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[聴こうクラシック14]「きよしこの夜」と第一次大戦のクリスマス休戦

この季節、街中のあちこちでクリスマスキャロルを耳にしますね。今回は、第一次大戦で起きた「クリスマス休戦」のきっかけになったとも言われるクリスマスキャロル「きよしこの夜」をご紹介します。

 

200年前にできた「きよしこの夜」は、今でも歌い継がれる名曲

「きよしこの夜」は、オーストリアの聖ニコラウス教会のヨゼフ・モ―ル神父がドイツ語で書いた詩に、教会オルガニストだったフランツ・クサーヴァ―・グル―バ―が曲を付け、誕生しました。初演は1818年のクリスマスのミサ。ミサにも関わらず初演はギターで演奏されたそうで、その理由はオルガンが壊れていたからとだという説があります。その後、1859年に英訳され、以後約140カ国語で歌われるようになりました。日本の「きよしこの夜」から始まる歌詞は、牧師で讃美歌作家の由木康によるもので、1909年に出版された賛美歌集に収録されています。

 

1年の最後にピッタリ、ノスタルジックなメロディーの秘密

「きよしこの夜」は、演奏時間2~3分の短い曲です。シチリア―ノと言われる、ゆったりした古典舞曲をベースにしたリズムで、とても牧歌的な印象です。歌いやすく覚えやすいシンプルなメロディーに、シチリア―ノのリズムが合わさると、とてもノスタルジックで、この1年を振り返るのにぴったりの雰囲気になります。

 

1914年、クリスマスに起きた第一次世界大戦の休戦

実は、きよしこの夜にまつわる感動的な逸話があります。舞台は、第一次大戦の前線です。1914年の冬、ドイツ軍とフランス軍とイギリス軍の戦いは、当初の予想よりも長引き泥沼化していました。そのため地面に掘った塹壕に身を潜めている兵士たちの間には、戦死者の埋葬や塹壕の修復などの作業を行なう際、お互い短期的な停戦をする暗黙の了解が広まっていました。そして12月24日の夜から翌日のクリスマスの日にかけて、非公式なクリスマス休戦が始まったのです。

 

この休戦のきっかけの1つが、ドイツ軍の塹壕から聞こえてきた「きよしこの夜」だったのだそう。聞こえてきたのは、ドイツ軍の慰問に訪れていたテノール歌手ヴァルター・キルヒホフの歌声でした。かつて彼のアリアをパリのオペラ座で聴いたことのあったフランス軍将校が、その歌声を聞いてドイツ軍に向かって拍手を送ります。敵方からの拍手を聞き、感極まったキルヒホフは思わず塹壕から出て、敵に向かって歩き出します。これをきっかけに、彼に続いて、兵士たちが次々と銃を置き、塹壕から出てきたのです。最後には敵味方分け隔てなく、チョコレートやウィスキーなどを交換し合い、ともにクリスマスを過ごしたそうです。冬空のもと、緊迫した戦場で突然響き渡った「きよしこの夜」とそれに対する拍手。それは、その場に居合わせた人々にどれだけの驚きと感動を与えたことでしょう。音楽に国境はないことを、感じさせてくれるエピソードですね。

 

おすすめの演奏

 

それでは「きよしこの夜」を聴いてみましょう。残念ながら、キルヒホフの「きよしこの夜」は残っていませんが、同じくテノール歌手、プラシド・ドミンゴによる「きよしこの夜」です。

 

また、今回ご紹介した「きよしこの夜」の逸話は、2005年にフランスで映画化され、同年の観客動員数1位を獲得しています。邦題は「戦場のアリア」で、キルヒホフをモデルにしたテノール歌手の歌がきっかけでクリスマスの休戦が実現し、その妻でソプラノ歌手がその場に居合わせた各国の兵士たちの前で歌を披露したというオリジナルストーリいなっています。休戦が実現した映画のワンシーンがこちらです。

 

 

 

参考文献

斎藤秀雄講義録  白水社
世界史 山川出版社

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。