ダイキン、鳥インフルエンザに効く「ストリーマ放電」を解説



ストリーマ放電の鳥インフルエンザウイルスに対する効果を検証した、ベトナム国立衛生疫学研究所のレ・ティ・クイン・マイ博士(右)と、ダイキン工業 取締役 兼 常務執行役員 空調生産本部長の萩原茂喜氏
 ダイキン工業は、同社の空気清浄機に搭載されている「ストリーマ放電」技術に関する研究発表会を開催。鳥インフルエンザウイルスに対する分解・除去効果を実証したベトナムのレ・ティ・クイン・マイ博士が、同技術を「鳥インフルエンザを防御するためのツールになる」と評価した。その一方で、新型インフルエンザについては「今の時点で有効性は断定できない」と慎重な姿勢を見せた。

 ストリーマ放電技術とは、同社の空気清浄機「光クリエール」などに搭載されているプラズマ放電ユニットで、空気中のウイルスや細菌、カビなどが除去できる機能。一般的な放電ユニットである「グロー放電」と比べると放電領域が広い点が特徴となっており、空気中の酸素や窒素と電子がより衝突しやすい。そのため、強力な酸化力を持った「活性種」が生成されやすく、グロー放電の1,000倍以上の強力な分解能力があるという。この活性種が、ウイルスや花粉といったアレル物質の表面のタンパク質を取り囲み、分解、除去する作用がある。

 同社ではこれまでも、ストリーマ放電技術がインフルエンザウイルス(A型H1N1)やノロウイルス、スギ花粉などを不活性化することを実証してきた。今回は、ヒト由来鳥インフルエンザウイルス(A型H5N1)に対する効果を確かめるため、鳥インフルエンザウイルスに関して世界的な研究者であるべトナム国立衛生疫学研究所 インフルエンザ研究センターのレ・ティ・クイン・マイ博士と共同で実証を行った。

ストリーマ放電ユニット。ダイキンの空気清浄機に搭載されているユニットの拡大写真。よく見ると、青色の光が縦に通っているのが見えるが、これが電子が発生している領域になるストリーマ放電は、プラズマの照射領域が広く、酸化力が高い点が特徴
ストリーマ放電により生成される活性種活性種がウイルスのたんぱく質部分に取り付き、分解。感染性を失わせ、無力化する効果があるこれまでにも、ノロウイルスや花粉などに対する効果を、第三者機関によって検証してきた

ストリーマ放電による放電中の動画。立体的に放電するため、プラズマ領域が広く、酸化効果も高いという


レ・ティ・クイン・マイ博士
 マイ博士による試験の内容は、「TCID50」と「CPE」という2通りに分かれている。「TCID50」は、鳥インフルエンザウイルスが入ったシャーレにストリーマ放電で一定時間照射し、実験用の細胞と混ぜて一晩培養させた後、ウイルスの量の量を調べるというもの。一方の「CPE」は、鳥インフルエンザウイルスをストリーマ放電で照射後、実験用の細胞に付着させ、インキュベーターで培養して細胞の変化を分析する。

 この結果、TCID50では、照射しなかったものがまったく低減していなかったのに対し、1時間照射したものではウイルスが97%、2時間では99.8%に低減し、3時間以上では100%分解・除去できた。またCPEでも、照射しなかった場合は細胞がウイルスに吸着されていたが、1~2時間と照射時間を延ばすことでウイルスの攻撃が徐々に衰え、3時間以上ではウイルスによる細胞の変化がなく、良好な状態になっている。

 以上のことから、ダイキンのストリーマ放電で、鳥インフルエンザウイルス・A型H5N1を100%分解、除去したことが証明された。なお、今回の実験にて使われた鳥インフルエンザウイルスのクレードは1(遺伝子で分けられたウイルスの種類)。

試験にて使用した装置。インフルエンザウイルスは乾燥に弱いため、ケースで覆う必要があるという鳥インフルエンザウイルスが入ったシャーレを一定時間ストリーマ放電で照射。3時間後には100%分解・除去できた

動物の細胞に、鳥インフルエンザウイルスを付着させ、ストリーマ放電による反応を見る実験も行なわれた。こちらは照射前の細胞照射して1時間後の細胞。左の照射前のものと比べると、ウイルスの攻撃が激しく行なわれていない照射2時間後。ウイルスによる細胞の変化を見つけるのが難しくなっている
照射3時間後。ウイルスによる変化はなく、細胞の状態がとても良好照射4時間後は、3時間時点とほぼ同じ「3時間の照射で鳥インフルエンザウイルスを100%除去できた」というストリーマ技術の有効性が検証された

ダイキン工業 取締役 兼 常務執行役員 空調生産本部長の萩原茂喜氏

 マイ博士は、この成果を受けて「インフルエンザは確認が難しいウイルス。空気や飛沫などで感染するため防御が難しいが、ストリーマ放電は鳥インフルエンザを防御するツールになる」とコメント。また、ダイキン工業 取締役 兼 常務執行役員 空調生産本部長の萩原茂喜氏は、今回の研究結果について「空気の質に対する要望や健康志向は高まっており、空気の浄化に関連した商品の国内需要は増加する。これから伸びるニーズに適した技術であると確信しており、社会の発展にも貢献できる」と、今後の成長への期待を見せた。

 マイ博士はまた、ストリーマ放電の新型インフルエンザに対する効果について問われると「世界の流行がはじまったばかりで、十分な情報を持ち合わせておらず、今の時点で有効性があるかは断定できない。鳥インフルエンザを同様の効果は期待できるのではないかと願っている」と、確かな効果について明言しなかった。

前国立保険医療科学院 建築物衛生室長 柳宇氏
 発表会には、前国立保険医療科学院 建築物衛生室長の柳宇氏も同席。柳氏は、ストリーマ放電技術と、鳥インフルエンザウイルスへの効果を検証している他の家電メーカーのイオン機能についての差を聞かれると「空気中にイオンを放出して室内の浮遊菌やカビ菌するといっても、まず(イオンと菌とが)接触しにくい。また、(ダイキンの空気清浄機では)空気清浄機の中で電子を発生し反応させているが、空中にイオンを放出し、浮いている微生物をやっつけるとなると、一般論でいえば、われわれがそんな空気を吸っちゃっていいのか、という安全性での問題もある」とコメント。また、「空気清浄機にはマイナスイオンを出すものがあるが、(マイナスイオンの有無で)性能に差は出ない。効いているのはフィルター」と語った。

べトナム国立衛生疫学研究所 インフルエンザ研究センターのメンバーベトナムは鳥インフルエンザが早く発見され、その影響を大きく受けた国のひとつ。鳥への感染例が確認されたのは2000年だが、その3年後の2003年にはヒトへの感染が確認されている。現在まで111件の症例があり、うち56人が死亡しているという



(正藤 慶一)

2009年7月2日 17:22