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【聴こうクラシック10】サン=サーンス「序奏とロンドカプリチォーソ」

「秋の日のヴィオロンのためいきのひたぶるに身にしみてうら悲し(※)」という詩人ポール・ヴェルヌールの詩があります。今回ご紹介するのは、シャルル・カミーユ・サン=サーンスの「序奏とロンドカプリチォーソ」です。哀愁ある序奏はこの詞がぴったり。さらに曲の最後には、まるでお祭りのような超絶技巧が繰り広げられ、その展開もこの曲の聴きどころです。

 

※訳詩集「海潮音」上田敏の「落葉(らくよう)」より

神童はフランスの国民的作曲家に

シャルル・カミーユ・サン=サーンスは、1835年パリの内務省の役人の息子として生まれ、1921年86歳のときに旅行中のアルジェリアで亡くなりました。父は生後2カ月のときに亡くなり、母と叔母に育てられ、3歳になる前から叔母からピアノの手ほどきを受け、神童と呼ばれました。22歳でオルガニストの最高峰と言われるマドレーヌ教会のオルガニストに就任し、演奏で世界中を駆け巡る一方、作曲と後進の指導でフランス音楽の普及と発展にも貢献しました。

ハンガリー人ピアニスト、フランツ・リストは「世界で一番偉大なオルガニスト」と、フランス人作曲家、ルイ・エクトル・ベルリオーズは「彼はなにもかも心得ている。足りないものは未知なる経験だけだ」と評しています。また、フランス人作曲家、クロード・ドビュッシーは彼の古典的な作風を批判する一方で「サン=サーンスほどの音楽通は世界広しと言えどもいない」と、高く評価もしていました。ドビュッシーは、ご紹介するサン=サーンスこの曲を2台のピアノ曲へ編曲しています。

 

通称「ロンカプ」は、超絶技巧のヴァイオリニストに捧げられた

今回ご紹介する「序奏とロンドカプリチォ―ソ」作品28は、サン=サーンスが28歳のときに作曲した、イ短調の独奏ヴァイオリンとオーケストラのための9分ほどの短い作品です。当時、超絶技巧で人気だったヴァイオリニスト、パブロ・サラサーテに捧げられた曲で、翌年この2人によって初演されました。ヴェルヌールの詩のように、ため息のような音型から始まる哀愁ある序奏、何度も繰り返されるロンド形式のスペイン風リズム、終盤のお祭りのような超絶技巧が聴きどころです。

現代のヴァイオリニストにとってはお馴染みの曲で、日本では通称「ロンカプ」と呼ばれ愛奏されています。2016年に公開された中学生のピアニストとヴァイオリニストを描いた映画「四月は君の嘘(監督:新城毅彦)」でも演奏されました。ちなみにこの映画では、サン=サーンスが作曲した7年後に、フランス人作曲家のジョルジュ・ビゼーが編曲したピアノ伴奏曲が演奏されています。

 

気難しい男が生んだ、気まぐれロンド

サン=サーンスは気難しい人柄だったそうで、「私にとって芸術とは何よりも形式である」と語っていたと言われています。彼が活躍した時代は、絵画と同じく印象派音楽が台頭し、西洋音階を超越した音階を用いた作品が注目されるようになった時代でした。そのなかで彼の作品は保守的とされ、「作品にうるおいがない」と批判されたりもしました。「序奏とロンドカプリチォ―ソ」は、もともとヴァイオリン協奏曲のフィナーレとして構想されていましたが、最終的に単独の作品として発表されました。協奏曲から独立したからこそ、形式にこだわるサン=サーンスが解放されて、イタリア語のカプリチォ―ソの意味「気まぐれ」のとおりに作曲できたのかもしれません。

 

友人ヴァイオリニスト、サラサーテの故郷は闘牛の街

この曲を捧げた、超絶技巧のサラサーテは「ツィゴイネルワイゼン」の作曲家としても有名です。彼はスペイン北部・パンプロ―ナ出身です。ここは、アーネスト・へミングウェイの小説「日はまた昇る」の舞台であり、牛追い祭りで有名な場所でもあります。サラサーテも闘牛が大好きで、闘牛場によく通っていたといいます。スペイン人の陽気さが、サン=サーンスのかたくなな心を、解き放ったのかもしれません、

 

おすすめの演奏を聴いてみましょう

それでは、「序奏とロンド・カプリチォ―ソ」を聴いてみましょう。戦後の超絶技巧のパイオニア的存在だったヤッシャ・ハイフェッツの1952年発売のレコードの演奏をお聴きください。

 

 

 

邦画の「四月は君の嘘」のヴァイオリン演奏シーンはこちらです。コンクールのシーンですので、ピアノ伴奏になっています。この映画には、ほかにもクラシックの名曲が盛りだくさんですので、ぜひ本編もごらんくださいね。

 

 

 

参考文献

「フランス音楽の11人」 ロベール・ピトル著 音楽之友社

「大作曲家たちの履歴書」 三枝成彰著 中央公論社

「調性で読み解くクラシック」 吉松隆著 ヤマハミュージックメディア

「日はまた昇る」アーネスト・へミングウェイ 新潮文庫

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。