東芝、スマートコミュニティ事業で2015年度に9,000億円の売上を目指す

~普及の鍵は「スマートメーター」と「企業提携」

 東芝は、2011年12月16日、スマートコミュニティに関する同社の事業戦略について発表した。

 東芝では、2015年のスマートコミュニティの市場規模を全世界で約163兆円になると想定し、そのうち同社がターゲットとする市場を8兆円と設定。さらに、同社のスマートコミュニティの事業規模について、現在は4,000億円だが、2015年には2倍強となる9,000億円の売上高を目指すことを明らかにした。

スマートコミュニティにおける、世界の2015年の市場規模は推定約163兆円約163兆円のうち、東芝がターゲットとする市場を8兆円と設定。そのうえで、2015年の売上高を9,000億円に設定した現在の同事業は4,000億円。4年間で2倍強ほど売上を伸ばすことを狙っている

スマートコミュニティは“次の事業の柱になる取り組み”

東芝 佐々木則夫社長

 2015年の売上目標となる9,000億円の内訳は、市場別で国内37%、海外で63%。海外のうち、先進国が34%、新興国が29%。商材別では、エネルギーなどを含むスマートファシリティで52%、スマートグリッドで33%、ICT・クラウドソリューションで12%、スマート交通で2%としている。

 「従来は、エネルギー、交通、医療、水、ビル、ホームに対して機器を導入するビジネスだったが、今後は、社会インフラ全体として捉え、マスタープランから詳細設計においてもスマート化を提案。ICTを駆使した高度な運用管理を含む、トータルソリシューションを提供していく」(東芝・佐々木則夫社長)

グループに分散していたクラウド・ソリューション事業を統合。スマートコミュニティ事業を推進する体制を整える

 また、2012年1月1日付けで、情報・クラウドサービス部門において、クラウド・ソリューション事業統括部を新設。これまで、グループ内に分散していたスマートコミュニティのアプリケーションを開発する個々の組織を統合し、横串を差す形で、スマートコミュニティ事業を推進する体制を整える。

 クラウド・ソリューション事業統括部は400人体制でスタート。スマートコミュニティに関するICT基盤開発のために、ソフトウェア開発を行なう子会社の東芝ソリューションに約1,000人規模の開発体制を確立する。

 佐々木社長はスマートコミュニティ事業について「東芝にとって、次の事業の柱になる取り組み」と位置づけた。また、社長自らが会見に出席した理由については「私自身、約700社が加盟しているスマートコミュニティアライアンスの会長を務めており、東芝だけでなく、日本全体を含めてスマートコミュニティを推進をしていく立場にある。その点からも直接、私が説明した方がいいと考えた」とした。


横浜、フランス・リヨンのプロジェクトに参画。東日本大震災の被災地にも

東芝が参画している世界のスマートコミュニティのプロジェクト一覧

 東芝では現在、実証実験および商用サービスを含めて、国内外で20件のスマートコミュニティプロジェクトに参画。このうち、横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)では、みなとみらい地区、港北ニュータウン、金沢グリーンバレーの約60万平方km・42万人を対象に、広域エネルギーマネジメントとデマンドレスポンス(電力の需要に対し、電力事業者がそれに応じで電力消費を制御すること)の実証実験を展開し、CO2排出量30%を目標とした社会システムの構築に乗り出していることを紹介した。

 このYSCPでは、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)で約4,000件の家庭、BEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)で160万平方mのビル、2,000台のEV車を対象に実証実験を行なう。佐々木社長は「とくに、デマンドレスポンスについては、今後、世界へと水平展開する上で大きなノウハウ蓄積になる」とした。

 東日本大震災で被害を受けた岩手県、宮城県、福島県では、産業振興・雇用創出、環境調和・循環型を切り口に、地域特性にあわせた最適なスマートコミュニティの提案に着手。岩手県釜石市では地域内発電量の再生可能エネルギー比率を2015年に45%へと高めるほか、宮城県石巻市では防災拠点において、災害時に3日間生活可能なライフラインの構築を目指すという。

 海外では、2012年1月からスタートするフランス/リヨンのコンフルエンス再開発地域の太陽光発電活用最適化によるEVコミュニティプロジェクトにおいて、省エネおよび創エネで、消費電力量以上のエネルギー創出や、再生可能エネルギーとEV車のカーシェアリングを行なっている。これにより、廃棄物を一切出さない“ゼロエミッション化”が実現。EUが2020年までに温暖化ガス20%削減、エネルギー効率20%向上を目標とする「20-20-20ターゲット」を5年前倒しでの達成に挑戦するという。

 「新興国の急激な人口増加が見られる一方、都市部への人口集中化がみられており、今後は、資源不足や価格高騰が懸念されるエネルギー問題、二酸化炭素排出量が拡大が、世界経済、企業活動などに大きな影響を与える。こうした問題を、スマートコミュニティによってしっかりと解決していく必要がある」(佐々木社長)

 これらに加えて、今後は安定的な再生可能エネルギーの導入と、電力コストの低減を実現を狙う。さらに、デマンドレスポンスを活用した地域エネルギーの省エネおよび効率化を図る「エネルギークラウドサービス」、リアルタイムでの状況把握と地域連携による減災に貢献する「地域防災クラウドサービス」、診療機能の連携強化によって地域全体の医療レベルを向上させ、地域医療ネットワークの実現で高齢化社会に備える「医療クラウドサービス」、多彩なデバイスを通じたセールス拡大支援を行なう「店舗クラウドサービス」、家とEV車をトータルでマネジメントし、複合的にサービスを最適化する「ホームクラウドサービス」などに取り組む姿勢を示した。

 「スマートコミュニティへの取り組みは、実証実験による検証・蓄積の第1ステップと、最適コンソーシアム構築による推進という第2ステップの中間にある。今後第3ステップの商用事業のグローバル展開へと進んでいくことになる」とし、「自然に左右される再生可能エネルギーが安定的に供給できることができるのかといった技術的検証、リターンを得られるのかという事業性の検証に続き、ビジネスモデルの確立や標準化や規格化が重要な取り組みになってくる」(佐々木社長)

東芝がスマートコミュニティで取り組むサービス一覧。写真はデマンドレスポンスを活用し、地域エネルギーの省エネおよび効率化を図る「エネルギークラウドサービス」リアルタイムでの状況把握と地域連携による減災に貢献する「地域防災クラウドサービス」診療機能の連携強化によって地域全体の医療レベルを向上させ、高齢化社会に備える「医療クラウドサービス」
多彩なデバイスを利用してセールスの拡大支援を行なう「店舗クラウドサービス」家とEV車(電気自動車)をトータルでマネジメントする「ホームクラウドサービス」


普及の鍵を握るスマートメーターの世界的メーカーを買収。買収戦略は今後も継続

 佐々木社長はさらに、スマートコミュニティを広げていくには、他社との連係が重要になるとした。

 「東芝は、スマートコミュニティにおけるこれまでの実績や、それを支える電力系統における実績、技術では一番だと自負しているが、今後スマート化していく上でのキーはスマートメーターだと考えている。これが情報の発信源となり、課金が発生しているという情報を確保できる点も大きい。東芝は先頃、スマートメーターで世界的な実績を持つスイスのランディス・ギアを買収した。これは大きな強みとなる。

 一方で、スマートコミュニティの世界では、すべてを1社でカバーすることができないこと、また地産地消型のビジネスとなるため、これまで以上にアライアンス(企業提携)が重要になる。地産地消というテーラーメイド(オーダーメイド)型のソリューションを“Synthesis”(合成)したベストミックスとして提供しなくてはならず、そのためには、アライアンスを活用したソリューション体制の構築が必要になる。今後、パートナーとのアライアンスを促進する一方、スピードを買うという観点からは買収戦略を展開していく。アライアンスと買収の両面により、フレキシビリティを持った展開を進めていく」

東芝は7月に、世界的なスマートメーカーのランティス・ギア社を買収した佐々木社長によると、スマートコミュニティは1社でカバーできないため、企業連携が重要になるという

 東芝が2011年7月に買収したランディス・ギア社は、配電自動化機器や、メーターデータ管理システム、スマートメーターで実績を持つ。佐々木社長は、「東芝T&Dが持たない分野で実績があり、スマートグリッドの構成要素をカバーできるという点で、この買収は相性がいいと考えている。ランディス・ギアは、スマートメーターでは全世界で34%のシェアを持っており、さらに全世界30カ国以上に展開し、8,000社以上の顧客を持つ。ランディス・ギアが持つマーケットごと買収できたことは大きい」と語った。

東芝とランティス・ギアによるシナジー効果で、増収・増益が見込まれるため、資金回収の期間が短縮するという

 ランディス・ギア買収によって、イタリアのACEA社向けのスマートグリッドシステムにおいて、ランディス・ギアのスマートメーターと、東芝の太陽光発電、蓄電池、充電スタンドなどとの連携提案が可能となった。佐々木社長は「東芝とランティス・ギアとのシナジー効果が見込まれることから、資金回収については、当初計画の9年を7年に短縮できる」と意欲をみせた。







(正藤 慶一)

2011年12月16日 16:17