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[聴こうクラシック31]秋の到来に、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」

夜、耳をすますと聞こえてくる「虫の合唱」に秋の到来を感じる季節になりましたね。今回ご紹介するのは、哀愁ある音色に秋の気配を感じる、スペインの作曲家・ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」です。

 

スペインの近代音楽を代表するロドリーゴは、実は盲目!?

スペインの作曲家・ホアキン・ロドリーゴ・ビドレは、1901年スペインのバレンシア州に生まれ、97歳のときにマドリードで亡くなりました。3歳のころに悪性のジフテリアにかかり、視力を失ってしまいますが、8歳からピアノとヴァイオリンを始め、スペインとパリで音楽学や作曲などの専門教育を受けます。そして、23歳のときに作曲した管弦楽曲「子どものための5つの小品」でスペイン国家賞を受賞し、才能を開花させます。32歳のときにトルコ出身のピアニスト、ビクトリア・カムヒと結婚。パリとドイツに滞在していたころにスペイン内戦が勃発。これに触発され「アランフェス協奏曲」を作曲し始め、38歳のときにスペインに帰国し、完成させます。

 

協奏曲の分野では珍しい形でも、20世紀を代表する曲に

「アランフェス協奏曲」は協奏曲の分野では珍しく、ギターをソロ楽器として作曲されています。ギターの音量がオーケストラに比べ小さいことから、音量のバランスを取るのが難しい曲と言われています。全曲通して25分ほどの曲ですが、第2楽章「アダージョ」が半分近い11分を占めています。協奏曲の第2楽章というと、ゆっくりで短い楽曲が多いですが、この楽曲では長めに作られているのが特徴です。そして、その哀愁ある旋律は聴いた者の心を捉えて離さず、また多くのミュージシャンが編曲していることでも知られています。

 

平和への願いをこめた1曲

アランフェスは、スペインのマドリード南部にある古都の名前です。スペイン内戦でこの地が被害を受けたことを知ったロドリーゴが、平和を願って作曲したと言われています。普段ピアノで作曲していたロドリーゴは、実はギターの知識があまりなかったため、この曲の作曲に際し、ギタリストのレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサから助言を得ます。そして、世界的名声を得たこの作品は、20世紀ギター界だけでなく、音楽界全般にも大きな影響を及ぼしました。

 

数多くカバーされる「アダージョ」

第2楽章の「アダージョ」は、数多くのミュージシャンによって編曲、レコーディングされています。よく知られているのが、ジャズトランペット奏者のマイルス・デイヴィスのアルバム「スケッチ・オブ・スペイン」に収録された「アダージョ」です。ジャズ・ピアニストのギル・エヴァンスが編曲しています。また、ピアニストのチック・コリアは自身のオリジナル曲「スペイン」のイントロに「アダージョ」のフレーズを用いています。

 

さまざまな形のアランフェス協奏曲

 

 

それでは、さまざまな形の「アランフェス協奏曲」を聴いてみましょう。まずは、スペインの著名クラシックギター奏者・ぺぺ・ロメロによる演奏です。

 

 

 

 

実際にロドリーゴにギター奏法を助言したギタリストであるレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサの弟子だった、ナルシソ・イエペスの第2楽章の動画も残っています。彼はヨーロッパ中でこの曲を演奏し、その普及につとめた第一人者と言っても過言ではありません。

 

 

 

 

前述した、トランペット奏者、マイルス・デイヴィスの演奏による「アダージョ」です。

 

 

 

 

ピアニスト、チック・コリアが編曲し、今ではジャズの定番曲と言われる「スペイン」です。こちらも第2楽章の冒頭が用いられています。

 

 

参考文献

「クラシック作曲家事典」渡辺和彦監修 学習研究社
「音楽の366日話題事典」朝川博・水島昭男著 東京堂出版

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。