カデーニャ

ものづくりの要である「箱」を実際に作るための工夫と苦労【キキテーニャ】

 「ものづくりって何?」「そもそもハードウェアって?」という非ガジェット女子、レイナがインタビューをするコーナー「キキテーニャ」。今回は前回に引き続き「箱」についてのノウハウを実際に生産する視点から、株式会社Cerevoの代表・岩佐さんに聞いた。

箱を生産するのに重要な「箱屋」ことパッケージ工場

 レイナ:箱の大事さはとてもよくわかったのですが、具体的に作るときはどうしているんでしょうか?

 岩佐:製品のパッケージを作ってくれる工場にお願いしています。我々は「箱屋」と呼んでいますね。好きな箱を作ってくれるんだけど、ある程度の量を発注しないと厳しい値段を出してくる。生産数が少ない製品の箱を作るときには箱代も高くなるので、一般的には売れている商品ほどいい箱をつかっていますね(笑)。

パッケージの生産風景

 レイナ:箱を作るのもに大変なんですね。

 岩佐:そうなんです。僕らみたいなハードウェアスタートアップだと、MOQ(最小発注数量)が少なくても作ってくれる箱屋さんがいいのですが、なかなかそういう箱屋さんがなくて。Cerevoはいままでいろんな工場とやり取りしたおかげで、いい箱屋さんを見つけられたので良かったです。といっても、Cerevoの場合はMOQが少なくても製品数が多いので、結果的に発注数量が多いからお願いできている、というのもありますが。

 あとは場所も大事ですね。Cerevoは製品を中国で生産しているので、箱屋も中国にないと困ります。国が変わると輸出入の手続きも大変だし、費用も高くなるので。

箱づくりはデザイナーの腕の見せどころ

 レイナ:箱のデザインはどうしているんでしょう?

 岩佐:箱屋さんにデザインも含めたパッケージ制作を丸投げすることもできるんだけど、正直いって「よくあるよねー」みたいなデザインがでてくる(笑)。パッケージは製品の顔でもあるので、うちは全製品のパッケージを自分たちで作っています。

 前回話したように箱の種類や材質はもちろん、「表面をどういう装飾にするか?」「内側の設計をどうするか?」といったところも、ものづくりの人たちが悩むところです。内側の設計が甘いと製品を入れたときの隙間が小さすぎて出し入れがしにくかったり、逆に大きければ製品が揺れてしまって輸送中に傷や破損の危険性もある。また、輸送の時は製品の箱をパレットの上に重ねて置くので、その重さに耐えられる設計も必要なんです。

 Cerevoではこうした箱の大きさや素材、表面処理、印字、デザインなどを、本体の機構設計を担当しているメカデザイナーが手がけています。どこに取扱説明書や付属品を入れるかという細かいところはもちろん、取扱説明書のデザインもメカデザイナーがやっているんですよ。

 レイナ:なるほど。

 岩佐:先ほどの通り箱の中で製品が動いては大変なので、設計は箱を組み立てる前の状態の展開図から設計します。一枚の紙を組み立てると箱になる、という展開図を作るのって結構苦労するし、デザイナーの腕の見せ所ですね。

 あと、パッケージを開けてすぐ取扱説明書があるというのはわかりやすいけれど、見た目をもっとすっきりさせたいのでスリーブを用意して取扱説明書を収容する場所を作る、という工夫も大事です。

タチコマは箱を開けるとクイックセットアップガイドの取り出し口が見えるようになっている

 レイナ:奥深い箱の世界。

 岩佐:箱では見落とされがちだけど、素材より大事なのは表面の質感なんです。例えば、表面に箔押しをするとか、ロゴの部分だけラミネート加工してグロスっぽくするとか。

 レイナ:だいぶ製品自体のイメージが変わりますよね。

国によっても異なる箱作り

 岩佐:さらに箱の法律対応も必要です。国内だとパッケージに原産地表記が義務付けられていますし、ヨーロッパで売る場合はCE規定が必要になる。

 レイナ:それぞれの国に違う箱で対応するんですか?

 岩佐:その問題はまさに悩みどころで。全世界共通の箱が一番楽なんだけど、国ごとに異なる法律をすべて対応するのも大変なので。

 レイナ:国によって箱に記載すべきことが違うなら、箱だけ共通にしてあとは各国必要なものがステッカーにするとか?

 岩佐:いいところに気がつきましたね。ただ、一部の国では「シールを貼っている製品は非正規品だー」という慣習もあるんです。実際のところ、非正規品に正規品のようなシールを貼って偽物を売る、ということが横行している国もあるんですね。まあ、日本やアメリカではそういうことはあまり気にされないので、国によってはシールで対応することもあります。

REC-1は日本と海外でパッケージが異なる

 レイナ:箱ひとつでこんなに深まるなんてびっくりです!

 岩佐:そうですね。たかが箱!? かもしれませんが、凝った箱はお客さんの評判がいいんですよ。買った製品が到着したときに「製品がきましたー!」と箱ごと写真を撮ってSNSにアップしてくれる人もいて、製品の満足度にも影響するんです。

 レイナ:最後に一言、箱についての感想を聞かせてください。

 岩佐:箱づくりって意外に大変なんです。だから「買ってすぐに箱を捨てないで! 」って、作っているほうからすると思いますね(笑)。

この記事は、2017年11月17日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

Reina

非ガジェット女子。普段は哲学女子。nebulaを運営しています。