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【ダウン症児と私13】食事訓練が始まり、1歳の誕生日を迎えたユキトくん

生後10カ月でも、離乳食がまったく食べられなかったユキトくん。理学療法訓練のほかに、作業療法でも月に1回療育センターに通うことになりました。ユキトくんは、聞こえていない耳の手術を前に1歳の誕生日を迎えました。1歳の誕生日に感じたことなどをナナさんに伺いました。

 

ユキトくんの最初の作業療法は、離乳食を食べる食事訓練から

Q.作業療法とはどんなことをするのですか?

A.日常生活を送るうえで必要となる、身だしなみ、食事、入浴、排泄などの基本的な行動を学ぶ訓練です。ボタンを留める、箸を使うといった練習をするほか、積み木を使った訓練があったりと幅広い訓練を行ないます。通い始めた時点でユキトは、まだ離乳食が食べられませんでしたので、まずは食事訓練を受けることになりました。

 

Q.最初の作業療法では何をしましたか?

A.前回の理学療法のときと同じく、訓練前診察を済ませて待っていると、作業療法士の先生が迎えに来てくれて、個室に案内されました。私が先日購入したような、障がい児用の椅子が用意されていました。ユキトを椅子に座らせ、自宅から持参したおかゆや茹でた野菜などを、作業療法士さんがユキトに食べさせてくれましたが、全く食べられませんでした。結局、「筋力が弱く、顎や舌などをまだ上手に使えないので、成長とともにゆっくり進めましょう」と言われました。ユキトが全く食べられなかったので、訓練の40分がとても長く感じて、疲れてしまいました。次の食育訓練も、まったく食べられるようにはならず、辛いものになってしまいました。

 

訓練しても食べられず、辛くて食事訓練を止めてしまう

Q.食事訓練で辛かったことは、食べないことだけでしたか?

A.はい。1回目に続き2回目の食事訓練も、ユキトは一口も食べられない状態だったので、訓練に行っても変わらないと思うようになりました。私はちょうど2人目を妊娠中で、訓練へは義母にユキトをおぶってもらい、バスを乗り継いで1時間半かけて通っていました。精神的にも疲れるし、お義母さんにも申し訳ないので、私は食事訓練へ行きたくないと思うようになりました。結局、2回通ったあと、直接担当の作業療法士さんに電話をして「自分で食事を食べられそうなのでキャンセルします」と伝えて、先生には相談せずに勝手に訓練を止めてしまいました。

 

1歳2カ月での、耳の手術が決まる

Q.食事以外に、そのころ心配だったことに何がありますか?

A.食事以外では、1歳のころの心配ごとは、のけぞりで抱っこやお風呂が大変なことと、耳や心臓の病状でした。それ以外は、すぐに寝てくれるし夜泣きもしないので手がかかりませんでした。

 

Q.耳は1歳を超えたころ手術することになっていましたね?

A.はい。小児医療センターで、ABRという聴力の精密検査を定期的に受けていました。検査結果は、やはり両耳とも滲出性中耳炎だろうということでした。滲出性中耳炎は、耳の中へ膿や水が溜まり、聞こえが悪くなっている状態です。手術は、鼓膜へ小さな穴を開けて、両耳へ小さいストローのようなチューブを入れ、鼓膜がふさがらないようにして膿を溜めないようにします。ユキトは1歳2カ月のときにこの手術を受けることになり、予約しました。

 

無事に1歳の誕生日を迎えたものの、複雑な気持ちのナナさん

Q.ユキトくんが1歳の誕生日を迎えたとき、どんな気持ちでしたか?

A.実のところ、複雑な気持ちでした。あるとき、ユキトと同じ産院で同じ時期に生まれた1歳の女の子が、キチンと椅子に座って食事をしている写真がママ友のSNSに載っていました。ユキトとその女の子の、あまりの成長スピードの違いに愕然としました。同時期に妊娠して、妊娠中の母親教室で友だちになり一緒に入院したのに、「何で私だけダウン症児の子が……」「健康な赤ちゃんと取り替えて欲しい……」。私は健常児のお母さんを恨めしく思っていました。

 

Q.その気持ちは、辛かったですね。悶々とした気持ちはいつまで続いたのですか?

A.遺伝科の先生に「一般的に、障がい児の母親になって3カ月目くらいから、頑張って育てようと我が子を受け入れられるようになり、3年育てたら、我が子だけでなく全ての障がい児も受け入れられるようになる」と言われたことを思い出しました。ユキトが1歳のときには、すでにユキトを受け入れていた気持ちでしたが、SNSで見たの同じ歳の子の写真には、すごく落ち込みました。普通の子との違いを受け入れるには、時間が掛かりました。ですが確かに、ユキトが3歳になるころには、友だちもたくさん増えて、ほかの障がい児も受け入れられるようになりました。

 

1歳2カ月目、耳の手術の前の精密検査

Q.誕生日が終ると、いよいよ耳の手術ですね。

A.はい。小さいとはいえ、心臓にも穴が空いていると言われていたので、全身麻酔するのがとても不安でした。入院する1週間前には、いろいろと精密検査を受けました。採血、レントゲン、心電図、問診、麻酔科医からの説明がありました。採血は、子どもが動かないよう固定して行なうのですが、ユキトは大泣き。顔の毛細血管が切れて赤い斑点がたくさんできるような状態でした。レントゲンは技師さんに預けてスムーズに撮影できました。心電図はABRのときと同じく、オレンジシロップ味の睡眠薬を飲ませて熟睡した状態で取ります。シロップを飲んでから熟睡するまで1時間半以上かかり、待ち時間もそれぞれの検査があったので、結局1日近く病院にいて、私もユキトもぐったり疲れてしまいました。

 

 

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親が子どものダウン症について受け入れるには、時間がかかるのは自然なことと言われます。多くの人が、段階を踏んで少しずつ受け入れられるようになるのだそう。また子どもがダウン症であるために、生活の制約を受けたりすると、深い失望を感じることもあります。でも、そうした反応はごく自然なこと。そうした反応を繰り返して、少しずつ前向きに考えていけるようになるので、あせらず、ゆっくり向き合っていきましょう。

 

 

ナナ

5歳のダウン症の息子「ユキト」と、3歳半の弟「マサト」のママの「ナナ」と申します。ダウン症の子どもを育てている様子や、母親の気持ちなどを率直にお話ししたいと思います。