家電製品ミニレビュー
山善「YLX-AD30」
■震災以降に変わった扇風機の重要性
山善「YLX-AD30」 |
東日本大震災以来、家電製品の世界でも、いろいろな変化があった。とくに昨年、東京電力管内で実施された計画停電と節電活動は、いろいろな製品の位置づけを大きく変えた。
震災前に「今年の夏、売れ筋のアイテムは扇風機だ」と言っていたら、誰が本気にしただろうか。去年の夏、店頭や通販サイトでは扇風機の在庫は払底し、国内規格を満たしているかどうか怪しい直輸入の製品まで飛ぶように売れた。下位にあった扇風機の地位は復活し、節電の主役として華々しい存在となった。
この追い風と、タイミングよく、2010年に発売されたバルミューダの「Green Fan」をきっかけに、高級扇風機市場が開拓されたこともあって、2012年は各社から高級機種の投入が続いている。
山善の「YLX-AD30」も、その1つで、多数ある同社の扇風機のラインナップの頂点に立つ製品だ。
いつの間にか、何万円もする扇風機に慣らされてしまったので、YLX-AD30の19,800円という価格に驚きはない。また、実売は12,800円だったので、現在の扇風機市場では、中堅機種と言った方が良いだろう。
本体色は、ブラックとホワイトがあるが、今回はブラックにした。
メーカー | 山善 |
製品名 | YLX-AD30 |
希望小売価格 | 19,800円 |
購入場所 | Amazon.co.jp |
購入価格 | 12,800円 |
■DCモーターと多機能なリモコンが特徴
YLX-AD30の特徴は、2つある。
1)モーターに一般的なACモーターではなく、DCモーターを採用
2)羽根を改良して、中央部と周辺部の差を小さくした
いずれも前述したGreen Fanの特徴でもあり、影響を受けていることは否定できない。
DCモーターは、ACモーターに比べて消費電力が小さいという特徴がある。小さい電力で羽根を回すことができるうえに、細かい制御に対応しやすいので、微風時には特に有効だ。これは、あとで検証してみよう。電源は内蔵型ではなく、ACアダプタとなっている。ACアダプタの出力は24V/1Aだ。
電源はACアダプタ。プラグが直付されているタイプ | ACアダプタの入力端子は本体背面に |
改良された羽根は、既存の羽根に近い形の5枚羽根だ。改良点は2つある。1つは中央の丸い部分を9cmから7cmに2cm細くした。中央の風を送れない部分を小さくしたわけだ。もう1つは、副翼を付けた。一般的な羽根と、直径の小さい羽を重ねたような形をしており、中央に近い部分の風量を増やしている。
2つの羽根を重ねあわせたような特徴的な形状 | 横から見た状態 |
本体に羽根を取り付ける。羽根が2つあるように見える | 羽根の樹脂は途中で濃淡が異なっている |
また、実機を使っていると、もう2つ大きな特徴があることに気づいた。
1つは、本体が大きなこと。本体サイズは、370×370×830~1,100mm(幅×奥行き×高さ)で、首を伸ばしたときの高さが1mを越える。最近は、首を伸ばした状態でも、80cm台の製品が多く、これだけ高い位置が確保できる製品は珍しい。
外箱は白が基調。箱は大きめで約6kgある。手提げで持ち歩くにはぎりぎりの大きさと重さだ | 箱を開けた状態 | 箱のなかには折り重なるように部品が詰め込まれている |
部品の一覧。上が本体、左下がベースユニット、右下はガードと羽根 | ベースユニット | 低消費電力を訴求するシールが貼られている |
ベースユニットに本体を取り付けた状態 | 本体部分はベースユニットより少し高くなっている | 本体の固定は、ベースユニット裏で手ネジで止めている |
前ガードの固定は、樹脂製のクリップ1つ | 移動用の取っ手が設けられている。製品寿命は6年とシールに書かれている |
2つ目は操作系だ。本体で操作するときに、パッと見ただけでは電源スイッチがわからない。実は、メインで使うダイヤルの中央が押しボタン式の電源スイッチになっている。風量調整もボタンではなく、このダイヤルを回して行なう。ちょっとiPodを思わせるような操作方法なのだ。
まじめな話、年配の方だと、説明書なしでは難しいかもしれない。タイマーのボタンには「入タイマー」、「切タイマー」と漢字で書かれているので、「入」の字を読んで、こっちを押してしまっても不思議はない。
しかし、一度慣れてしまえば、使い勝手に問題はない。また、本体よりも使用頻度が高いであろう、リモコンの方は、非常に保守的なデザインで「入・切」「風量▲」「風量▼」とボタンに書かれているので迷わない。実用的だが、本体の操作系との格差を感じる。
ちょっと操作方法に戸惑う変わった操作パネル | 夜間は煌々と輝く青色LED |
リモコンは、本体と打って変わったシンプルなデザイン | リモコンホルダーが柱の部分に付けられる |
組立や操作を通して感じるのは、ごく普通な扇風機という感覚だ。先に述べたように、本体の操作系が、ちょっと変わっているが、それ以外は、ごく普通に操作できる。たとえば、首を上下/左右に向けるとか、首を伸ばすという操作も、普通の扇風機と同じなので迷いなくできる。
■DCモーターは有効。消費電力は実測で1~22W
では、YLX-AD30の最大の特徴であるDCモーターの消費電力を検証してみよう。
本機の風量は8段階に調整できる。ワットチェッカーで計測した消費電力は、下から1/2/3/5/8/12/17/21Wだった。8段階目はときどき22Wになることもある。
消費電力は、最小で1W | 8段階の一番強い設定にしても22Wに留まる |
昨年レビューした、同じ山善製のACモーターと3段階の機械式スイッチを使った機種の消費電力は28/33/40Wだった。つまり、YLX-AD30の「強」は、普通の扇風機の「弱」よりも消費電力が少ない。節電に有効な製品と言ってよいだろう。
なお、風量が最大の状態では、かなり強い風が来る。風量面で不足を感じることは、まず無いと言っていいだろう。
風量を1から8まで上げて、1に下げる。5を越えると風切り音が大きくなる | 普通の使いかたを想定して、4まで風量を上げ、リズム風を指定するとLEDが点滅する |
一方、中央部の風量を改善したという羽根は、一般的な5枚羽根との差を体感することはできなかった。たとえば、Green Fanなどでは、微風時の風が柔らかいという感じがするのだが、YLX-AD30では、そこまでの差は感じられなかった。
羽根に起因するところが多い音について言うと、5Wを消費する4段階目までは、とても静かだが、8Wを消費する5段階目になると、風切り音が耳につく。特に、普通の羽根に比べて、うるさいとというほどではないが、違いがわかるほど静かだというわけでもない。
たとえば、夜間に寝室で動かしっぱなしで使うときは、4段階目までが実用的だろう。
■タイマーやリズム機能は一般的
操作体系のところでも触れたが、タイマーは入/切の両方が用意されている。それぞれ、ボタンを押すだけで設定できるので使い方は難しくない。
設定可能な時間は、切タイマーが1/2/4時間、入タイマーが2/4/6時間に限られている。もうちょっと、細かく1時間単位に設定できると良いと思うが、現状でも実用的には問題ない。両方のタイマーを組み合わせて使うこともでき、2時間後にいったん切り、6時間後に再度動かすという指定ができる。夜間の寝室でエアコンの補助に使うような用途には便利だろう。
■細かい不満はあるが、実用的な扇風機
1週間ほど使ってみて、一番良かった点は、本体の大きさだ。首の位置が1m近いところまで高くできるので、リビング用の椅子に座っているときでも、顔の位置に風を送ることができる。リモコンで首振りの操作ができるので、自分の居る場所に向けて、首振りを止めることも簡単だ。
扇風機の羽根の位置を高くするとバランスが悪くなりやすいのだが、ベースの部分が、しっかりと重いのでふらつかない。本体重量が5.5kgと重いが、そのほとんどはベース部分だ。
通常の状態でも背が高め | 一番高くすると、1mを越える高さになる |
首を上向きにした状態 | 首を下向きにした状態。上下とも、扇風機としては一般的な角度 |
逆に、不満を感じたのは、LEDを多用した操作パネルだ。さきほども書いたが、この製品では、ダイヤルの中央を押して電源をオン/オフし、ダイヤルを回して風量を調整する。このダイヤルの回転に合わせて青いLEDが点灯するのだ。
つまり、風量が1のときに、点灯するLEDは1つだが、風量が8だと、8つもLEDが点灯する。昼間は良いのだが、夜にこれだけのLEDが点灯すると、真っ暗な部屋全体がかなり明るくなる。しかも、風の強さが自動的に変わる「リズム風」モードにすると、LEDが風力に応じて点いたり消えたりする。
私は、真っ暗でないと眠れないので、これには参った。ぜひ、夜間用にLEDを消灯する機能が欲しい。せめて、切タイマーと連動して、タイマー動作中はLEDが消灯するようにして欲しい。
YLX-AD30はDCモーターの採用で省電力性に優れている。また、基本的な機能は保守的だが、実用性が高い。リビングルームに置く、ちょっと大きめでほどほどの値段の扇風機として推薦する。
2012年6月13日 00:00