【ミラノサローネ2012】
食材を認識するIHクッキングヒーターなど、欧州キッチン家電の最新トレンド

 ミラノサローネでは、キッチン関係の展示も多い。特に今年は展示会場で「Eurocucina(サローネ国際キッチン見本市)」が開催されていることもあり、世界中からキッチン業界の関係者が集まっていることもあり、盛り上がっている。


ヨーロッパが中心のキッチン家電に韓国・Samsungが参戦

 キッチン用品はそれぞれの国の文化が色濃く出るためか、Eurocucinaに出展しているキッチン用品ブランドは、日本で見かけることは少ない。Eurocucinaで日本のメーカーを目にすることもなかった。

 だが、最近スマートフォンなどで勢いをつけている韓国は事情が異なるようだ。

 ヨーロッパでは、既にテレビや電話などのメーカーとしてもすっかり定着しているSamsungは、より一般の来場者が多いミラノ市内の場外サローネの中心会場の1つ、ミラノ大学にて、2月に発表したIH調理器「Portable Induction Hob」を展示していた。

Samsungは、一般消費者の来場が多いミラノ大学に、キッチン家電とスマートテレビ、タブレットの3つを展示したSamsungのカラフルなIH調理器「Portable Inducion Hob」。5色のカラーバリエーションが用意されているタッチ操作のIH調理器は珍しくないが、この製品はジョグダイアルで操作するところが“iPod”的だ

 Portable Induction Hobは、操作はすべてタッチセンサーを用いており、iPodのようにホイールを回して操作を行なうのが特徴。カラーは「Capri Blue」「Ruby Red」「Mint Green」「Stylish Black」「Cream White」の5色のバリエーションが選べる。

 同社ではほかに、メタリックな仕上げのヨーロッパ仕様の冷蔵庫と、食べ物の湿度を湿度センサーで検知する新型の電子レンジ「Convection Microwave Oven」も展示していた。

 キッチン用品のすぐ横では、同社のスマートテレビとタブレット製品のGalaxy Tabを展示、AV機器から通信機器、キッチン用品まで、すべてをSamsungでまかなうライフスタイルを提案していた。


Hotpointの近未来キッチンでは、食材を自動で認識。Twitterもfacebookも使える

 Eurocucina展は、基本的にシステムキッチンやレストランの調理場などの展示が中心で、あまり家電そのものの展示はない。しかし、その奥に用意されたFTK(Technology for the Kitchen)という特設会場は、最新技術の宝庫だ。

 イタリアのIndesit社のブランド「Hotpoint」は、Innovation Areaという部屋を用意して、同社が考える未来のキッチン環境を展示していた(同社は以前にも同様の試みをしたことがある。詳しくは過去記事をご参照いただきたい)。

 同社によると、来年以降発売する製品はすべて無線LANを使った通信機能を搭載するとのこと。そうなるとどのようなキッチンができあがるかを技術展示していた。

イタリア・Indesit社の近未来キッチン「Hotpoint」。ガラス板の上に調理器を置くと形状を認識する。さらに、食材も認識。重さも表示する

 まず見せてくれたのが、未来の調理台。といっても広大なテーブルが1枚のガラス板で覆われたものだ。

 この上にパスタや米といった食材の入った容器(に見立てた丸いプレート)を置くと、調理台が、その食材を認識、レシピの提案をしてくれる。どれが何の食材かは、実は容器の下に印刷されたQRコードのようなパターンをガラス板が読み取って認識しているのだ。レシピが表示されるウィンドウは、タッチ操作で別の場所に移動することもできる。

 このガラス板はIH調理器にもなっていて、広いテーブルスペースのどこでも好きな場所に容器を配置すると、温度設定用のパネルがガラスに表示される(これも表示場所をドラッグ移動できる)。マイクロソフトが提案している「サーフェース・コンピューティング」と呼ばれる技術を知っている人は、あれが調理器具が融合したようなものだというと分かりやすいかも知れない。

 ちなみにこのガラステーブル全体が液晶になっていて、オーブンなどの他の調理器の温度などの状態を確認したりすることもできれば、調理台の天井についたカメラで料理の写真を撮って、TwitterやFacebookなどで共有することもできる。

ガラス面に表示される操作パネルで温度を調整食材を認識する秘密は鍋底に印刷されたパターンにある
遠隔操作が可能なオーブン。iPadでサポートセンターを呼び出して、調理プログラムを送ってもらう

 続いて紹介されたのはオーブンだが、こちらは遠隔操作が特徴になっている。解説員の方がおもむろにiPadを取り出すと、HOTPOINTが用意した(架空の)センターにテレビ電話をかけ「クロワッサンを焼きたいのでオーブン用のプログラムを送って頂戴」と頼む。すると、テレビ電話の向こう側のサービスセンターの女性が「わかりました」と答え、オーブンにプログラムダウンロード中のプログレスバーが表示される。


オーブンを遠隔操作しているところの動画

 その次に紹介されたのは冷蔵庫だ。ほとんどのヨーロッパの冷蔵庫同様、メタリック仕上げのシックな冷蔵庫だが、真ん中に情報ディスプレイが内蔵された黒い帯のようなエリアがある。実はここを軽く押すと、引き出しのようにして温度設定用のタッチパネル液晶が飛び出てくる。

 それに加えて、冷蔵庫の各段の上にはCCDカメラが内蔵されており、画像認識技術でどんな食材が入っているかを文字情報の一覧にしてタブレットで確認できるようにする、という。

 なお、同社は、これら調理器具はもちろん、洗濯機など家電製品を使って行なう家事の一切を集中管理できるiPad用アプリケーションの技術展示も行なっていた。

冷蔵庫の段の上にはカメラが内蔵されており、食材を画像認識温度設定パネルはプッシュすると飛び出してくる
すべての家電製品が無線LANで接続しているので、iPadを使って温度などの状態を確認したりプログラムすることも可能

欧州キッチン家電のトレンドは「置き場所の自由化」「3分割」「さまざまな鍋に対応」

 このFTK内の展示を回ってきたことで、欧州キッチン家電の新しいトレンドがいくつか見えてきた。

 まずは、Hotpointの技術展示でも行なわれていたが、調理台が自動的に調理器の形状を認識し、調理台のどこにパンや鍋を置いても調理ができる、という技術。これは今後、確実に広がっていきそうだ。

 実際にSIEMENSは「FreeInduction(IH自由化)」を標語にした「studioLine」というIH調理器を出品。48カ所に電磁誘導コイルが内蔵されており、それぞれがどこに調理器が置かれたかを検知するセンサーの役割も持っている。

 このため、調理台の好きな場所に調理器を置くと、ちゃんと調理器の形を認識して、その部分だけが加熱するようになっているのだ。

すべての家電製品が無線LANで接続しているので、iPadを使って温度などの状態を確認したりプログラムすることも可能SIEMENSのfreeInduction技術を採用したStudioLineでは、調理器をどこに置いても暖めることができるStudioLineの技術解説。電磁誘導用のコイルが48カ所に埋め込まれており、調理器が置かれた箇所だけを認識して暖めている。

 出展しているほかのメーカーは、ほとんどがまだこの域には達していない。しかしヨーロッパでは、元々、食事の時間以外は、できるだけキッチンの存在感、調理器具の存在感を隠そうという文化があるため、見た目にも悪いIH調理器のパンや鍋を置くための目印が消え、調理する時だけLEDの光などで現れる、という方向に変わりつつある。

ElectroluxのIHは、調理器を置く場所をLEDで表示(普段は黒い板にしか見えない)。5口式だが、2つを組み合わせて長めの器を加熱することもできる。また急加熱+保温+もう1種類の3分割利用もできるようになっている

 IH調理器におけるもう1つのトレンドは、調理台を3分割で活用する方法だ。

 ミシュランの星付きレストランの50%が採用しているElectroluxの説明員によると、これは元々プロのシェフの使い方から広まってきた利用法で、調理台の右側には湯沸かしなど、急いで暖める必要があるものを配置。その横のヒーターは保温用の温度に設定、そして、その横で何かもう1つ作業をするという利用スタイルとなる。これにより、IH調理器ならではの、滑らかな表面を活かして、重たい鍋を持ち上げず、滑らせて、各エリアを移動させる、ということができるわけだ。

 Electroluxでは今回、プロの調理からのインスピレーションを家庭に持ち込もうと「インスピレーション」という標語を、大々的に唱い始めているが、このほかにもWhirlpoolやBOSCHなど多くの会社が、この3分割利用を提案していた。


Electroluxによる、3分割のIHの説明展示
Mieleが10月にヨーロッパで発表する次期IHは、全体を1つの温度に設定するSolo、ヨーロッパで人気の3分割方式、そしてどこでも暖めできるマルチ方式の3モードを備えている

 また、Mieleが10月にヨーロッパで発表する予定のIH調理器では、「Solo」「Trio」「Multi」という3つのモードを備えている。Trioでは上記のような3分割の使い方ができるが、Soloモードでは、パーティーなどで大勢用の料理を用意する時のために、IH調理台全体が1つの温度設定で利用できる。また、Multiではどの場所でも加熱が可能となる。

 IH調理器のその他のトレンドとしては、さまざまな鍋への対応がある。Electroluxは丸底の中華鍋に対応するスタンドを用意していたほか、Mieleは、これまで愛用してきた鍋がそのまま使えるようにと、これまでのコンロと同様に使える加熱する鍋敷きを用意していた。

 一方、IHの変わった使い方としては、Whirlpoolが「GreenKitchen」というブランドで展開しているオーブンの利用がある。なんと、オーブン内のトレイの1つが、着脱可能なIHコンロになっているのだ。

 IHコンロを挿した状態で調理すれば、料理をよりまんべんなく暖めることが可能で、より薄くこんがり焼けたピザをつくることもでき調理時間も調理に利用するエネルギーも3割ほど削減できる、という。

ElectroluxはIHで中華鍋を暖めるための敷物も用意WhirlpoolのGreenKitchenシリーズでは、IHをオーブンの中に組み込むことで早い阿多ためとエネルギー節約を両立している

スマートフォンに連携可能。冷蔵庫と食洗機を組み合わせる発想も

 ヨーロッパのキッチン家電は、スマート化が進み始めている。Mieleでは、同国で自然エネルギー採用が進み、時間帯や天気によって電力の価格が変わる実験が始まっていることもあって、洗濯機や食洗機は遠隔操作に対応。スマートフォンやタブレットで操作ができるほか、何時から動かし始めるかをプログラム設定することも可能になっている。

 一方、WhirlppolのGreenKitchenの冷蔵庫と食洗機では、両者の間に水の配管を行なうことで、水とエネルギーを効率的に利用できる、という取り組みも提示されていた。水道管を冷蔵庫につなぐと、水は冷蔵庫のコンプレッサーで暖められる。この水を捨てずに、そのまま食洗機に利用する、という発想だ。

自然エネルギーの利用が進んだドイツのMieleでは洗濯機や食洗機をスマートフォンによる遠隔操作に対応させ、電気の安い時間に自動的に稼働させるスマートグリッド機能を搭載WhirlpoolのGreenKitchenでは、冷蔵庫のコンプレッサーの温水を、食洗機で再利用することを提案






(林 信行)

2012年4月25日 00:00