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深澤直人、“定番”を目指した照明「MODIFY」の開発秘話を語る


自らがデザインした照明器具「MODIFY」とともに、トークセッションに参加したプロダクトデザイナーの深澤直人氏
 パナソニック電工は6月17日、同社が4月に発売した家庭用照明器具「MODIFY(モディファイ)」に関するコンセプトや開発までの過程を、製品デザインを務めた深澤直人氏らが語るトークセッション「【MODIFY】DESIGHN TALK」を、東京・秋葉原にて開催した。

 「MODIFY」は、照明の知識がなくても安心して選べることを目的とした家庭用照明器具シリーズ。セード(傘)のデザインに球形、半球形、円錐台形といった、長年慣れ親しんできた“定番の形”を採用しつつも、光源にLEDや電球形蛍光灯などの技術を取り入れていることから「MODIFY(改良)」と名付けられている。全72品番で展開し、スタンドタイプやペンダントライトなどの形状が用意される。価格帯は26,500円〜68,250円。

 MODIFYのデザインを務めたのは、プロダクトデザイナーの深澤直人氏。日本では無印良品の壁掛け式CDプレーヤーや、±0の加湿器、auの携帯電話「INFOBAR」「NEON」などを手がけており、これらの製品はニューヨーク近代美術館(MOMA)に永久収蔵品されている。またパナソニック電工では、これまでにもタンクレストイレ「アラウーノ」や、システムキッチン「リビングステーション」に携わっている。

MODIFYは、円錐台形の「BUCKET(バケット、写真左)」、球形の「SPHERE(スフィア、中央)」、半球形の「DOME(ドーム、右)」の3タイプが基本スタイルとなる 球形のSPHERE。写真のような吊り下げ型のペンダントライトのほか、壁に設置するブラケットタイプも用意される。光源はE17口金の電球形蛍光灯 半球形のDOME。写真のスタンド式のほか、ペンダント、ブラケットタイプもある。光源は、パルックボールプレミア蛍光灯だが、SサイズのみLED光源となる

円錐台形のBUCKET。DOMEと同様、スタンド、ペンダント、ブラケットの3タイプが用意される。光源はスパイラルパルック蛍光灯で、SサイズのみLED 光源は電球形蛍光灯やLEDなど、省エネタイプの明かりを使用する

照明の理想的な形は、意外と数が少ない

深澤氏は、人が無意識のうちに共有している「アーキタイプ」を探し、具現化することが想定することがデザイナーの前提になるという
 深澤氏は、MODIFYを作るに当たって、自分が照明を買いたい思った時に、どこに買いに行ってどういうものを選べば良いのかということがわからなかったという。このことから、照明の定番となる製品を作ることを志した。

 「世の中の人はいったいどうやって照明を選んでいるんだろうと考えたが、おそらくほとんどの人がどうやって選んでいいのか分からないのではないか。例えば、『このソファはいいな』とか、『このキッチンがいいな』というのは割と出てくるが、最後に『あれ、照明どうしたらいいんだ』と思うのが一番自然だと思う、そうやって考えていくと、照明は意外と保守的で、それほど多くの“アーキタイプ”を持っていないのでは、と思った」

 アーキタイプ(Archtype)とは、人同士で語り合ってはいないのに、同時に頭で描いている形を表わす心理学用語で、日本語では「集団的無意識(集合的無意識)」と訳される。深澤氏は「デザインを広めていく場合、このアーキタイプを探すことが僕たちデザイナーにとっての前提。個性や何だということよりも、この皆が描いているアーキタイプ像を探し、具現化することが優先される」と説明する。

 そこで照明器具のアーキタイプを探るために、何十種類もあるシリンダー型の照明の中で一番売れているもの、あるいはシェード型でどれが一番売れているかなど、照明器具の販売数をリサーチしたところ、結局は数字が伸びているデザインは1、2種類ほどだったという。

 「たくさん作っている割には、みんな同じモノを買っているという現象が起こっている。その数を絞っていけば良いのではないか」

 この結果を受け、照明器具のアーキタイプを考えた結果、デザインを球形の「SPHERE(スフィア)」、半球形の「DOME(ドーム)」、円錐台形の「BUCKET(バケット)」という3つのデザインに集約したという。

他社も含めた照明器具で売れているものをリサーチしたところ、1、2種類のデザインしか数字が伸びていなかったという この結果から、SPHERE、DOME、BUCKETの3つのデザインが導き出された


 アーキタイプの具現化のため、細かなMODIFYを施す

深澤氏はパナソニック電工に「まずはケーブルを細く」と指示したという
 しかし、このアーキタイプを製品として具現化するには、「丸いライトはなぜ全部丸く光らないか」や、「なぜコードがよれているのか」といった、照明器具全般における細かい問題点を修正する必要があった。深澤氏がパナソニック電工側に最初に要求したことは、「ケーブルを細くしてくれ」ということだったという。

 「照明器具に使われているパーツは、これまで必然的に何十年も続いてきた技術なので、修正するのは結構大変だった。しかし、照明はほんのちょっと影ができただけで『やっぱ嘘じゃん』とシラケてしまうところがある。それはやめなければいけないと、小さな部分を修正することばかりやっていた」

 ここで、実際のMODIFYの製品を例にとって、アーキタイプの実現に向けた工夫を見てみよう。

SPHEREは球形のセードそのままに全体が丸く光っているが、これはセード上部のフタ部分にもアクリル素材を採用していることがポイントとなっている
 たとえば、球形のSPHEREの場合、光は球形のセードに沿って、丸く光っている。一般的な吊り下げ型の照明の場合は、本体の上に金属のフタが付いていることが多く、これまでの技術では円形に光らせることができなかった。しかし、今回はこのフタをセードと同じアクリル素材を使用することで、フタの上部も光る構造とした。さらに、ナットなどの細かい器具も省くことで、セード全体が丸く光る仕様となっている。

パナソニック電工デザイン開発センター 照明デザイングループ 技師 吉川豪氏
 またセードには、ガラスではなくアクリル素材を採用した。これは地震が多い日本では、割れやすいガラスよりもより安全という深澤氏の配慮から生まれたもの。セード同士が当たっても安全なため、器具を複数使用する“多灯吊り”にも対応する。アクリルはガラスよりも質感が劣るが、「深澤さんから『ガラスと同じクオリティまで上げよう。シンプルなものほど、そこは命取りになる』という指摘を受け、成型後にツヤ消し加工を施し、ガラスのような質感を出しています」(パナソニック電工デザイン開発センター 照明デザイングループ 技師の吉川豪氏。深澤氏とパナソニック電工とのコーディネートを担当)とのことで、問題はないようだ。

 これらの改良により、SHPEREは真球に近いセード全体を光らせることができ、白熱灯のような温かい光とガラスのような高質感が両立できたという。

 一方、DOMEとBUCKETでは、セードの内部に乳白色のパネルを用いて、光源を覆っている。これにより、光源が目に入ることによるまぶしさを抑え、目に優しい光を放つよう配慮されている。より細かい部分では、パネルの隅まで光を回すために、セードとパネルの接合部分を傾斜面で合わせる、という配慮までなされている。

DOMEを下から覗き込むと、白いカバーがかぶせられており、光源が露出せず、嫌なまぶしさが目に入りにくい構造となっている セード部を取り外したところ。乳白色のカバーがはっきりと確認できる。なお、光源はパルックボールプレミアの電球形蛍光灯

BUCKETの内部を覗き込むと、ここにもカバーが設けられている BUCKETのセードを取り外したところ
今度はカバーも取り外した写真。影が映りにくいよう、部品の一部に透明の素材を使っている BUCKET Sタイプでは、光源にLEDを採用。写真は光源部を横から見たところ。LED直下にあるのがカバー

もっとも苦労したというSPHERE。もともと光源はLEDだったがうまくいかず、電球形蛍光灯に変更した
 ちなみにこの3つのタイプの中で最も苦労したのは、吉川氏によればSPHEREとのこと。当初は光源にLEDを使う予定だったが、LEDの光は指向性が強いため、光源の裏側に光が飛ばず、丸く光らなかった。

 「ギブアップをしようとしましたが、Sサイズの直径148mmという大きさは非常に魅力的で どこも作っていない。ダメもとで電球型蛍光灯の一番小さいものを入れてみたところ、これが大逆転で、深澤さんも気に入っていただけた。できあがった姿を見ると『いままであったんじゃないかな』と思われるかもしれないが、いろいろなところをMODIFY、つまり修正しています」(吉川氏)

 


 明かりで心をコントロールする「一室複数灯」への転換を狙う

パナソニックの間接照明とMODIFYを組み合わせたところ。MODIFYは部屋の各所に照明を散りばめた「一室複数灯」の中心的なライトとしても開発された

 実はMODIFYには、日本の住宅でよく見られる「一室一灯」の照明から、部屋の各所に細かな照明を散りばめた「一室複数灯」へ転換する狙いも含まれているという。

 「日本では、部屋の天井の真ん中にでっかい蛍光灯が1つだけ付いているというのが非常に多く、いまだにそれが続いている。高級なマンションでも、こういうことがある。しかし、光はちょっとだけ変えるだけでも気持ちが変わるし、雰囲気も変わる。私は自宅では、ライトひとつひとつの明るさがプログラミングできるパナソニック電工の『HomeArchi(ホームアーキ)』というシステムを使っているが、光はこんなに心理的なコントロールができるのか、と思った」

 深澤氏は、MODIFYを一室複数灯のシンボルとなる“花”の役割として期待している。

 「背景となる小さなライトを備えたら、今度はそこにシャンデリアなどの象徴的な大きな照明も欲しい。そういう照明を私は“花”と呼んでいるが、その花が“ハイビスカス”か“マーガレット”か、という点もポイントとなる。西洋のシャンデリアのようなや強いライトのような“ハイビスカス”も良いかも知れないが、僕らの生活習慣ではそこまで強いものはいらない。それならスタンダードな“マーガレット”が良いなということで、可憐で、それほど主張しない、調和を考えたコンセプトのMODIFYを作った」

 ところでMODIFYは、イタリア・ミラノで行なわれた世界最大のデザインの祭典「ミラノサローネ2009」にも出展された。現地での評判は上々のようで、パナソニック電工 インテリアライティングセンター 課長のくりやまさちこ氏によれば「会場の外から(SPHEREの)丸い光が浮かんでいて、通りすがりで訪れる人が多かった。現地では“日本的な空間”と評価されたが、日本人の心の中にある原型を探したことがうまく反映されたと思う」とのこと。深澤氏も「ミラノサローネの会場はとても広く、必ずしもサローネ全部に話題を振りまいたとはいえないが、スポット的に興味を持ってくる人はどんどん増えていった」と、異国でもMODIFYが受け入れられたことを評価した。

ミラノサローネでのMODIFYの展示のようす。窓からSPHEREの丸い光が見えるため、通りすがりで見物しに来る人も多かったという 展示スペース内部 パナソニック電工 インテリアライティングセンター 課長 くりやまさちこ氏

深澤直人の名前がなくても、ユーザーに届く“定番品”を目指す

深澤氏はパナソニック側に「“深澤直人”の名前がなくても、ユーザーに届くものを作ろう」と提案。誰でも使える「定番」の明かりを目指した
 吉川氏によれば、MODIFYを作るに当たって、深澤氏から“いわゆるデザイナーもの”をやめにしようという話があったという。

 「“デザイナーが作りこみました、値段も高い”という製品はよくありますが、深澤さんからは『深澤直人の名前を出さなくても、最終的にはお客様に届くものを』というご提案を受けました」(吉川氏)

 これについて深澤氏は、「日本の美学というのは、もともと日常で使っている道具の中に美を見いだそうようにしてきたため、壁に飾った絵みたいなものではなく、日常の中に入り込まなければいけないというのがあった。それを今、モノづくりに携わるひとが認識し始めているし、センシティブに分かる人がとても増えてきた。今の社会(情勢)は厳しいが、デザインに関してはものすごく良い時代。そこに応えていくものを作らないと、今どき“誰がデザインをやったのか”というのは、非常にしらけてしまう」と、日本のデザインの特徴である“用の美”を目指して作ったことを明らかにした。

 深澤氏は最後にMODIFYを振り返り、「これまでは誰も『本来はこういう花が一番合うんですよ』ということを伝えていなかったし、実際にマーケットにもなかった。その点MODIFYは、デザインについて知らない人でも、いわゆる“デザインフェチ”な人と同じくらい豊かな空間が作れる製品となる」と、MODIFYが照明の新しい“定番”となることをアピールした。



(正藤 慶一)

2009年6月18日 16:52

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