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人材確保と技術伝承は待ったなし~家電修理業界団体「J-HARB」設立から2カ月

日本家庭電化製品修理業協会(J-HARB)

 家電製品の修理を行なう修理専門会社によって構成される「日本家庭電化製品修理業協会」(略称:J-HARB=ジェーハーブ)が、2015年3月20日に設立した。

 家電修理を行なうジャパンサービスネットワーク、エルテックなど11社が参画。家電業界唯一の家電修理業の団体として、家電修理専門会社の技術力向上や、国内外の家電メーカーとの提携、業界における地位向上などを図っていくことになる。

家電修理専門会社をネットワークで結び、修理業務を効率化

J-HARBの雙木芳夫理事長

 J-HARBの雙木芳夫理事長(=ジャパンサービスネットワーク代表取締役)は、「家電の修理サービスが軽視される風潮があるが、製造や開発部門は海外移転ができても、修理部門は国内になくてはならない。ユーザーをサポートするためにも、しっかりと修理技術を伝承していく必要がある。また、海外メーカーの進出が相次ぐなかで、これらの企業は修理体制を全国規模で構築しにくく、結果としてエンドユーザーに迷惑をかける状況が生まれようとしている。J-HARBの活動を通じて、全国の家電修理専門会社を結んだネットワーク体制を構築することで、こうしたニーズにも対応できる。今後1年で約50社にまで会員企業を拡大し、家電修理を取り巻く課題の解決に取り組みたい」と語る。

 家電修理は、メーカーを窓口とした修理体制と、家電量販店による修理体制に大きく分かれるが、いずれも、その多くは修理専門会社へ業務を委託する下請け体制が基本となっている。

 ある家電メーカーでは、全国に修理拠点を展開しているが、各修理センターの所長はメーカーの社員であるものの、現場で修理する作業者はすべて修理専門会社にアウトソーシングしているというのが実態だ。実は、そうした体制が大半であり、家電量販店でも同様に修理専門会社に委託しているケースがほとんどだ。

 また、全国規模でカバーしている修理専門会社はなく、地域密着型の体制となっていること、さらにはメーカーOBが個人事業主の形で修理業務を請負というケースも少なくない。

現状最大の問題点は、縦割りサービスによる出張修理の非効率性

 さらに業界構造として特徴的なのは、メーカーごとや、量販店ごとに縦割りの体制となっており、メーカーと修理専門会社との契約も縦割りが基本。なかには他社との契約を結ばないような排他契約を結ぶ場合もあるという。また、修理部品の取り扱いについても、メーカーごとに流通ルートが限定されている。自動車業界のように部品を自由に仕入れて、独立した企業が単独で修理業務を行ないにくい、という構造的な課題もあるのだ。

 そのため、修理専門会社は訪問エリアの効率性などを重視した、独自の修理体制が構築できず、移動に多くの時間を割かなくてはならないという課題が業界全体で発生していた。

J-HARBの小森晴夫副理事長

 「ある地域に、10件の修理案件があるとすれば、10人の修理専門会社、あるいは修理担当者が、まったく連携がないままにそれぞれの修理先を訪れるという状況にあるのが、修理専門会社の現状。移動ひとつをとっても決して効率的ではなかった」(小森晴夫副理事長=エルテック代表取締役)という。

 実際、修理担当者は、移動時間に一日の3分の2を費やしているともいわれ、修理作業に従事している時間は3分の1程度だという。

 従来は作業に時間をかけても許されるケースが多かった。だが、いまでは1時間以内に修理を完了させることが、現場での暗黙のルール。1時間を越えた場合には時間がかかりすぎるとのクレームが、顧客から発生することもあるという。一回あたりの現場での修理時間が限定され、事前の準備に時間がかかること、徹底的な修理が行なえずに再度訪問する可能性が高まるといったことも、移動時間の増加や、逆に効率性を低下させる原因にもなっている。

業界内では、修理スキルの低下も課題

J-HARBの修理スキーム案

 雙木理事長は、「モジュールごとで部品を交換すれば済む修理案件が増えたこともあり、いまでは回路図面を読みとることができない修理担当者が多い。また、修理会社に対して、回路図面を公開しないメーカーが多いことも背景にある」とする一方、「自動車の修理エンジニアは子供が憧れる職業になりうるが、家電の修理エンジニアはイメージすらつきにくい。米国では家電修理のエンジニアは高いステータスを持っているが、日本では下請け構造のなかにあり、サービスは無料という風潮もある。業界全体の技術スキル向上とともに、技術を伝承していくための受け皿づくりや、後継者の育成、業界の地位向上も必要」だと指摘する。

 小森副理事長も、「多くの人に喜んでいただける仕事であるのに、この業界に魅力を感じる人たちが少ない。修理技術者の減少は、家電の利用環境を悪化させる可能性もある。人材確保、技術伝承という意味では、待ったなしの状況になる」と業界内の課題を指摘する。

 J-HARBでは、修理会社同士のネットワークを通じて、こうした課題にも対応し、家電修理会社の地位向上と人材確保、業界全体の技術力向上にも貢献したいという。

 会員会社の入会条件は、家電製品の出張修理や持ち込み修理などを行なっている企業および個人で、高い技術スキルを有していること。さらに、同協会独自の「CSスキル講座」を受講してもらい、確かな顧客応対力を有していることを条件としている。J-HARBの創立から2か月で、こうした条件を満たした会員会社の数は10社。

 法人会員の入会金は1万円、年会費が9万6,000円。個人会員は入会金1万円、年会費6万円。家電メーカーをはじめとする賛助会員は入会金1万円、年会費3万6,000円となっている。

 J-HARBでは、協会のサイトを通じて、会員専用ページによる情報交換や修理技術情報の収集と提供、動画やスライドなどを使った「バーチャル技術講習」の実施のほか、会員会社の業務拡大につながる営業サポートや新規クライアントの修理情報提供、家電製品修理業の視点から見た諸問題の提言や発信、業界認知度の向上とステータス向上への取り組みなどを行なうことになる。

 また、同協会のトップページでは、「家電業界リポート」として、家電市場の動向や家電量販企業サービス業の統計を掲載。また、「家電オブザーバー」では、各社の新製品や新技術情報などを公開情報として発信していく。

今後は全国をカバーする横断的なネットワークを構築していく

 J-HARBの神田和則事務局長は、「J-HARBの設立から約2カ月間で、メーカーや量販店、新規に日本に進出するメーカーなどから、全国ネットワークでの修理対応に関する問い合わせや、修理だけにとどまらず設置サービスについても対応してもらえるのか、といった問い合わせがある。今後、東北、中四国地域にも会員会社を増やし、全国を完全にカバーできる体制とし、さらに50社前後に会員数を拡大することで、全国を細かくカバーできるようにしたい。メーカー数社分の修理依頼を受け持つことで稼働率を上げた運営も可能になる。これまでの縦割りの体制とは異なり、横断的なアフターサービスネットワークの構築を目指したい」とする。また、「販売とサービスは両輪とはいわれるものの、実際には、サービス業は補助輪程度の扱いしか受けていないのが実態。採算性や効率性が低く、収益があがりにくい業界の構造を変えていくための提言も行ないたい」とも語る。

 会員会社のなかには、パーツセンターやコールセンターなどの機能を有している企業もあるほか、物流業者をはじめする関連業界との連携などを通じて、J-HARBならではの修理スキームの提案活動も行なっていくことになるという。

 なお、J-HARBが窓口となって、エンドユーザーから直接修理依頼を受けて、会員会社が直接修理に出向くという仕組みは、現時点では考えていないという。

現在の会員会社は以下の通り。カッコ内は本社所在地。

 アールエス・ネットサービス(北海道)、サンブレーン綜合サービス(北海道)、ジャパンサービスネットワーク(埼玉県)、エーエッチジー(神奈川県)、エルテック(愛知県)、アイディケ(大阪府)、ユナイトサービス(兵庫県)、フクイカメラサービス(福井県)、オーディオサービスエンジニアリング(福岡県)、宗建リノベーション(沖縄県)。事務局は、KSアジアコンサルタンツが務める。

大河原 克行