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[聴こうクラシック15]大晦日に聴きたいエルガーの「威風堂々 第1番」

早いもので、もう年の瀬ですね。今回は、新しい年を荘厳で華やかな気分で迎えるのにぴったりな、エドワード・ウィリアム・エルガーの「威風堂々 第1番」をご紹介します。曲の冒頭のマーチは、忙しい年末に元気をくれますよ。中間部はテンポがゆったりして、新年を迎える前におごそかな気分になれるメロディー。そして、エンディングはお祭りのような華やかさで、お大晦日にぴったりの1曲です。

 

独学で作曲を覚えたエルガ―

エドワード・ウィリアム・エルガーは1857年にイギリスで生まれ、1934年に77歳で亡くなりました。父は楽器や楽譜の販売、ピアノの調律をしていたので、その影響でヴァイオリンやピアノを覚えました。15歳で一般的な教育を修了しましたが、家が貧しいためその後、専門的な音楽学校へ通うことはできず、手に入る本を片っ端から読んで音楽理論などを独習しました。父の店を手伝う傍ら、ピアノやヴァイオリンを教え、22歳で指揮者の職を得ます。32歳で結婚したのが転機となり、妻のすすめで作曲家へ転向しました。

 

人々に愛される「威風堂々 第1番」

「威風堂々 第1番」は、オーケストラ演奏用に書かれた7分弱の作品です。エルガーの祖国イギリスだけでなく、アメリカなど、世界中で愛されています。日本では最近、中華調味料のCMでお馴染みですが、入学式や卒業式の入退場曲として、また大晦日のコンサートの曲目としても演奏されています。なぜ、「威風堂々 第1番」はこれほど多くの人に愛されるのでしょうか。次にその秘密を読み解いていきましょう。

 

威風堂々たる「神」を表現した2つのキー

エルガーは「威風堂々 第1番」を作曲するにあたって、この曲の鍵となる2つの「調(キー)」を選びました。DメジャーとGメジャーです。クラシック音楽でこの2つの調は、伝統的に「神」を表すキーとして多くの作曲家が使ってきたもの。Dメジャーはこの曲の冒頭に使われていて、神々しく荘厳な雰囲気を醸し出しています。そしてGメジャーで書かれた中間部は弦楽器が最もよく鳴り響き、堂々と聞こえます。終盤はまたDメジャーになり、キーが高くなったことでより華やかに、曲が昇華されるように終わります。つまり、神の壮麗と威厳を現わすようなDとGの2つのキーが交互に奏でられるために、聴く人が飽きることなく、気分がどんどん高揚していく構成になっているのです。これがエルガーの狙いであり、またこの曲が人々に愛され続ける理由なのでしょう。因みにDはゼウス神(Deus)、Gは神(God)を表す言葉の頭文字と一致しているとも言われます。

 

国王の太鼓判

この曲は、エルガーが44歳の時に作曲されました。演奏会場には当時の英国皇太子が来席していました。皇太子は中間部をたいそう気に入って「歌詞を付けてみてはどうか」と提案。アーサー・クリストファー・ベンソンが作詞して、翌年、皇太子が国王エドワード7世として即位した際に戴冠式頌歌として使われました。それが、後世に残る「希望と栄光の国」の誕生でした。この歌はイギリス第二の国歌とも呼ばれるほど国民に親しまれ、今も毎夏ロンドンで開催される音楽祭のフィナーレに合唱されたり、ラグビーのイングランド代表チームの入場曲としても使われています。

 

おすすめの演奏

 

 

それでは2012年の年越しコンサートで演奏された「威風堂々 第1番」を東京フィルハーモニー交響楽団の演奏でご紹介します。

 

もう1つは、ロンドンの夏のクラシック音楽祭「BBCプロムス」のフィナーレです。「威風堂々 第1番」の大合唱で最高潮に達します。

 

 

 

また、2016年公開のコメディー映画「オケ老人」ではこの「威風堂々 第1番」がテーマ曲となっています。

 

 

 

参考文献

「新設のオルケストラ」ヨハン・マッテゾン著・磯山雅編 全音楽譜出版社
「音楽家の家」西村書店
「聖書の音楽家バッハ」杉山好著、音楽の友社
「子供と聴きたいクラシック100」宮本英世著、音楽の友社
「吉松隆の調性で読み解くクラシック」吉松隆著、ヤマハミュージックメディア

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。