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世界初、手首だけで1拍ごとの血圧が測定できる技術をオムロンが開発~脳卒中や心筋梗塞を予防

 オムロンヘルスケアは、手首だけで1拍ごとの血圧を測定できる技術を、世界で初めて開発した。製品化の時期は未定だが、現在は約10時間連続で血圧測定ができるプロトタイプが完成し、臨床研究をスタートしている。

手首だけで1拍ごとの血圧を測定できる「家庭用血圧計」のプロトタイプ

 同社は、高血圧の重症化に伴う、脳卒中や心筋梗塞などの発症を防ぐために「脳・心血管疾患の発症ゼロ」プロジェクトに取り組んでいる。高血圧が引き起こす脳・心血管疾患は、認知症や寝たきりなどにつながる可能性があるが、血圧を管理することで抑制できるという。

 血圧を管理する機器として、同社は1970年代より家庭用血圧計を販売。病院だけでなく家庭でも血圧を計ることが重要としている。一般的に、病院で計る診察室血圧と、自宅で計る家庭血圧の数値には差が出ることがあり、その場合は家庭血圧による診断を優先するように促されている。特に早朝に見られる高血圧の状態は、自宅で計測しないとわからない数値であり、より正確に計れる家庭用血圧計が普及することで、高血圧が抑えられる可能性があるという。

高血圧が引き起こす脳・心血管疾患は、認知症や寝たきりなどにつながる可能性がある
オムロンが1973年から販売してきた家庭用血圧計。家庭で計る血圧が重要だという

血圧は1拍ごとに変動。睡眠中の血圧上昇は脳卒中などの原因に

 しかし、心臓は1日に約10万回拍動しており、1拍ごとに血圧は変動するという。現在普及している家庭用血圧計では、一時的な血圧しか測定できないため、1日数回の測定では血圧変動・脳卒中などのリスクを捉えきれない。中でも夜間や早朝の高血圧や急激な血圧変動が、脳・心血管疾患の発症リスクを高めることが指摘されている。

 実際に、プロトタイプを使った臨床実験では、8人の高血圧患者をもとに、血圧変動のリズムを研究。ある被験者のデータでは、睡眠時に無呼吸が22秒続いたときに血圧が100mmHgまで低下し、再び呼吸が始まると血圧が190mmHgまで急激に上昇したことがわかった。こうした急激な変化が、脳血管疾患を発症する引き金になるため、血圧を連続して計測することが大事だという。

 より細かいデータが集まると、対策を立てやすくなるとしている。たとえば、夜間に血圧が急激に上がる人は、食後に飲んでいた薬を寝る前に飲むなど、薬を飲むタイミングを変えるといった対策を取ることができる。

1拍ごとに血圧は変動する。寝起きや食事中、ストレスを感じたときや夜間など、血圧が変動するタイミングは多い
臨床実験でわかったデータ。睡眠時に無呼吸が続いたあと、再び呼吸をすると血圧が急激に上昇した

1拍ずつの血圧を測定するために、センサーを46個×2列で配置

プロトタイプには、モニターが搭載されている。リアルタイムで1拍ごとの血圧がわかる

 新たに開発した1拍ごとの血圧を測定する技術には、オムロン独自の血圧センサーを採用した「トノメトリ法」を用いている。1列に並んだ圧力センサー46個を、血管の中央に当たるように平行に2列配置。手首に装着するだけで、1拍ごとの血圧を連続して計測できるという。

 仕組みとしては、橈骨(とうこつ)動脈など体表に近い動脈に圧力センサーを押し当てることで、1拍ごとの血圧が検出できるという。適切な強さで圧迫して血管の上部を平らな状態にし、圧力センサーが押す力と血管が戻ろうとする力が等しくなる圧力から、血圧値を測定する。

1拍ごとの血圧を計るために、独自の血圧センサーを採用
血管の上部を平らにして正確に検出する

 臨床実験に使われている、プロトタイプによるデモンストレーションも行なわれた。スクリーンに映された血圧の情報は1拍ごとに変動し、被験者が息を止めると血圧が低下、力を入れると血圧が上昇する様子が確認でき、1拍ごとの血圧が計測されていることがわかった。

 ただし現在のプロトタイプでは、連続で測定できる時間は最大10時間ほど。夜間と早朝の血圧変動を捉えることを目的としている。本体も大きく、長時間の装着にはまだ向かない。製品化の時期は未定だが、今後開発を進めていくことで、24時間の連続測定を可能にし、小型化も実現していくという。

プロトタイプによるデモンストレーション。息を止めると血圧が低下した
力を入れると血圧が上昇
手首に装着する
今後の製品化に向けて小型化を実現するという

細かく血圧を計って、脳や心臓疾患の発症を0に

オムロンヘルスケア 代表取締役社長 荻野 勲氏

 オムロンヘルスケア 代表取締役社長 荻野 勲氏は、血圧測定の技術進歩について次のように語った。

 「私たちは、自分の体の状況は自分で知った方がいいという思いから、1973年より家庭用血圧計を販売しています。それにより、病院内では捉えきれなかった早朝の高血圧などがわかるようになりました。ただし、まだ脳や心臓の疾患を起こす人が多いのが現状で、これをなんとか変えていきたいと思います。自分で健康になりましょうというテーマから、脳・心臓疾患の発症を0にするという、さらに高い目標を掲げて我々の技術を進化させていきます」

西村 夢音