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[聴こうクラシック17]冬景色に合う、シベリウス「ヴァイオリン協奏曲」

雪化粧の地域も多いこの季節にご紹介するのは、北欧フィンランドを代表する作曲家シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」です。この曲は、ヴァイオリンの音色がどこか冷たく、冬窓の向こうに広がる景色に似合います。ソロを引き立てるオーケストラの雄大な演奏も聴きどころです。

 

シベリウスの生涯と祖国独立への思い

ジャン・シベリウスは1865年にフィンランドに生まれ、1957年91歳で天寿を全うしました。音楽好きな兄弟に囲まれて成長し、ヴァイオリンと作曲の専門教育を受けたあと、ベルリンやウィーンへ留学します。27歳で結婚。34歳ごろ、帝政ロシアによる圧政が始まって国内各地で民族運動が起きるようになると、シベリウスも祖国の独立を願い、1900年35歳で交響詩「フィンランディア」を発表します。これが民衆から絶大な支持を受け、のちに「フィンランドの第2の国歌」と呼ばれるほど愛されました。37歳で「交響曲第2番」を成功させ、名声を不動のものにしたあと、今回紹介する「ヴァイオリン協奏曲」を発表します。その後、ヘルシンキ郊外に家を建てて移り住み、妻が造った美しい庭園と静かな生活のなかで作曲に集中。死後はこの庭園に葬られました。

 

失敗だった「ヴァイオリン協奏曲」初演

シベリウスが38歳で世に出した「ヴァイオリン協奏曲」は、35分ほどの、ニ短調、ヴァイオリンとオーケストラのための曲です。愛国的な作曲家として名声を得ていたシベリウスですが、ヴァイオリンの超絶技巧を随所にちりばめたこの曲の初演は、批評家たちから酷評を受けてしまいます。希望していたソリストと予定が合わなかったのが一因でしたが、演奏者次第で作品そのものの評価が変わってしまうのが、作曲家の悲しい性。無念だった彼は、家族と移り住んだ自然あふれる郊外の家でもう1度この曲に取組み、2年後に改訂版を発表します。

 

再挑戦が生んだ「20世紀を代表する名曲」

初版にはべートーヴェンやメンデルスゾーンの影響を受けたような旋律がありましたが、シベリウスは、それらをカット。ソロパートも短く削った結果、より洗練されドラマティックになり、オリジナリティが発揮された曲になりました。全体としては、ソロヴァイオリンとオーケストラが対等に奏でられ、独奏曲でありながら交響曲のように多面的に展開する斬新な曲に生まれ変わったのです。それでも時代の先を行き過ぎていたのか、当時は彼の交響曲ほどの評価は得られませんでした。しかし後年、ロシア出身の音楽家たちがこの曲の素晴らしさに気づき、演奏会で盛んに取り上げたことで評判を得ます。まさに運命は皮肉です。今では、20世紀を代表する名曲とさえ言われています。

 

北の空を自由に飛ぶ鷲に思いを重ねる

シベリウスは、第1楽章の冒頭について「極寒の澄み切った北の空を、悠然と滑空する鷲のよう」と述ベています。弱音器を付けたオーケストラの弦楽器パートが繊細な和音を奏でていると、その上にソロヴァイオリンが冷たい音色を注意深く弾き始めます。その音は、次第に自由に解き放たれ、クラリネットと絡み合ったり、ヴィオラとデュエットしたり、オーケストラのなかを自在に飛び回って歌い上げます。続く第2楽章はクラリネットのアンサンブルで始まり、ロマンチックで壮大なイメージを奏でます。第3楽章は冒頭のティンパニーとオーケストラの弦楽器のリズムが印象的です。ヴァイオリンソロがフォークダンス風のリズムで駆け巡って、ラストは華やかに締めくくられます。

 

「ヴァイオリン協奏曲」のウルトラ演奏法は、音楽的挑戦

ご紹介するYouTube動画の第2楽章20:38から始まるヴァイオリンソロに注目してみましょう。ここは重音と言い、ソリストが1人で二重奏をしているのですが、上の旋律は4分割なのに、下は6分割拍子なのです。例えて言うなら、右手で三角形を描きながら、左手で四角形を描いているようなもの。非常に難しいテクニックです。さらに第3楽章の30:47から奏でる口笛のような音は「フラジオレット」と呼ばれる超絶技巧です。1本の指で弦をしっかり押さえつつ、もう1本の指を弦の上に浮かせるように触れて音を出します。触れる場所や力加減が指紋一筋分違えば全く響かなくなるという代物です。この曲は、言わばヴァイオリンのウルトラ技のオンパレード。しかし、ソロだけが目立つわけではなく、オーケストラと見事に調和している点が素晴らしいのです。

 

おすすめの演奏

 

 

では、シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」を聴いてみましょう。ヴァイオリン・マキシム・ヴェンゲーロフ、指揮・ダニエル・バレンボイム、シカゴ交響楽団による演奏です。

 

参考文献:

「音楽家の家 名曲が生まれた場所を訪ねて」ジェラール・ジュファン著 西村書店
「クラシックの名曲解剖 (図解雑学)」野本由紀夫編著 ナツメ社
「斎藤秀雄講義録」小澤征爾・堤剛・前橋汀子・安田謙一郎・山崎伸子編 白水社

 

CDアルバム:

シベリウスヴァイオリン協奏曲(オリジナル版と現行版) キングレコード
ライナーノーツ「大いなる脱皮」宇野功芳

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。