直流5Vにアップできる電子回路があればのベストだが、技術的に難しい。そこで直流の電池を、いったん電圧を変えやすい交流にして電圧を上げ、さらにそれを直流に戻す、というややこしい方法を取っているのだ。この電圧の変え方は、スマートフォンの購入時に同梱されているACアダプタと同じようなことをしており、ACアダプタは100Vを5Vに降圧するが、モバイルバッテリーは3.7Vを5Vに昇圧している。

 ロスはこれ以外にも、電池がほんのり温かくなる熱や、充電中に点灯するLEDなどもある。失われた48%の容量は、これらのロスを合計したものなのだ。

パナソニックの5,400mAhを例にした、バッテリーの使われ方とロスの割合


やっぱりAndoroid系よりもiPhone系は充電時のロスが少ない

 途中でうんちく話を挟んでしまったが、話を4,000mAh以上の5つのモバイルバッテリーに移そう。今回実験したモバイルバッテリーとスマートフォンを組み合わせることで、それぞれ何回充電できるかを、以下の表にまとめた。


モバイルバッテリー名スマートフォン
区分
iPhone系Android系
製品名
(実測・理論値)
iPhone 3GS
実測値
iPhone 4
理論値
iPad
実測値
1,400mAhクラス
理論値
XPERIA SO-01B
実測値
GALAXY S II
理論値
1,800mAhクラス
理論値
電池
容量
1,219mAh1,420mAh6,600mAh1,400mAh1,500mAh1,600mAh1,800mAh
ソニー「USB出力機能付きポータブル電源セット CP-A2LS」(4,000mAh)
1.80回1.55回0.34回1.27回1.13回1.10回1.00回
エレコム「モバイルバッテリー DE-U01L-4710」
(4,700mAh)
2.62回2.27回充電不可1.95回1.64回1.74回1.45回
パナソニック「USB対応モバイル電源パック
QE-PL201」(5,400mAh)
2.92回2.49回0.56回2.12回1.88回1.88回1.65回
三洋電機「エネループモバイルブースター
KBC-L54D」(5,400mAh)
2.98回2.49回0.51回2.12回1.97回1.88回1.65回
OTAS MiLi Power Prince(5,000mAh)
2.56回2.31回0.52回1.96回1.90回1.74回1.53回
※表中の整数(1以上の値)はフル充電できる回数を示し、少数点以下はおおよそ何%まで充電できるかを示している。

 前編でも取り上げたが、今回買ったスマートフォンの場合、iPhoneはAndoroidに比べると充電ロスが少ないということだ。同じモバイルバッテリーでも、Android系のスマートフォンを充電する回数より、iPhone系の方がより多く充電できるということになる。

 パナソニックを例に取ると、1,420mAhの内蔵電池を持つiPhone 4は2.49回充電できる(ロス率)のに対して、Android系の1,400mAhでは2.12回しか充電できない。モバイルバッテリーはまったく同じなので、スマホ側の充電時のロスがその差を生んでいるのだ。ロスの原因は、充電回路、特に充電中を示すLEDの有無などの違いだろう。iPhoneには充電ランプがないが、Android系はたいていLEDが点灯するので、そこでのロスが充電回数の違いになって現れているのかもしれない。

iPhone系はスマホの充電ロスが少なく、モバイルバッテリーの容量の6割を充電に使えるが、Android系は充電ロスが10%ほど多く充電に使える容量が少なくなる充電中を示すLEDも充電ロスの要因のひとつなのかもしれない

 ここで、今回の実験で分かった要点を挙げておこう。

・Android系では、モバイルバッテリーの容量のおよそ5割が充電に使える
 1回の充電なら3,000mAh未満クラスでも良いが、2回なら5,000~6,000mAhクラスを用意しておくのがベストだ

・iPhoneの場合は容量の6割が充電に使える
 1回の充電なら2,000~2,500mAクラス、2回なら4,000~4,500mAhクラスで大丈夫。

・モバイルバッテリーにより電気のロス率は若干変わる。しかし、今回実験した限りでは大差はないので、特に気にするものではない
 ソニーは他に比べロス率が10%程度高く、エレコムは10%程ロスが少ないデータが得られたが、これ以上に差が出た機種はなし。気にするほどではないだろう。

 また、今回は参考として扱ったiPadだが、充電ロスはiPhoneとほぼ変わらず、モバイルバッテリーの60%が給電できる模様だ。約6,600mAhの内蔵バッテリー1回フルチャージするなら、11,000mAh(6,600mAh÷0.6)のモバイルバッテリーが必要ということになりそうだ。


スマートフォンを2回充電する“大容量モデル”ならコレを買うべし!

 それでは最後に、今回実験した5製品のうち、どれがどういうユーザーにオススメなのかを提案させていただこう。

・iPhone系なら、容量が少なめのソニー、エレコムでも問題なし

 充電のロスが少ないiPhoneなら、4,000~4,500mAhクラスでも問題なく使える。これに該当するのは、最も電圧と電流が安定しており、かつ2,000円台で買えるソニーがオススメだ。またiPhoneユーザーは、デザインにもこだわるヒトが多いことを考えると、カラーが選べるエレコムの4,700mAhも良いだろう。

安定性と安さでソニー(写真左)を選ぶか、カラーやデザインでエレコム(右)を選ぶか。どちらでもiPhoneにはオススメ

・Android系なら大容量のパナソニックか三洋の5,400mAhタイプ

 充電ロスも多く、内蔵バッテリーの容量も多いAndroid系なら、5,000mAhオーバークラスが欲しいところ。価格と性能、バッテリ容量のバランスが良く、充電も早い三洋の5,400mAhが第1候補だ。第2候補は、無接点充電に対応したパナソニックの5,400mAh。ただいずれも充電中にキーン! という高めの音が出るので、音楽系の仕事場や、静かな部屋で作業する場合はエレコム、またチョット高いがOTASという選択肢もある。

パナソニックより若干充電時間の短い三洋(写真左)が第1候補。ほぼ同スペックのパナソニックでも問題なく使えるだろう
OTASは2時間半という群を抜いた急速充電が魅力。営業や取材記者など、忙しく外出する人にオススメだ

・充電を頻繁にしたい場合はOTAS

 営業職や取材記者など、デスクと外を忙しく駆け回る職業では、5,000mAhと大容量ながら2時間半で急速充電が可能なOTASが重宝するだろう。価格はパナソニックや三洋の2倍以上するが、急速充電性能は群を抜いている。午前は外回りして会社に戻りデスクにいる間にチャージして、再び午後に外回りというハードな使い方にも耐え得る。

・iPadなどのタブレットなら5,000mAh以上×2個持ちで

 iPadのようなタブレットPCを1回フル充電するには、11,000mAh(40Wh)のモバイルバッテリーが必要となる。現在、10,000mAhオーバーの製品も販売されているが、価格は数万円と高く充電時間も長い。ならば、5,000mAhクラスのモバイルバッテリーを2台持ち歩く方が、便利で経済的だ。2台購入して8千円もかからない。しかも、モバイルバッテリー自体を充電する場合には、1台の超大容量バッテリーを長時間かけて充電するより、2台の5,000mAhを充電した方が最終的には早いのだ。

タブレットPC用には大容量のモバイルバッテリーが必要になる。巷には、ここで紹介しなかった10,000mAhオーバーの超大容量モバイルバッテリーが出ているが、それよりも5000mAhクラスのバッテリーを2台使った方が安く、バッテリー自体の充電時間も早い

 本文ではほとんど触れなかったが、モバイルバッテリーの繰り返し利用回数は、たいていのものが500回で寿命を迎える。いわば消耗品だ。しかし、リチウムイオン電池はフル充電のまま放置するとその劣化がさらに早くなる。たとえば夏場の車の中などの高温環境に放置するでは、さらに寿命が短縮されてしまう。なので、ほとんど外で充電することがないのに、大容量バッテリーを買ってしまうのは、もったいないかもしれない。

 モバイルバッテリー選びで一番大事なポイントは、普段の生活の中におけるスマートフォンの使い方と、スマートフォンにベストマッチな容量のモバイルバッテリーを見つけることにあると結論づけたい。

 なにぶん新しいジャンルの製品なので、どれを選んだら良いのか戸惑うことが多いだろうが、この記事が読者のみなさんのベストマッチなモバイルバッテリー探しに貢献できれば幸いだ。

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2011年12月9日 00:00