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主戦場はリビングからキッチンへ。欧州の強豪家電メーカーが提案するスマートホーム

 世界最大のエレクトロニクスショーをうたうIFAの会場には、日本では見かけない欧州など海外のホームアプライアンスブランドの面白そうな製品も数多く展示されている。AVや通信の展示会だったIFAに白物家電が合流したのは2008年のこと。以来、IFAに参加する白物家電のブランドや出展規模は増え続けている。

 とかく白物家電は国や地域によって、生活者から求められる機能が大きく異なっている。残念ながら海外ブランドの魅力的な製品やサービスは、日本で紹介されていないものも多い。

 もっともそれは日本で元からニーズがない、あるいはまだ開拓されていないニーズに沿ったものであることも理由に挙げられるのだが、本稿のIFAレポートがいまのヨーロッパ人が特に「スマートホーム」に関して期待しているイメージがどんなものかを探るためのヒントになれば幸いだ。

スマート家電の展開が勢い付くボッシュ

 ボッシュは日本国内では自動車部品のメーカーとしてよく知られているブランドだが、ドイツを本拠地とする白物家電の総合メーカーでもある。親会社のロバート・ボッシュから派生したBSH Hausgeraede社が主体となってボッシュのブランドを冠した白物家電を、日本などをのぞく世界各地で展開している。

IFA 2016に出展するボッシュのブース。天井から青く光るWi-Fiアンテナを模したオブジェが降りてくる。ネットワークにつながるボッシュのスマート家電に注目を寄せる狙いもある

 元々ボッシュと肩を並べるドイツの総合家電ブランドであるシーメンスの合弁会社だったが(社名のBSHは“Bosch und Siemens Hausgeraete”)、2015年にボッシュがシーメンスの保有していた50%の株式を取得して完全子会社化。そのおかげでというわけでもないが、ボッシュのスマートホームアプライアンスはより自由に羽を伸ばしながら開発の手をスピードアップさせた感もある。今年のIFA 2016のブースはインターネットにつながる家電の新製品と、具体的な魅力を感じることのできるソリューションをしっかりと並べてきた印象だ。

 ブースに足を踏み入れると、あちらこちらの天井から青く光るWi-Fiアンテナのようなオブジェが吊り下げられていて、ボッシュの製品を明るく照らしている。同社のスタッフに聞くと、これはインターネットにつながる便利なボッシュの家電を積極的にハイライトするための仕掛けなのだという。

 辺りを見回すと、昨年あたりから姿を現している冷蔵庫や洗濯機、オーブンなどのスマート家電に加えて、今年はIHクッキングヒーターと対になる換気扇まで“スマート化”を果たしたようだ。来年の発売を計画しているという。

Home Connectアプリに対応するスマート家電が着実に増えている

 特徴はボッシュのiOS/Android対応スマホアプリ「Bosch Home Connect」を基点に色んなスマート家電の便利機能を一元管理できること。インターフェースが直感的に操作できるグラフィクスをふんだんに盛り込んでいる。展示スタッフが手に持っているタブレットを拝借して、ちょっと操作を体験させてもらったが、非常に快適な操作性が実感できた。

 例えば先述の新しいIHクッキングヒーターでは、使う調理器具のサイズなどに合わせてプレートの分割パターンを自在に変えたり、加熱の強さもアプリで設定できる。またオンラインにあるレシピのデータを取り込んで、調理時間をセットしてタイマーを仕掛けるといった使い方も可能だ。

Home Connectの対応製品として加わったIHクッキングヒーター

ヨーロッパで高まるスマートセキュリティへのニーズ

 ボッシュがIFAに参加するジャーナリストを集めて開催したプレスカンファレンスでは、スマート家電に関連するいくつかの新しい取り組みがハイライトされた。一つはホームセキュリティ関連の新商品を出すこと。商品の内容はいずれもインターネットにつながる、煙探知機やインドア&アウトドア用の360度撮影に対応するセキュリティカメラだ。

 煙探知機は火災の発生を知らせるためだけでなく、キッチンの空気の質も調べてくれるという優れもの。チェックできるのは気温・湿度・VOC(揮発性有機化合物)。もちろん、煙が充満してしまったり、万が一火災が発生した場合はユーザーのスマホにいち早くアラームを飛ばす機能もある。

ボッシュが“セキュリティ”に関連するスマート家電を発表。空気の質もチェックしてくれるという煙探知機

 360度撮影に対応するカメラは日本でも同様の製品が発売されていて、どちらかと言えば「家族とのコミュニケーション。遠く離れて暮らす両親の見守り用」として訴求する向きが強いように思うが、ヨーロッパではより明確に「防犯」目的の製品であることを打ち出している。

 同社のSenior Brand and Communications ManagerであるAndrea Fluhr氏によれば「ドイツはヨーロッパの中でも比較的治安の良い地域とされてきたが、いまは都市部、郊外に限らず防犯意識が高まっているため、人々のホームセキュリティ機器に対する関心がますます高まっている」のだという。

 カメラは動画のライブストリーミング、あるいは録画の両方に対応する。細かい話だが、上記の3製品は親会社のロバート・ボッシュから発売され、BSHが推進するHome Connectのプラットフォームに近く組み込まれる予定。「いまは煙探知機とカメラのアプリも個別に用意しているので、まずはこれを来年頃を目標にひとまとめにしてから、Home Connectに順次統合していきたい」(Fluhr氏)。

屋内外に設置する360度動画・静止画をキャプチャーできるカメラ。プライバシー機能も備える

 ボッシュはスマートホームのためのプラットフォームであるHome Connectのオープン性を強調している。とはいえ、それはあくまで「ボッシュのプラットフォームが一番ですよ」という前提に立ったもので、IFA会場で周囲のブランドが出展するソリューションを見渡してみても、それぞれがまだ独自の方言に則って開発を進めるプラットフォームが乱立している状況だ。そこに一つの活路を見いだせそうなサービスがある。IoT機器とWebサービスを連携させるツールである「IFTTT」だ。

 IFTTTはフィリップスのスマート照明器具「Hue」など、日本国内でも使えるIoT機器が少しずつ増え始めている。スマホやタブレットにIFTTTのモバイルアプリをインストールして、「IF○○+THEN○○」のようなコマンドの構文に従って、例えば「<IF>夜12時になったら+<THEN>Hueのランプを消灯する」といったアクションを簡単なタップ操作でつくることができるというツールだ。

 ボッシュのHome Connectは自社製品のプラットフォームの枠を飛び越えて、IFTTTを軸に様々なパートナーと手を組んでコネクティビティの輪を広げようとしている。今回のIFAではアマゾンが手軽にeコマースを楽しめるツールとして提供する「Amazon Dash」と連携して、家電機器で日々利用する消耗品の補充をスマートにできるエコシステムのプランなどが発表された。

ボッシュのプラットフォームには着実に仲間が増えている。今年はより具体的なソリューションも提示された
IFTTTのアプリを活用すればHomeKit対応のフィリップスHueも連携できる

 アップルが提案する「HomeKit」の今後の出方に寄るところもあるが、今のところボッシュの展開するHome Connectがスマートホームのためのプラットフォームとして規模・内容ともに一歩リードしているように感じられる。少なくとも欧州ローカルではスタンダードになっていく可能性はあると思う。

スマートホームの中心はリビングからキッチンへ

 ヨーロッパを旅して電気屋さんを覗いたことがある方ならご存知だろうが、こちらではヨーロッパの家電ブランドと肩を並べて追い越すほど、韓国メーカーのサムスンとLGのプレゼンスが非常に強い。ベルリン市内にいくつかある大型家電量販店の売り場も両社の製品が広い面積を占めている。

 IFAの会場であるメッセ・ベルリンにも、サムスンとLGは毎年大規模なブースを構えて存在感を見せつけている。だから、両社が展開するスマート家電はIFAに集まる来場者にとっても大きな関心事であるし、発表される商品のフィーチャーからヨーロッパにおけるスマート家電のトレンドが透けて見えてくることもある。両社が今年のIFAで提案した製品やサービスの概要を紹介しておこう。

サムスンのブースではスマート冷蔵庫「Family Hub」シリーズを中心としたスマートホームの価値を提案

 サムスンは昨年のIFAでIoTの発展に対して本気で取り組む姿勢を示した。昨年はその“第一章”的な位置づけだったためか、展示の内容もIoTの未来図を示すためのコンセプチュアルなものが中心だったが、今年はより具体に落とし込んできた印象を受ける。

 プレスカンファレンスでも大々的に紹介された製品は「Family Hub」と呼ぶスマート冷蔵庫だ。今年初に米国で開催されたCES 2016でも発表された製品が、ドイツやUKをはじめヨーロッパの先進国地域を対象に年末頃からの導入を目指して準備が始まった格好だ。

 サムスンなどが開発するTizen OSをベースに、21.5型のタッチパネル液晶で操作。レシピを表示しながら料理をしたり、手描きのメッセージボードとして活用、サムスンのスマートテレビにつないでテレビ番組など動画を表示、内蔵スピーカーで音楽を再生したりなど多彩な使い方ができる。家族が集まる生活空間をリビングのほか、キッチンにも広げようという提案だ。

徐々に連動するサービスを増やしつつある
Family Hubシリーズの冷蔵庫は2機種
冷蔵庫の中を撮影してスマホでチェック。足りない食材などを管理できる機能が、スマート冷蔵庫のお約束として定着しつつある
テレビの映像をホームネットワーク経由でミラーリング。キッチンにテレビを置く感覚で楽しめる
タッチ液晶は手描きのメッセージボードにもなる

インターネットにつながらない家電もスマート化

 LGもサムスンに負けじとタッチパネル液晶付きのスマート冷蔵庫のプロトタイプを展示している。こちらはWindowsベースで開発が進んでいるようだ。しかし、LGブースで注目すべきポイントはここではない。同社も「LG SmartThinQ」と名付けるプラットフォームを独自に展開しながら、パートナーの拡大に力を注いでいる。

LGが展示したWindows搭載の液晶付き冷蔵庫。こちらはまだプロトタイプ段階の仕上がり

 躍進の鍵を握る製品がスマホアプリ「LG SmartThinQ」とIoT機器をつなぐブリッジの「LG SmartThinQ Hub」だ。筒状のユニットのてっぺんにディスプレイを搭載する小さな製品をWi-Fi経由でスマホにつなぎ、アプリで操作したコマンドを近距離無線通信規格のZigBeeにより各IoT機器に飛ばす。

 受け側の家電機器が、必ずしも最新のスマート家電でなくても良いというところに、LGが提案するソリューションの特徴がある。様々なセンサーを搭載する丸くて小さな「LG SmartThinQ Sensor」を家電機器に装着することで、インターネットにつながらない洗濯機や冷蔵庫も簡単に“スマート化”できるというものだ。

 例えば洗濯機用のものは加速度センサーを内蔵していて、貼り付けておけば運転時の振動を判別して洗濯のスタートから終了までの時間を管理できるようになる。冷蔵庫用のセンサーはAmazon Dashのサービスと連携して、スマホアプリから「ショッピングサイトでペットボトルの水を注文する」といったアクションを登録しておくことで、ペットボトルが無くなったときにセンサーをタッチするだけで商品を取り寄せられるといった使い方が可能になる。

LG SmartThinQのプラットフォームは家庭内からモビリティまで広く展開を想定している
ブリッジになる「LG SmartThinQ Hub」。スマホとWi-Fiでつないでアプリを使って操作する
センサーを装着すればインターネットにつながらない家電もスマート化できてしまう

 それぞれの機能が本当に便利かどうかは別として、機器に後付けしてスマート化できるデバイスも活用しながら、スマートホームのネットワークを張り巡らせようというLGが模索する提案には意義があると思う。

 同社のスマート家電の商品化と販売は既に韓国ではスタートしており、ヨーロッパには来年前半頃の上陸を予定しているという。またアマゾンのAIパーソナルアシスタント「Alexa」によるボイスコマンドを組み込んで、IFTTTとの連携などもコネクティビティの輪の中に加わっていく計画があるという。

アプリでセンサーをタッチしたときのアクションを登録。アマゾン・ダッシュの機能を活用してショッピングの手間を軽減できる
LGのスマート家電の機能を一元管理できるSmartThinQアプリ

 今回紹介したブランド以外にも、IFA 2016の会場には単品でインターネットにつながるものも含めて多彩なスマート家電が出展されていた。どの展示も一様に好評なようで、来場者の足を止めさせるマグネットになっている。

 思えば2000年代後半頃に開催されたIFAでは音楽や動画・写真に関連するクラウドサービスが出展され、人々に「未来のエンターテインメントのかたち」として紹介されていたが、今ではすっかり日常生活の当たり前として定着した。IFAに集まる来場者がIoTやスマートホームの展示に対して、より前に身を乗り出して興味を持つようになった背景には、ようやくヨーロッパでも安定してきた高速ブロードバンド環境と、これに伴って「便利な生活への実感」が沸き上がってきたことがあるのかもしれない。