【ミラノサローネ2009】
東芝、白熱灯へのオマージュ作品「Overture」でヨーロッパ市場へデビュー
■白熱灯とLEDを橋渡しする作品を展示
今年のミラノサローネ、FuoriSalone(場外サローネ)は隔年イベント「Euroluce」の年とということもあって、照明関係の展示、イベントが目立った。
東芝は場外サローネがもっとも盛り上がっているトルトーナ地区にて「Overture」展を開催。今年のミラノサローネでもっとも美しい展示の1つとして注目を集めていた。
Overtureの展示 |
会場に入ると無限に広がるアーチの回廊のそこかしこに白熱灯のような形をしたあかりのオブジェが吊るされている。
回廊の中を人が歩きまわると、その人の周りのあかりが明るさを増す。立ち止まってオブジェの1つを手に取ると、オブジェの内側から、手のひらに心臓のような鼓動が伝わってくる。特殊な素材を使ってオブジェそのものがタッチセンサーになっているのだという。
左からtakramの田川欣哉氏、東芝デザインセンターの馬場威彰氏、松井亮建築都市設計事務所の松井亮氏 |
この作品、「Overture」は白熱電球からLEDへの光源の大きな変革と、次代の「あかり」を表現した作品だ。
東芝は1890年に日本で初めて白熱電球を実用化し、「人と環境に調和したあかり文化への貢献」を合い言葉に、照明システム事業に取り組んできた。
東芝デザインセンター 情報機器デザイン担当の馬場威彰(のりあき)氏は、そうした背景からも照明を次代の「あかり」へとつなぐのも東芝の責任であると考えているという。だからこそ昨年4月に、他社に先駆けて白熱電球の製造停止を2010年に行なうことを発表した。
こうした思いを東芝とともに作品にしたのが、デザインとエンジニアリングの2つの視点を活かした企業として高い注目を集めるデザイン集団、takramの田川欣哉氏だ。
あかりのオブジェは、消え行く白熱電球へのオマージュで、東芝のナス型白熱電球の形を拡大する形で再現したものだという。
あかりのオブジェ |
オブジェのソケット部内側にはLED照明が内蔵されている。新旧のあかりの世代交代を1つのオブジェで表現したわけだ。ソケット内側のLED照明のそばからは2つの触覚のような導線が伸び、ナス型の下に貯まっている水に触れている。
実はこの導線が特殊な素材で、水に触れることで電球そのものをタッチセンサーに変えており、人がオブジェに触ると心臓のような鼓動を発するように細工されている(実際には手を近づけるだけで反応する)。インタラクションデザインを手がけた田川氏は言う。
「会場に吊るされた100個の電球すべてが、人が触れることで、こうした心臓の鼓動を発するようになっているんです」
田川氏は、この振動を通して、これから時代を迎えるLED照明の新たな鼓動を表現したのだという。
ちなみにオブジェの底に貯まった水には、床面に美しい光の輪郭を描き出す。
会場構成を手がけた松井亮建築都市設計事務所の松井亮氏は、この光の輪郭がもっとも美しく栄えるように、会場の床に5トンの砂利を敷き詰めた。無限につづくアーチの回廊はイタリアをイメージした物だが、実はアーチの内側が鏡になっていて、合わせ鏡の効果で無限に広がって見えている。これはただ会場を広く見せるだけなく、これから無限に広がって行くLED照明をも表現しているのだと言う。
■ヨーロッパ市場へ進出
東芝「Overture」展の別室では、東芝が考えるLED時代の照明器具のプロトタイプ4点が展示されていた。
LED Design Prototype。鏡の中に星のような光源が光るプロトタイプ「Planet」と壁を彩るスタンドライト「Cocktail」 |
東芝は白熱灯からLED照明へのシフトを果たした上で、2020年度の照明事業の売上高1兆円を目指しているが、それに合わせてこれまで国内のみで展開していた照明システム事業をヨーロッパにも拡大するという。
とはいえ、日本の照明システム事業は、吊るし照明やスタンドといった機能照明が中心で、ヨーロッパで需要が大きいインテリア照明づくりの実績がない。そこで4種類のプロトタイプを見せて来場者の反応を見ようと言うわけだ。
開くとスタンドになる「Card」 |
側面も楽しめるペンダントライト、Jewel |
■PhilipsもLEDへのパラダイムシフトに意欲
Philips Consumer Luminaries社、アラード・ビジュルスマCEO |
Euroluceの2日目、新見本市会場ではヨーロッパの照明システムのリーディング企業、Philips Consumer Luminaries(フィリップス・コンシューマー・ルミナリー)社のCEO、Allard Bijlsma(アラード・ビジュルスマ)氏とPhilips Design(Philipsデザイン)社のCEO、Stefano Marzano(ステファーノ・マルツァーノ)氏による講演が行なわれたが、この講演にも東芝の展示と共鳴する部分がある。
ビジュルスマ氏はまず、照明は世界の電力消費の19%を占めることを指摘し、LEDや有機ELといった新しいソリッドステートの光源への移行が必須であると説明。そして、ヨーロッパの照明をリードしてきたPhilipsが、同社の強みである優れたデザインによって新光源への移行を押し進める、と語った。
Philips社のLivingColorシリーズをバックに語るアラード・ビジュルスマCEO |
こうした新世代の光源は、光源そのものが小さく発熱量も低いことから、照明機器と光源そのものが、これまで以上に一体化したデザインを生み出すことが可能になるという。
既にPhilips社はLedinoと呼ばれるシリーズでLED照明でLEDによる機能照明を実現し、LivingColorと呼ばれるLED照明で生活シーンを彩ることを可能にした。
次は「The Beauty of Interaction」のコンセプトを押し進め、「OH...LED!(オーレ!)」と呼ばれる体験を広げるのだという。
新見本市会場の広大なEuroluce展では、多くの企業がLED照明の新商品を展示していた。
今、照明事業は白熱灯からLEDへの移行で、大きな市場再編が行なわれようとしているようだ。
■東芝の展示について(英文)
http://www.toshiba.co.jp/lighting/
takram
http://www.takram.com/
■ミラノサローネ '09関連記事リンク集
http://kaden.watch.impress.co.jp/docs/event/milan09/
(林 信行)
2009年4月25日 00:00