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【聴こうクラシック2】梅雨の朝を爽やかに、エルガー「朝の歌」
2017年 5月 27日 07:00
そろそろ梅雨のジメジメが気になる季節になってきました。今日はそんなスッキリしない朝を、爽やかに変えてくれる1曲をご紹介します。軽快な曲調が心地いい「朝の歌」は、聞いているだけで心が浮き立つよう。イギリスの田園風景を思い浮かべながら「朝の歌」をお聴きください。作曲したエルガーは、サッカーイングランド代表の応援歌や、日本では中華料理のCM曲としてもおなじみの「威風堂々」の作者としてよく知られています。
イギリスの国民的音楽家、エドワード・ウィリアム・エルガー
サー・エドワード・ウィリアム・エルガーは、1857年にイギリスのウスター近郊生まれの作曲家で、1934年に77歳で亡くなりました。楽器や楽譜の販売やピアノ調律を行う店を経営する父と、芸術好きの母との間に、7人兄弟の4人目として誕生しました。エルガーが音楽の専門教育を受けたのは、ロンドンを訪れた21歳のときのみ。あとは独学で音楽を学びました。15歳まで一般教育を受けたあとは事務員として働きましたが、やがて本格的に音楽をする活動ために仕事を辞め、オルガニストやヴァイオリニストとしても活動していた父と働くように。指揮者、ヴァイオリン教授の職を経て、徐々に音楽活動を広げると、やがて作曲家としても国内外に知られる存在になります。その後音楽的功績を称えられ、47歳のときにナイトに、晩年には準男爵となりました。
「朝の歌」のメロディーには、耳にスッと入って来る秘密が
「朝の歌」は3分位のヴァイオリンとピアノのための小品で、ヴァイオリンが最も自然に響くよう「ト長調」という音階で作られています。もともと、ヴァイオリンには「ソ」「レ」「ラ」「ミ」の4本の弦が張られているので、楽器本体も「ソ」「レ」「ラ」「ミ」の調が一番鳴り響くようにできていますが、「朝の歌」には、ト長調で最も大切な主音「ソ」と属音「レ」が含まれているのです。木製の楽器がのもつ自然な響きを活かした「朝の歌」聞いていると、森や木々の緑を連想する人も多いのではないでしょうか。
結婚、愛娘の誕生…幸福に満ち足りた32歳のときに作曲
この曲が作曲された1889年から1890年は、32歳のエルガーにとって、公私ともに充実した時期でした。29歳から3年間の弟子だったキャロライン・アリス・ロバーツと結婚し、翌年には娘のキャリス・アイリーンが生まれています。妻のキャロラインはエルガーより8歳年上の陸軍少佐の娘で、ヴァイオリンの名曲「愛の挨拶」は婚約の贈り物として彼女に捧げられた作品なんですよ。結婚後、キャロラインはエルガーに作曲を勧め、叱咤激励しながら彼を献身的に支えました。そんなころに誕生したのが「朝の歌」です。新婚生活のフレッシュさが全曲に表れていて、一日の始まりにぴったりです。
思わず口ずさみたくなる、「朝の歌」のイントロに注目
イギリスと言えば、おとぎ話の国。ピーターラビットや、不思議の国のアリス、ハリー・ポッターなど数々の名作がこの地で誕生しています。そのおとぎの国、イギリスに古く17世紀から伝わる童謡が、マザーグースの歌集です。マザーグースの「ラベンダーズ・ブルー」という歌は、近年、ディズニー映画「シンデレラ」の実写版で再注目されるようになりました。実はこの曲、冒頭に同じ音が3つ連続します。そしてご紹介した「朝の歌」にも冒頭で3つ同じ音が連続するのです。いずれもほぼ同じテンポ。メロディーが韻をふんでいるようで、鼻唄で歌いやすい出だしです。この共通点が多くの人の心をつかみ、愛されるメロディーの秘密なんです。
おすすめの演奏
では、エルガーの「朝の歌」を聴いてみましょう。
天才ヴァイオリニストとして少女時代から世界的に活躍している五嶋みどりさんが20歳、1992年の演奏です。「おんな城主 直虎」の大河ドラマ紀行で演奏していて、五嶋龍さんのお姉さまにあたります。
また、のちにエルガー自身がこの曲をオーケストラに編曲しました。
1985年、ロンドンフィルハーモニー管弦楽団の演奏です。ヴァイオリンとピアノのデュオとは異なり、オーケストラならではのさまざまな楽器のコラボレーションをお楽しみください。
2015年、シンデレラのサウンドトラックからラベンダーズ・ブルーもお聴きいただけます。
2016年11月公開の邦画「オケ老人!」でエルガ―の「威風堂々」が演奏されています。DVD化されました。
参考文献:
斎藤秀雄講義録 斎藤秀雄著 白水社
子供と聴きたいクラシック100 宮本英世著 音楽之友社
調性で読み解くクラシック 吉松隆著 ヤマハミュージックメディア