藤原千秋の使ってわかった! 便利家事アイテム

“自然派”に人気「重曹」の使い道。シンク/五徳/便器の掃除、入浴剤にも!
2020年11月30日 08:00
「“重曹”が掃除とか……に役立つ」という情報が世の中に行き渡り始めたのは、おそらく「天使は清しき家に舞い降りる」(集英社、カレン・ローガン 著、佐光紀子 訳、1998年)の刊行が端緒だったと思う。それまでは「おばあちゃんの知恵」的に語られるのがせいぜいの「知る人ぞ知る」家事ネタだった。アメリカ経由で輸入され、この情報はなぜか当時、素敵生活を志す者らの胸をひどく射た。恥ずかしながら筆者もその射られたうちのひとりである。
“重曹”という、なにかとてもナチュラルそうな素材を多様に使用する「エコ家事」「ナチュクリ(ナチュラルクリーニング)」の流行は、この約5年後、「天然生活」誌(地球丸、現在は扶桑社より刊行)が提唱したライフスタイルの席巻にほぼ伴うように盛り上がる。「魔法の粉」などと呼ばれ、もてはやされたのもそのころである。
以後かれこれ約15年。この界隈で長々生活ものを書いていると、あまりにも既知というか、「さすがにもう目新しさなどないだろう」と思いきや、「重曹って、すごいんですねー!」みたいな反応が2020年の今でもあり、驚く。
若年の世代のリアクションかと思いきや、必ずしもそうではなく、このような生活に関わるガジェットの新鮮味というのは、その人自身の来歴やタイミングに拠るものであり必ずしも世の趨勢だけが影響するわけではないのだな、と思い知った。
というわけでものすごく今更ではあるが、“重曹”である。
重炭酸ナトリウム。重炭酸ソーダ。重曹。炭酸水素ナトリウム。全て同じもののことを指す。化学式 NaHCO3で表される、ナトリウムの炭酸水素塩のことである。別に魔法の粉ではない。ナトリウムなので舐めるとエグい。
水に溶かすと……溶けにくいのだが溶かすと弱アルカリ性を示す。そのため「油(脂)汚れに効く」(と言われる)。
だが自作のスプレーなどにすると分かるのだが、ハッキリ言ってこの水溶液の効果はそんなに劇的ではない。洗剤みたいなものだと思うと間違う。そもそもこの水溶液には界面活性剤が入っていないので「洗浄剤」ではあるものの「洗剤」とはいえない。
……というようなこともあり、「昔、重曹がいい! って聞いて買ったけど全然使えないまま10年洗面所で寝かせていたけど、こないだ断捨離しちゃった!」というようなことを筆者の世代のママ友などからはよく聞く。
ええ、ゴミとして捨てないで……もったいない……お風呂にドバドバ入れればお湯がまろやかになる重曹泉の入浴剤として使えたのに……あっという間に消費できたのに……と言うと、「捨てる前に言ってよ〜」と言われるのでここに書いておくことにした。
さて、では具体的に何にどう便利なのか? というとその答えはちょっと難しい。おそらく2020年時点での家事的時流には、あまり乗らないのではないかと思うからだ。
いわゆる「時短」に有効なわけでもない。ただ、重曹は食品添加物にもなっており、また精製度が高いものは医薬品にもなる程度に比較的安全な、いわゆるアルカリ剤だ。酸性の悪臭を中和するなど汎用性は高い。しかも掃除用のグレードであればかなり安価に買える。使いようによっては非常に便利な家事アイテムであることにも疑いはない。
筆者が大昔……なにがなんでも「エコ家事」で立ち向かおうと思っていた頃にはそれこそ掃除から洗濯、消臭なんにでも重曹を使っていたので、当時は米袋のようなサイズのパッケージで買ってもいた。鍋の焦げ付きは重曹水で煮て落としたし、ベビーカーのシートに赤ん坊が便を漏らしたときには重曹で水分を吸い取り、消臭するなどもした。床も拭いたし、玄関にも撒いたし、げた箱にも冷蔵庫にも重曹を入れていた。
なにがなんでもでなくなった今でもあえて筆者が“重曹”を使うシーンというのはシンク、五徳、便器などの「研磨」をする場合だ。普通のクレンザー(研磨剤はケイ酸鉱物など)よりマイルドに、でもゴリゴリこすり洗いをしたい……周囲の汚れは酸性だ……そんなときのニーズには重曹がぴたりとあてはまる。
とはいえ「ナトリウムの炭酸水素塩」と言われた時点で思わず遠くを見たくなるタイプの人には、あまり向いていない、かも知れない。なので無理に生活に取り入れる必要はないとも思う。
でも、もしなにか惹かれるものがあるなら中学の理科からやり直しながら取り入れてみてもいい。理科的に、家事的に、世界が少し拡がる。それも、間違いない。